ナイロン100℃、3年ぶりの劇団公演『
イモンドの勝負』をKERAと大倉孝二が
語る

劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)が主宰するナイロン100℃が、『イモンドの勝負』で3年ぶりの新作劇団公演を行なう。手練れの劇団メンバーに加え、赤堀雅秋、山内圭哉、池谷のぶえの強力客演陣も参加、魅惑のKERAワールドの展開が期待される。KERAと、主演を務める大倉孝二が作品への意気込みを語ってくれた。
ーーお二人にとって劇団はどんな場ですか。
大倉:最近は公演の間隔が空いたりしているので、昔とはだいぶ違う感覚がありますけど、今は、自分の出自を確かめる、里帰りみたいな感じですね。昔は活動のほとんどが劇団公演だった時期もあったので、自分の活動そのものが劇団の活動で。今は、演劇だけじゃなくてテレビなどにも出させていただく機会が増えたので、改めて、自分はこういうことをやってきたんだなと確かめる場という気がしています。
KERA:当たり前ですけど、自分が集めた人たちなので、自分の演劇作りにとって非常に有能な人たちが集まっている、それが劇団です。僕にとって即戦力になってくれる人たちの集団であるという前提がある。だから劇団でやるときはついついハードルを高く設定してしまう。それだけ難易度が高い創作が可能だと思わせてくれる場なんです、劇団は。外でやるときとの大きな違いですね。外部公演でやるとしたらとても一ヶ月の稽古では足りないと思います。後は、表現とかは無関係に、これだけ長くやっている、何十年も一緒に過ごしてきた知り合いなわけですから、情もあれば同士意識もありますね。
ーー今の段階でのアイディアや、こんな風にやってみたいという抱負はありますか。
大倉:僕はまったくないです。まだどんなものをやるのかわからないので(笑)。どっちかっていうと、役者なんてやりたくないことばかりですからね。だいたい、演じるなんてことは恥ずかしいですから。じゃあなんでやってるかと言われたら、そこは僕も説明できないですけど。だから、楽しみにしているというよりはむしろ、何をさせられるんだろうという怖さばかりですね。
ーーその怖さの中にわくわくがあると。
大倉:あるって言わないとまずいですかね(笑)。
KERA:この質問、大倉から先に答えさせるのはいかがかと思いますよ(笑)。大倉くんはですね、今年ちょっと身体を壊しまして、野田(秀樹)さんの『フェイクスピア』(NODA MAP公演)を降板したんです。とても心配していたんですが、今回はその分も頑張ってもらうということで。2本分、頑張ってもらうということですね。内容についてはまだ具体的にはわからないです。大倉にだけじゃなく、みんなに何をしてもらうか、まだ具体的にはわからない。ナンセンス・コメディをやろうという大枠は考えていますが。
ーーその心は?
KERA:僕はもともとナンセンスな笑いをやりたくて芝居を始めた人間でして、ライフワークだと思っています。でも、そういうことをやれる場ってあまりないんですよね。古田新太くんと一緒に、劇団からは大倉と犬山イヌコをレギュラー・メンバーにしたナンセンス・コメディを三部作で作ったことがありますが、そこから久しくやっていない。外部でやるナンセンスと違って、ナイロンでやるナンセンスはまたちょっと草食系というか、別のテイストになるんです。俳優の資質の違いなんでしょうね。で、今回はそれを久しぶりにやろうと。自分を突き動かす何かがあったのかというと特にないんですけれど、まあ原点に返って。でも、脳のトレーニングを定期的にしないと、ナンセンスって書けなくなる。昔のようなナンセンス筋肉はもう無いので、歳とったなりのナンセンスになるんでしょうね。逆に若い時には書けなかったモノにしたいです。数年前から考えていたことではあるんですよ。今回客演の赤堀くんには、三年数ヶ月前に『睾丸』というお芝居に出てもらったときに、「ナイロンでナンセンスをやるから出てくれないか」と声をかけていますした。
『イモンドの勝負』チラシビジュアル
ーー今回の作品は大倉さんが主役とのことです。
KERA:気が変わらない限りそうです。やってみたら廣川(三憲)さんだったり吉増(裕士)が主役だったりするかもしれないですけど(笑)。今のところ、大倉が完全主役です。
ーーちなみに“イモンド”とは?
KERA:今はまだ秘密です。
ーーどんな座組になると期待されていますか。
大倉:知ってる人しかいないんでね。
KERA:(笑)
大倉:ただ、厄介そうな人ばっかりなんで、すごく疲れそうですね。みんなが本気になってきたら本当に厄介ですけど(笑)。
ーーナンセンス・コメディに強そうな方たちばかりです。
大倉:そこのところを言ってます。強すぎやしないかいという。
ーーナンセンス・コメディを書く上での秘訣とは?
KERA:ナンセンスって、世界自体が狂っているんですよ。常識的な世界の中にちょっとおかしな人がいるという世界ではなくて、世界観自体が狂ってるんですよね。まず、その狂っている世界観を自分の基準値にするというところから始まるんです。非常識なことも最近は多いですけれど、それでも自分が生きている世の中は常識を基準にした世界ですから、まずはそれをずらすところから始めないといけない。それで、ナンセンスって、とめどがないんですよね。ある沸点以上はもう笑いにならなくなってくる。ナンセンスではあるんだけれども、笑いにならなくなってくる。筒井康隆作品なんてそう。初期のナンセンスものは笑いにつながるんだけれど、長編の作品はむしろ前衛性とか実験性とかが出てくる。本人は笑いながらやっていると思うんです。だけど、でたらめすぎて、読む人は、こんなでたらめなことを大作家が何百ページもやるはずがないからって、そこには何か意味があるはずだって勘ぐったりとか、いろいろなことが起きるわけです。ナイロン100℃の歴史っていうのは、その時点、その時代においてのナンセンスの追求の歴史であるとも言える。その後、演劇でナンセンスを追求する人たちも出てきたりしましたけど、おもしろがるところはやっぱり違うし、過去の自分と今の自分とでも違うと思うので。ナンセンス・コメディの場合、いわゆる物語を構築していくみたいな作り方はしないですね。狂った世界の中で何がおかしいか、おかしいに限らず、何がおもしろいか、そこを探って、物語として成立させられればするし、させられなければ諦める(笑)。
(左から)ケラリーノ・サンドロヴィッチ、大倉孝二  撮影:江隈麗志
ーーそんなナンセンス・コメディを舞台上で体現する上で、肉体的、心理的にはいかなる境地にあることが必要なのでしょうか。
大倉:おもしろくするっていうこと自体に特に考えることがないので。どうやったらおもしろくなるのかのみですね、考えていることは。ただ、脈略がないので、整理とかそういうものはへったくれもなくて。いちいち、突然わけのわからない境地にいなくてはいけないから(笑)、だいぶしんどいですけどね。でも、それがおもしろいんだと思います。悪ふざけというものはやっぱり人間、興が乗ったときにするもので、全然興が乗っていないのに悪ふざけをするというのはやっぱり、なかなかね。毎日、いい歳してね。それがしんどくもあり、楽しいんでしょうね。秘訣は、ないです。若いころなんかは自分を盛り上げたり、楽屋なんかもわいわいして盛り上がってからみんな出て行くみたいなときもありました。今はね、病院の待合室みたいな楽屋から立ち上がって、舞台で突然ふざけるわけです。余分なエネルギーを手前側で使わないようにしています(笑)。
ーー客演のお三方に期待することは?
KERA:赤堀くんは一番未知数なんです。役者としての赤堀くんは、引き出しは何となくわかっているつもりなんですが、ナンセンスをやっている赤堀くんは観たことがないので、楽しみだなと。(山内)圭哉は近年しょっちゅう一緒にやっていて、彼は非常にナンセンス的なスキルをもっている。それは池谷(のぶえ)もそうですね。かつては彼女の体の全成分がナンセンスであるように感じましたが、今はオール・ラウンドな女優さんになった。ともかく何でもできる人たちですから。池谷はですね、稽古終わった後、彼女のツイッターを読むのがちょっと勇気がいるね(笑)。ウチの公演ではありませんが、稽古中や公演中の舞台が、実は楽しくないんだなということを、彼女のつぶやきによって知らされたりするので。そこを我慢すれば客演陣は十分な戦力になってくれると思います。劇団員は言うまでもなく。
ーーお互いの存在についてどう感じていらっしゃいますか。
KERA:劇団オーディションで大倉が入ってきてからどうやら27年経ったらしいです。さっき大倉が言った通り、最初のころはずっと一緒にいたし、大倉は大して出番がなくても稽古場にいなきゃならなかったし、僕もそんな大倉をずっと見ていたわけですが。だんだん、すべての劇団員に会う時間が少なくなっていって、でも、歳を取るとなぜか、2年くらい会わなくてもそんなに久しぶりっていう感じがしないんですよね。それで、これは偉そうに言うわけでも何でもないんですが、たまに会うと、会わなかった間に外で何をやってきたのか、役者から匂ってくるんです。たまに驚くような変化があったりする。それは、よくも悪くもですが。どこでそんなのが好きになっちゃったの、みたいな(笑)。芝居に対する考え方もですけどね。稽古場ではわからなくても話してみるとわかったりするわけです。大倉も、以前では考えられなかったような変化を遂げて、一時期は本当に、こういう仕事やりたくないとか、ああいう仕事やりたくないとか、そういうことばっかり言っていた人間が、どうやら最近は、どの程度かわからないですが、仕事を楽しんでやれていて、いろいろ吸収しているのかなと、そんな事を感じます。テレビとかたまに見てもね、大した役じゃなかったりしても、以前よりも、短い時間を楽しめているように感じる。でもまあ、今回の芝居はそういうのとはまったく別のものになると思うので、どこまで楽しめるかっていうのはまた別の話なんですけど。非常に頼もしくなっているなと感じると同時に、肉体的にはどんどん衰えるので(笑)。すべての俳優にとって、そこですね、うん。かつてできたことができなくなったりはするだろうけど、それを補って余りある何かがあるだろうなと思うし、そこを生かして何が作れるかということが課せられているなと思います。
大倉:何もできないときに劇団に入れてもらって、芝居を始めてからの歴史をだいたいすべて見られているわけですから、やっぱり、何もごまかせないなと。やるたび、少しでも成長を見てもらえたらなとは思います。個人的には、未だにいろいろ異なるタイプの芝居を企画して、実際書いて演出してと、熱量が全然途切れないままやっているということに対して脅威を感じていますね(笑)。僕なんか病気もしたし、すぐ弱った精神状態になっちゃいますけど、そのあたり、すごいなと見ていて思います。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着