反田恭平×JNOメンバー座談会【Vol.
2】弦楽器編~大槻健(Cb.)&長田健
志(Vla.)&宇野由樹子(Vn.)〈前
編〉

今回のJNOリサイタルシリーズ座談会にトップバッターとして登場するのは、弦楽器のメンバー3人。2021年10月末~11月にかけて、コントラバスの大槻健、ヴィオラの長田健志、ヴァイオリンの宇野由樹子の3名が、東京・奈良にて公演を行う。
大槻と長田はJNOの前身であるMLMナショナル管弦楽団以前からのメンバー。宇野は今年2~3月に行われた「JNO特別編成」のツアーにコンサート・ミストレスとして初登場した新星だ。現在、宇野はスイスのバーゼル音楽院に在籍中で、座談会にはスイスからリモートで参加。移動中にもかかわらず、演奏会への意気込みを余すところなく語ってくれた。
◆気心知れた同級生の大槻健&長田健志/JNO参加のきっかけは?
――今日は、皆さんそれぞれのリサイタルの内容についてもお伺いしたいのですが、各楽器の代表という気持ちで楽器の魅力もお話いただけたらと思います。
大槻:わかりました。今日こそ、チェロがいなくても弦楽器は成り立つんだということを証明してみせましょう!(笑)
長田:そう言えば、チェロ奏者いないね(笑)。
――(笑)。まずは反田さん。長田さん、大槻さん、そして最近では宇野さんがJNOに所属することになったきっかけを教えてください。
反田:長田君との出会いは2018~19年頃だったと思います。ダブルカルテットで活動をしていた頃、今後、各セクションのメンバーを増やしていくのに、どうすべきか考えていました。特にヴィオラはアンサンブルのキーマンなんです。僕の母校(桐朋学園)では当時ヴィオラを専攻している人がいなかったので、ヴァイオリンの岡本誠司君に相談したところ、優秀な人材をたくさん推薦してくれました。中でもみんなから一番声が多く集まったのが長田君でした。
彼はとてもシャイで照れ屋なところがあって、最初、僕に敬語を使っていたのですが、一年くらいたって急にタメ口になりましたね。どうやら彼自身の中で何らかの壁を越えて、互いに信頼を築ける関係になったようです(笑)。
長田:(笑)。僕は、反田君のことはもちろん以前から知っていました。実際、MLM(ナショナル管弦楽団)発足前、ダブルカルテットの頃にも一度だけショパンのコンチェルトでご一緒したことがありました。僕と反田君、あと大槻君は同い年なんですが、その時の第一印象は、とても同級生とは思えず、「ちょっと距離を置いて、尊敬と畏怖の念を持ちながら接したほうがいいのかな?」と感じました。
その後、MLMに誘って頂いたのですが、第一回目の練習の時はヴィオラが僕一人だったので、メチャクチャ怖くて……。そのトラウマがあって、それを払拭するのに一年かかりました。だから、ずっと敬語を使ってたんです(笑)。
長田健志
反田:彼は人間的にとてもいい奴で、リハーサルでも、いつも、みんなを笑顔にしてくれるムードメーカー的な存在なんです。建前上、JNOの役職としては“団長”としても頑張ってくれています。
長田:団長と言ってもただの雑用係ですよ。飲み会の場所を予約したり(笑)。
――大槻さんも同じく、MLMナショナル管時代からのお付き合いですね?
反田:彼の噂は昔からいろいろなところから聞こえてきていました。「同い年なのに、読売日本交響楽団の首席やってるらしいぜ」、「スゴい、うまい奴がいる!」みたいな感じで。ダブルカルテットをやっている時に、「コントラバス大事だけど誰を誘う?」となって、まず名前が挙がったのが大槻君でした。縁の下の力持ちとして、僕たちには欠かせない存在です。ある意味で、コントラバスは指揮者より偉い存在で、頼りがいのある大槻君にはお世話になりっぱなしです。
大槻:僕が反田君と最初に共演したのは、学生の頃。東京交響楽団に客演した時で、当時まだ20歳とか21歳だったと思います。恐らくチャイコフスキーのコンチェルトだったと思うのですが、とにかく、僕より10歳くらい上だと思ったんですよ。でもある日反田君がテレビ出演しているのを見たら、本当に同い年なんですよ。「え~、噓だろ?!」と。
一同:(笑)。
大槻:その後、僕もMLMへのお誘いが来たのですが、同じ芸大卒の岡本誠司君が推薦してくれたみたいで、学部の一年生の時からいつも一緒に遊んでいた長田君もいるし、何やら面白い企画もたくさんやってるし、「じゃあ、やってみようかな」と思ったのがきっかけです。
大槻健
◆JNO初の転校生?!宇野由樹子/JNO参加のきっかけは?
――そして、宇野さん。宇野さんはこれから本格的にJNOでの活動をされる予定ですね。
宇野:はい、心躍るプロジェクトがラインナップされているのを拝見して、来年から参加させて頂けるのを心待ちにしています。これからメンバー皆さんのことももっと知り合えると思うので、それも楽しみにしています。
反田:転校生みたいだね。
長田:JNO初の転校生!
――宇野さんは現在、スイスにいらっしゃるということですが、普段はどのような活動をされているのでしょうか。
宇野:バーゼル音楽院でソリストマスターの課程二年目に在学しています。レッスンの他に、コンクールに挑戦したり、同級生とカルテットをやったり。たまにヴィオラやセカンド・ヴァイオリンも弾いています。もともとザルツブルクで5年勉強していたのですが、そこで出会ったライナー・シュミット先生に「ずっと、ついていきたい!」と思い相談したところ、先生から「環境は変えたほうが良い」というアドバイスを頂き、先生が他にも講師を務めているバーゼルに移りました。
宇野由樹子
反田:宇野さんは、今年2~3月のJNO特別編成のツアー開催の際、突然のオファーにもかかわらず、大役のコンサート・ミストレスを快く引き受けてくれました。彼女のことは、コンマスの岡本君と大江(馨)君の二人の推薦で知ったのですが、「この二人の推しなら間違いない!」と、思い切って声をかけました。
宇野ちゃんには、それまでお会いしたことなかったのですが、アーティスト写真もとてもキレイですし、第一印象としては、「うまい人」という感じで、僕としてはちょっと怖かったんです。でも、電話で話しましたら、純粋な感じの声と話し方で、瞬間的に僕の中で「絶対にいい人だ!」と直感しました。
宇野:ツアーの前に、いきなり反田さんからFBでメッセージが来まして、文面に“反田恭平”と書いてあったので、最初はフェイクかと思ったんです。とにかく、こんなに多くの音楽家を知り尽くしている方がまだ新しい人材を発掘していることにとても感動しました。私自身は、「期待を裏切らないようにしなくては……」という思いで、最初は緊張と恐怖でいっぱいでした。
反田:ソリストとコンサート・ミストレスでは全く役割は違いますから、正直に言うと、一か八かというのもあったんです。でも、宇野ちゃんの場合、毎回の練習、毎回の公演ごとにみんなを統率する力をどんどん発揮してくれまして、最終的には素晴らしいツアーになりました。
ツアー後、すぐにオケのメンバーたちとも話し合ったら、全員一致で、「JNOに巻き込むしかないね!」ということになりまして、今後、僕たちの活動に加わってもらうことになりました。
宇野:このような若くて素晴らしい演奏家たちの集まりに入れて頂けたことが本当に嬉しくて、日本でもコミュニティを持てたことに感謝しています。反田さんは演奏家としてだけではなく、「プロデューサーとしても影響力がすごい方だな」と、今は「コワい」は卒業して(笑)、とても尊敬しています。

反田恭平

――反田さん、全員に第一印象が「コワい」と言われてますが…
長田:初めて会った時、反田君の髭は今より濃かったよね。初対面であれは怖いよな~。
大槻:「は、はい。おはようございますっっ」みたいになるよな(笑)。
反田:まあ、しょうがないですね……。
三人ともに、ここ数年のお付き合いなのですが、いい音楽だったり、同じ空気感などを一緒に体感してきているので、僕は普通の友達以上に信頼できる大切な存在だと思っています。
先ほどの宇野ちゃんのFBの話に付け加えると、最近、JNOに入りたいという人たちが本当に増えているみたいで、先輩たちからも僕に連絡が来るんです。でも、「やはりメンバー全員で決めたいよね」と、みんな同意しています。最終的には僕自身が電話をかけて、その人、個人の声を聴くことで人間性を判断するようにしています。このまま都市伝説的に語られていって、「電話来るらしいよ~」、「電話来るまで待て」みたいに囁かれるようになったら……それはそれでいいんじゃないかと(笑)。
大槻:ある日突然、「おめでとうございます。あなたは選ばれました」って電話かかってきたら怖いよね。
長田:コワい。切るわ(笑)。
◆3つの弦楽器 演奏の違いは?
――プロフィール拝見しましたが、長田さんは、もともとヴァイオリンをされていたんですよね。
長田:ヴァイオリンは4歳から始めました。でも演奏家になるつもりはなかったので、普通の進学校に通っていました。たまたま、高校一年生の時に佐渡裕さんのスーパーキッズ・オーケストラに合格しまして、その際「ヴィオラだったら」ということで(ヴィオラに)転科しました。
そもそも、子供の頃に音楽をきちんとやってこなかったので、ハ音記号は読めないし、いろいろストレスが溜まって音楽も嫌いになりかけた時もありました。ちょうどその時、尊敬する先輩に出会って……。
大槻:有田さん?(※JNOメンバーのヴィオラ奏者の有田朋央)
長田:そう(笑)。
大槻:二人、在学中(※東京藝術大学)からホントに仲良かったよね(笑)。
長田:(笑)。その出会いが僕を変えてくれたんです。彼のバッハを聴いた時の印象が今でも僕の心の中に残っています。その先輩と、現在も(JNOで)隣同士で演奏できることに喜びを感じています。
――先ほど宇野さんも、たまにヴィオラを演奏することがあるとおっしゃっていましたが。
長田:ヴァイオリンの方々は器用なので、特に、宇野さんみたいな方に真剣に練習されてしまうと僕らの立場が……(笑)。
宇野:いやいや、そんな(笑)。ヴァイオリンとヴィオラは、やはり、構え方や、左肩や弓を動かすときの筋肉の使い方が全く違って、難しいです。ヴァイオリンの構え方をしてしまうとあとで筋肉痛になってしまいます。
長田:僕は体重があるので弓に重さを乗せられるぶん、楽だと思いますが、左手はヴァイオリンのように速いパッセージは指が回らないですね。あと、音の高さ、特にE線(一番高い線)をずっと聴いていないので、なかなか音が出せないですね。
――やっぱり弦楽器も、手が大きいほうが演奏しやすいなどあるんですか?
長田:指の長さもいるのですが、ヴィオラはネックが太いので甲の大きさも必要になってきますね。
――弦楽器の演奏を聴くときは、指の激しい動きを見るのも楽しみのひとつですよね。
大槻:(長田を見て)僕たちは基本的に“のろまな”な楽器なので(笑)、そういう点は、宇野さんの演奏会が楽しめると思います。コントラバスとヴィオラは、どうしてもベースを作ることが多いので、超絶技巧的に指を動かすよりも、ずっと押さえて、音を伸ばしているほうが圧倒的に多いですね。
――コントラバスやヴィオラは“縁の下の力持ち”で、なかなかソロで聴くこともない楽器だと思いますが、今回のシリーズでは存分に楽器の魅力を堪能できる絶好のチャンスですね。それでは、次回は、リサイタルの曲目や内容について、皆さん、お一人おひとりに詳しくお聴きしたいと思います。

次回は、それぞれのコンサートの内容や各楽器の音色の特徴など、詳しく聞いていきます。
取材・文=朝岡久美子 撮影=鈴木久美子

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