カネヨリマサル 新作『突き動かされ
てく僕たちは、』から読み取れるバン
ドとメンバーの人間的成長

配信シングル「春」、「南十字星」を経て、カネヨリマサルから3rdミニアルバムが届けられた。タイトルは『突き動かされてく僕たちは、』。各パートのフレージングやサウンドからはバンドの成長が、人は変わっていけるとその身を以って証明する歌詞からは、ちとせみな(Vo/Gt)の人間的成長が読み取れる。自分たちの音楽で、聴く人の心を突き動かしたい。そんな願いが込められた今作について、メンバー3人に語ってもらった。
――感染症対策ガイドライン下でのライブには慣れましたか?
ちとせみな(Vo/Gt):お客さんはアクションがしづらい状況で大変だと思いますけど、“ああ、聴いてくれているなあ”、“キラキラした目をしてくれてるなあ”というのは自分たちにもめっちゃ伝わっています。確かに表情は見えにくいんですけど、だからこそ、見えないものも見ようという気持ちが強くなって、小っちゃいことに気づけるようになったというか。
もりもとさな(Dr/Cho):MCのときに“うんうん”って頷いてくれていたり、演奏中に感極まってくれている子がいたり……。
いしはらめい(Ba/Cho):声が出せない分、お客さんも何かしらの形で伝えようとしてくれているんですよ。
もりもと:そういう様子を見ると、ちゃんと届いているんだなって思います。
――そのほかにライブ周りで何か変化はありましたか?
もりもと:他の方のライブを観に行く機会や、音楽をしている仲間に会う機会が減ってしまったんですけど、逆に、3人で話し合うことは増えました。
ちとせ:ありがたいことに、1年前よりも忙しくなってきていて、ライブをやらせてもらえる機会も増えてきたので、3人で一緒におる時間がめちゃくちゃ長くなったんですよ。バンドのことを話す機会がめっちゃ増えて。ライブが終わったあとも、今までは“おつかれー”って解散して、個々でその日の振り返りをしていたんですけど、最近は“こうしておいた方がよかったね”と3人で喋ったりしていて。そういう会話が増えたのは、ライブにまっすぐ向き合いたいという気持ちからだと思います。一つひとつのライブの大切さはずっと変わらないんですけど、やっぱりこの1年を経て、ライブができるありがたさを強く感じるようになったので。
――そうやってライブに向き合えているなら、“前よりもいいライブができているぞ!”という手応えもあるんじゃないんですか?
一同:うーん……。
――自分では言いづらいか(笑)。
ちとせ:1年前よりも確実に成長しているとは思うんですけど、ライブ自体の完成度に関しては、ちょっと自分では評価できないです(笑)。それに、ずっと模索中なんですよね。完璧と思えるラインに届くことは一生なく、ずっと追いかけ続けているイメージなので。
ちとせみな(Vo&Gt)
いろいろな人に曲を聴いてもらいたいです。私という人間が有名になりたいんじゃなくて、音楽が有名になってほしい。
――バンドとしては今どういうモードなんですか? ゴールには一生辿り着かないにせよ、目指している姿みたいなものはあるんじゃないかと。
ちとせ:私はやっぱり、いろいろな人に曲を聴いてもらいたいです。私という人間が有名になりたいんじゃなくて、音楽が有名になってほしい。そのためには、ライブで生で届ける力ももちろん必要だと思うので、ライブも成長させたいという気持ちがあります。たくさん人が入る会場でも届けられるようになりたいし、そういう意味で“大きくなりたい”という目標がありますね。
――“もっと広く曲を届けたい”というモチベーションで活動をするなかで、曲もどんどんできていて。このたび、3枚目のミニアルバム『突き動かされてく僕たちは、』がリリースされますね。
いしはら:1stと2ndは“このアルバムにはこの曲を入れよう”と話し合って、すでにあったデモからも選んで曲を入れていたんですけど、今回は最近できた曲を中心に選んでいて。あ、「南十字星」だけは2016年からあった曲なんですけど。
ちとせ:自分たちの活動報告というか、“いい音楽ができたよ”という感じで出している感覚が今回は特に強いです。
――そういうふうに曲の選び方が変わった理由は?
ちとせ:シンプルに、いっぱい曲を録っていたからですね。『突き動かされてく僕たちは、』というタイトルの通り、今回のアルバムは、自分が心を突き動かされて作った曲を集めているんです。今までの曲も心が動いたときに作っているんですけど、特に今回の6曲は、作ったときの気持ちを鮮明に覚えていて。前のインタビューで“「南十字星」はどん底の時代に作った”という話をしたように、他の曲に関しても、モヤモヤしていた時代の自分が作っている曲やなって思います。「今日の歌」は唯一前向きですけど、そういう時代特有の苦しさが出ているなあと。
――“モヤモヤしていた時代の自分が作っている曲やなって思います”って、言い方がちょっと俯瞰的ですね。まるで今はモヤモヤしていないかのような。
ちとせ:実は最近、温かい気持ちから曲が生まれることも増えてきているんです。その曲たちは今回のアルバムには入っていないんですけど。
――おお。“負から曲を書いている”とずっと言っていたちとせさんが。
ちとせ:そうなんです。でも、日常生活の中でずっと幸せなマインドを保てるような人間ではないので、これからも負の感情は出てくると思いますけど。
いしはらめい(Ba&Cho)
今までを想っていろいろなことを考えるより、今の自分の状況や、これから先のことを考えようと思えるアルバムだなって。
――その曲のリリースも楽しみにしています。いしはらさん、もりもとさん、『突き動かされてく僕たちは、』はどんなアルバムになったと感じていますか?
いしはら:自分はこのアルバムを通して聴いたときに“先を見たいな”と思いました。今までを想っていろいろなことを考えるより、今の自分の状況や、これから先のことを考えようと思えるアルバムだなって。
――それは“メンバーとしてバンドの未来が楽しみ”という意味で?
いしはら:もちろんそれもあるんですけど、いちリスナーとして“これから先も頑張ろう”と思える曲が集まったなあと。力になってくれるような、心にまっすぐ入ってくる曲が多いなあと思います。
もりもと:私も、“2人が昔から大切にしてきた曲をアルバムに入れられて嬉しい”、“自分がカネヨリマサルに入ってから作った曲がたくさん入っているのも嬉しい”という気持ちもあるけど、通して聴いてみたら……みなさんの書く歌詞は芯がまっすぐだから、バンド以外で嫌なことや不安なことがあったとしても、“大丈夫だ”と思えるなあと。しゃんと前を向けるような曲がしっかり詰まっているなあと思います。
――私の感想もお二方と近かったです。ちとせさんの歌詞、作風が大きく変わったわけではないけど、いつにもまして前向きだなあと感じました。芯の通った主人公像が浮かぶというか。
ちとせ:それは自分でも思っていました。“今作らな!”という気持ちで作った曲ばかりが集まったアルバムなんですけど、そのなかでも特に「本当はどうでも」という曲は……この曲、仕事をズル休みしたときに作った曲なんです。
――そうだったんですか。唄い出しが《息継ぎが出来なくても/今日を生きるしかないし》というフレーズで。
ちとせ:めっちゃ苦しんでますね(笑)。でも、それがホンマに自分の心そのままを表していて。人生の中でめっちゃしんどいときって誰でもあるじゃないですか。だけど自分は、そのしんどさも糧にしたいと思っているし、自分にとっては、糧にするための手段が音楽にすることなんですよね。だからこの曲は、まさに自分を突き動かすために作りました。誤魔化しまくって、逃げまくっているけど、悲しいことにも向き合わなあかんし、前向かなあかんって思いながら、これからを進むような曲やなと。
――そういう“現状を受け入れながら前を向くまでの過程・成長”がこのアルバム全体のテーマになっている気がしますね。リード曲の「いつもの」でも、人から与えられることを待っていた人が、自分の足で動き出すまでのストーリーを描いていますし。
ちとせ:そうですね。人間はいろいろな感情を持っているものなので、歌詞を書くときは、自分が持っている汚い部分も嘘偽りなく書くことが大切やと思っています。なので、最初のところはカッコ悪い自分を思い出しながら書いたんですけど、今は、昔の自分がカッコ悪かったと思えるくらいに成長できたなあと実感しているので。この曲では、そういう“二重な自分”を書いてみました。
――この曲は、サウンドや構成に関しても“ザ・リード曲”という印象を受けました。ド頭のキメからインパクトがあるし、3分以内でするっと聴けちゃうキャッチーさもあるけど、よく聴くと、どのパートにも工夫が詰まっていて。
いしはら:頭のキメは昔からあったものなんですよ。それをちとせが急に持ってきた記憶があるんですけど。
ちとせ:そうやな。音遊びみたいな感じで昔に作ったものだったんですけど、“これ入れたら面白そう”と思ったので、そこから形を整えていって。
もりもと:疾走感も出しつつ、“自分ららしさもしっかり入れたいよね”という話をしながら進めていったんですけど、アレンジは結構悩みましたね。特に2番Aメロは、自分の好きなアレンジにできて。悩みながらも、“あ、これいいやん”みたいな感じで楽しく作れたというか。
ちとせ:うん、さなちゃんのドラム、めっちゃいいと思う。“そんなこともしてるんや!”ってなるというか。
もりもと:疾走感があるだけじゃなくて、こだわりも詰まっていて、いい曲になったなあと思っています。
ちとせ:それで“リード曲にしたいなあ”と思っていたんですけど、いつも手伝ってくれているスタッフさんからも“この曲は耳に残るよね”というようなことを言われて。自分たちだけじゃなく客観的に聴いてもそうなんやと思って自身に繋がったし、“そしたらなおさらリード曲やな”っていう認識になりました。
――MVも面白かったです。場面が次々と切り替わる構成ですが、いろいろなシチュエーションで撮影したんでしょうね。
ちとせ:雨が降っている日だったんですけど、周りの人にサポートしてもらいながら、撮影することができて。撮り終わった瞬間、バッと傘を持ってきてくださったりとか、本当にすごかった……。
いしはら:よく見たら分かるかもしれないんですけど、めちゃめちゃ濡れているときに撮ったシーンが1個だけあるんですよ。
ちとせ、もりもと:あるある!
いしはら:そのシーンでは3人とも前髪がペトペトなんですけど、そのあとにめちゃめちゃ乾かしていただいたので、他のシーンでは復活しているという。
ちとせ:プロの力ですね(笑)。
もりもとさな(Dr&Cho)
聴いた人が温かい気持ちになれる曲にできたんじゃないかと自分たちでも思っていて。早くライブで演奏したいなあと思います。
――曲調の新しさで言うと、4曲目の「ネオンサイン」が印象的でした。
ちとせ:自分がソロで弾き語りライブに出演したときに演奏していた曲なんですけど、こういうバラードというか、沁みる系の歌をバンドでも作りたいなと思ったので、今回引っ張り出してきて。
いしはら:デモで聴いた時からめちゃくちゃ好きな曲だったんですけど、こういうミドル~スローテンポの曲はバンドではあまり作ってこなかったので、曲が元々持っているまっすぐな温かさを、自分たちの演奏でどれだけ表現できるかというのが課題だったというか。
ちとせ:めっちゃやり直したもんな。
いしはら:うん。多分、個々で考えたことは一番多かったんじゃないかと。“いいものにしたい”という気持ちが強かった分、今回形にするにあたって、かなり細かいところまでこだわりました。
ちとせ:2018年の秋と冬の間の季節に作った曲なんですけど、寒くなる季節には自分の心がキュッとなるので、サウンドもそういうものにしたいなあと思って。
もりもと:聴いた人が温かい気持ちになれる曲にできたんじゃないかと自分たちでも思っていて。トレーラーの反応を見ていると“「ネオンサイン」、めっちゃよさそう”と言ってくれる人がたくさんいたので嬉しかったです。早くライブで演奏したいなあと思います。
――唯一前向きと仰っていた「今日の歌」は、アニメ『Sonny Boy』の劇中歌として書き下ろした曲なんですよね。
ちとせ:はい。アニメの台本を読んで再確認させてもらった気持ちを歌詞にしたんですけど、グサグサくる台詞があったんですよ。それこそ、芯のあるキャラクターもいて。
――例えば?
ちとせ:希というキャラクターが“綺麗事って言われても、私は私が思ったことを言い続ける”というようなことを言っていて。めっちゃカッコいいなあと思ったし、自分もそうありたいと思いました。
――1番Bメロの《君のことは愛しているけど/わたしのものではないんだ》という歌詞が気になりました。要するに、ちゃんと自立していたいという話だと思うんですけど、《あの人が恋をこのまま一生できなくなれば良いのに》(「ガールズユースとディサポイントメント」)と唄っていた頃からかなり変わったなあと。
ちとせ:自分の恋の成長の表れかもしれないです(笑)。でもこれは、日頃から結構思っていることで。自分は、私がおってもおらんくても、変わらずに生きていける人が好きなんですよ。同じように自分も、人に左右されて何かを決めたくないなあと思うし、誰にも依存したくないなあと思う。
――大人な考え方ですね。こういう恋愛観っていしはらさん、もりもとさんは共感できますか?
もりもと:私も結構近いかもしれないです。共感できることがあるけど、お互いにやりたいことをやっているような関係がいいなあと思うので。
いしはら:私は2人に比べたら……本当はそうあるべきだとは思うけど、自分がちゃんと実践できているかというと、まだ分からないなあと思います。だからこそ、ちとせの歌詞を見ると、改めて“そうだよなあ”と思うというか。
ちとせ:でも確かに、このアルバムを作っていた時期は“依存していたものから離れる”みたいなことを結構意識していたんやと思います。だから「今日の歌」でこういう歌詞が出たんやと思うし、「本当はどうでも」でも《出会えば別れて/追えば離れて》……えーっと……。
いしはら:《しまうものだと思って/今の世界を見たくない》。
ちとせ:そうそう。そこも同じことを書いていて。
――“出会えば別れて”、“追えば離れて”までは今までの曲でも書いていたけど、その先まで踏み込んでいるのは今作が初めてですよね。
ちとせ:“この人と出会ってもいつか別れる”とか“仲良くなってもいつか傷ついてまた離れる”みたいなことを考えすぎてしまうと、自分の人生を楽しく生きられないんじゃないかと思ったんですよ。それで、前向きに人を愛したいという気持ちが以前と比べて強くあります。
――どうしてそう思うようになったんですか?
ちとせ:うーん、どうしてだろう……。ボロボロになるのはもう嫌だって思ったからかな? (しばらく考えてから)あ、でも、恋愛以外も含めて、信頼できる人っていっぱいおるなあと気づけたんですよ。前までは全然世界を見れていなかったんですけど、いろいろな人と出会って、話を聞いたりするなかで、自然とそう思えるようになったんかな? それに、人を愛することは自分を守ることにもなるというか。
――というと?
ちとせ:もちろん別れは絶対にあると思うけど、今は別れを恐れるよりも、ただただ全部を受け止めて、まっすぐに人を愛したいと思えていて。そうすると“嫌われたらどうしよう”みたいな感覚もなくなっていくので、自分のことも守れるようにもなるんです。

――なるほど、その感覚が歌詞の変化に繋がっている気がしますね。このアルバムは、「本当はどうでも」の《今はわたしのこころだけ信じて/今はわたしのこころだけ見て》というラインで終わりますが、この曲を聴いていると、“今はあなたのこころだけ信じて/今はあなたのこころだけを見て”と言ってもらえているような感覚になるんですよ。
ちとせ:そういうふうに感じてもらえたら嬉しいなあとは思っていました。『突き動かされてく僕たちは、』というのは、私自身が“突き動かされて音楽を作った”というのもありますけど、“この音楽を聴いて突き動かされてほしい”という聴いてくれる人に対する気持ちでもあるし、突き動かされた先でも、自分たちの音楽はその人のそばにずっといたいなあと思っていて。なので、特にこの曲は“聴いてくれた人に向かって作っている”という感覚が強かったと思います。
――誰かに向かって曲を作ろうという気持ちは、以前より強くなりましたか?
ちとせ:そうですね。昔の自分は一人よがりだったなあと思うので、強くなっているんだと思います。今、昔に比べて、聴いてくれる人が増えている実感があるんですよ。それはとてもありがたいことだし、自分にできるのは音楽を作ることで、その人たちを音楽で支えられたら本当に幸せだなって思っているので。私の書いた曲はもちろん私だけの曲でもあるんですけど、人に伝わってほしいなあと思いながら作っています。
――最初のライブの話然り、“人に伝わってほしい”という想いが今のカネヨリマサルを突き動かしているのかもしれないですね。
ちとせ:今言われて“あ、そうかも!”って思いました。
――そんなちとせさんの作った曲を鳴らすのが、この3人でよかったなあと思います。先ほどちとせさんから歌詞が出てこなかったときに、いしはらさんがフォローしたじゃないですか。
いしはら:あの歌詞、めちゃくちゃ好きなんです。
――そういうふうに、カネヨリマサルのインタビューでは、お三方の楽曲に対する愛情、いしはらさん&もりもとさんの中にあるちとせさんへのリスペクトが伝わってくる瞬間が多いので、私は毎回キュンキュンしていて。
いしはら、もりもと:(照笑)
――要するに、誰よりも皆さん自身がこのバンドの楽曲のファンであるというか。それって、音楽を人に届けるうえで一番大事なことですよね。
ちとせ:本当にそうだと思います。この2人は私の書いた曲をすごく愛してくれるので、めっちゃありがたいです。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=大橋祐希

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