コシミハルが
細野晴臣との邂逅で
本格的に才能を開花させた
エポック作『TUTU』

最初期からあった才能の萌芽

と、収録曲をザっと振り返ってみても、『TUTU』は、歌だけでなく、サウンドにも重きが置かれ、しかも当時の音楽シーンでの最新モードだったテクノを惜しみなく(?)導入していることが分かる。その点は間違いないと言っていいだろう。本作は細野晴臣のプロデュース作であって、その作風の要因を細野に見出す人は多いと思われる。しかし、結論から言えば、それは半分正解と言ったところではないだろうか。筆者も当初は細野色が強い作品だろうと漠然と考えていた。それは、『TUTU』のリリースは1983年10月で、YMOの散開(※所謂解散のこと)が発表されたのも1983年10月だから、制作当時、細野はまだYMOだったことだし、氏の影響が強かったんじゃなかろうかという単純な理由で…だ。だが、“『TUTU』でどこがどう変わったのだろうか?”というのも気になって、『TUTU』以前の1st~3rdもサラッと聴いてみると、決して細野だけの要因ではないことが理解出来た。確かに『TUTU』での変化はあるものの、それは方向性が180度違うほどドラスティックなものではなかった。最後に、そこに触れておこう。

1st『おもちゃ箱 第一幕』は、さすがに…と言うべきか、ポップス感が強めであって、サウンドにはテクノな感じもほとんどない。ラテンの要素が少しあったりするが、女性シンガーソングライターらしい作品といった印象だ。ただ、2nd『On The Street ~ Miharu II』(1980年)から少し様子が変わる。歌メロが前面に出たポップス的な楽曲が多い中にも、ロックテイストあり、ファンク的ナンバーありと、サウンドの幅が広がった感じがある。その中でも、M3「いたずらアンニュイ」やM8「Up Down」などのシンセの使い方にテクノポップの匂いがするし、M2「立ち入り禁止」での歌唱はニューウェーブ調。彼女自身の嗜好が少し垣間見えるようだ。

その辺は3rd『Make Up』で確信に変わる。テクノな嗜好が感じられるのはM9「ポケットいっぱいラブソング」のみだが、アレンジ、サウンドメイキングの随所にアーティストの意欲が感じられる。エフェクトを駆使して不思議で妖しい雰囲気を醸し出すM6「ミスターM」。レゲエをベースにしながらもあまり他にはない音を導入することで、単純なロックチューンで終わらせていないM7「コーヒーブレイク」。また、M1「さりげなくジンジャーエール」はシティポップに分類されるもので、のちの彼女の作品ではこういうテイストが出てないということは、彼女自身の好みではなかったのかもしれないが、これはこれで実によく出来た楽曲である。つまり、最初期において彼女はお仕着せのシンガーだけをやらされていたわけではなく、アーティストとしてのスキルを磨きながら方向性を見定めていたのだろう。『TUTU』でレーベルを移籍しているが、その音源の一部は前レーベルで録音していたものを買い上げたという。それも彼女のスタンスを示す証拠だろう。そもそも才能溢れるアーティストであったコシミハル。そのポテンシャルは細野晴臣との邂逅によって花開いたものと見る。

TEXT:帆苅智之

アルバム『TUTU』1983年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.ラムール・トゥジュール
    • 2.レティシア
    • 3.スキャンダル・ナイト
    • 4.ラムール…あるいは黒のイロニー
    • 5.シュガー・ミー
    • 6.プッシー・キャット
    • 7.キープ・オン・ダンシン
    • 8.日曜は行かない
    • 9.プティ・パラディ
『TUTU』('83)/コシミハル

OKMusic編集部

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