劇団鹿殺し『キルミーアゲイン'21』
菜月チョビ×タテタカコに聞く~「生
きている実感を得るために演劇から離
れられない人々の物語は今だからこそ
刺さる」

劇団鹿殺しが旗揚げ20周年を迎える。“立身出世”を夢見て大阪を飛び出した若者たちが、都内の一軒家を借りて、路上ライブなどを通して注目を集め始めた。クセの強いキャラクターによる破天荒な物語、多彩な音楽を駆使した音楽劇を軸に独自路線を突っ走ってきた彼ら。活動20周年記念公演の第1弾は、15周年の際に初演した『キルミーアゲイン』に挑むが、2021年5月に上演したザ・ショルダーパッズ#1『銀河鉄道の夜』『少年探偵団』に続き、タテタカコを音楽に迎える。タテはハードコア・パンクからアヴァンポップまで、剥き出しの生を表現した独創的な世界観で人気を集めているシンガー&ソングライター。果たして鹿殺しの世界とどう融合してみせるのか!!
――20周年おめでとうございます。
チョビ ありがとうございます。20周年のイメージって、後輩として見ていたときは、もう確立された立派な集団、大先輩という感じでした。しかし自分たちを振り返ると大人にもなれていないし、今も同じことをして同じことで落ち込んでたりで、何かうまくなったんだろうか、こんなもんかってしょんぼりしますね(笑)。
菜月チョビ
――『キルミーアゲイン』を20周年の作品に選んだのはどういう理由からですか?
チョビ まず新作だと稽古時間がどのくらい必要かわからないこともあって、このコロナ禍にやるにはリスクがあると。再演作品にしようと先に決めて、20周年にふさわしい作品を劇団員と相談したら、『キルミーアゲイン』と『スーパースター』が好きだというメンバーが多かったんです。『キルミーアゲイン』は等身大のキャラクターが出てくるので、今の劇団員の魅力を引き出せるということで選びました。
――ダム建設の是非に揺れる村に、東京から一人の男が帰ってきて、村がダムに沈むのを止めるべく村民たちとお芝居をつくるという話は、演劇のための演劇みたいな雰囲気がある作品ですよね。
チョビ 演劇が好きで好きで、何があろうと離れられない人たちの話ですね。今も非常に苦しい時期ですし、自分たちにとっては心入れやすい作品かもしれません。
――さて、鹿殺しとタテさんがまったく結びつかなかったんですけど、どういう出会いがあったのですか?
チョビ 私が一方的にファンだったんです。タテさんの音楽はすごく物語を感じる。それで前作のザ・ショルダーパッズの際に、この身一つになったときにグッと押し上げてくれる音楽がほしかったので、イチかバチかアタックしたところ、了解してくださったんです。無理やりな突撃な出会いです。
タテタカコ
――タテさんは依頼をもらっていかがでしたか?
タテ 演劇の音楽をと聞いたとき、自分から生まれてくるものってある程度は想像がついてしまうけれど、誰かの作品に触れることでしか生まれないものがきっとある、まだ私が知らない経験がいっぱい世の中にあふれているはずだと思い、やってみようという気持ちにさせていただきました。
――チョビさん的に、タテさんの魅力をもう少し語ってもらっていいですか?
チョビ タテさんの場合、曲とライブがそれぞれに素敵なんです。曲は本当に音楽の強さを感じるんですけど、一つの曲でもいろんなシチュエーションの人に「これは私のことだ」と思えるようなところがあります。自分がつらいときに何か救われた気持ちになる、見つけたし見つけてもらえたみたいな瞬間があるんです。ライブは、タテさんが音や歌の神様の使者、あるいは身を捧げて啓示する人みたいな状態になっていらっしゃる。そして本当に音楽だけをまっすぐ届けてくれるので、邪念ゼロで心にドーンと入ってきて泣けてくるんです。ライブを見てるとかじゃない、なんか宇宙空間に連れて行かれる、銀河鉄道に一人で乗ってるみたいな気持ちになって、日常のいろんな関わりとかから遮断されて自分と向き合う時間になるから、とっても身体にいいわという感覚なんです。
タテ 聞いてスッキリしましたと言ってくださる方はよくいます。ライブって私にとって、自分がなんでもない存在だと思い知る時間でもある。おごってたな、私の本性はこうなんだなって丸裸にならざるを得ないんです。逆にお客様が感じた想像力をいただいて、自分の中をぐっと広めてもらえる場でもある。これでいいやということがない、一度はうまくいっても次は通用しなくなることの繰り返しですね。
――長野市のネオンホールの演劇で歌っていらしたのを拝見したことがあります。
タテ 犯されたら死ねばいい、みたいな曲を劇中で、白塗りをしていただいて歌いました。
チョビ すごい演劇的だ。
タテ 一曲、一回歌っただけなんですけど、演劇の方々ってその世界観にぐっと集中されるじゃないですか。うごめきがすごくて作品から抜け出せなくなったのを覚えています。鹿殺しさんとは、去年はまず直接お会いしないまま創作を始めたんです。
チョビ リモートのままでした。
タテ お互いに本当に存在しあってるのかわからないような感覚。自分のペースで曲をつくっても、自分だけで完結するならいいんですけど、役者さんと合わない可能性もあるし、その役者さんたちが役として生き始めたときの存在感みたいなものをとても感じたくて稽古場に飛んで行ったことがありました。
ザ・ショルダーパッズ #1『銀河鉄道の夜』『少年探偵団』 撮影:和田咲子
チョビ ザ・ショルダーパッズは2本立てで、1本は新作、1本はライブハウスでよくやってきた音楽劇でした。男優たちが前貼りで演じるみたいな、わりとふざけた作品ですが、両方共にお願いしたんです。
タテ 私はもちろんたくさんの方に支えていただいてますけど、基本的には一人の活動ですから自問自答して捨てたり拾ったりという作業をしているんですよね。実際にお稽古を観に行ったときに、役者さんそれぞれが本番に向けて作品に命を吹き込んでいく、一つ一つのきらめきを見たときに、生命力がいっぱいあることに喜びを感じたんです。一人で作業をしているとどの穴を掘っているかわからなくなることがあるので、実際にお会いして皆さんがどこに向かっているかに一瞬でも触れられたのってすごく大きかった。言葉にもできないし日常生活の中で見つけることもできないけど、その人の中に必要な養分みたいなものを交換ができるのがきっと演劇の現場なんだろうなって。
――どのくらい曲数を書かれたんですか?
タテ 前回は1カ月で20曲くらい書きました。そんなにつくったのは生まれて初めてで、脳みそが焼付くような瞬間もあったんですけど、自分の限界も知りたかったんです。これはできるけどこれはできないんだということがもう否応無しに見えてきました。私、トントンと物語を理解してサッと歌にできるタイプじゃないんです。
チョビ 初めましてなのに、ずいぶんな曲数を書いていただいてしまいました。
ザ・ショルダーパッズ #1『銀河鉄道の夜』『少年探偵団』 撮影:和田咲子
――今回はどういうところから始まったんですか。
チョビ タテさんには、過去に亡くなってしまった高校の吹奏楽部の子どもたちが演奏する曲などを書いてもらっています。
タテ 初演の映像を拝見したら、新しくする必要がないくらい印象的でフィットした曲だったんです。だから作品と距離を取る時間が必要でしたね。切り離したときに、役者さんたちや物語から音楽が届いてくる。気をつけないと、良いものつくりたい、良いものつくりたいという姿勢がまんまと出ちゃう。でも自分が黙ると歌が聴こえてくる、登場人物が教えてくれる。それが見えてくるまではずっと不安で、できるのかなという邪念との戦いです。だから今回は曲数が少なくて良かった。
『キルミーアゲイン』初演 撮影:和田咲子
――できた曲はいかがでしたか。
チョビ 全部で3曲お願いしたのですが、タテさんが寄り添ってくれているように思います。たとえば亡くなった吹奏楽部の子どもたちが生演奏して、途中からタテさんのピアノとご一緒されているバンドの方々が録音した音源が重なるといった使い方をする曲があります。15周年につくった私たちにとって印象が強い作品でもあったから、最初は鹿殺しで鹿殺しを守ろうとしていた部分があったかもしれません。でもタテさんの曲によって、作品の外から新しい視点のボールを投げてもらったような距離感になって、私たち自身も気持ちが楽になった。稽古では、私の役は代役の子が入ってくれているんですけど、初めて歌ったときにブワーと泣き出したんです。きっと自分たちは見せる側ではあるんですけど、感じる側にもなっていたんですね。夢やぶれた40歳手前のおじさんたちができなかった卒業式で歌う曲の場合は、タテさんのすごく美しいメロディを、おじさんたちが「こんな綺麗な曲なんだよ」って心の思いを届けながら歌うので、下手くそなのにそれはそれは感動するんですよ。おじさんの声なんだけど、タテさんの視点をすごく感じる曲になっています。
『キルミーアゲイン』初演 撮影:和田咲子
――改めて『キルミーアゲイン』どんな作品になりそうですか?
タテ 再演と言いながら、2021年の今だからこそ胸を突く、迫るものがあるお話だと思いますね。本番を拝見するのがとても楽しみです。
チョビ 本当に。コロナの時期、ライブエンターテインメントは集まることがリスクとされているし、やる側も見る側も悩んでしまう一年半でした。演劇に焦がれながらも夢が叶わず、でも生きている実感を得るには演劇から離れられないみたいな登場人物を見て、こんな連中もいるんだな、こんなことで生きてる実感を持つ奴らがいるんだなと、私たち自身のことも合わせて感じてもらえるような作品になると思います。タテさんがおっしゃったように、新たにタテさんの音楽が加わったときに、今だからこそ感じてるものをつくっているんだという手応えがありました。名作をつくらねばと全員で尖り切っていた初演とは違う、お互いの中につながりや救いを求めている、また違うものを渇望しているときに手を差し伸べてくれるような優しい作品になっていると思います。
『キルミーアゲイン』初演 撮影:和田咲子
取材・文:いまいこういち

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