菊地研&日髙有梨が語る、巨匠プティ
へのオマージュ~牧阿佐美バレヱ団が
「ローラン・プティの夕べ」を開催

20世紀を代表する振付家ローラン・プティが世を去り10年。数々のプティ作品をレパートリーにしている牧阿佐美バレヱ団が、2021年10月9日(土)と10日(日)に新宿文化センター大ホールにて「ローラン・プティの夕べ」を開催する。上演されるのはプティの代表作『アルルの女』と同バレエ団のために制作された『デューク・エリントン・バレエ』。SPICEでは、ジャズの巨匠デューク・エリントンの楽曲を用いた快作『デューク・エリントン・バレエ』に出演する菊地研&日髙有梨にプティとの思い出や創作の魅力、公演に向けての抱負を語ってもらった。

■菊地研、16歳、プティに見出され衝撃的デビュー!
――現在、牧阿佐美バレヱ団において第一線で踊っている方の中で、ローラン・プティ作品に長く関わってこられたお二方にお話を伺います。菊地さんは2001年7月、牧阿佐美バレヱ団創立45周年記念公演として新国立劇場オペラ劇場で上演されたプティ新作世界初演『デューク・エリントン・バレエ』にソリストとして抜擢されデビューしました。当時16歳という若さでプティに見い出され一躍脚光を浴びましたが、出演が決まった経緯をお話しください。
菊地研(以下、菊地) コンクールでスカラシップをいただいてボリショイ・バレエ学校に留学予定でした。先生が牧阿佐美バレヱ団出身だったので、留学するまでの少しの間、牧バレヱ団でクラスレッスンを受けさせてもらっていました。プティさんがレッスンをご覧になって「お前もリハーサルに混ざれ!」とおっしゃいました。当時金髪だったので「黒髪にしてきたらソロを踊ってもらう」と言われたのは覚えています。それで生まれて初めて美容室に行きました(笑)。
『デューク・エリントン・バレエ』It don't mean a thing(If ain't got that swing) (撮影:鹿摩隆司)
――なぜ抜擢されたのか思い当たる節はありますか?
菊地 実は少しアピールをしたんですよ。レッスンでワルツを踊っているくらいの時にプティさんが稽古場に入って来られたんです。で、アラセゴンターンか何かだったのですが、わざわざプティさんの一番近くまで行ったんです(笑)。自分を見てもらいたいなと思ったんですね。
――リハーサル、舞台ではどんなことを思いましたか?
菊地 プロの舞台に立つという感動を嚙み締めていました。先輩方はバレエ雑誌で目にするような方ばかりで芸能人みたい。皆さんと一緒に舞台に立つことが楽しかったですね。プティさんに対して僕は怖いと感じることは1回もありませんでした。そういうこと考える余裕もなかった。それがよかったのかもしれませんね。素直にリハーサルを通して繋がれたのかもしれません。
ローラン・プティ Roland Petit
――日髙さんのプティ作品との出会いはいつですか?
日髙有梨(以下、日髙) プティさんに初めてお目にかかったのは橘バレヱ学校の生徒時代で、『デューク・エリントン・バレエ』終演後の牧バレヱ団創立45周年パーティーです。優しく接してくださり、記念写真も撮らせていただきました。牧バレヱ団の『アルルの女』や『ノートルダム・ド・パリ』も観劇しましたが、クラシックばかり観て育ったので、こんなに衝撃的な舞台があるんだと驚きました。おしゃれだったり、シックだったり、新しい世界に触れました。研くんが『デューク・エリントン・バレエ』でデビューしたのを客席から観て、同い年のダンサーがプロの舞台で活躍していることにも衝撃を受けました。
――菊地さん、初舞台を踊り終えた時の気持ちはいかがでしたか?
菊地 お恥ずかしいのですが泣いてしまいました。人生初ですね。プティさんには「練習をしろ!」「続けていきなさい!」みたいな感じのことを言われました。

『デューク・エリントン・バレエ』The Opener (撮影:鹿摩隆司)
■プティの情熱と愛情に、全身全霊で応えるダンサーたち
――牧阿佐美バレヱ団は1996年に『アルルの女』、1998年に『ノートルダム・ド・パリ』というプティの代表作を日本のバレエ団として初めて上演しました。この2作品はシリアスですが、『デューク・エリントン・バレエ』はジャズとバレエが共振する楽しい作品です。初演を客席からご覧になった日髙さんはどう感じましたか?
日髙 いろいろなジャズの楽曲が次々に出てきて、コミカルな振付、おしゃれな振付が続くので、終始ファッションショーを見ているようでした。2003年にBunkamuraオーチャードホールで上演した時、衣裳の手伝いとリハーサルの音出し係をしていましたが、皆さん踊り終わると立てなくなるくらい全力でやっていました。私もそういう舞台に出たいと思いました。
『デューク・エリントン・バレエ』Sophisticated Lady, Chelsea Bridge, Satin DollNo (撮影:鹿摩隆司)
――プティさんのリハーサルはどのように進むのですか?
菊地 ダンサーを見ながら創り上げる振付家だと思います。『デューク・エリントン・バレエ』の時に「何かできないの?」「ケン、何かやってみせてよ」と言われました。そういうコミュニケーションの取り方をされるのでやり易いですよね。もちろん、自分の作品にプライドを持っていらっしゃるので、少しでも気にくわないと途中で帰ってしまうこともありました。それくらいの情熱と愛情が作品を育ててきたのではないでしょうか。
教え方はバレエ的ではないですね。ポジションについてはっきりおっしゃいますが、ラインがどうかとかそういう感じではない。小手先でやるのを嫌う方でした。精神的とまでは言いませんけれど、求めてくるのはそちらの方ですね。
『デューク・エリントン・バレエ』Solitude (撮影:鹿摩隆司)
――プティ作品の魅力を表す際にエスプリという言葉がよく使われますね。
菊地 プティさんの作品って、結構シンプルですよね。壮大な作品をやっても構成とかは比較的シンプル。ダンサーをしっかり魅せるように振付られている感じがあります。エスプリは醸し出すものなので、そこを引き出すリハーサルは厳しく繰り返されている感じはありました。プティさんは、そこが出せるかどうかを見極める嗅覚に長けていました。
――日髙さんがプティ作品に初めて出たのはいつですか?
日髙 2005年の『ノートルダム・ド・パリ』です。その後スペインツアーで『ピンク・フロイド・バレエ』を踊りました。小さな役でもうれしかったです。次に繋げられるようにと思って、必至になってほとんどの役の振付を覚えました。
プティさんと間近に接したのは『若者と死』のリハーサルの音出しを務めた時です。(ニコライ・)ツィスカリーゼさんと草刈民代さんが踊られました。ダンサーに全身全霊で全てを出すことを要求される方なんだろうなと感じました。
デューク・エリントン ローラン・プティ筆イラスト

■ジャズ✕バレエのハイブリット、それが『デューク・エリントン・バレエ』
――『デューク・エリントン・バレエ』は2012年以来の再演です。菊地さんは「The Opener」、「Don‘t Get Around Much Anymore」、「It don‘t mean a thing(If it ain’ t got that swing)」、「Take the“A”Train」を踊ります。あらためてどのようなバレエだと考えていますか?
菊地 ストーリーがあるわけでなく、1つのアルバムのようにいろいろなダンスのシーンが展開されていきます。今回は冒頭の「The Opener」のように踊ったことがあるパートても、もっと音楽を魅せる感じで踊りたい。お客さんにメロディを楽しんでもらえるように心がけていくと、ジャズで創ったバレエがもう一段上がっていく。もう少し粋な感じで観てもらいたいですね。
『デューク・エリントン・バレエ』Ad Lib on Nippon (撮影:鹿摩隆司)
――日髙さんは「Ad Lib on Nippon」(10日)、「In a sentimental Mood/Mr. Gentle and Mr. Cool」(9日)、「Take the“A”Train」を踊ります。
日髙 本当にジャズの曲にのって踊らないと面白くならないということを痛感しています。「Ad Lib on Nippon」を凄く踊りたかったんですね。最初に草刈さんが踊られて印象に残っていました。自分の中でもいろいろな妄想をしながら過ごしています。それをリハーサルで消化して、お客様に一緒に楽しんでいただける舞台を創るのがジャズで踊るバレエの醍醐味です。「In a sentimental Mood/Mr. Gentle and Mr. Cool」にはピンクの衣裳の女の子がたくさん出てきます。男女共に初めての子が多いので、今までとは違う雰囲気の舞台になりそうです。
――菊地さんの踊る「Don‘t Get Around Much Anymore」はデュエットです。お相手は?
菊地 中川郁ちゃんです。郁ちゃんは踊ることが大好きなので楽しくリハーサルできます。お互いが目を見合い、コミュニケーションをとって、その場の感覚も大事にして踊りたいですね。
日髙 クラシックと違って、踊っている時のコンタクトで踊りの出したいものが違ってくると思います。今回「Ad Lib on Nippon」のパートナーは普段からよく組んでいるラギくん(ラグワスレン・オトゴンニャム)なので、彼といつものコミュニケーションがあった上でできるパートナーリングをどこまで創り上げられるのかが楽しみです。そして、今回バレエ団キャストだけで全部できるのはとてもうれしいです。
菊地 今まではスペインツアーも含めて海外のゲストの方が入っていました。
『デューク・エリントン・バレエ』In a Sentimental Mood. Mr. Gentle and Mr. Cool (撮影:鹿摩隆司)
――今回あらためてプティの振付を踊ってみて気が付いたことはありますか?
日髙 振付と音楽と衣裳(森英恵)がマッチしているので、表現方法として「どうしてだろう?」という疑問が1個もないんです。男性が着ているTシャツのデザインは手書きですが、全部違っていてとてもかわいいんですよ。
――最後は「Take the“A”Train」で盛り上がりますね。
日髙 いつものバレエ鑑賞とは違って、一緒に楽しんでもらえる作品なのではないでしょうか。「Take the“A”Train」には列車の振りが入っているので、真似してくれても楽しいと思います。
菊地 スペインツアーでは野外の会場もあって盛り上がりました。
『デューク・エリントン・バレエ』Take the A Train (撮影:鹿摩隆司)

■「もっと自由に魅せたい」(菊地)「皆の個性が爆発できたら」(日髙)
――同時上演の『アルルの女』(音楽:ジョルジュ・ビゼー)は牧阿佐美バレヱ団としては15年ぶりです。主人公のフレデリには婚約しているヴィヴェットという女性がいますが、アルルの闘牛場で見かけた女性の幻像に取り憑かれます。やがて最後は……。フレデリが踊るファランドールは鮮烈ですね。今回お二方は出られないのですが、一言印象をお聞かせください。
菊地 初めてビデオテープが擦り切れるまで観たバレエが『アルルの女』です。10代の一時期、寝る前に必ず観るくらいハマりました。プティさんの作品だと知ったのは後のことでしたが、物語の情景とかよりも、見ていて単純に引き込まれる要素があります。15年ぶりの上演ですが、牧バレヱ団はプティさんと長い間関係を築いてきたので、いい舞台になってほしいです。
日髙 人間の難しさ、人と人ってどういうものなんだろうということを深く考えさせられる作品です。振付が独特で、自分の経験からして分からないところもあったけれど物語は伝わってくる。凄い作品なんだろうなと思いました。全幕作品みたいに長くはないけれど、その時間の中で、これだけ深いものを追求できるバレエって、他になかなかないのではないでしょうか。
牧バレヱ団の初演では、イルギス(・ガリムーリン)さんがカッコよかったです。男性だったらフレデリを踊ってみたいです(笑)。
『アルルの女』 1999年 ダンス・ヴァンテアンVII (撮影:山廣康夫)
――今年2021年はプティ没後10年、『デューク・エリントン・バレエ』初演から20年です。あらためてプティ作品への思い、今後の展望についてお聞かせください。
菊地 観客の方々はもちろん、今の若いダンサーにもプティ作品の良さを分かってほしい。そのためには踊りで示さなきゃいけないんですが、自分を超えていってほしいんですよ。自分が愛して頑張ってきた作品に一生懸命に取り組むことによって、一緒に踊る仲間にも、お客様にも楽しんでもらいたいですね。プティ作品に限りませんが、形から入るだけでなく、体で動いてぶつかっていかないと。立ち止まって音楽ばかり聴いていても上手くならないですね。
日髙 与えられたものをこなすというよりも、自分がどう表現するのかが目に見えて出る作品です。「あれをやってみたい!」「この表現をやってみたらどうだろうか」というチャレンジ精神に蓋をしないで自分を解放してやっていけるリハーサルはクラシックではなかなかありません。こういう時に自分の表現や技術、舞台に対するパワーを鍛えられると思います。
菊地 そのように自分の魅力を表現する場でもあります。踊る人によって印象は変わるし、ストーリーが明確にあるわけではないので自由度が高い。お客様が受け止め方も自由でいいし、踊り手ももっと自由でいい。その辺りを楽しんでいただけるように魅せたいです。
日髙 ダンサー皆の個性が爆発できたらいいですね。
【動画】牧阿佐美バレヱ団 2021年10月公演「ローラン・プティの夕べ」”デューク・エリントン・バレエ”P.V.
オンライン取材・文=高橋森彦  写真提供:牧阿佐美バレヱ団

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