Nothing’s Carved In Stoneが4度目
の日比谷野音で繰り広げた至福のライ
ブを振り返る

Nothing’ s Carved In Stone“Live at 野音 2021” 2021.9.19 日比谷野外大音楽堂
暑くも寒くもない気温、爽やかな風、すっかり早くなった日没間際の美しい空、響き渡る虫の声。素晴らしい秋の日比谷野外大音楽堂には、素晴らしいロックがよく似合う。9月19日、日曜日、Nothing’ s Carved In Stone“Live at 野音 2021”。彼らにとって4度目の、そして初の秋開催となる野音のステージ。すべての座席を埋めたオーディエンスと、会場の端から端まで届きそうな、グッズ売り場に並ぶ長蛇の列に、音楽が現場に戻りつつあることを実感する。秋の野音に、心の中でエアー乾杯。
オープニングは、落ち着いた心地よい滑り出しだ。声を出せない代わりに、長く熱烈な拍手が4人を迎える。一瞬の静寂を切り裂き、生形真一がミニマルに整理されたギターリフを弾き始める。1曲目「Assassin」の、テクニカルな構築度とキャッチーな開放感との絶妙な融合。そして、派手なスモークが吹きあがる中をエイトビートで疾走する「You’ re in Motion」の爽快感。「会いたかったぜ日比谷。行けるか!」と、村松拓が叫ぶ。薄暮の空に、七色に点滅する照明が美しく映えている。
サイケデリックなダンスビートに彩られた「Spirit Inspiration」から、村松がハンドマイクで「飛べ!」と煽りまくるエレクトロ・ダンスチューン「Bog」へ。ほぼテクノなシーケンサー、ビートの隙間をぴっちり埋めるストイックなドラム、人間味あふれる超絶スラップの日向秀和。90年代ビッグビートの無邪気な大らかさをふと思い起こさせる、懐かしさと新鮮さが記憶の中で交錯する。
「よく来たねみんな。この日をずっとずっと待ってました。最後まで全力でやります。ついてきてください」
村松の短い挨拶から、陽がすっかり暮れ落ちると、楽曲のテイストは徐々にディープな方向へ。ベースラインとメロディを同時に叩き出す日向のプレーに見とれるしかない「Who Is」、プログレッシブロック感満載の変拍子チューン「Words That Blind Us」、あっけらかんと明朗なディスコロック「Wonderer」、端正なキック四つ打ちで構築された快楽のダンスチューンは「きらめきの花」。サビでは会場全体が明るい一体感に包まれ、手振りの波が左右に揺れる。サウンドは十分にハード&ヘヴィなロックだが、精密なシーケンサーとストイックなアンサンブルが作る、ダンスミュージックとしての心地よさも彼らの強み。抗えない魅力だ。
聴いているだけで脳内にヤバい物質が分泌される、エクスペリメンタルな歪みを持ち込んだ「Prisoner Music」。吹き出すスモークが風になびく中、ミニマル&ストイックなギターリフと、突き抜けるサビの開放感を鮮やかに対比させた「Everlasting Youth」。グランジ、オルタナ、ポストロック的な骨格も垣間見える、ナッシングスのロックはたぶん想像以上にルーツが広く、そして深い。
開演から1時間経過、ライブはぐんぐん佳境へと進む。優しくメランコリックなメロディに心和む「Red Light」と「Diachronic」は、中低音部の豊かさに特徴のある村松のボイス、生形のストイックな中に人間味のにじみ出るプレースタイルに自然と耳が行く。あるいは、ギター、ベース、ドラムが複雑にポリリズミックなビートを刻む「Milestone」は、リズム隊の一挙手一投足から目が離せない。見どころと聴きどころが、どの曲のどのシーンにも用意されている。
「最高。マスク越しですが、みんないい顔してる。心を自由に、今日だけは全部解放してください」
「TRANS.A.M」から「In Future」へ、大喜多が立ち上がってスティックを高く掲げ、それに応えてオーディエンスが一斉に手を挙げた。ハンドマイクで自由になった村松が日向に近づき、一声歌わせる。ここから「Music」「Beginning」と、ほぼノンストップでグルーヴが途切れない。シーケンサーかと思った正確で高速な重低音のループが、日向の指からはじきだされているのを確認して驚愕する。「Out of Control」は、ディレイを効かせた生形のギターと、それぞれのフレーズをレイヤードしていくようなテクニカルな演奏がかっこいい。村松が「今夜だけは最高の夜にしようぜ。踊れ!」と叫ぶ。時間の経つのが早い、クライマックスはもうすぐそこだ。
「あっという間でしたね。駆け抜けちゃったけど、楽しかったです。ありがとうございます」
最近は、自分らのリアルを追求しつつ、みんなのことを思いながら書いている気がします。みんなの名前を呼ぶように、この歌を歌います――。それは素晴らしい気候と人と音楽に恵まれた日比谷の夜にふさわしい、リリースされたばかりの新曲「Beautiful Life」。You’ re so beautiful、孤独を抱きしめた、その手が明日を変えてく。応援歌、メッセージソング、呼び名は何でもいい。2021年の日本という時代をとらえた力強くポジティブなこの歌が、9月19日の野音の夜に歌われた、その記憶をずっと忘れない。それがすべてだ。
11月15日、ビルボード東京で初のアコースティック・ワンマンライブ。12月1日、11枚目のアルバムリリース。そして全国ツアー。アンコール1曲目、「November 15th」を歌い終えた村松が、今後の予定を立て続けに発表する。「また必ず会いましょう。その時まで元気で!」と、力強い言葉に力強い拍手が湧く。大らかなミドルテンポの中に明るい光を感じるラストチューン「Perfect Sound」の向こうに、バンドの未来が見える。円熟の技巧と卓越した歌心を備えた、大人世代に響くオルタナロック。誰の代わりにもならないNothing’ s Carved In Stoneの揺るぎない存在価値を、快適なロケーションの中で再認識させてくれた素敵な夜だった。

取材・文=宮本英夫 撮影=RYOTARO KAWASHIMA

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