ReoNaが歌った森の中の孤独と希望 『
Songful days SEASON2 with "ReoNa"
powered by SPICE』ライブレポート

また新しい音楽の旅が、始まる――。2018年3月3日、両国国技館での一夜限りの音楽イベント「Songful days」が、オンラインライブという新たなスタイルのもと、2021年9月22日、「Songful days SEASON2 powered by SPICE」として復活した。
声優によるナレーション、アコースティックアレンジ、アニソンと一般リスナーとを繋ぐセットリスト、そして迷い込んだ森の奥で見つけた音楽会、というコンセプトはそのままに、一夜で一アーティストに特化して、よりパーソナルな物語性を強めた「SEASON 2」。記念すべき第一回出演アーティストは、絶望系アニソンシンガーとして知られるReoNaだ。痛みを抱えながらも美しい孤独と暗闇に彩られた彼女の世界観が、オンラインの画面上でどんなふうに表現されるのか。開演の時は来た。
撮影:アンザイミキ
「ぽつり、ぽつり、頬を水滴が打つ――」

深い森、明るい空、大地を潤す雨、清いせせらぎ。ため息の出るほど美しい映像に重なる、声優・伊東健人の落ち着いたナレーションが物語の始まりを告げる。ゆっくりとシーンが変わり、ステージにたたずむReoNaが歌い出す。ロングスカートのワンピース、白のレザージャケット。1曲目は「雨に唄えば」だ。シンプルなアコースティックギターの爪弾きと、悲しい別れに傷ついた心の乱れを正確に写し取る、小刻みに震える歌声が生々しい。続けて、ムソルグスキー「展覧会の絵」から「プロムナード」の勇壮なメロディを引用した「step, step」と、“ここに生きるReason、それはあなたでした”と、エモーションいっぱいに歌い上げる「Rea(s)oN」。バックを固めるのは、アコースティックギターとピアノと弦楽四重奏。端正な演奏をバックに、空を舞うような伸びやかなハイトーンが美しい。

撮影:アンザイミキ
撮影:アンザイミキ
「木々の向こうから、音楽が聞こえてくる。彼女は静かに、歌い出す――」

雨に煙る森の情景と、ストーリーの続きを伝えるナレーションを受けて、再びReoNaが歌いだす。ステージセットは、枯れ木を思わせる柱に絡まる緑、そしてあたりを照らすいくつものランタン。タンゴのリズムとジプシージャズ風のイメージを散りばめた「ないない」から、弦楽器、ピアノ、ギターが風を切って疾走する「ANIMA」へ。ReoNaは激しいブレスを入れながら、リズムに飛び乗ってぐんぐんスピードを上げる。サウンドはクラシックだが、まっすぐに心に届く激情はまぎれもなくロック。ゾクゾクするほどの迫力だ。

撮影:アンザイミキ
撮影:アンザイミキ
「今夜はこんなにも、月が、綺麗だ――」

映像の中では雨がやみ、怖いほどに美しい満月が昇った。9月に出たばかりの最新曲「生命線」は、静寂と激情、ロックとエレクトロ、暗闇への憧れと希望への破壊衝動など、ReoNaのエッセンスをすべて詰め込んだ1曲。ゾクリと脈を打つ命の線、ナイフでなぞって伸ばしてしまえたら。クラシカルな弦楽四重奏とピアノ中心の、そぎ落としたアレンジだからこそ、普段は心の奥底にしまった感情がむき出しになる。あえて光量を落とした暗いステージで、目の表情や手のしぐさだけで感情を伝える、劇的パフォーマンスに息を呑む。アカペラで歌い出した「葬送の儀」の、永遠の別れの向こう側にある、永遠の平穏を夢見る歌詞と、慟哭するほどに激しい歌が胸を打つ。そして歌うたびに、きっと強くなる。

撮影:アンザイミキ

「旅は続きます。貴方の、そして私の――」
空に横たう天の川と月にかかる虹の映像、そしてナレーションが物語の終わりと新たな旅の始まりをおごそかに告げた。「Good bye、旅に出ようか」と、「ピルグリム」の歌詞が固い決意を伝える。ああそうだったのかと、ここで気が付く。この物語は、ReoNa(と、神崎エルザ)が歌い続けてきたすべての歌をつなぐことで浮かび上がる、隠されたソングラインだ。彼女は創造主であり、語り部であり、主人公であり、旅人。歌をつないでできる道の上で、終わりなき旅を続けるピルグリム。
撮影:アンザイミキ
「ピルグリム」と歌詞の連動性を持つ「ALONE」の、孤独と引き換えの自由を讃える歌詞に、ヴィヴァルディ「四季」より「春」を引用した明快な旋律が寄り添う。そして「オズの魔法使い」の、欠けた勇気や心を探して旅に出るキャラクターたちを思わせる、「虹の彼方に」の世界はただのファンタジーではない。この痛みが心なんだね。また逢えるまで、ねえ、おやすみ。目覚めた先に待っている現実に向き合う時、昨日よりもほんの少しでも生きる力を与えるための歌。それがReoNaの歌う歌。
「……じゃあな。」
森が消え、月が消え、音楽が消え、画面が静止画に変わる。今見たものは何だったんだろうと、夢から覚めたばかりのような頭で、また最初から記憶をたどる。「Songful days SEASON2」は、音楽とパフォーマンス、映像とナレーション、ステージセットと照明とが結び合う、新時代の音楽劇と言っていいかもしれない。
撮影:アンザイミキ
また新しい音楽の旅が、今夜始まった。10月8日にはH-el-ical//を迎えた、第二回の開催もすでに発表されている。これからどんな物語を届けてくれるのか、「Songful days SEASON2」の未来は、無限の可能性にあふれている。
Songful days SEASON2 ReoNa終演後コメント動画
レポート・文=宮本英夫 撮影=アンザイミキ

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