レミ・シャイエ監督

レミ・シャイエ監督

【インタビュー】映画『カラミティ』
レミ・シャイエ監督「主人公のマーサ
が性別を超えてトライしていく姿を描
きたいと思った」

 伝説の女性ガンマン、カラミティ・ジェーンの子ども時代を、西部開拓を目指す旅団の中で、困難に立ち向かう一人の少女・マーサの話として描いたアニメーション映画『カラミティ』が、9月23日から全国公開される。前作『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』(15)に続いて、絵画的な美しい映像の中で少女のたくましい冒険談を描いたレミ・シャイエ監督に、映画に込めた思いを聞いた。
-フランス人の監督が、アメリカの西部開拓時代を描くことはとても新鮮でしたが、少し不思議な感じもしました。なぜ、カラミティ・ジェーン=マーサを主人公にして描こうと考えたのでしょうか。
 特に西部劇が好きだったからというわけではありません。西部劇というと、どうしても銃を持って戦うようなイメージがあって、そういうものを作りたいとは思いませんでした。ただ、今回は馬車での旅が描けることにとても興味を引かれました。車輪の上の村というか、コミュニティーが移動していく感じがとても面白いと思いました。
-事前に過去の西部劇などを見て参考にしたりはしましたか。
 たくさん見ました。特に、スタッフの中に西部劇が大好きな人がいたので、新たに西部劇のカルチャーを勉強した気分になりました。特にマリリン・モンローの『帰らざる河』(54)や、女性の主人公が素晴らしい『大砂塵』(54)が印象に残っています。ドリス・デイの『カラミティ・ジェーン』(53)はキッチュな感じがして面白かったです。今回はロケハンができなかったので、スタッフの皆と一緒に、景色のイメージを得るために、ワイオミングを舞台にした映画をたくさん見て参考にしました。また、オレゴントレイルに関する本もたくさん読みました。
-実際のカラミティの生涯は謎に包まれており、どこまでが事実で、どこからが伝説なのかがはっきりしません。だからこそ、創作が入り込む余地があったということでしょうか。
 いろいろとカラミティに関する文献を調べた結果、彼女がミズーリから出発して、その2年後ぐらいに弟たちを置いて一人で旅立ったという記述を見付けました。ただ、その間のことはほとんど分からないので、ここが創造のしどころだと思いました。彼女の伝記などを読んでも、ほとんどがうそだらけです。彼女自身も証言者も皆うそをついている(笑)。そこがまた面白いのです。その中で道筋を作っていくことは、自由でもあり、面白いことでした。あとは、「カラミティは作り話が上手な女の子」という史実を映画の中に取り入れました。それを、難局を乗り越えるために話が作れる子、機転の利く子という形で表現しました。
-女性は女性らしくという西部開拓時代に、ジーンズを履き、乗馬や、馬車の運転、投げ縄など、男の作法を身につけるマーサを描くことで、ジェンダーレスな生き方を選択した女性の先駆者としての視点が入ります。そこに今、カラミティ・ジェーンを描く意義があると感じましたが、そうした点は意識しましたか。
 この時代の西部開拓の地域には、女性が1~2パーセントしかいなかったそうです。その中で、マーサが性別を超えてトライしていく姿を描きたいという思いはもちろんありました。映画の流れとしては、女性は馬車の周りにいて座っている、男性は動いているという、二極を描いています。また、見た目も、女性は明るい色のスカートを履いていて、男性はモノトーンに近いものを着て帽子をかぶっているというふうに対照的なものにして、動く範囲の違いも性別を意識しました。マーサはそれらを超えていく人間として描きたかったのです。
-前作の『ロング・ウェイ・ノース』もこの映画も、舞台は19世紀で、少女が主人公の冒険と旅の物語です。その共通性には何か理由はあるのでしょうか。
 確かに、19世紀に引かれたり、フェミニズムを描きたいという思いは何となくあります。ただ、そうした話を意識的に探しているわけではありません。あとは、広大な背景に対する憧れがあるので、前作の北極点や今回の米西部の荒野が舞台になったのだと思います。
-前作同様、今回も広大な自然を独特の質感と色使いで描いています。まるで風景画を見ているような印象を受けました。色使いや構図で特にこだわったところはありますか。
 広大な自然を描くのはとても難しく、特に今回の米西部の荒野を描くのはとても苦労しました。パイロット版を作ったときに、広大な風景を表し切れていないと感じて、もう一度初めから作り直しました。そのときに、色使いも含めて参考にしたのが、鉄道のポスターでした。それらを見ながら、広さを意識しながら作っていきました。色使いにはとても気を使いました。見た目に強い印象を与える映画を作りたかったので、印象派やナビ派の画法を取り入れて、光が入って色が押し寄せてくるような感じにしました。あとはアメリカの風景画も参考にしました。色は人間の感情をかき立てるものだと思うので、ストーリーだけではなく、色でも、見る人の感情を揺さぶるようなものを作りたかったのです。
-マーサの見た目は、眉が太くて、典型的な白人女性とはだいぶ違う印象を受けました。最近のディズニーのアニメもそうですが、無国籍を意識したようなキャラクターが多い気がします。
 確かに、典型的な白人女性という感じにはしたくなかったし、多分、カラミティはアイルランドとドイツの血が混ざっている気がします。ただ、あの風貌は実際の大人のカラミティの写真を基に、将来マーサが、この人物とつながるようにと考え、肩で風を切って歩くような、強いキャラクターに合うものを探した結果です。眉毛も、怒った顔が印象深くなるようにと考えて、あの形になりました。とにかく、型破りな女の子に見えることを目指しました。
-日本のアニメ映画についてどう思いますか。
 宮崎駿さんと高畑勲さんにはとても影響を受けています。例えば、『もののけ姫』(97)で印象的だったのが、ヒロインが何かの作業をする場面があることでした。それは『ロング・ウェイ・ノース』や『カラミティ』のヒロインにも影響していると思います。僕のチームの若い人たちは、日本のアニメにお乳をもらって育ったようなもので、一つのカルチャーになっています。『ロング・ウェイ・ノース』の日本語版が送られてきたときに、「僕たちの作品が、憧れの日本語になった」と皆大喜びしていました。中には、日本の声優が誰なのかを知っている人もいました。
-映画の見どころやアピールポイントも含めて、日本の観客に一言お願いします。
 主人公の生き方にとても力を入れて描き、彼女の魅力を最大限に出そうと考えて作りました。この強い意志を持った女の子に出会ったことで、皆さんが、何かの扉を開けるきっかけになればうれしく思います。僕たちは日本のアニメが大好きですが、同じように、僕の作品も、日本の子どもたちに好きになってもらえたらとてもうれしいです。
(取材・文/田中雄二)

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