神戸アートビレッジセンター「KAVC
FLAG COMPANY 2021-2022」会見レポー
ト~「同時代性と普遍性が、共存して
いくようなものに期待します」(KAV
C館長・大谷)

神戸市の公立劇場「神戸アートビレッジセンター(以下KAVC)」で、2019年から開催されている舞台芸術セレクション企画「KAVC FLAG COMPANY(以下KFC)」。「東京パラリンピック2020」開会式の演出で大きな注目を集めた、KAVCの舞台芸術プログラム・ディレクターのウォーリー木下と劇場スタッフが、KAVCで上演してほしい劇団を、ジャンル・キャリアを問わずセレクト。過去の参加団体が、大きな賞や仕事を決めるケースがすでに続出している、要注目の企画だ。そのKFCの2021年度のラインアップが発表され、8月30日にはKAVCで会見が行われた。
今回参加するのは「安住の地」「小骨座」「StarMachineProject」「劇団不労社」「かのうとおっさん」の5団体。このうちの安住の地と不労社は、2020年度に選出されたものの公演が延期されたため、その仕切り直しの参加となっている。しかし、今年のトップバッターを務めるはずだった安住の地は、残念ながら公演を中止することが、会見の日に発表された。その理由については、会見の中で記述する。
まずKAVC館長の大谷燠(いく)から、以下のようなあいさつがあった。
大谷燠館長。
「コロナがある中で、演劇の形態も非常に変わってきています。たとえばKAVCでは、毎年高校生たちと一緒に作品を作ってますが、去年も今年も全部オンラインで稽古をして、公演もオンラインでした。そうやって舞台芸術の表現が、時代の中で変容していくのは致し方ないのかと思う反面、やはり役者・ダンサーとお客様が生身で出会う現場が、舞台芸術の醍醐味のはず。今はときどき“舞台芸術の危機だ”と言われるんですけど、身体と身体が出会ってこそ生まれる雰囲気や感覚というものは、私はなくならないと思っています。
演劇の中の演劇、あるいは様々なメディアと関わる中での演劇のあり方とか、そういうものがいろいろ多様に変化していくように感じています。3回目のKFCは、同時代性を持つ一方で、普遍性──舞台芸術は生身の身体が出会う場所という、その両方が共存していくようなことになればいいなと思います。演劇が持っている可能性というものが、どこで花開いていくのか? と、非常に期待しています」。
プログラム・ディレクターの木下は「何のためにKFCをやるのか?」について、改めて解説。彼いわく、KFCは4つの層を同時にターゲットにしているそうだ。
「1つ目は、(KAVCのある)新開地に住んでる人たち。KAVCは一階に出入り自由なロビーがあって、劇場や映画館やギャラリーもある。コンプレックスアートセンターという形で、いろんな方が使える劇場って、多分とても珍しいと思います。市民の憩いの場としてKAVCが知れ渡ってほしいし、KFCがその(知名度を上げる)一部になるんじゃないかと。なので、新開地の人たちに“楽しい”と思ってもらえることが大事だと思って(劇団を)セレクトしています。
2つ目は、関わってくれるアーティスト。彼らにどんなメリットがあるかというと、まずKAVCは舞台も客席も取り外すことができるブラックボックスで、この空間をどういう風に自分たちの作品で埋めるのか? と、いろんなアプローチをしてもらえる。それによって劇場とアーティストが刺激しあって、新しい作品を作っていくことができればいいなあと。また広報を連携しながらやっていくことで、さらにお客さんに来てもらえると思います。
ウォーリー木下プログラム・ディレクター。
3つ目は、一般のお客様。ただ演劇を観るだけじゃなくて、ワークショップに参加したり、劇評を読んだりすることで、演劇がよくわからないという人も“演劇って見方が自由なんだ”“こういう答があるんだ”と……特に若い人たちに、いろんなモノの見方ができる仕組みが、演劇などのアートにはあるんだよということを、全体のプログラムを通じて伝えられたらと思います。今回は特に“これを同じ演劇と言っていいのか?”というぐらい、いろんな団体が参加しているので、できるだけたくさんのカンパニーを観てほしいです。
4つ目は、いわゆる演劇の目利きとか、演劇ファンやメディア関係者の人。このKFCは、これから気にかけてほしい人たちを選んでいます。実際ここで2年前に上演した山本正典(コトリ会議)さんやピンク地底人(3号/ももちの世界)さんは、その後[OMS戯曲賞]を取ってますし、昨年参加した[オパンポン創造社]も別の演劇祭で賞を取りました。この中から、次の演劇界を背負っていく人たちが現れると思います」。
そして12月~2022年3月にかけて公演を行う4団体が、今回の意気込みや上演する作品の構想を語った。
浜間空洞(小骨座)。
【小骨座:浜間空洞】
この企画はすごく憧れだったんですけど、まさか今年お声がけをいただけるとは思ってなくて、まだ信じられない気持ちですけど頑張りたいです。おおまかな設定として、仮想空間やインターネットの世界がテーマの作品をやろうと思っている所ですが、僕は創作活動において、やる場所や季節に合ったものを作り出せるようなことをしたいと考えています。
小骨座。
コロナ禍で、家で楽しめるものがすごく増えてきたけど、それでも演劇をやる人や、観に来てくださる方たちのために、ここでないと味わえないものを作りたい。劇場をいったんフラットにして、劇場の真ん中に何かがあって、お客さんと演者がそれを取り囲む。そこで僕らが何かを提供するというよりも、そこで起こる現象をみんな一緒になって楽しむという、お祭のようなものを目指しています。来ていただいた “知らんやつら”同士が、何となく友達になった感覚で帰っていただけるような作品にできればと思っています。
赤星マサノリ(StarMaschineProject)。
【StarMachineProject:赤星マサノリ】
ウォーリー木下とは同じ劇団(Sunday)なので「木下さんの劇団の人だから呼ばれたんちゃう? と思われるかな」と、迷いながら参加させてもらいました(笑)。StarMachineProjectは、映像とテクノロジーを使って人と世界をつなぎ、お客様に想像をしてもらえる作品を作っています。テクノロジーが説明しすぎると、想像を妨げる行為に結びつく可能性があるので、なるべく想像ができるような使い方をしたいし、出ている人たちの人間性を大事にした作品を作りたいと思っています。
StarMachineProject.
最近「音」に興味があって、音でマルチスクリーンみたいなことができないかな? と考えています。たくさんの音で構成される世界で、ある人物のいろんな背景を語っていこうかと。また今回は人と人が出会う演劇からちょっと発展させて、劇場ともう一つ違う空間を作るかもしれない。この(生の劇場)空間が使えなかったら、別の空間でやるという風に。コロナ禍の中で、なるべく中止にしない演劇を作るのを目標にしています。
西田悠哉(劇団不労社)
【不労社:西田悠哉】
昨年上演を予定していた、ブラック企業のオフィスを舞台にした会話劇を上演します。今年の7月に上演した作品は、無所有を唱う集団農場を舞台にしましたが、今回は逆に所有の世界……金銭だけでなく、人間関係などの所有をめぐる物語です。コンセプトの一つは「監視」。僕は在宅ワークをしていた時に、プライベートとパブリックの切り分けが難しくなり、家の中でも上司の顔がちらつくという、一種の監視の感覚が育ってしまいました。
劇団不労社
そういう監視された感覚、所有された感覚を、ブラックコメディ的に描きたい。大きな集団を効率よく監視する「パノプティコン」というシステムを引用して、中央に監視塔があって、その周りに舞台を設置するという美術にする予定です。お客さんはそれを外から囲んで観るのと同時に、映像媒体を通して別の視点からも観られる演出を考えています。今は会社を辞めて、失うものはなくなったので(笑)、いろいろ自由に社会を描けるかなと思います。
嘉納みなこ(かのうとおっさん)。
【かのうとおっさん:嘉納みなこ】
かのうとおっさんは1999年結成で、私は今年42歳になりました。結成してから、どんな作品を作ってきただろうか? と思い出した時に、泣けるとか、人の心に訴えかけるとか、そういう良い作品を作ったことがないなあと(笑)。30代になった時は、何か倫理的価値観がないと認められないという風潮を感じましたが、40代になって突然、世の中から何の要請も受けてないことに気がつきました。そんな中で、40代をどうやって生きていけばいいのか? というのが、今回の作品のテーマです。
かのうとおっさん。
いつの間にかすべてを失った男が、いろんなものを取り戻すために、トキメキの中に身を投じるというお話で、館に集まった7人の男女を、皆さんに囲んで観てもらうような感じにできたらステキやな、と思っています。若い人には、一度怪我をしたら元通りに治らない40代の予習として、同世代には「そういうことあるよね」という気持ちで、さらに上の世代にはエールを送りながら観てもらいたいと思います。
そして公演が中止となった「安住の地」からも、代表の中村彩乃がその理由の説明と、KFCとKAVCへのエールを送る時間があった。
中村彩乃(安住の地)。
「座組の中にコロナの感染者はいないのですが、緊急事態宣言の中で創作活動がいつも通りに進められないことと、医療体制のひっ迫状況を見た時に、今(公演を)行うことに対して、座組も来てくださるお客さんも命にかかわる状況だということを、一番に判断しないといけないということで、今回見送らせていただくことになりました。
ただ公演はしなくても、参加団体である以上、今年度のKFCが盛り上がるよう、何か少しでも尽力できればと考えています。それぞれの劇団さんがおっしゃられたことがすべてですが、ベテランの先輩方から私たちと近い世代まで、本当に幅広い劇団がそろっているので、その劇団を一緒に集めてくださったKAVCさんに、ぜひ足を運んでいただきたいです。
KAVCで上演できることが、この2年間すごく劇団のエンジンになりましたし、今も中止で落ち込んでいるわけではなく、次にどう進めていくかを話しています。KFCを楽しんでいただくその端っこで、安住の地がもがいてることも気にかけていただきますと幸いです」。
安住の地。
その補足として、ウォーリー木下から「安住の地が公演を予定していた期間に、KFCにまつわるイベントができないかと、アイディアを練っているところ」という耳寄りの情報が上がった。近々発表するとのことなので、続報を待ちたい。
また木下は、このコロナ禍でいろんな思いを持って参加する、今回の劇団たちに向けて、以下のようなエールを送った。
「安住の地さんは中止を決めましたが、今はこういう状態なので、演劇をする・しないというのは、それぞれの団体の自由意志で決めていかなくちゃいけないこと。この(コロナ禍の)一年半、あらゆる演劇が大中小関係なく、そういう風な嵐に見舞われています。でもその中で、きっと見つけたことがあるんじゃないか? と。
結局一年半が経っても、舞台を止めてないというか、生の演劇をやることに合意を得ている人たちなので、きっとそれなりの覚悟……というほど大げさじゃないかもしれないけど、やるぞ!って気持ちがきっとあるので、そのこと自体が強いメッセージになると思う。そこをすごく、期待しています」。
今回参加する劇団の中には、まだ関西以外での公演実績がない若手も、細く長く活動を続けてきたベテランもいる。しかしいわゆる小劇場出世すごろくに即座に乗っからなくても、地元で地道に胆力を付けていれば、何かのきっかけで世界レベルの脚光を浴びる可能性がある……ということは、ディレクターのウォーリー木下が自ら証明してくれている。
「KAVC FLAG COMPANY 2021-2022」ロゴ。
地元の小劇場演劇を観る楽しみの大きな一つは、自分と一緒に成長した、自分が誰よりも知ってると思って接していた劇団やアーティストが、世間から大きな注目を浴びて「ほら、私の審美眼は正しかった」と満足したり、その達成感を一緒に喜ぶことができるということだ。その点KFCは、かつて参加した団体のほとんどが、今も順調に人気・実力を伸ばしている、かなりの選球眼を持つ企画だと言えるだろう。できれば2~3劇団を見比べると、演劇の多様性を確認できるだけでなく、大げさなことを言えば、この不確実な世界を生きていく上での、大きな刺激までもらうことになるかもしれない。
取材・文=吉永美和子

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