『THE SOLAR BUDOKAN』が開催地変更
やオンラインへの移行を経てなお歩み
を止めない理由

太陽光発電のエネルギーで行われるフェスとして2012年の初開催から、今年で10回目の節目を迎えるロックフェス『THE SOLAR BUDOKAN』。コロナ禍の昨年は配信を主体とした形式をとらざるを得なかった同フェスだが、今年度は当初、本来の会場こそワクチン接種会場となり使用できなかったものの、富士急ハイランド・コニファーフォレストに場所を移しての有観客開催を目指し進行。それがこの度、一部有観客ライブの配信を含むオンラインフェスへの形態変更するという旨がアナウンスされた。その裏には一体どんな動きと判断、想いがあったのか、そして2度目のオンライン開催を決断したいま、どのような内容を予定しているのか。オーガナイザー・佐藤タイジとともに初回から同フェスを支え続ける、プロデューサー・松葉泰明氏に訊く。
——昨年・2020年の『THE SOLAR BUDOKAN』は有観客と生配信、様々な場所での事前収録映像を組み合わせた“ハイブリッド開催”でした。それを終えてから今年の開催に向けて、当初はどのような形を目指していたんでしょうか。
昨年はある一定の目標を達成できた内容だと思うんですね。あちこちでたくさんの野外ロケをしたことが一番大きいと思うんですけど、配信ライブとしてなかなか他ではやれていないような、時間も手間も予算も含めて、本当に「配信フェス」と呼べるような、野外のスケール感を味わってもらえるコンテンツを作ることができたと。で、もちろん一定の評価はいただけたんですけど、やっぱり僕らとしての理想は、今年・2021年は10周年だし、中津川でリアル開催をちゃんとやって——それは人数を絞って例えば例年の三分の一くらいの1日5000人とかでもいいので集まれる内容で作れればと思ってスタートしました。
——なるほど。
だからステージも3つ、もしくは2つくらいに絞ってもいいかなということで進んでいて。その上で、リアルで開催したものを配信したり、毎年やっていただいているWOWOWでの放送みたいなことを行おうと考えていました。昨年は早くからリアル開催を諦めて、配信でやった場合に何が一番最大化できるかを考えていたんですけど、今年の前半には「もうちょっとしたら(有観客のフェスを)やれそうなんじゃないか」っていう空気があったと思うんですね。
——実際にGWあたりにはいくつか大きめのフェスも開催されていました。
そうですよね。だからとにかくやれると信じて進もうということで始めたんですけど……一番大きいのは中津川のあの会場がワクチン接種会場になってしまったことが第一関門ですよね。その時点でもうリアル開催はやめて配信だけにする選択肢もあったんですけど、発表した28組のアーティストを見てもらうとわかるように『THE SOLAR BUDOKAN』らしい良いラインナップが集まってくれたので、これをそのままバラすのはもったいないなという気持ちがすごくあって。今までも徳島であったり猪苗代とか、中津川以外の場所でもチャレンジしてきているし、元々は日本武道館で始まっているのもあって、他の会場をあたっていたら、ちょうど富士急ハイランド・コニファーフォレストが空いていると聞いて。実際に観に行ったら、思っていたよりもいろんなことができそうだと思ったんです。遊園地からはちょっと離れていて、途中に森の中を歩くようなところもあったり。
——たしかに。
『THE SOLAR BUDOKAN』が目指している野外感みたいなものを、完璧じゃないにしてもやれそうだと思ったので、出演予定のアーティストの皆さんにお声かけをしたら、みなさん「やりましょう」と言ってくれたので。ただ、それを発表するタイミングはちょうど(新型コロナの)感染者が増え始めた頃で、東京で2000~3000人から右肩上がりになりそうな時期に発表していいのか、本当にやれるのかっていう不安はもちろんありながら、どこかでピークアウトするという期待も持ちながら発表しました。
——最終的には富士急での有観客開催は断念せざるを得ませんでした。その裏には感染者数の増加や、愛知の某フェスの件などでフェス自体への風当たりが強まったり、いろいろな要因があったと思うんですが。
ありますね。本当にいろんな要因が重なってしまって、「これです」という一個の理由だけではないんですけど、大きかったのはシアターブルックエマーソン北村さんがコロナで重篤化してしまったこともありました。今年は北村さんは出ないので、シアターブルックはキーボードがいない状態で演奏することになる。他のスタッフにも陽性者が出たりして、コロナの感染やその後の症状の大変さをかなり身近に感じることがいくつかあって。「東京の感染者が何人です」っていう数字のことだけじゃなく、これは大手を振って「フェスやろうぜ」って言ってられる状況じゃないなって感覚があったんですよね。その想いに至った後で、フェスを取り巻くネガティヴな空気っていうのもあって。それプラス、中津川でやらないことに対して、僕らが想像していた以上に残念だという声がたくさん届いたんですよ。
——ファンの方々から。
そうですね。『THE SOLAR BUDOKAN』としては音楽を止めないために最善な道は何だろう?と思ってリアル開催できる場所を探したんですけど、やっぱり岐阜県や愛知県で毎年楽しみにしてくれていたリピーターのお客さんが、こんな状況で山梨まで越県するという選択肢はないので、「今年はいけない」「残念だな」みたいな声が結構聞こえてきたんです。その楽しみにしてくれる方々に対する後ろめたさというのもありましたし、実際、山梨のラインナップはすごいんだけど、やっぱりどこか盛り上がりに欠けるというのもあって。だったら再設計して、配信をメインにする形であれば岐阜や愛知の方にも観てもらえるんじゃないか?っていうふうに、ギリギリ転換できるタイミングで、僕と佐藤タイジで話し合ったんです。……9月3日に。
——めちゃくちゃ最近の話ですね。
そう(笑)。3日の夜に話し合って、やっぱりこのまま無理くりリアルでやりきるよりは、ハッピーにやれる『THE SOLAR BUDOKAN』らしいやり方って何だろう?っていうところから、この形に落ち着きました。そこから配信の場合にどうやったらいいだろうっていうことを話し合って、生配信できる場所も調べて。で、25日は生配信と事前収録をして、26日はZepp Hanedaが取れたんですけど、最初はZepp Hanedaで有観客ライブをやるっていう発想はなかったんです。
——あくまで配信用の会場として。
生配信だけやろうと思っていたんですけど、各アーティストのみなさんやマネジメントのみなさんと話していく中で、Zeppでやれるんだったらお客さんも入れられるねっていうことになって。今のガイドラインだとあそこは椅子をならべて1200人まで入れられるんですけど、そこはやっぱり安全第一ということにして、今回は600人限定で、密にならない環境での有観客ということにしました。今はほとんどのフェスが中止になってますけど、僕らが決めていたのは「中止はしない」ということで、最悪でも配信という選択肢をとって絶対に開催しようと思っていたので、そこで一部有観客にできたというのはラッキーだったなと。少人数だとしてもお客さんを迎えてやれるかやれないかというのはやっぱり大きいと思います。
——去年に一度配信フェスをやっている経験とノウハウは大きいですか。
大きいです。うちがLive Loversっていうプロジェクトを始めて自社内で映像も配信もできることもあって、9月3日に決めてもそこから配信ライブとしてできる最大値まで持っていけるというか。コロナ以降に映像や配信の分野に力を入れてきたことは大きいですよね。
——昨年からよりブラッシュアップできる部分もイメージされています?
昨年は本当に初めてだったので、わりと事前収録中心だったんですけど、今年は生でやってくれるアーティストが多いのと、長時間なんですよ。13:00から始まって8時間くらい。だからお客さんも8時間ずっと配信を観ていられるかというと、なかなかそうではないと思うので、そこはタイムテーブルを見ながら楽しんでもらって、お休みする時間もあっていいと思うし、アーカイヴス期間に見逃した部分を見直しても良い。色々な楽しみ方ができるんじゃないかなって思っています。
——昨年は、なるべく全て観てほしいという想いのもと、1日あたりの時間を少なめにして、代わりに4日間の開催でした。そこは意識の変化があったんですね。
そうですね。こちら側としてはどうしても「全部見逃さないでほしい」という意識があったから、昨年は一つの塊をあまり重くしないで観てもらおうとトライしていたんですけど、でもやっぱりフェスに行ったらご飯を食べたり飲んじゃう時間もあるじゃないですか。だから、全てのアーティストを観てもらうことを強要する必要はないし、長時間のコンテンツをドンとそのまま渡すのも選択肢としてありだと思いました。……あとは今年大きかったのは、フジロックの中継が素晴らしかったんですよね。
——ああ、たしかに。
あれは本当にすごいことだなと思ったし、勇気付けられたところはあります。僕は忙しくて苗場には行けなかったですけど、実際にグリーンステージの様子とかを観れて「おお、やってるやってる!」と。
THE SOLAR BUDOKAN 2020より
——そうして配信での開催が発表された今年の『THE SOLAR BUDOKAN』ですが、出演者の顔ぶれを見ると、アーティスト数はコンパクトながら初登場も結構いますよね。
GLIM SPANKYや光風さん、androp安藤裕子さん、あとはThe BONEZもいろいろあって初ですね。
——初登場するはずだった年にキャンセルでしたからね。
はい。そういう意味でいうと、2日間にわたってRIZERのみなさんは大喜びな感じなんですよね。初日にJESSEがいて、2日目にはアッくんもKenKenもいるという。僕もRIZEは大好きだし、長く付き合ってきた大事なバンドなので、こういう形になって嬉しいなと感じてます。あとは初日のトリをThe BONEZにしたいというのは最初から決めていました。大トリのストレイテナーもそうですね。
——テナーに関してはほぼ毎年出ていますし、フェスを体現できる存在でもありますよね。
そうですね。あとは去年のサンプラザのライブパフォーマンスが本当に素晴らしかったから、今回またハイブリッドでテナーを観てもらえるのは嬉しいと思いますね。あとは、配信になったことでRHYMESTERが出れなくなっちゃったんですけど、Creepy NutsNulbarich、RHYMESTER、佐野(元春)さんっていう4組の並びは、有観客でできていればすごいなと思っていたんです。以前、佐野さんのアルバム再現ライブを企画・制作させてもらったときに、RHYMESTERが「COMPLICATION SHAKEDOWN」っていう日本語HIP-HOPの走りみたいな曲をカバーする企画があったりもしたので、今回の佐野さんとRHYMESTERが続く形は面白かったんですよね。で、そこに今いちばん旬なCreepyがいてっていう。それを若い人たちにも見せられたらなって思っていました。
——それはたしかに観てみたかったです。
でもCreepyとNulbarichはZeppに来てくれるので——Zeppのメンツ、良いですよね?
——めちゃめちゃ良いと思います。大きな見どころですよね。
そうなんですよ。今回Zepp Hanedaはクラウドファンディングのみで参加できることになっていて、ということは配信のチケットを持っている人たちなんですよね。だからZeppにいる人たちは、転換の時間にスマホで配信も観てもらいたいんです(笑)。
——転換中に事前収録のライブ映像が流れると。
そうそう。で、それが終わったらまた目の前のステージを観てもらう。そういうことができたらいいなと。後日アーカイヴでは全部通して観られるし、Zeppに来られる方は美味しいなと思います。
——お話しできる範囲で、他に見どころとなりそうな要素があればぜひ。
全体的にセッションも結構やります。佐藤タイジがセッション大好物なので、『THE SOLAR BUDOKAN』はセッションも多いんですけど、今年も予定しています。あとはミュージシャン同士も仲が良くて、リラックスした空気になると思うので、そういう生の座談会みたいなものもどんどん入れていきたいなと思ってます。そういうトークが見られるのも配信の面白みじゃないですか。
——去年もサンプラザ収録終わりの座談会映像を配信で流したら、SNS等で大ウケでしたもんね。
あれはウケてましたね。ただ、今はちょっと飲酒すると色々お叱りを受けそうなんで、飲みながらのトークはあれですけど(笑)。
——たしかに(笑)。では最後に、今年で10周年となる『THE SOLAR BUDOKAN』全体のことも触れておきたいのですが、作り手側/来場者側それぞれの中に『THE SOLAR BUDOKAN』像があると思うんですね。その中で大切にし続けていることって何でしょうか。
大きく2つあると思っていて。まず始まりとしては、原子力発電所の事故があって再生可能エネルギーって重要だよねっていう中で、「太陽光発電だけでフェスができたら」って佐藤タイジが言い出して、そこに僕らスタッフが共鳴して、アーティストのみなさんにも広がっていったんです。だから、今年は気候変動の問題をトークセッションで扱ったりもするし、コロナの中で、エネルギー以外にもいろいろな問題が起きてると思うんですね。そういう社会的な問題についても語り合える場でありたいという姿勢を10年持ち続けていることは重要だなと思っています。アーティストのみんなも、考えるきっかけになると言ってくれたりもするので。
——そうですよね。
もう一つ、『THE SOLAR BUDOKAN』らしさって、同世代のアーティストが集うのじゃなくて、世代を超えてジャンルを超えて、いろんなミクスチャーがあることかなと思っていて。今年はそういう意味では目指していた100%にはならなかったですけど、いろいろな音楽の多様性というのは観てもらえる。ロックフェスだけどロック以外のアーティストも全然いるし、その多様性が『THE SOLAR BUDOKAN』らしさだと思いますね。

取材・文=風間大洋

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