ザ・モアイズユー、歌い続けていく決
意を見せたツアー東京公演をレポート

ザ・モアイズユー「Storage time」Release Tour

2021.9.5 下北沢 SHELTER
今年8月に初のフルアルバム『Storage time』をリリースしたザ・モアイズユー。今までの自分達とは異なった一面も提示した力作を持って、彼らは待望の東名阪ツアーを開催した。
今回のツアーは各公演にゲストを招いており、チケット完売となった9月5日 東京・下北沢SHELTERには、とけた電球が出演(名古屋・新栄RAD SEVEN公演にはOKOJO、大阪・LIVE SQUARE 2nd LINEにはmoon dropがそれぞれ出演)。シティポップを噛み砕いたスタイリッシュなものから、身も心も踊らせるファンキーなもの、ダイナミックなバンドアンサンブルを高鳴らすものまで、幅広さはありながらも、どの曲も実にメロディアス。それを届ける岩瀬賢明の歌声も、要所で小技を効かせたフレーズを入れてくる楽器隊も、曲を追うごとに熱とキレを増していき、オーディエンスをしっかりと掴んでいた。ちなみに、とけた電球は11月に初のツーマンツアーを開催することになっているのだが、その大阪公演にはザ・モアイズユーが出演することになっている。「ツアーに呼んで、呼ばれての素敵な関係性を構築できていて嬉しい」と岩瀬。ザ・モアイズユーとしても「俺らはとけ電のことが好きやし、俺らの前にライブをしてくれるのは光栄だと思った」と話していて、まさに相思相愛という感じ。切磋琢磨し合う関係として、共に飛躍していくことを大いに期待したい。
とけた電球

転換と場内換気の後、いよいよザ・モアイズユーのステージに。ドラムの前に集まり、3人で何か会話を交わした後、それぞれ定位置につくと、本多真央(Vo/Gt)がギターを一閃。「19」で勢いよくスタートを切った。満身創痍であろうとも前を向けと、オーディエンスを、そして自身を焚きつけるように本多が歌えば、以登田 豪(Ba)もフロアを見渡しながらベースをうねらせる。続けて「MUSIC!!」へ。鍵盤やホーンセクションを擁した陽性なサウンドは、アルバムの中でも際立ってポップな存在感を放っていたが、音楽を高鳴らすことの喜びに満ちながらも、それと同時に、どんな状況であろうとも、自分達は音楽を続けていくという力強い意思と決意が漲った曲でもあると思う。フロアもクラップしたり、手をあげたりと、3人の音に応える中、そのまま「環状線」に突入。オザキリョウ(Dr)が刻むビートも、一撃一撃がひたすらパワフルで身体を強く揺さぶってくる。
ザ・モアイズユー
「心待ちにしていたツアー、初めて観る人もそうじゃない人も関係なく、会場の端から端まで届けていけたらと思ってます。最後まで全部持って帰ってください」。MCで本多がそう話していたのだが、まさにその熱であり心意気が、3人の演奏からビシビシと伝わってくる。「ブルースカイブルー」は、音源で聴くとどこかノスタルジックで、晴れ渡った青空が広がる柔らかな雰囲気のある仕上がりになっていたが、もちろんその印象はありながらも、やはり生で体感すると、原曲が持っている景色が色強く目の前に立ち上がってきた。また、軽やかに弾むように転がっていく「いいことばかりじゃないけれど、」から急激にテンションをあげて、豪快なバンドアンサンブルを叩き込んで「fake」になだれ込んでいくところは、実にロックバンド然としたダイナミズム溢れる展開。オーディエンスの興奮をがっちり上げていく。
ザ・モアイズユー
一転、本多が柔らかくギターを爪弾いた後、じっくりと間を置き大きく息を吸って歌い出したのは、「月明かりの夜に」。幻想的かつメランコリックなサウンドで場内を包み込んでいくと、その余韻を「花火」の美しいアンサンブルが受け取り、リスナーを感傷の世界へ引きずり込んでいく。そんな切なさや悲しさを帯びたミディアムナンバーは彼らの十八番でもあるのだが、「悲しいから悲しい歌を歌いたいんじゃない」と、本多はMCで強く話していた。
本多「おもいっきり沈むときも、迷うときも、泣くときもあってもいいけど、俺は、最後の最後に前を向けたら、前に進めたらそれでいいと思っているので。だから俺は、悲しい歌を歌います」
ザ・モアイズユー
そんな言葉から繋げたのは、アルバム『Storage time』の幕開けを飾った「秒針に振れて」だ。ときに悲しみを振り払うように声を張り上げて歌う本多と、心の傷口をなぞるように、それでいて寄り添うように音を重ねていく以登田とオザキは、そこから休むことなく「理想像」を届ける。不甲斐ない自分を引きずり回してでも前に進もうとするような力強い音塊を叩きつけると、さらにギアをあげて「すれ違い」へ。張り裂けそうなほどに募る思いをダンスビートが強烈に高めていき、一際エモーショナルな本編クライマックスとなった。
ザ・モアイズユー
この日のライブは演奏だけでなく、言葉も感情的だった。アンコールに応えてステージに戻ってくると、会場に足を運んでくれたことに感謝を告げつつ、「昔のようにできないこともあるけど、音楽はそういうものを飛び越えて楽しめるんじゃないかと思っている」と以登田。オザキは持っていたマイクを口元からはずし、「俺は音楽を諦めたくないです。絶対に諦めたくない」と、自身の胸の内を包み隠さずフロアに伝える。その言葉達は、昨年から世界を覆い続けているバンデミックが生み出した混乱であり、それが彼らにもたらした迷いや葛藤といった様々な想いを改めて窺い知るものだった。そして、その言葉達は、“それでも自分達は歌い続けていく”という意思がはっきりと伝わってくるものでもあった。
ザ・モアイズユー
本多「音楽がなかったら、メンバーとも、こうやってSHELTERでみんなに会うこともなかった。音楽で会えたから、また音楽で会いに行くために、これからも歌い続けます。今日はありがとうございました」
アンコールに選ばれたのは「Afterglow」。悲しみを悲しみのままで終わらせることなく、思い出として、先に進む糧にしていきたい。そんな祈りや願いが込められた演奏は、切なさを帯びながらも、それでも温かくて、力強かった。この日のラストナンバーは「何度でも」。これからも彼らは、たとえ多くの困難が前に現れようとも、胸に抱いた想いを歌にして、その足を踏み出し続けていく。何度も、何度でも。

文=山口哲生 撮影=nishinaga "saicho" isao
ザ・モアイズユー

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