【黒猫同盟 インタビュー】
黒猫目線で書いて、
言いたいことは全部猫に言わせる
もう一度エンターテインメントを
信じる力が少し強くなった
コロナの時代に突入してから音楽の役割が変わって来たと感じられますか? それとも変わらないでしょうか?
上田
そういう意味では、僕は今回、ずいぶん外に向けて書いた気がします。今までの自分の作品は自分で自分としゃべっていて、その中の物語を切り取っている感じがあったんだけど、コロナに入ってから作風が少し変わって、灯りがもうひとつ点いてパッと明るくなったというか。昨年はツアーを組んで50本ぐらいライヴをやろうとしていたんですけど、3月ぐらいに全部ダメになったんですよ。その時に“よし、ここからだ!”と思ったんです。ここで何をするかによって自分の今後が変わっていくって。まぁ、“まずは飲もう!”って感じでしたけど(笑)。でも、風景が浮かんできて、それについて書きながら自分の気持ちも投影していくうちに、フィルターを2、3個取って外へ開けた感じになっていき…前よりは少し分かりやすくなった気がします。
コイズミさんも音楽家としての意識の変化はありますか?
コイズミ
私は音楽家ではないと思うんですけど、昨年の春頃に初めての緊急事態宣言が出て、みんな本当に不安になったと思うんですね。私自身、不安にもなったし、何に向けてというわけではない怒りみたいなのも沸々と感じたし。でも、家にいる時間が生まれた時、例えば映画やドラマを観たり、音楽を聴いたりして、いろいろな作品が不安から少し救ってくれた感覚があったんです。その時に“はっ! もしかして私にも何人か救えるかもしれない!?”と思って、それでビクターさんに配信ライヴをやれないかと相談して『唄うコイズミさん』の一回目をやらせてもらったんです。“みんなで取りかからないと無理だ!”と思ったんですよね。その中で私は私で、何人かには楽しい時間を少し与えることができるんじゃないかって。
何人かどころか本当にたくさんの人に!…だと思います。
コイズミ
いえいえ。それまではずっと歌う意味が、もう自分の中で分からなくなっていたんです。例えば、何十周年みたいなタイミングでは、もちろん責任もあるから毎回歌ってはきたけど…なので、そういうのに関係なく、“今だ!”と思えたのは確かでした。
使命感みたいなものでもあったんですか?
コイズミ
使命というか、“みんなで取りかかるべき事態だな”という感覚がした…というか。
上田
喫茶店に呼び出されてしゃべった時も、コイズミさんは“歌う理由が見つかったから歌う”と言っていたよね。
“歌う理由が見つかった”とお感じになったことは、コイズミさんご自身を励ますことにもつながったのでしょうか?
コイズミ
配信ライヴをさせてもらって、たくさんの感想を耳にできたわけだけど、その時に私自身を励ますという感覚もないことはなかったというか…
上田
鼓舞された?
コイズミ
そう! 少し自信ができた。自分自身がもう一度エンターテインメントを信じる力が少し強くなった感じはありました。それは、自分が与えてもらったものに対してもそうですし、自分ができたことに対してもそうでした。
歌詞全体を拝見して、“名前”というものにフォーカスしているようにも感じました。単語として3回出てきますし、猫の名前を列挙したり、名乗っていたり。猫も人間もですが、名を持つ固有の存在としてひとりひとりを尊重したいというメッセージなのかなと。
上田
全然意識はしてなかったけど(笑)、曲ごとにみんな違うキャラクターということは意識していました。
コイズミ
ひー(ひじきの愛称)ちゃんの存在も大きいかもしれないですよね。例えば、ひーちゃんが野良猫になったら野良猫だけど、上田さんのお家に来たらひーちゃんになるんだよね。私たちは保護猫を引きとっていて、名前がついた時点で猫と自分の時間の鐘が鳴るみたいな。
上田
猫って親元で生活するわけじゃないから、どこで飼われて暮らすかによって運命も変わるしね。「異国の窓辺」はそういうことに重ねて、ジャンヌ・ダルクのことを書いているんです。剣術家に弟子入りするためにドンレミ村から出る、その一瞬の出来事を。
それで歌詞に《時に革命を起こしたりするものよ》と出てくるんですね。
上田
うん。旅に出る一瞬前の“もしかしたら違う人生もあったんじゃないかな?”みたいな。それを猫に例えて。
コイズミ
素敵な歌詞ですよね。
名前がついた瞬間、関係性が生まれる気がします。どう呼ばれるかでキャラクターが変わったりしますよね。
コイズミ
我々は子供を持ったことがないけど、きっとそうなんじゃない? いい人生にしてあげたくて、画数を調べたりするわけだし。名前って人間にとっても“人生の鐘が鳴る瞬間”かもね。名前がなければ何も始まらないですもん。
最後に今後の活動のご予定をお聞かせください。
コイズミ
『ホントのコイズミさん』はもう1クール続くらしいので、続く限り“また新曲を作ろう!”ということになると思うし…ライヴもするかもしれないですね。
上田
やりたいね!
コイズミ
うん、やりましょう!
取材:大前多恵