海宝直人、WOWOWトニー賞授賞式番組
&ミュージカルラウンジへの思いを語

コロナ禍で長らく休止していたニューヨーク・ブロードウェイの劇場も2021年9月より再開予定となり、9月27日には開催が延期されていた「第74回トニー賞授賞式」がWOWOWにて生中継&ライブ配信される。その前日にオープンするミュージカル・ファン向けコミュニティ「WOWOWミュージカルラウンジ」のアンバサダーに、海宝直人の就任が決定した。海宝は「トニー賞授賞式」にもゲストとして参加し、番組ナビゲーターの井上芳雄(大阪サテライトスタジオ)や宮澤エマ(東京メインスタジオ)、スペシャル・プレゼンターの堂本光一と共に夢の祭典を盛り上げる。海宝に、ミュージカルへの思いを尋ねた。

――約1年3ヶ月ぶりに開催される「トニー賞授賞式」の番組にゲストとして出演されます。
ブロードウェイがようやく再開されることになり、「トニー賞授賞式」も開催されるということがとてもうれしい知らせですよね。日本では何とか舞台公演を続けてこられましたけれども、ようやく海外でも再開できるということで、そのお祝いの場に参加できるということがとても幸せです。僕自身も、現地の熱気をスタジオで味わえることが楽しみでなりません。2016年の番組(WOWOW『第70回トニー賞授賞式』)では『ジャージー・ボーイズ』のメンバーとスペシャル・パフォーマンスを披露しましたが、そのときはものすごく緊張してドキドキしました。また、2019年の番組(WOWOW『第73回トニー賞授賞式』)では『ノートルダムの鐘』の曲を歌わせていただきました。
「トニー賞授賞式」は、学生時代から必ず録画して観ていました。毎年ブロードウェイに観劇しに行くことはなかなかできませんが、一年を代表する作品を選ぶトニー賞でのパフォーマンスを観てどんな作品かを知ることができるので、毎回授賞式を楽しみにしているんです。最近で強烈に覚えているのは、『カラーパープル』のシンシア・エリヴォさんのパフォーマンス(2016年「第70回トニー賞授賞式」)。作品全体も素晴らしかったのですが、シンシアさんの歌が衝撃的で度肝を抜かれて、その後すぐにCDも買いました。自分のコンサートでも歌わせていただきましたが、それくらいものすごいインパクトを受けましたね。
――今回ノミネートされている中で注目されている作品や俳優はありますか。
作品自体は観られていませんが、トレーラー動画を観たりする中で、『Jagged Little Pill』は音楽もいいですし、今やる価値のある作品だなと思いました。『Moulin Rouge! The Musical』『Tina - The Tina Turner Musical』と、作品賞にノミネートされた3作品すべてがジュークボックス・ミュージカルなんですよね。『Tina』は、僕がロンドンで『TRIOPERAS』に出演していたとき、その劇場への行き帰りにある劇場で上演されていました。毎晩毎晩、帰り際に、盛り上がっているお客さんが出てきていて。それで、出てきたところに、『Tina』の曲を流しながら人力車が集まってきている。ああ、盛り上がってるな、観たいなと思ったのですが、結局そのときは観られなかった。その作品がブロードウェイに行って、今回ノミネートされていて。『Moulin Rouge!』は日本でも映画が有名な作品ですよね。その作品で主演男優賞にノミネートされているアーロン・トヴェイトさんは渋い俳優さんで、『Next to Normal』や『Catch Me If You Can』を観ましたが、すばらしかった。大好きな俳優さんで、パフォーマンスもとても楽しみです。
――今回の番組では、ナビゲーターの井上芳雄さん、宮澤エマさんと共演されます。
お二人ともご一緒させていただいたことがありますが、芳雄さんはトニー賞の番組はもう何回も経験されていて、そこに今回参加させていただくことはすごく光栄ですね。エマちゃんとは共演をきっかけに仲良くさせていただいていて、同じ東京のスタジオでご一緒できるのはとても安心感があり、楽しみです。エマちゃんとは、彼女が初舞台を踏んだ『メリリー・ウィー・ロール・アロング』でご一緒させていただいて、初舞台ながらなんてすごい俳優さんなんだろうと思って。そこから仲良くなっていろいろ話をするようになりました。ミュージカルや演劇の将来についてもものすごく誠実な考え方、ヴィジョンを持っている方なので、話していていつもいろんな発見や刺激をもらっています。とてもグローバルな考え方を持っている方なので、こういった番組でご一緒できて、話をできるということがとても楽しみです。
――9月から始まる「WOWOWミュージカル・ラウンジ」のアンバサダーも務められますね。
こういったコミュニティって、ありそうでなかったですよね。今、ミュージカルそのものが、例えば、世界中で映画化されていたりして、注目されている。そんなタイミングで、皆様によりミュージカルのことを深く知ってもらったり、興味を持ってもらえるようなものにしたいなと。興味を持ったとき、じゃあ何から入ればいいんだろうって、意外と難しいと思うんです。どのミュージカルを観ようかなとか、どういう作品が自分には合うだろうとか、そういった疑問に対して、ミュージカルの魅力というものをいろいろな角度から知ってもらえる、そういうサイトに発展させていって、皆さんとミュージカルとの架け橋になっていけたらいいなと、僕自身も楽しみにしているところです。例えば、出演してきた中で、自分の中にもすごく残っている作品として『ノートルダムの鐘』がありますが、そういった作品をはじめ、色々な作品の裏側も知ってほしいと思ったりします。
今こういう状況になったからこそ、やはり、観て語り合いたい場所が欲しいということはあると思うんです。そこ(語り合う)までが観劇じゃないですか。今はできないですけど、僕たち役者も、一緒に作品を観に行って、その帰りに、ああだったよね、こうだったねって話したり、出ていた役者さんと食事に行って、どうだったとか、こう見えたとか話したり、そういうやりとりって観劇の醍醐味だと思っていて。やっぱり、人によって見方って全然違うし観ている場所も違うというのが演劇のおもしろさだと思うんですよね。
映像だと、この人が話しているのをこの人が見ているとか、ある程度、どこを見るかということがカメラによって選択されているわけですけれども、舞台だと、メインがセリフを言っているところで、こっちではこんな違うことをやっている。それを観られるのも魅力で、あそこでこのキャラクターがこういうことをしていたのはこういう意味だなとか、それは気づかなかったなとか、人とのそんなやりとりから発見していく、深く作品を観ていく、それはやっぱり、語り合う中から広がっていく楽しさですよね。僕自身、もともとミュージカルが好きで、いろんなことを調べたりするのも大好きなんですけれども、今回アンバサダーをやらせていただくというところで、よりいろいろなことを掘り下げていって、今まで知らなかったことも、こういう機会だからこそ、もっともっと広く調べたりして知っていきたいなと、楽しみですね。
――ご自身では観劇の際、何を参考に作品選びされますか。
ロンドンに行ったりブロードウェイに行ったりするときに、まずはいろいろなトレーラーを観ますね。海外の作品だと必ず出ますし、稽古風景の映像もいろいろ上がっていたりするので、そこから音楽を知ったり。役者や演出家がきっかけで興味を持って、これ観たいなと決めていくことが多いですね。そうやって情報を得ていくこと自体が楽しい。今回も、番組出演のお話やアンバサダー就任をきっかけに作品についていろいろ調べたりしていましたが、やっぱりそれだけですごくわくわくするし、自分も舞台をもっとやりたいなと思う。自分の俳優としての活力になっているなと思います。
――海外で観劇される際ならではの楽しみなどありますか。
敷居の低さという表現でいいのかわからないですけれども、海外のみなさんは、ミュージカルという文化を、例えば映画などとも同じような感覚で楽しんでいるんだろうなと。そういった気軽さみたいなものを観劇していてすごく感じますよね。幕間も皆、シャンパンを飲んだり、アイスクリームを食べたりしながらいろいろ感想を話し合っていたり、カリフォルニアで観たときはポップコーンを食べていましたし。皆さん身構えずに楽しんでいる、ミュージカルという文化自体が根付いているんだなというのが、僕はすごく居心地がよくて。海外だとそんな敷居の低さみたいなものがとても素敵だなと思いますね。
僕は海外に行っても本当に舞台しか観ないんですよ。ニューヨークでも、自由の女神とかエンパイアステートビルとか見たことがなくて(笑)。ロンドンでもいわゆるそういう観光をしなくて、1週間で8本とか9本とか観劇する。舞台が夜終わって、スーパーのおいしくないサンドウィッチを買って食べるだけとか。日本みたいに、コンビニのおにぎりが24時間食べられるって奇跡だなって(笑)。ただ、本来ニューヨークはおいしいお店が多いですよね。パストラミサンドとか食べるのすごく好きですね。肉の量とか、すごいじゃないですか。それも楽しみだったりしますね。
――ミュージカルを観に行かれるとき、海宝さんの中で俳優と観客の割合はどんな感じですか。
純粋に観客として楽しみたいと思って観に行くんですけれども、ただ、やっぱり俳優としての視点というのが同時に渦巻くというか。こういう演出、こういう転換をするんだとか、こういう芝居をしてこの場所でこういう表現をするんだとか、そういう視点っていうのがやはりどうしても同時に存在します。最近だと、ロンドンでトレヴァー・ナンさん演出の『屋根の上のヴァイオリン弾き』を観たんですが、その演出が冴え渡っていて、すばらしかったんですよね。ものすごい衝撃を受けて、この演出はぜひ多くの人に観てもらいたいなと思いましたね。
――ミュージカルラウンジの『海宝直人のMr.Musical』の動画コーナーはどんな雰囲気になりそうですか。
ミュージカル好きの方に深く楽しんでいただけるようなコンテンツにしていきたいということを考えています。個人的には、スタッフワークにも今とても興味があって。例えば日本だったら、翻訳ってどういう作業なんだろうということを話を聞きに行って、要点をまとめて話したり、舞台監督という仕事について取材したり、そんな感じで深掘りしていけたら面白いのではないかと。海外と日本では、作品作りの作業からして全然違ったりするじゃないですか。日本だと数年かけて作っていきますけれども、海外だと十年単位で作っていったりする。その過程の違いなんかも面白いと思うんですよね。海外だとワークショップから始まって、作品によってはワークショップですごい俳優さんが揃っていたり、それが、本番に上がっていくときに違う俳優さんに変わっていったり。作品を作っていく過程をご紹介するのも面白いんじゃないかなと思いますね。
――今の日本のミュージカル界の状況をどう考えていらっしゃいますか。
オリジナル作品を作っていこうというクリエイターの皆さんの勢いみたいなものは、コロナ禍だからこそより増していっているなということを感じます。僕自身、やはりオリジナル作品作りに参加していくことがとても楽しいですし。それから、『イリュージョニスト』や『VIOLET』のように海外のプロデューサーと日本の制作チームとが共同作業をして、海外でも日本でも公演するという、新しい作り方の流れができてきているのは、とてもわくわくします。今までになかった面白い作品作りが生まれてきているなと思いますね。舞台やコンサート、イベントの配信が増えたことも、お客様がミュージカルや舞台をより身近に感じていただけるきっかけになったんじゃないかなと思っています。それをきっかけに劇場に足を運んでいただけるようになったらとてもうれしいです。今回のミュージカルラウンジの企画もそんなきっかけの一つになれたらいいですよね。
――公演中止ももちろんありましたが、このコロナ禍においても日本では舞台公演が続けられてきました。そんな中で、ミュージカルに携わる一員として何か感じられたことはありますか。
自分が出演する作品で、公演自体なくなってしまったものもありますし、途中で中止になってしまって少ししか出られなかったものもありました。でも、そんな中で、いろいろな試み、いろいろなチャレンジもできました。例えば、無観客配信でミュージカルをお届けしたり、配信でコンサートをやったり、こういう状況でなければできなかったチャレンジができて、自分にとっては決して無駄な時間ではなかったというか、いろいろなことを吸収できた時間でもあった。そういう意味では、日本で何かしら公演が続けられたということは、本当にありがたい状況だったと思います。
今年前半に出演させていただいたミュージカル『アリージャンス~忠誠~』は、エンターテインメントでもありながら非常に社会的な問題を鋭く扱った作品でした。本当にさまざまな考え方を持つキャラクターたちが、自分の心情を歌やダンスで表現して、観る側はその心情をダイレクトに感じることができる。誰に共感するのか、誰の考えを自分はちょっと理解できないなと思うのか。でも、理解できないからこそ、自分はなぜそう思うんだろうと思って、理解したくなったりするのか……など、いろいろあると思うんです。舞台作品におけるキャラクターたちの見ている世界を通して、観ている方もいろいろな考え方について思いをはせる。それはもちろん、舞台やエンターテインメント以外でもいろいろと勉強できることですが、エンターテインメントを通すからこそ、素直に考えるきっかけになるというか、楽しみながら考えるきっかけになる。
やはり、舞台というものの社会における役割みたいなものがあるからこそ、歴史上、弾圧等いろいろと大変な状況があっても愛され続け、発展してきたのだろうなと思います。今回こういう状況だからこそ、決して潰えることのない、価値のあるものなのだ、ということを思いましたね。その一方で、現在出演しているミュージカル『王家の紋章』は、とてもきらびやかなエンターテイメントで、現実を忘れさせてくれるような作品です。それはまたエンターテイメントの一つの役割でもあると思います。観に来て下さるお客様に楽しんでいただける、観ているとき、現実を忘れて熱く生きられる、そういった面でも、とても多面的な魅力があるものだなということを今改めて、すごく感じます。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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