黒木華(スタイリスト:申谷弘美/ヘアメーク:新井克英)

黒木華(スタイリスト:申谷弘美/ヘアメーク:新井克英)

【インタビュー】映画『先生、私の隣
に座っていただけませんか?』黒木華
「スリリングで気持ちよく楽しめる映
画です」ハラハラする夫婦の心理戦で
見せた名演の舞台裏

 漫画家の佐和子は、スランプに陥った漫画家の夫・俊夫(柄本佑)と結婚5年目。彼女が描き始めた新作は、なんと「不倫」の物語。佐和子の担当編集者・千佳(奈緒)と不倫していた俊夫は、自分たちそっくりの夫婦が登場するその原稿を目にして、「バレたかも…!?」と焦り始める。さらに、佐和子が自動車教習所に通い始めた頃から、物語は妻と教習所の若い先生とのロマンスに発展。これは妄想なのか、それとも佐和子の復讐(ふくしゅう)なのか…? 次第に漫画と現実の区別がつかなくなり、精神的に追い詰められていく俊夫。2人の運命は…? 「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM 2018」 準グランプリに輝いた企画を映画化した『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(9月10日公開)は、絶妙なユーモアを交えて、夫婦の心理戦を描いたスリリングな物語。虚実入り混じる佐和子役を見事に演じ切った黒木華に、撮影の舞台裏を聞いた。
-どこまでが本当で、どこからがうそなのかが分からず、最後まで目が離せませんでした。黒木さんが最初に台本を読んだときの印象は?
 台本でもどこまでが現実でどこからが非現実なのか読み取れず、最後までスリリングで、すごく面白かったです。不倫を題材にしているのに、ドロドロしていなくて、エンターテインメントとして楽しめる作品だなと思いました。
-自動車教習所の先生・新谷(金子大地)とのロマンスを中心に、本当かうそか分からない佐和子の話は見ていてドキドキします。その辺のお芝居はどんなふうに作っていったのでしょうか。
 新谷先生とのシーンは、新谷先生に恋をしているような気持ちで、全て本当にあったこととして演じていました。(堀江貴大)監督が「もうちょっと引きましょう」「もう少し足しましょう」と細かく演出してくださったので、監督と相談しながら撮影を進めていきました。
-黒木さんの中では、俊夫といるときの佐和子と、新谷といるときの佐和子は同じ人間だったと?
 私の中では、別人ではなく、どちらも同じ佐和子として演じていました。新谷先生といるときの方が、感情が表に出やすい、ということは意識しましたが、別人になってしまうのは、ちょっと違うかなと思いました。
-監督からは役について、どんなお話が?
 「新谷先生といるときの佐和子と、俊夫さんといるときの佐和子の差は、きちんとつけたい」ということと、「嫌われるようなキャラクターにはしたくない」というお話があったので、そこは意識しました。
-俊夫役の柄本さん、新谷役の金子さんと共演した感想を聞かせてください。まずは柄本さんから。
 佑さんとしっかりお芝居をするのは初めてでしたが、改めてすてきな役者さんだなと。常にフラットで、私が少し芝居の間を変えても、それに合わせてくださったのが、本当に楽しくて、すごく充実した撮影期間でした。
-金子さんはいかがでしたか。
 金子さんは、とてもフレッシュでした。お芝居に対してすごく実直ですし、いろいろな作品に出られているだけあって、勢いも感じました。佑さんとはまた違った雰囲気で、すごく面白かったです。
-お二人とのやり取りの中で、佐和子の異なる一面が引き出されたという手応えはありましたか。
 お芝居は相手がいてこそなので、それぞれ違う面を引き出してくれたと思っています。気負わず自然体でいさせてくださる佑さんとだからこそ、あの夫婦の空気感が出たし、金子さんのフレッシュさがあったからこそ、こちらも新鮮な気持ちで、「新谷先生、すてきだな」と思うことができたのではないかなと。
-佐和子という人物は、初めて見るときは「どこまでが本当なんだろう?」と思いますし、結末を知って改めて見ると、「この場面は、どんな気持ちで演じているんだろう?」と気になる、とても魅力的な役です。役者としてのやりがいを、どんなふうに感じていましたか。
 そんなふうに、見てくださる方に正解を提示しないところが、この映画の面白さですよね。監督も「グレーのまま終わる物語を見せたかった」とおっしゃっていたので、そういう意味では、すごくやりがいがありました。
-逆に、難しさを感じた部分は?
 普段から「どうやって演じよう?」と考えることはあっても、「難しい」という考え方はあまりしたことがなくて…。
-自分の中で答えを出して演じるのではなく、常に「どう演じよう?」と考え続けていると?
 私でなければ違う芝居になるでしょうし、監督の思いをみんなで一緒に作り上げていくものだと思っているので…。仮に「これが正解」と私が出したとしても、それは私のエゴなので、むしろそうならないようにいつも気を付けています。なるべくフラットでいたいな、と。そこは今回も変わりませんでした。
-なるほど。黒木さんのお芝居の魅力の一端が垣間見えた気がします。ところで、男性から見ると、佐和子だけでなく、「不倫がバレたかも?」と焦る俊夫とは対照的に、平常心で振る舞える相手の千佳にも女性の強さやしたたかさを感じましたが、黒木さんがより共感できるのはどちらでしょうか。
 どちらも共感できるし、どちらも共感できない、という感じです(笑)。
-具体的には?
 同じ職場の人と不倫関係になるというのがよく分からないんですよね。絶対に面倒くさくなるのが分かっているのに「そんな近場に、手を出す?」っていう…。そういうところは、あまり共感できないです。ただ、千佳さんの立場で見ると、魅力的な男性がそこにいた、だから仕事とは関係なく親しくなりたいし、なってしまったものはしょうがない、という気持ちも分かります。逆に佐和子の立場で見ると、「俊夫さんならそこ行っちゃうよね。しょうがないな…」という部分があるんだろうな、ということも理解できますし…。
-なるほど。
 結局、佐和子は俊夫さんに対して愛情があるんですよね。「もう一度漫画を描いてほしい」という…。そこがこの映画のいいところだと思うんです。不倫を題材にしながらも、そこにフォーカスし過ぎないから、ドロドロした話にならず、気持ちよく見られる。見終わった後、スカッとした気持ちになれますし(笑)。
(取材・文・写真/井上健一)

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