かぐや姫、その真の姿を
『かぐや姫LIVE』で確信

グルービーなバンドサウンドを展開

さて、そんなかぐや姫の作品から一枚を選ぶとなると、「神田川」が収録された『かぐや姫さあど』(1973年)を挙げるのが真っ当なチョイスなのだろうが、こうせつ氏がかぐや姫をライヴ指向であったと語っているわけだから、ここは『かぐや姫LIVE』でいくのがいいように思う。「赤ちょうちん」は入っていなくて、「22才の別れ」が収められており、件の反骨心のようなものも垣間見える。グループのメンタリティーも知ることが出来よう。というわけで、以下、『かぐや姫LIVE』収録曲を順に解説していく。

オープニングはM1「うちのお父さん」。あれは南こうせつのソロで歌っていたのか、NHK『みんなのうた』で流れていたような記憶もあるが、いずれにしても、元はかぐや姫のナンバーであったことを今回初めて知った気がする。ギターもハーモニーも綺麗に録れている。高音っぽい響きはマンドリンだろうか。かなり印象的な鳴りを聴かせる。ベースがいいうねりを出していて、それだけにドラムがそれほど前に出ていないのは若干残念なところではあるが、かぐや姫は3人編成のフォークグループではあるものの、ライヴではバンドサウンドを、しかもかなり本格的なアンサンブルを取り入れていたことがアルバム冒頭からよく分かる。楽曲自体は牧歌的な雰囲気ではあるけれども、そこに留まらない魅力がある。間奏で“ヘイ、カモン!”とバンド(あるいは客席)を煽っているところも意外に思えるし、後半の《明日天気になあれ》をハイトーンに延ばすところは、いかにもライヴっぽくていい。また、《今日は渡辺さんの 結婚式で/うちのお父さんが仲人で/めでたい めでたい 鯛のお頭付》や《今度お母さんが 街に出る時に/真赤な蝶ネクタイを 買ってもらったら》辺りの歌詞には、今となっては失われた日本の風景があるようでもあって、興味深いところではある。

続く、M2「僕の胸でおやすみ」、M3「ペテン師」でライヴならではのバンドサウンドがさらにヒートアップ。M2は2番からリズム隊が入って徐々に音が厚みを増していき、後半はかなりグルービーなサウンドとなっていく。歌メロこそフォーキーだが、これはもう単なるフォークソングではないだろう。オルガンの他、間奏ではフルート(多分)も聴けるし、楽曲寄りのアレンジが成されていることが確認出来る。M3に至ってはイントロもメロディーも、全てがフォークの粋を超えているように思う。イントロのギターリフ、オルガンの鳴りがワイルドだし、ドラムもさらに力強く出ている気がする。調べたら、ドラムを叩いているのは、なんと村上“ポンタ”修一だった。それであれば、もうこのサウンドには納得するしかない。M3は歌詞もだいぶロックな印象だが、これは他の楽曲とまとめて後述したい。

そこから一転、M4「加茂の流れに」では、ギターのアンサンブルを中心とした落ち着いたサウンドで、マイナーというか、純和風なメロディーをしっとりと聴かせる。筆者は「花嫁人形」を連想したが、古い日本の民謡や童謡を感じさせる旋律とコード感であって、歌詞は七五調。ロックに続いてこういうこともできるというのは、かぐや姫の懐の深さではあろう。いい意味で驚いたが、その衝撃はさらに続く。M4のあとで、ギターをチューニングする音に重なってMCが収録されているが(ここのMCはパンダ氏?)、その後のM5「君がよければ」がこれまたなかなかすごい。ビートの効いたナンバーで、M3、M4からの緩急を考えたのだろうが、ブラスも女性コーラスも入り、これはほとんどソウルミュージックと言ってよかろう。そこからさらにM6「カリブの花」へ続くが、こちらはタイトルどおり、カリプソだ。M5、M6共に歌のメロディーはフォーキーで、歌詞の乗せ方も含めて、変に複雑ではないため、マニアックな感じには聴こえないのだが、この多彩さは特筆すべきところだと思う。

そして、次がM7「22才の別れ」。渋めイントロから綺麗なギターのアンサンブルが鳴り、そこにエレピも重なって、リズム隊も響く。相変わらずベースもブイブイと鳴っているし、間奏のギターもブルージーだ。これまで聴くとはなしに耳にしていて、何の根拠もなく、フォークソングらしいアコギの響きで構成されたナンバーだという気になっていたのだが、実にうまく練られたバンドアンサンブルであることが分かった(己のうすぼんやりとした認識を反省したい)。とりわけアウトロ近くでサウンドが密集し、全体的に圧が強くなってく箇所は、歌詞の主人公の心象風景と関係しているかのような印象で、優れたショートフィルムを見るかのようであることも付け加えておきたい。

OKMusic編集部

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