アリス九號. こんな時代だからこそ
強い意志でメッセージを届けたかった
、アニバーサリー公演公式レポート

アリス九號.が8月28日にUSEN STDIO COASTにて開催した結成17周年ライブの公式レポートが到着した。

8月24日に結成17周年を迎えたアリス九號.が、8月28日(土)、東京・USEN STDIO COASTにて『17th Anniversary Live『 17th THEATER』』と題した公演を開催した。
近年の周年ライブは、同会場で毎回コンセプトを変えて開催してきたアリス九號.。来年1月での閉館が発表されたUSEN STDIO COASTで行う最後の周年ライブとなった。今回の17周年記念公演は、10年前の2011年当時、“バンド史上最高傑作”と謳われたアルバム『GEMINI』を軸に、NHKホールで開催したスペシャルライブ『2011「7th THEATER」』を、今のアリス九號.がアップデートして表現するというコンセプト。昨年7月、ロックバンドとしては異例の早さで有観客ライブを再開し、今年に入ってからはほぼすべての公演を有観客と生配信で届けるという試みを続けている彼ら。この日の公演も、配信プラットフォーム[ZAIKO]を通じて生配信された。
《俺は夜空に 只 祈り願う、君に幸あるように》 ――万感の想いを込めて、最後の曲を歌いあげたボーカルの将。アリス九號.が『7th THEATER』公演を行ったのは2011年。東日本大震災が日本を襲った半年後だった。あれから10年。今度は、新型コロナウイルスが猛威を揮い、今も世界中が不安に包まれている。そんな状況下だからこそ、彼らは10年前に行った公演をアップデートした形で『17th THEATER』として今やる必要があった。その公演を通して、さらに説得力を持った歌、さらに逞しさを増したバンドサウンドで、この混沌とした時代を生き抜く希望となるメッセージを届ける必要があったのだろう。MCもほぼ挟むことなく、アンコールもやらないというストイックさで、『GEMINI』が持つコンセプト、その世界観にオーディエンスをどっぷりと浸らせていった本公演。――どんなに苦しい時もそばにいるから“今”を生き抜こう。絶望を乗り越えた先、僕らは強くなれるから。―― 楽曲を通して、そんなメッセージが鮮明に伝わってくるライブだった。
ステージの紗幕に映し出されたデジタル時計が、17秒前からカウントダウンを開始する。17周年に合わせて、ライブ の開演時間を17時17分に設定。周年に合わせて、こうして開演時間を変える粋な計らいも、彼らにとっては今や定番化。客電が落ちると、額縁を模したスクリーンには海の映像が映し出され、『GEMINI』収録のインスト曲「Entr'acte」が流れ出す。額縁を囲むように宮殿を思わせる重厚な柱が立った舞台には、将(Vo)、ヒロト(Gt)、虎(Gt)、沙我(Ba)、Nao(Dr)がすでにスタンバイ。『GEMINI』がテーマというだけで、いつもよりもピリッとした緊張感が場内に立ち込めている。つまりそれほど『GEMINI』という作品はバンドにもファンにもインパクトを放つ特別な存在のアルバムだったということだ。
ライブはそのアルバムのオープニング曲「I.」で幕開け。さあここから『GEMINI』への物語を始めよう、といわんばかりに「華【hae ・ne】」、「閃光」、「Stargazer:」と、序盤からアップテンポのシングル曲を立て続けにアクト。観客を引き連れて、勢いよくキラキラした世界へ向かって駆け抜けていく。だがこの日のメンバーはいつもとは違って、ほとんど定位置から動かない。そうして、演者と観客の緊張感をキープしたままの状態でライブを進行していくのだ。
「RUMWOLF」はNaoのドラムソロを導入に始まった。そのビートに導かれ、ヒロトと虎がリフを掛け合い、沙我のベースソロまで、個々のプレイにスポットを当てていったこの曲に対して、「蜃気楼」ではどキャッチーなメロディーのきらめきで観客を射抜いてみせた。次に待ち構えていたのは、この日がライブ初披露となった将プロデュースのダークチューン「AFTER DARK」だった。今年は5カ月連続で5人のプロデュースソングをリリース、プロデュース生誕ライブまでやることで、より濃度の高い“個”を引き出し、それをバンドへと還元していった彼ら。「AFTER DARK」では、彼の華やかなルックスとは裏腹な内面を、サウンドでも見事に浮き彫りにしていく。
沙我のベースから3連のバラード「風凛」が始まると、将は先程とは別人のような歌唱で日本の風景を感じさせる歌を響かせた。将がアコギを持ち、虎がギターをベースに持ち替えて始まった「ハロー、ワールド」では、ドープなリズムに乗せて玉座に脚を組んで座った沙我がポエトリーリーディングを披露。曲のテイストに合わせて、本来のパートとは異なる自分も変幻自在に表現できてしまう彼ら。ライブではお馴染みの「RAINBOWS」でメンバーとオーディエンスがシンクロし、一丸となって闇を引き裂いていく時に放つエネルギーは何度観ても格別。そこから、この日初披露となった虎プロデュースソング「虚空」の激しいパフォーマンスも相まって、場内はたちまち熱を帯びていく。
その熱をさらに押し広げるように、激しい歌モノ「KING&QUEEN」を投下。続けて、さらに歌モノへとフォーカスしたアリス九號.の美メロチューン代表曲「Le Grand Bleu」へと展開。サビでヒロトと虎と共に観客たちが一斉に人差し指を下から上へと突き上げるフリを繰り出すと、地上の空気から澱んだものがどんどん消え去り、澄みきった世界へと浄化されていく気がした。そんな天国のような空間に向かって、Naoの力強いツーバスと将のシャウトが轟く。「極彩極色極道歌」が始まると、漆黒の中で様々な色がドロドロに混ざりあうカオスな世界へと一変。オーディエンスが一心不乱にヘドバンを繰り返す流れのまま、続けて「MEMENTO」が放たれる。スクリーンには身体を激しく揺らしプレイするメンバーの生々しい姿が次々と映し出され、ライブは肉体的絶頂へと駆け上がっていった。“個とバンド”“ポップさと激しさ”“白と極彩色”“美しいメロディーとポエトリーリーディング”など、『GEMINI』の醍醐味でもある両極端に相反しながら存在する二つの世界。それを、最新曲を織り交ぜた形で、“今のアリス九號.”としてここまで表現してきた彼ら。
だが、本公演の本当の意味でのハイライトはここからだった。壮大な「-Grace the beautiful day-」のSEに続いて始まったのは、「the beautiful name」。マーチングドラムに乗せ、クラップとともに、この日新しくグッズで発売された光るタンバリンが楽しげに鳴り響く場内。大海の彼方までを照らす太陽のような生命力を湛えたこの曲のメロディーは、人間の生きる希望そのもの。その生きる希望はどこから生まれてくるのか。視点は壮大な世界からミクロな世界へ。海と月、ブルーとイエローが淡いコントラストを織りなすライティングの中、隣にそっと寄り添うような距離感で彼らが届けたのは、バンドとファンのことを歌った静かなバラード「4U」だった。天井で回転していた巨大なミラーボールが、いつしかファン一人一人とステージ上の彼らを繋ぎ合わせる光となったところで曲が終わると、場内は温かい感動に包まれた。その余韻がまだ大きく残る中、スクリーンにメッセージが映し出され、沙我がアコギを弾き出すと、会場の空気は一変。凄まじい緊張感が張り詰めると同時に静寂に包まれ、神妙な空気が広がっていく。誰も身動きができない。ここからトータル12分を超える大作「GEMINI-0-eternal」、「 GEMINI-I-the void」、「GEMINI-II- the luv」の3部作をぶっ通しで演奏するパフォーマンスへ。
アルバムでは3曲に分かれているが、トータルで1曲の組曲というのがこの楽曲の本来の姿。複雑な構成、場面ごとの変拍子、転調を繰り広げて次々と展開していくこの曲を、続けて歌い切る将の歌唱テクニック。その間何度かやってくるギターソロで、ヒロトと虎はどこまで個性を打ち出したプレイを見せられるのか。リズム隊の沙我とNaoは、自分の体力の限界値と向き合いながら、このドラマチックな曲展開をどんなビートでクライマックスまで引っ張っていけるのか。この日、目の前には、10年前に観たNHKホールとは圧倒的にクオリティーが違う歌と演奏を魅せる5人がいた。曲への入り込み方が尋常ではない。本気で魂でぶつかり合うようなひりついた緊張感をキープしながら、お互いの存在、音を感じて進行していくパフォーマンスはまさに神がかっていて、文字通り圧巻の一言だった。今ここで息づく生き物のように形を変え、蠢く音楽。これこそが生きている証。10年越しに、そんな意味合いを持って届いてきた『GEMINI』。歌い終えた将は「今日は本当にありがとう。10年前に見えなかった景色が、みんなのお陰で見られました」と、客席にそっと語りかけた。「どんな苦しみにも終わりはある。その時もキミたちのそばにいられるように僕らは走り続けます」と伝えた後、「死があるから生がある」という言葉に続いて始まったのは、『GEMINI』という物語の締め括りとなる「birth in the death」だった。無機質なサウンド、ループを繰り返すだけのギター、その中で唯一“生”を保っていた歌が、クライマックス――。怒涛のアンサンブルが渾身の力を振り絞り、魂が叫ぶようなエモーショナルな演奏を繰り広げる中で、客席に真っ直ぐ手を伸ばした将が最後に《君に幸あるように》と歌った瞬間、時が止まった。祈り、優しさ、慈愛が込められたこの一節が身体中に染み込んでいった瞬間、多幸感に包まれ震えが止まらなかった。
「そうか、これを届けるために今年のアリス九號.の活動はあったんだ」と、その時すべての点が一つに繋がった。5人のプロデュースソングで個の力を高めたのも、プロデュースライブの中で沙我が初期のLUNA SEAをカバーするだけの“SAGA SEA”を開催してバンドに緊張感を与えたのも、周年ライブのテーマに『GEMINI』を選んだのも、すべては今こそ、この1フレーズをバンドが渾身のパワーを込め、最高の説得力を持った状態で届けるべきだという強い意思があったからこそなのだろう。そんなライブの結末、エンディングには心底驚かされた。
最後はスタッフクレジットが映画のエンディングロールのように映し出される中、メンバーは一人づつステージから姿を消した。映像に「fin」、そして「THANK YOU, SEE YOU SOON」という文字が映し出されると、客席からは大きな拍手が贈られた。
こんな時代だからこそ、彼らが強い意志でメッセージを届けたかったこの公演。
そして、これからもアリス九號.の活動は止まらない。まずは9月17日、『ONEMAN LIVE 2021~虎生誕祭~『虎 vs TORA vs 天野虎 vs MASASHI』』を神奈川・Yokohama Bay Hallにて2部制で開催する。2部のほうは[ZAIKO]でを通じて生配信されることも決定しているこの公演。4パターンの虎が一度に楽しめるという激レアな内容のライブを計画中ということなので、こちらも楽しみにしていて欲しい。
取材・文=東條祥恵
撮影=Lestat C&M Project

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