かりゆし58 “ハイサイロード”を進
むバンドとメンバーの生き方に希望を
見た、ツアー東京公演をレポート

ハイサイロード2021-バンドワゴン-

202108.27 Zepp Tokyo
かりゆし58が8月27日(金)、デビュー15周年記念した全国ツアー『ハイサイロード2021-バンドワゴン-』の東京公演をZepp Tokyoで開催した。
この公演は、昨年3月から新型コロナウイルスの影響で延期を重ねていたツアーの振替公演。15周年を迎えたこと、そして、長期休養していた中村洋貴(Dr,Per)がバンドに復帰したことをファンに報告する節目のライブとなった。
「そろそろ、かりゆし」のSEとともにメンバーの前川真悟(Vo,Ba)、新屋行裕(Gt)、中村洋貴(Per)、宮平直樹(Gt)とサポートドラマーの柳原和也が登場。まずは前川がアカペラで《君や僕のすぐそばで/聴こえるよ 希望の声》という言葉を響かせる。1曲目は配信限定EP『HeartBeat』に収録された「掌」。続いて最新アルバム『バンドワゴン』から、レゲエと沖縄音階が融合した「千惚り万惚り」を披露。切なさ、楽しさ、解放感が混ざり合う、かりゆし58ならではのライブ空間が生み出される。
「はいさーい! 大変長らくお待たせしました。今日はいろんなことを我慢してもらうけど、目いっぱい楽しんでください!」(新屋)という挨拶の後は、スカのビートと愛らしいラブソングが一つになった「そばの唄」、モータウン的なベースライン、ロックロール系のギターが共鳴する夏ソング「オリオンビーチ」で心地よい高揚感を演出。ゆったりと身体を揺らし、手拍子で応える観客も、この場所をしっかりと楽しんでいるようだ。
最初のMCで前川は、5年の療養期間を経て戻ってきた中村を改めて紹介。「洋貴の復帰祝いの1本だから」という前川に対して、中村は「また、この景色が見れて、本当に嬉しいです。一生懸命やりますので、よろしくお願いします」と挨拶すると、会場からは大きな拍手が巻き起こった。
この日のライブはもちろん、マスク着用、声出し禁止。「顔が(マスクで)半分隠れているというのは、お互いを信じる力が強まるということです。あなたが楽しいことが好きなことを俺たちは信じてます。俺たちは楽しいことをやりたくて、ここにきました。前までのライブ会場の景色と、多少違いはあろうが、信じる力は十分に鍛えてますので、あなたと最高の夜を過ごす確信を持っております」(前川)という決意に溢れた言葉に導かれたのは、宮平の作曲によるロックバラード「カケラ」。《限りなく澄んだ言葉より/透明なまま 貴方と繋がった》というフレーズは、かりゆし58とオーディエンスの関係とも重なり、大きな感動を生み出した。そして、ライブ前半のクライマックスは、代表曲「ナナ」。しなやかな裏打ちのビート、叙情性に溢れたメロディ、どこまでも純粋な愛を綴った歌詞が一つになったこの曲は今や、かりゆし58のスタンダードだ。
さらに《僕ら喜びを唄に変えるのは 届くことのなかった祈りのためさ》というラインが胸を打つギターロック「流星」、彼らの地元の歴史、この国との関係をまるでおとぎ話のように綴り、パーカッシブなビートに乗せた「シャララ ティアラ」を披露。豊かで自由な音楽性、そして、奥深く、真摯なメッセージを込めた歌を自然に共存させるセンスもまた、このバンドの魅力だと改めて実感させられた。
ここで前川は、この1年半を振り返りながら観客に語り掛けた。15周年を迎えたものの、コロナの影響により思うような活動ができなかったこと。葛藤や悔しさを抱えながらも、「洋貴がいなかった5年間を耐えれたんだから、1年半のコロナなんて吹き飛ばせるぜ」と思えたこと。
「(ライブ会場は)やっと帰ってこれた自分たちの家です。洋貴が返ってきて、家族が5人揃って。あなたたち兄弟と一緒に、今日は東京の自分たちの家で、一家団欒したいなと思ってます」(前川)。そんな言葉を挟んで放たれたのは、「ホームゲーム」。ゆったりとしたレゲエサウンドとともに、《ホームゲーム 今日をずっとずっとずっと待ってた》というフレーズが広がり、温かいバイブレーションへとつながる。そこから伝わってきたのは、ライブこそがホーム、観客は家族という彼らの姿勢だ。
ダンスホールのノリを取り入れたサウンドによって、気持ちいい一体感を生み出した「Go!MangoMan」(前川はハンドマイクで歌い、宮平がベースを演奏)、そして、「電照菊」「アンマー」という15年のキャリアを代表する名曲をエモーショナルに届けた後、ライブは後半へ。
メンバー4人と柳原が作詞を手がけ、それぞれがボーカルを担当した「HeartBeat」(作曲:新屋行裕)は、前川以外の4人のハーモニーからスタート。“さよならの瞬間まで、みんなでハートビートを刻んでいこう”というメッセージによって、会場全体に前向きなパワーが溢れる。個人的に最も心に残ったのは、その直後に演奏された「バンドワゴン-5seats-」。どんなにきつい時代であっても、孤独を分かち合い、力を合わせて進んでいきたい――あまりにも率直で純粋な思いが込められたこの曲は、かりゆし58というバンドの在り方をダイレクトに示すとともに、すべてのリスナーの心を強く揺さぶったはずだ。
メロコア直系のサウンドとともに、恋人に対する愚直なまでの思いをぶつける「恋人よ」、トロピカルな雰囲気のサウンド、新屋の表情豊かなボーカルを軸にした切ないラブソング「Endroll」、“あきらめるな、まだいけるはずだ”と聴く者の背中を押す「ウクイウタ」と多彩な楽曲を続けた後、本編最後は「オワリはじまり」。“いつか必ず終わる人生、かけがえのない時間を刻み込みながら生きていたい”という切実な感情が響き渡るシーンは、今回のツアーのハイライトだったと思う。
鳴り止まない拍手に導かれ、メンバーが再びステージに登場。
「“ありがとう”しか言えないです。ここから始まる“ハイサイロード”でもいいのかなと今日、思いました」(新屋)という感謝の言葉を伝え、「さよなら」を演奏。強い感情を込めた歌と演奏が広がるなか、ライブはエンディングを迎えた。
様々な困難にぶつかりながら、バンドを続けるという強い意思とともに“ハイサイロード”を進むかりゆし58。15周年を越え、このバンドが生み出す楽曲、そして、メンバー自身の生き方は、さらに多くの人の人生を支え、生きる糧になるはず。そんな確信がはっきりと伝わるライブだった。

取材・文=森朋之 撮影=菊池貴裕

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