koboreと2年ぶりに語る メジャーデ
ビューやライブ環境の変化を経た今、
彼らの視界はいかに

SPICEとしては約2年ぶりとなった、koboreのインタビュー。この2年で、バンドを取り巻く環境も、社会そのものも大きく変わった。バンドは、2020年8月に2ndフルアルバム『風景になって』でメジャーデビューを果たし、今まではやってこなかったストリーミング配信もスタート。そして言うまでもなく、新型コロナウイルスの猛威は、ライブバンドである彼らにも打撃を与え続けている。

ゲシュタルト崩壊が起こりそうなレベルで“中止”や“延期”の文字列が世に溢れる昨今だが、koboreはライブを諦めない。コロナ禍で実現したツアーを振り返ると、2020年9~10月:ワンマン&ツーマンツアー『HEBEREKE TOUR 2020』(35公演)、2021年2~3月:ワンマンツアー『HARU ICHIBAN TOUR 2021』(8公演)、2021年6~7月:ツーマンツアー『FULLTEN TOUR 2021』(9公演)という感じ。感染症対策を徹底しながら、また、状況によっては中止や延期の選択を採りながら、積極的にツアーを打っている。
この7月にもツアーを終えたばかりだが、新たなワンマンツアー『ZERO RANGE TOUR』は開幕直前。ライブとライブの合間を縫い、佐藤赳(Gt/Vo)、田中そら(Ba)を捕まえ、近況を訊いた。
――メジャーデビューから1年が経ちましたね。1年経った実感はありますか?
佐藤:あんまりないですね。5年、10年スパンで物事を見られるようになってきたので、1年が長いと思わなくなってきたというか。
田中:1年経った実感はないですけど、メジャーデビューから時間が経つにつれて、プロ意識みたいなものが出てきているなあと生意気にも思っています。「メジャーデビューすることだし、より一層、練習には力を入れていこう」と話し合ったことがあったんですよ。
――それはいつ頃ですか?
田中:去年の春の外出自粛期間が明けて、久しぶりにスタジオで会った時期ですかね。練習の時も、4人で曲を作る時も、今まではノリでやっていた部分も多かったんですけど、そうじゃなくて、ちゃんと頭を使って考えるようにはなりました。
――初期の頃のインタビューでは、練習はそんなにしないまま、レコーディングしちゃうと言っていましたけど。
佐藤:それ、今やったら解散ですね(笑)。あれでよく録ってたなあと思いますよ(笑)。
――メジャーデビュー以降の変化といえば、ストリーミングサービスでの楽曲配信が始まりましたね。メジャーデビュー後にリリースした『風景になって』『Orange』は、CDの発売日に配信もスタート。そして今年の6月2日には、『アケユク ヨル ニ』『ヨル ヲ ムカエニ』『零になって』『音楽の行方』といった過去作4タイトルの配信が始まりました。
佐藤:バンドやってる人間の感覚なんですけど、ストリーミングを出すのって、結構勇気が要るんですよ。やっぱり「今までCDでやってきたのに」という感覚があるし、パッケージにしろ歌詞カードにしろ、手をかけて作ってきたものを楽しんでもらいたいからこそ、CDのみでずっとやってきたので。いろいろと悩んだり、周りの人に相談したりするなかで、最終的には、もうそろそろ出してもいいんじゃないかという結論になりましたね。
田中:僕はストリーミング肯定派なんですけど、koboreというバンドを客観的に見た時に、“CDしか出さないバンド”というのが似合うんじゃないかという気持ちもありました。それに、バンドを始めたての頃、ライブ会場にCDを持っていって、ライブをしたら、初めて観たお客さんがCDを買ってくれて……ということがすごく嬉しかったから、簡単には聴かれたくないなという気持ちもちょっとあって。
――ああ。音楽が聴ける道具としての物質的な価値だけではなく、“盤を購入する”という行為・体験も含めて、CDというものに価値を見出していたというか。
田中:そうですね。だけど、僕の場合、コロナがきっかけで、最終的に「やってみてもいいんじゃないか」と思えました。今も僕たちは積極的にライブをやってますけど、お客さんの中にはどうしてもライブハウスに行けないという人もいて。だったらその分、他にできることはないかなと気持ちがありましたね。
――やっぱり、リスナーの数が増えた実感ってあります?
田中:僕、ストリーミングを解禁して1ヶ月くらいはずっとエゴサーチをしてたので、増えていることはすごく実感しています。
佐藤:自分らの親世代とか、普段CD買わないよっていう人たちに向けての発信力が強くなった感じはしますね。
――ライブの話も出ましたが、昨年の春頃には全くライブができない時期もあって。
佐藤:そうでしたね。
――今振り返ってみて、あの時期はどうでしたか?
佐藤:僕にとっては最悪な期間でした。曲作りをする気にもなれず、ずっとテレビを見ていて。……でも、自由に使える時間が増えたことに関してはよかったですね。心にゆとりができたし、一人の時間があることによって、ライブについてより考えられるようになったので。自分の中に熱を蓄えられたというか、そういう時間があったからこそ、再開後のライブの爆発力が上がっていったんだと、自分でも思います。まあ、“延期/中止になった”というのをネタにするようなライブはしないですけどね。
――というと?
佐藤:“コロナがあったからこういうライブをしにきました”というスタンスをとるとか、MCで「自粛どう?」みたいな話をするとか、そういうライブはあんまりしたくなくて。みんなマスクしてるし、こういう世界になっちゃったことは分かりきっていることじゃないですか。だから、ライブに来てまでも「自粛どうですか?」って話するのってどうなの?という気持ちがあって。だからkoboreはこれまでと変わらず、同じ気持ちでライブしていこうというスタンスです。
――なるほど。田中さんは、ライブができない時期をどう過ごしていましたか?
田中:自分は、もしもkoboreがなかったとしても、何だかんだ他に好きなことを見つけて生きていけるタイプの人間だと思っていたんですよ。だけど、ライブができないのが本当につらくて……。落ちるところまで落ちた気がします。一番ヤバい時は、壁に向かって話しかけたりしてましたね。でも、落ち込むのにも飽きてくるというか。ちょうど自分の誕生日(7月7日)くらいの時期に、友達とギターを買いに行ったんですよ。あ、僕、ベーシストなんですけど。
――存じ上げております(笑)。
田中:(笑)。で、そこからは、朝起きたらすぐにギターを触って、飽きたら曲作りの勉強をして……という生活をずっと続けていたので、めっちゃよかったですね。コロナ自体は最悪なんですけど、この1年半があったからこそ、成長できたというか。
佐藤:多分、あの時期はこいつが一番ヤバかったと思います。俺ら2人は家が近いので、1回、「曲ができてきているからそろそろまとめたい」って話して、うちに来てもらったんですよ。こいつ、その時に酒とツマミをパンパンに持ってきて。こいつヤバいなあ、どんだけ今日を楽しみにしてたんだろう、って思いました(笑)。
田中:それまでホントに人と喋ってなかったからね。インターホン押す時とかめっちゃ緊張しちゃったんですよ。「あー、あー」って声出す練習して。
佐藤:で、(インターホンが)鳴ったから出たのに、カメラを見てもどこにもいなくて。こいつどの画角で収まってるんだ? どんな押し方してるんだ?って思って(笑)。
――あはははは。田中さんは、ギターを練習したことによって、ベーシストとして得たものはありましたか?
田中:めっちゃありました! 僕は今までコードというものを理解していなかったので、ギターの練習をするうちに、自然とコードを覚えていけたのが大きかったです。koboreの曲のバッキングギターを全部練習したんですけど、それによって、「ああ、ここがこうなって、だからこの音が入ってたんだ」みたいな理論も分かるようになって。そうすると、ベースのフレーズも結構変わるんですよ。今までだったら思いつかなかったフレーズが出てくるようになったし、自分も言うのもなんですけど、超いい。今一番新しい作品が今年6月にリリースした『Orange』っていうEPなんですけど、それ以外の作品を全部録り直したいくらい。ギターはもっと早く始めるべきでしたね。……って言っても、詳しく伝えられている自信がないので、ぜひ『Orange』を聴いてみてほしいんですけど。
佐藤:でも確かに、4弦だけでベースを鳴らしている感じはしなくなったというか。「このコードが鳴ってるってことは、この音にも行けるじゃん」みたいなことを考えながら、フレーズを作るようになってきたなあというのは、すごく感じますね。同じように、ドラムの伊藤(克起)やギターの安藤(太一)からも、“こういう音にしたい”、“こういうフレーズを弾きたい”みたいな部分が明らかになってきたというか。だから今は俺が作詞も作曲もしているという感じではなく、ようやく、koboreで作曲してるなあという感覚になれていますね。
――そうなると、制作中の会話の内容も変わったんじゃないですか?
佐藤:そうですね。俺は結構感覚で作ってるところがあるし、伝え方も抽象的になりがちなんです。「ここはバンッ!って行きたい」とか「ふわふわふわ~って感じの音にしたい」とか。で、koboreって超アナログで、スタジオでバーッと合わせることが多かったから、その場でそんなふうに言っても何も伝わらず、完成するまで帰れませんっていう感じになりがちだった(笑)。でも今は、3人が曲作りを基礎から学習して、ソフトの使い方も覚えて、「気持ちがいいのは分かるけど、これは何のコード?」とか「こういう音とこういう音があるけど、ふわふわっていうのはどういうイメージ?」というふうに、僕の感覚的な部分を補ってくれているんですよね。まあ、俺は相変わらず、ふわふわふわ~みたいなことを言ってるんですけど(笑)。
――まあ、佐藤さんタイプの人が一人はいた方が、逆にバランスがよくなる気はします。その辺りも関係していそうですが、田中さんは、インタビューでかなり喋れるようになりましたよね。最初の頃は、あまり積極的に話すタイプではなかった覚えがあって。ベースの話を振っても、田中さんは喋らず、なぜか佐藤さんが「こういうことを考えてこう弾いてくれたんだと思います」と代弁したりとか。
佐藤:そう(笑)。この2人でインタビューを受ける機会も多くなってきましたけど、俺、最初はスタッフに「頼むからこいつをよこすのをやめてくれ」って言ってたんですよ。
田中:ははははは。
佐藤:こいつは「〇〇で、〇〇で~……それでまあ……そうっすね~」みたいな感じで話しがちで、「〇〇です」ってちゃんと終わらせられない。だから話が長くなるし、オチもないし。インタビューの帰りの電車で、めっちゃ詰めたこともありました(笑)。
田中:あの時はすみませんでした……。でも、より深いところで曲作りをするようになったから、喋れることが増えたのかな?
佐藤:そうだね。
田中:あと、歌詞を書いているのは赳だから、インタビューで聞かれることが多いのは、やっぱり赳で。インタビュー記事で歌詞の話が取り上げられるのは、みんながそれを知りたいと思っているからだろうし、その後ろで鳴ってる音はそんなに注目されていないというか。「この音をわざと暗くしたのは、実は、この歌詞を引き立てるためなんだよ」みたいな話を僕がしたところで……と思っていたので、自分から進んで話さなかったというのもあります。
――自分の話は面白がられないと思っていたんですかね?
田中:そうです、面白がられないと思ってたんです。1万人に1人くらいは気づいてくれるんですよ。「ここでこの音鳴ってるの、マジでヤバい!」「このギタリスト/ベーシスト/ドラマー、めっちゃ分かってる」みたいな。
佐藤:だけど、万人受けしないと思ってたというか。
田中:そうそう。だったら別に言わなくてもいいかなっていう。
――そう思わせてしまっていたことを、いちインタビュアーとして反省しておりますが……。でも今は、喋ってくれていますよね。
田中:そうなんですよね。それは、知ってほしいという欲が出てきたからかもしれないです。俺は洋楽を聴いてる時、歌詞の意味を知らなくても、めっちゃ泣いたりすることがあります。だから、音楽って歌詞だけじゃないんだよ、歌詞がなくたってメッセージはあるんだよ、ということをちょっと伝えたくなったというか。前に比べて、そういう気持ちが強くなっているのかもしれないです。
――きっとファンの人も嬉しいんじゃないかと思います。
田中:ああ、本当ですか。それならよかったです。
佐藤:4人で作曲できているという良い環境にあるからこそ、そういう変化が生まれたんでしょうね。それは多分、こいつだけじゃなくて、安藤や伊藤もなんですけど。
――そうでしょうね。
佐藤:僕ら結構バカみたいでしたけど(笑)、1年半もあったので、いろいろと学習したし、そりゃ少しは頭よくなるわな、みたいな。でも自分らのバカなところは、そもそものキャラでもあるので、頭でっかちになりすぎるのも違うなっていう。熱量は落とさないまま、カッコよくなりたいという一心ですね。
――ここ最近は、自分たちのツアーをまわりつつ、そのほかのライブにも積極的に出演していますよね。
佐藤:そうですね。コロナ以前と全く同じように戻ることはないと思うんですけど、“戻ってなくてもライブはやりますよ”、“とにかくやるのでよろしくお願いします”という意思表示ではあります。だって別に、ライブをやれないわけではないというか。感染症対策をしっかりやって、ライブハウスともちゃんと話をして、ガイドラインに沿った形であれば、ライブができる状況ではあるじゃないですか。それだったらやるでしょ、という結論に至っただけですね。コロナになったらどうしようという恐怖はもちろんありますし、だからこそ対策はしっかりしています。その上で、俺らは“ライブは不要不急じゃないよ”、“自分たちはこれがないと生きていけないよ”ということを広めていく必要があるし。そうじゃないと、今の時代にライブをしている意味がないと思っていますね。
田中:去年の秋に35本をまわる全国ツアーをやったんですけど、そのツアーで感染者が出なかったことが、僕らの自信に繋がって、次のライブにも繋がって。お客さんは喋れないし唄えないし、我慢してもらってることもいろいろとありますけど、僕ら自身に関して言えば、このくらいで日和るような、やわなバンドではないので。
――逆境に立っている時こそ燃える性分というか。
田中:対バンが有名であればあるほど、お客さんが僕たちのことを知らなければ知らないほど、燃えるのがkoboreですからね。コロナというのはさすがにイレギュラーでしたけど、これまでも逆境は乗り越えてきたつもりだし、“よりいいライブを見せてやろう”という熱はどんどん高まっていっているのかなと。今の僕ら、結構いい感じなんじゃないかと思うので、いろいろな人にライブを観てほしいですね。
――最後に、9月22日から始まるワンマンツアー『ZERO RANGE TOUR』に向けて、意気込みを聞かせていただけますか?
佐藤:まずは健康第一で。この状況なので、もしかしたら中止・延期になっちゃう箇所も今後出てくるかもしれないし、時間の変更で来られなくなっちゃった人もいると思います。そんななかでのツアーということで、一本一本をしっかりやるというのはもちろんですが、特に今回は、みんなが「お、こうくるのか!」と思うようなところに挑んでいきたいという気持ちがありますね。エンターテイナーとしてどう攻めていくかということを考えながら、ツアーをまわりたいなと思ってます。
田中:さっきも言った通り、個人的には今モチベがすごく高いし、練習もすごくいい質感でできているので、このツアーは絶対に成功させたいですね。お客さんの中には行こうかどうか迷ってる方もいると思うし、いろいろな意見があっていいと思うんですけど、来てくれた人にはいいものを観てもらいたいなと。僕たちは、ライブハウスに来る人のことを全力で肯定します。

取材・文=蜂須賀ちなみ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着