Ensemble FOVE 坂東祐大(作曲)×多
久潤一朗(フルート)が語る待望のホ
ール公演『ZINGARO!!!』~トッププレ
イヤーたちによる刺激的なステージに
向けて

現代音楽からポップス、そして映画やTVドラマのサウンドトラックまで、マルチな才能を魅せる若手作曲家・音楽家の坂東 祐大(ばんどう・ゆうた)。最近では、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ、フジテレビ系)や細田守監督の映画『竜とそばかすの姫』の劇伴音楽を担うなど、その類まれな才能に熱い視線が注がれている。
坂東の呼びかけで、ヴァイオリンの尾池 亜美(おいけ・あみ)、フルートの多久 潤一朗(たく・じゅんいちろう)、サクソフォンの上野 耕平(うえの・こうへい)をはじめとした、第一線で活躍中の人気プレイヤーが集まって結成されたのがEnsemble FOVE(アンサンブル・フォーヴ)。個々のプレイヤーがその才能を遺憾なく発揮し、既存の枠組みにとらわれない自由でクリエイティブな活動を展開してきた。そして、FOVE初となるホール公演『ZINGARO!!!』が2021年9月12日(日)、彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホールで行われる。2019年にリリースしたCD『ZINGARO!!!』の世界観をステージの上に再構築し、あたかもシアター・ピースのように仕立て上げる。坂東の手によって現代的にアレンジされたツィンガロ・ミュージック(ジプシー系音楽)の数々が、トッププレイヤーたちによって鮮やかに描き出される。坂東とFOVEコアメンバーの一人で、チクワ笛で大注目の多久に、公演に向けた想いから最近の活動までを訊いた。
坂東祐大、多久潤一朗 (c)ヒダキトモコ

■トッププレイヤーが集まり、普通のコンサートでは出来ないことを
――FOVEとしてステージに立つのは、久しぶりですね。
坂東:録音はやっているんですけど、外での公演活動は本当に久しぶりです。お客様の前で演奏するのは一年半ぶり以上じゃないですか。
多久:そうですね。自画自賛じゃないですけど、Ensemble FOVEはソリストとしても人気のあるメンバーが揃っています。このメンバーが揃ったらどんな演奏が繰り広げられるのかというところを楽しみにしていただけると思います。丁度、「FOVEで活動していくぞ」っていった時に、こういう状況になってしまったので、煮え切らない部分も多かった。ですから、今回の公演で溜め込んできたエネルギーを一気に発散させたいですね。
坂東:これまでのFOVEのプロジェクトはインタラクティブな公演でした。どのジャンルにも属さないんだけども……しっかり現代音楽があるという公演です。今回の『ZINGARO!!!』にもそれは生きていて、オーケストラではできない密なコミュニケーションで、しかもトッププレイヤーが集まってできるということが、楽しみなところ。普通のコンサートでは出来ないようなことをやります!
坂東祐大 (c)ヒダキトモコ
――『ZINGARO!!!』というプロジェクトについて詳しく教えてください。
坂東:『ZINGARO!!!』は、Ensemble FOVEのオリジナルのプロジェクト。最初はCDを想定していたので、録音としてどれだけ面白いものが作れるかなというところから始まっています。
多久:ジプシーの音楽を取り上げるっていうのはヴァイオリンの尾池さんのアイディア。どんなテーマだとしても、坂東くんというフィルターを通せば、新しいものになるだろうなって思っていました。
坂東:CDから、実際にステージで演奏してみようという話になったのが、2019年12月ごろ。まさにコロナの直前ですね。そこから2公演させていただきました。1つはパイロット版という感じでしたが、ちょっと忘年会的なノリで行ったもの。30~40分ぐらいの本当に小さなステージでしたが、楽しかったのでホールでやれたらもっと面白いよねってことになりました。
――今回は彩の国さいたま芸術劇場でのホール公演ですが、どのようなことを意識されたのでしょうか。
坂東:ホールではお客さんとの関係性がまた変わってくるので、今までやったことないような見せ方を色々と企んでいます(笑)。
多久:移動できるというのがホールの利点。逆に空間を大きく使わなきゃいけないっていうところもありますね。演奏のスタイルとか、テンポとか、全てが大きいホールを意識したものに変わってくると思います。また、今回はメンバーによる即興が入るんです。即興はお客様と一緒の空間で作るものですから、そこで生まれる空気感もやっぱり対面ならではですね。
多久潤一朗 (c)ヒダキトモコ
坂東:彩の国さいたま芸術劇場では、リハーサル前にクリエーション期間を頂けるのが有難いですね。普通、クラシックの公演だと、リハーサル後にすぐ本番となるので、クリエーションの時間はほとんど無いのですが、実際の空間で、舞台監督や音響・照明も入れて色々試しながら舞台を作ることができるのは心強いです。
――『ZINGARO!!!』のメイン・ヴァイオリニストを務められるのが尾池亜美さんですが、彼女の魅力はどんなところでしょうか。
坂東:尾池さんは、僕が高校一年生だった時の三年生の先輩です。彼女は本当のエリートなんですが、予測不可能なところがあって、そこが素敵だと思います。
多久:尾池さんは、FOVEを代表するメンバーですが、メチャクチャだけど上手いっていうのが本当の魅力だと思います(笑)。型ができているから、どれだけメチャクチャに弾いても上手く演奏できるんです。サックスの上野耕平も僕も、多分、この業界では1番上のプレイヤーなんですが(笑)、尾池さんは、僕らが引くぐらい縦横無尽。 ただ、彼女はそれをあまり見せてくれないんですよ。彼女の本当の魅力が見られるのはFOVEの公演だけです!
坂東:尾池さんもですが、実は、FOVEのメンバー全員がそうなんです。FOVEでは、全員が「リミッターを解除する」ことをすごく大切にしています。普段のコンサートではできないことをこの場だったらやるという姿勢があります。
坂東祐大 (c)ヒダキトモコ

■Ensemble FOVEが目指す先
――Ensemble FOVEというグループ名は、New FOcus, New Vision and Experimentの略称ですよね。坂東さんが命名したのですか。
坂東:多久さんと一緒に決めた気がします。既存の単語でやるのはハマらないし、バンドみたいな名前にするとそれはそれで分からなくなるし……みたいなところで落ち着いた気がします。だいぶ前なので記憶が薄れていますが……。
多久:僕は覚えてますよ!『ラ・ラ・ランド』が流行ったころだったので、『バ・バ・バンド』がいいんじゃないかって(笑)。そのぐらいに煮詰まっていたんですね。名前を付ける時に活動のスタイルを見直しました。どこまで行っても僕らは「クラシック」なんですよ。でも、結局、純粋なクラシックのプレイヤーにはなれない。日本人の血が流れているので、非常に宙ぶらりんな存在なんです。正攻法は無理だっていうところが最初からあって、だったら「こうやってやったら面白いぞ」っていうのを日本から発信していくというのが理念なのかなと思っています。
――オリジナル・プロジェクトも重ねるなかで、大切にされてきたのはどんなことなのでしょうか。
坂東:お客様に能動的に、前のめりに聴いてもらうには、どんなことができるのかを徹底的に考えてきました。多久さんが話されたように、クラシックって、もともとはヨーロッパのものですよね。明治時代に輸入され、お稽古事としてみたいなところもあって。根付いているようで、全然、根付いていない。演奏者の中にも、日本人がヨーロッパの音楽をやっているのを考えない人は結構いると思うんですよ。そこを完全に無視してやるのもあるとは思いますが、ちゃんと考えてやりたい。日本人なのにクラシックをやっているっていうところに、自分なりの回答をちゃんと用意したいと考えてきました。そういうクリエイティブなことがないと、価値も意義も分からなくなってくると思うんですよね。だから、お客様にどれだけ能動的になってもらい新しい発見をしてもらうかが大事だと思っています。
坂東祐大、多久潤一朗 (c)ヒダキトモコ

■『竜とそばかすの姫』とチクワ笛の舞台裏
――お二人の最近の活動をお聞かせください。坂東さんとFOVEは、先月、公開された細田守監督の映画『竜とそばかすの姫』の劇伴音楽にも携わりましたね。
坂東:ええ。スケジュールは大変だったのですが、結果的に日本のサウンドとは思えないようなものが出来上がり、面白かったですね。音楽監督の岩崎太整さん、スウェーデン出身のルドウィグ・フォシェルさんと僕の3人の作曲家で作っていったんですが、それぞれの引き出しが違うので、とてもクリエイティブな時間でした。しょっちゅう電話しながら、コミュニケーションを密に取りあいました。
多久:坂東くんの作品は何度もレコーディングしてきましたが、『竜とそばかすの姫』は個人的に一番良かったですね。坂東くんは器用で、どんなジャンルもいけるんですけど、コンテンポラリーの作曲家としての地力がやっぱり違う!
――特に印象に残っている曲はありますか。
多久:坂東君の「アンベイル」という曲。音符が縦にいっぱいに並んでいて、レコーディングの際にずっとスコア見ていて、「これ、どういう並べ方なんだろう」って……何の和音なのか全くわかんないんです。ただ、こういう手法を現代音楽のコンサートじゃない場所で使うから更に新鮮味があって面白いんですよ。
坂東:ははは(笑)。
多久:アニメの音楽だから「ちょっといい感じのメロディ」の曲というわけではなく、最先端の音楽をぶつけられるっていうのはやっぱり坂東君じゃないとできないんじゃないかな。オーケストラで特殊な音響を作る力って、現代音楽のコンサートで発揮しても、なかなかお客さんの所に届かせるのは難しいんですが、今回は、そういった音響がすんなりとお客さんに届けられるので、個人的に嬉しいですね。
――少し話は変わりますが、多久さんのチクワ笛も最近の活動ということでは面白い取り組みですね。以前、子ども新聞の記事で読んだ気がします。
多久:子ども新聞の時は、「もう『ちくわ』は普通なので違うものを吹いて下さい」と言われてしまいました。ネギとか……CD-Rとか……。
坂東:ははは(笑)。
多久:CD-Rなんて吹けるわけないと思ったんですが、吹けたんですよ! そうするとやっぱり盛り上がるじゃないですか。音楽って、楽器を使うと面白くないんだなと、思ってしまいました(笑)。
多久潤一朗 (c)ヒダキトモコ
――多久さんの笑いのセンスは凄いですよね。
坂東:多久さんは裏技の達人! 正攻法モードもすごく上手いんですが、裏技が兎に角すごい。
多久:あ、そうなんですよ! 小学生の頃はファミコン全盛期だったんですけど、本にも載ってない裏技を見つけて、友達に披露するのを生き甲斐としていたんです(笑)。
――反響が凄かったんじゃないでしょうか。
多久:ソニー音楽財団の「こどものためのクラシック」というYouTubeチャンネルを見てもらうと分かるんですけど、僕の回(「ちくわ、コップで誰でもフルート奏者!やってみようお家コンサート」)だけ再生回数がすごく上がってます。僕の動画は、口調こそ子ども向けですが、完全に大人向けなんです。子どもってなんか「子ども」として扱われるとダメなんですよね。僕にも子どもが3人いるので分かるんですが、「こういうのは見ちゃだめ」っていうのを見ますし、大人が食いつくのもやっぱり大事ですね。
――お二人の今後のご活躍を楽しみにしています。最後に、『ZINGARO!!!』を楽しみにしている読者の方に向けてメッセージをお願いします。
多久:個人的なことかもしれませんが、高校の卒業演奏会が彩の国さいたま芸術劇場でした。僕と坂東君は二人とも埼玉県出身なので、さいたまから発信するということで力がはいります。是非、聴きに来てください!
坂東:彩の国さいたま芸術劇場は、音楽だけの劇場ではありません。コンテンポラリーダンスや演劇にも力を入れていらっしゃいます。音楽でも、新しい表現を発信出来るのを楽しみにしています。こうした状況下ですが、ここでしか見れないものを作りますので、是非、遊びに来てください。
坂東祐大、多久潤一朗 (c)ヒダキトモコ
取材・文=大野はな恵

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