樋口楓 2ndシングル「Baddest」イン
タビュー「『俺100』と樋口楓の両側
面を捉えてもらえたのは本当にうれし
かったし、新鮮でした」

樋口楓の2ndシングル「Baddest」が8月25日にリリースされた。
このシングルの表題曲は現在放送中のテレビアニメ『100万の命の上に俺は立っている』第2シーズンのオープニングテーマに採用されている。樋口がアニメソングを歌うのはこれが初めてのこと。過去のインタビューで『ラブライブ!』を愛するあまり、関連楽曲を発表するレーベル・Lantisに自ら売り込みをかけ、見事メジャーデビューを勝ち取ったと語っていた彼女は、アニメソングを前になにを思うのか? その心中を探った。

■「いいところも悪いところも含めて、あのときの私の精一杯を受け止めてほしい」
――2月の1stワンマンライブってご自身で振り返ってみていかがでした?
なんか若いなあ、って思いました(笑)。
――たった半年前のできごとなのに?(笑)
でも、本当に「あの頃はなんかメンタルが弱かったなあ」っていう気がするんです。メチャクチャ緊張したし、怖かったし。リハーサルが終わってから本番までずっとスタッフさんに相談に乗ってもらっていたくらいローテンションでしたから。
――とはいえ、ライブ当日は本番1時間前からニコニコ生放送で事前特番をやっていて、その中で同じく「にじさんじ」に所属するVTuber・月ノ美兎さんが楽屋を突撃する企画もあった。
はい。
――そのときもちゃんと面白おかしくトークしていたし、もちろんライブ本番も堂に入ったものだった。でも実はそこまでノリノリではなかった?
そうだし、それはたぶんファンの方や月ノさんにも見抜かれていたと思います。ニコニコのコメントもそうだし、月ノさんからも「だいぶヤバそうだね」って言われたので。思いっきりバレてました(笑)。
――じゃあ反省しかないライブでした?
いや、得るものももちろんあったし、あのときできることは全部やりきった自信もあるんですけど、反省は残りますよね。ただ、それは毎回、どんな活動においてもそうで。後悔しないように、失敗しないように準備をしているんだけど、本番のあと、客観的にそのときの自分のことを振り返ってみると「全然足りなかったな」と思うことがたくさんあるので。それにもし100点満点をあげられるようなパフォーマンスやおしゃべりができたとしても、そこで満足するんじゃなくて、その成功を今後に活かしていかなきゃいけないな、と思っちゃうんです。ただ、そのがんばった瞬間の自分のことは認めていかなきゃそれはそれでシンドイよな、とも思うんですけどね。
――8月25日に、まさにそのライブの模様を収めたBlu-ray『Kaede Higuchi Live 2021 "AIM"』がリリースされますけど……。
当然そのときの私の姿を否定するつもりはないですね。いいところも悪いところも含めて、あのときの私の精一杯を受け止めてほしいな、と思っています。そして来年、再来年にまたライブやイベントをやれたなら「あっ、成長したな」って感じてもらえればうれしいですね。
――今の樋口さんの口ぶりだと2ndワンマンライブが開催されて、そこで1stのときよりも成長した姿を見せることができたとしても、ご自身は満足しなそうですね。
たぶん満足したら引退しちゃうと思います(笑)。だから完走はないというか、本当に事故なんかで活動ができなくなりでもしない限り走り続けるんじゃないですかね。
■「VTuberがアニメのテーマソングを歌うこと自体、挑戦」
――そして、そのライブでアニメ『100万の命の上に俺は立っている』(『俺100』)の第2シーズンのオープニングテーマを担当することを発表して、ライブBlu-rayと同じ8月25日にはその曲が収録されたシングル「Baddest」がリリースされます。
実はいまだに信じられないというか……。もともと「ラブライブ!」シリーズに憧れてLantisに自分から売り込みをかけたから、今回夢が叶ったといえば叶ったんですけど、あんまり実感がないんですよね。いちオタクだった私が主題歌を担当させていただけるということに。シングルがリリースされて、いろんな人の意見が届いたらようやく納得できる気がします。
――タイアップを勝ち取れた要因ってなんだと思います?
勝ち取れたのかどうかはわからないんですけど、『俺100』第1シーズンの1話と2話のYouTubeでの同時実況配信をやらせていただいたのがご縁だったのかな? と思っています。
――「いちオタクだったのに」っていう言葉にリアリティのあるエピソードですね(笑)。同時実況はもちろんお仕事だったんでしょうけど、言ってしまえばアニメを観て感想を言っているだけ。
そうなんです(笑)。もともと原作マンガを読んでいたので「あっ、アニメ化されるんだ」「楽しみだな」くらいのノリだったのに「同時実況をぜひ」というお話をいただいて「あれっ? 仕事になった」ってビックリしたくらいですから。しかもツッコミどころ満載のアニメじゃないですか?
――アニメ内世界を統括する・ゲームマスター役の声優が毎回変わるんだけど、最終的には天龍源一郎が出てきましたしね(笑)。
しかも「いらすとやさんとタイアップだ!」とか言って、いらすとやさんの提供している素材で映像を作ったり。だから私、同時実況でかなりキツいツッコミを入れまくってたんです。まさか第2シーズンの主題歌を任せてもらえるなんて思ってなかったから(笑)。
――そのアニメの主題歌を樋口楓の名前で歌うことについて思うところは?
思うところ?
――これまで樋口さんはVTuberである私と普段の私のギャップや、そのギャップから生まれるダイナミズム、それからバーチャルとリアルのあわいという、ご自身にしか歌えないことを歌ってきた。
はい。
――一方、今回のシングル表題曲「Baddest」では『俺100』という番組を……。
紹介しないといけないですね。
――ところがRUCCAさんによる歌詞を読んでみると〈抗い尽くせ ノンフィクション〉というように『俺100』の歌でもあり、樋口楓の歌でもある作りになっている。
でも、タイアップ曲を歌うのは初めてだったので、どのくらいの割合でアニメの要素を盛り込んで、どれくらい樋口楓の要素を盛り込めばいいのかわからなかったんですよね。サウンドについては、プロデューサーでこの曲の作曲・編曲をしてくださった光増(ハジメ)さんと以前から「いつかはゴリゴリでダークなロックをやりたいね」という話をしていたところに、命の重さがテーマのひとつである『俺100』のテーマソングを、というお話がきたので、私と光増さんで「こうしよう」って決めたんですけど、歌詞についてはほとんどお任せしました。唯一「樋口楓らしさをなくしたくはない」というお話はさせてもらいましたけど。
――そしてできあがってきたRUCCAリリックはいかがでした?
さっきおっしゃっていた〈抗い尽くせ ノンフィクション〉や〈こんな世界も 愛せる 自分になる日が来るのかなぁ〉なんかはVTuber・樋口楓の一面を描いた言葉だと思うし、〈「どうせ 貰った生命だ」 利己的にNo End〉はまさに『俺100』の世界。命がけで戦っている主人公・四谷(友助)たちのための言葉でありつつ、私も自由でありたいとは思っているので「なるほど、タイアップ曲ってこういうものなのか」ってちょっと鳥肌が立ちました。私が『ラブライブ!』を好きな理由もアニメのストーリーとキャラクターの心情と声優さんの生き方や声が全部リンクしているところだから、『俺100』と樋口楓の両側面を捉えてもらえたのは本当にうれしかったし、新鮮でした。
――なんでRUCCAという人は樋口楓像をこうも言い当てられるんでしょうね? RUCCAさんが天才的に人の機微に聡いのか、樋口さんが普段からパーソナリティをダダ漏れにしているからなのか(笑)。
どっちもじゃないですか?(笑) 過去のCDを聴いたり配信を観てくださった上でちゃんと樋口楓像を捉えてくださったRUCCAさんが素晴らしい方なのはもちろんなんですけど、普段の配信でいろんなことをダダ漏れにしていることは否定できないですから。
――一方サウンドなんですけど、もともとこういう暗くて重たいロックって樋口さんの音楽的ボキャブラリの中にあったんですか?
あんまり聴いてこなかったですね。ただいろんな挑戦はしてみたいから歌えたこと自体はうれしかったです。デスボイスもやらせてもらえましたし。
――イントロのデスボイスって樋口さんの声なんですか?
仮歌の段階では、たぶんサンプリングなんだろうな、っていう声が入っていたし、このままこれを使うんだろうなと思っていたんですけど、歌のレコーディングが終わったあと光増さんに「まだ疲れてない?」って聞かれ……。「大丈夫です」って答えたらやることになってました(笑)。
――なんか面白い矛盾をはらんでますね。アニメタイアップにはアニメの紹介をしなきゃいけないという制約があるはずなのに、アニメタイアップだからこそ新しいことに数々挑戦できている。
確かに(笑)。でも本当に歌詞も曲も私のやりたいことにも『俺100』の世界にもピッタリだったから、あんまり「アニメソングだから」っていう葛藤や縛りを感じることなく作ることができました。
――じゃあボーカルレコーディングもスムーズでした?
いや、ボーカルについては「アニメソングだから」っていうことを考えました。アニメのオープニングの時間……90秒の中でちゃんと『俺100』のことを伝えなきゃいけないし、飛ばされたりもしたくないですから。私自身、いち視聴者だったからわかるんですよ。今のレコーダーって観なくていいやっていうシーンだけ飛ばすことができるじゃないですか。
――多くの機種にCMの前後に自動的にチャプターを打つ機能が搭載されてますね。
それでも飛ばされずに1人でも多くの人に聴いてもらうためにはどうすればいいか? たまたまテレビを点けたら私の曲が流れてきたっていう人に「いい曲じゃん」って思ってもらえるにはどうすればいいか? って考えながらボーカルレコーディングには臨みました。ただ、だからこそすごい力んじゃって、最初はいつもどおり歌えなかったんですよ。それで「ノドの調子が悪いわけでもないのに、なんでこんなに歌えないんだ?」って焦ったんですけど、光増さんから「力まなくていいよ」「アニメのスタッフさんは樋口さんの歌を使いたいんだから『アニソンだから』って考えなくていいよ」ってアドバイスをいただいて。それで「あっ、ムダに緊張してたのかな?」って気付けて、そこからはリラックスできました。
――ちなみに『俺100』のキャラクターに感情移入ってできます?
通常版ジャケット
うーん……。声優オタクなのでカハベル役が斎藤千和さんであることにテンションが上がったりはするんですよ。「わっ、ちわわ(愛称)がなんかめっちゃ照れてる!演技うま!」とか(笑)。だからいちオタクとして楽しんではいるけど、キャラクターに感情移入できるかというと……。
――主人公は利己的極まりないし、力を伴わない正義感を振りかざす子はいるし。
でも私自身、ずっとオンラインゲーム……『マビノギ』っていう自由にジョブチェンジできるゲームをやっていたので、四谷が利己的になったり効率厨になったりする気持ちはわからなくはないですね。
――そうか。ゲームの世界に転生した四谷にしてみたら、なにはなくともクリアを目指さなきゃいけないから……。
効率的なものの考え方をしがちになっちゃうんです。『俺100』の世界は命を賭けたゲームの中だから、私も四谷のように淡々とレベリング(レベル上げ)をするだろうし、死にそうなキャラクターとパーティを組んでいたら「頼むからちょっと隅っこにおって」って言いたくなるだろうし。さすがに四谷みたいにほかのプレイヤーを「役立たず」って呼んだりはしないですけど(笑)。
――あと「Baddest」は『俺100』第2シーズンのオープニングテーマです。
そこなんですよねえ(笑)。
――第1シーズンのオープニングテーマを担当していたのは高槻かなこさん。ラブライバーである樋口さんだからこそ思うところがあるのかな? という気がするんですけど……。
お話をいただいた瞬間「えっ、高槻さんのOPを引き継ぐの!?」とは思いました(笑)。高槻さんと同じレーベルだからお話をいただけたことは当然わかっているんですけど、それ以前に私は高槻さんのファンなので。畏れ多いという気持ちもあるし、でも第1シーズンと比べられるなら負けないものを作りたいな、といういい意味でのプレッシャーはありました。
――でも「いい意味でのプレッシャー」なんですね。ライバルがいるから張り合いが生まれるというか。
いや、ライバルじゃないですね。憧れの人に挑戦するしかないって感じです。……というか、VTuberがアニメのテーマソングを歌うこと自体、挑戦じゃないですか。
――そうですか? 聴いているこっちとしてはボーカリストのビジュアルが樋口さんのように平面なのか、高槻さんのように立体なのかくらいしか違いはないというか。別に誰が歌っていようとカッコいい曲はカッコいい曲だと思うんですけど……。
すでにアニメソングを歌っているVTuberさんもいらっしゃるんですけど、それでもまだアニメファンの方に私たちの存在を認識してもらえているかというと……という気がするんです。実際にゲームのストリーマーさんや声優さん、アニソンアーティストさんのラジオや配信番組に出演させていただくと、SNSで「あっ、こういう意見もあるんだ」っていう感想を見かけたりしますし。それに以前もお話ししたことなんですけど、私はVTuberを認知してもらうためにLantisに入ったので。今回の「Baddest」はその大きなチャンスだけにやっぱり失敗はできない。そういうことは常に考えちゃいますね。ぶっちゃけ、今もちょっとモヤモヤしています(笑)。
――やっぱり樋口さんは面白いな(笑)。当然、このインタビューにはシングルのプロモーション的側面もあるのにモヤモヤしてますか。
してますねえ(笑)。2月のライブと一緒。当然そのときできる100点のレコーディングをしたつもりだし、RUCCAさんの歌詞だって最初に「Baddest」……Badの最上級のスラングで「最低」であり「最高」っていう意味なんですけど、その言葉をもらった瞬間、それこそ「最高じゃん!」ってなったし、光増さんのサウンドもカッコいい。ちゃんと100点のパッケージを作れたとは思うんですけど、やっぱりアニソンを歌うVTuberの先駆けのひとりであるっていう緊張感はどこかにありますね。
■「Sting or stung」と「ikiteku.」のほうがレコーディングには時間がかかりました」
――最初の質問と似た話になっちゃうんですけど、樋口さんはどういう存在になれたら満足がいくんでしょうね? このシングルがチャートで1位を獲得したら満足なのか? 次のライブがドーム球場だったら満足なのか?
いや、たぶんゴールはVTuberが総理大臣になることとかじゃないですか?(笑) 別に私が一等賞にならなくてもいいから、そのくらいVTuberが認められる、支持されるようになってくれればいいなと思っています。
――その言葉を踏まえた上でカップリング1曲目の「Sting or stung」を聴くと、また響き方が変わりますね。取材直前まで「ベースが派手にスラップして、ピアノもガンガン弾きまくっている楽しいダンスロックなのに、なんでこの人は『刺すか刺されるか』なんて物騒なタイトルを付けてるんだろう?」って思っていたんですよ。
私がメチャクチャ大げさに物事を捉えているだけなのかもしれないですけどね。毎日本当に楽しく配信しているVTuberさんはいっぱいいらっしゃるんですけど、私はVTuberという存在が名を広め出した頃から活動しているから、どうしても「VTuberとは?」っていう視点に立っちゃうのかもしれない。……あっ、あと、これで生計を立ててますから(笑)。
――そりゃ必死にもなりますね(笑)。そしてこの曲の作詞は光増さんと並ぶ、もうひとりの盟友・平朋崇さん。〈二人羽織な自分騙りの他人語りじゃ洒落にもならんぜ〉〈逆境も理不尽も何でも有りなノンフィクションだ 降りてやる理由も無いな〉と、樋口さんのありようをまくしたてるように歌うリリックを創り上げています。作り方はいつものようにまず平さんから第1稿をもらって、それに樋口さんがリクエストを加えていく方式で?
そうですね。で、この曲は今までで一番お戻しをさせていただいた曲で……。
――樋口さん、リリースがあるたびにお戻しの回数の新記録を塗り替え続けてますよね?(笑)
……はい(笑)。『Baddest』は『俺100』のファンの方も聴いてくれるシングルになると思ったので、そういう要素がほしかったんです。あくまで樋口楓の曲なんだけど四谷たち……中学生の子たちならではの中二病感もあふれる感じで。たとえばちょっと難しい言葉を使いたいな、とか。作曲・編曲のえとゆまさんのメロディがノーツ(音符)が多かったので、そこに国語辞典を引かなきゃわからないような言葉をたくさん散りばめたくて。
――平さんの第1稿にはその中二感が足りなかった?
いや、逆というか、平さんは歌詞の中でものすごい物語や世界を構築なさる方だからこそ、最初にいただいた歌詞の描いているものが中学生にはわからないどころじゃなくて、私にもわからなくて……。
――リジェクトしたのは樋口さんの国語力に若干の不安があったから?(笑)
そうなんです(笑)。理解できない言葉がいっぱいで。スタッフさんに隣にいてもらって、いちいち全部の言葉の意味を教えてもらいながらメモを取ってましたから。国語の授業を受けてるみたいな感じで(笑)。それで平さんがものすごく文学的な意味を込めた歌詞を書いてくださったのは理解できたんですけど、やっぱり中学生にもわかってほしいから。「彼らにもわかる日本語」「でもカッコつけた日本語で」というお願いをさせてもらいました。
――あと、そのノーツの多いスコアを書いた、えとゆまさんなんですけど、先日「でろーんさんきっかけでにじさんじにドはまりした人間にとってこれ以上ない感動です… 激アツなロックに仕上がっております!!」とツイートなさっていました。
私もそれまで、えとゆまさんが樋口楓を知ってくださっていることを知らなくて。「ベースが派手にスラップしたり、ジャズっぽく展開したり、中学生にはちょっと大人っぽく感じられるロックを」ってお願いしたら、返ってきたのがあの曲で。「めちゃくちゃカッコいいな」「この人スゲーな」と思っていたところに、Twitterでえとゆまさんが私のファンでいてくださったことを知るという(笑)。でもそうおっしゃってくださるだけあって本当に気合いの入った曲だったので、光栄でした。
――ただ、この曲って歌詞カードが黒い……要は画数の多い漢字と半角アルファベットがこれでもかとばかりに詰め込まれているじゃないですか。レコーディングっていかがでした?
めちゃくちゃ噛み噛みでしたよ(笑)。〈焼き増しの増し増しで〉みたいなところで母音がすごくあいまいになっちゃったり。
――そういうキッチリ韻を踏んでいるフレーズは母音を立たせないとカッコ悪いし、リズミカルじゃなくなりますもんね。
あとはアクセントの位置でもノリって変わるし。しかもリズムに合わせてニュアンスを付けるだけじゃなくて、感情も込めなきゃいけないから、もう頭と口がいっぱいいっぱいになってました。光増さんも「この曲難しいねえ」っておっしゃってましたし(笑)。
――プロデューサーが他人事(笑)。
だから録り直しに録り直しを重ねたんですけど、ノートの多い曲は歌ってみたかったし、できあがったものは自信を持ってみなさんに聴いていただけるものになったので、いい挑戦になりました。
――そしてシングルラストを飾るのは「ikiteku.」。……なんですけど、事前にいただいた資料によると今回のシングルのテーマはロックだ、とあります。
はい。
――なのにアレンジャーがPandaBoYさん。バリバリ打ち込みの人です。
おー、確かに! でもPandaBoYさんならではのロックに仕上げてくださったな、と思っています。
――確かにリズムマシンは使っているんだけど、基本的に刻んでいるのはオーソドックスな8ビートだし、派手に歪ませたギターをフィーチャーしているし、ジャンルで括るならロックですよね。
しかもおしゃれなんですよ。
――作曲の手島涼太さんのメロディといい、今の季節によく似合う。どこか涼しげです。
私自身は全然かわいげのない配信ばっかりしているんですけど(笑)、「それでもあえてかわいくしてください」ってお願いしたら、この曲が届いてました。
――それで「あっ、2人には樋口楓ってちゃんとかわいく見えてるんだなあ」って?(笑)
意外でした(笑)。この曲もある意味「Baddest」と同じ。これまでしっとり系の楽曲って歌ったことがないし、それは樋口楓の課題だなと思っていたので、おしゃれでかわいい曲ができたのはうれしかったですね。特にシングルに収録されているほかの2曲が激しいから、ちょっと雰囲気が変わるのもいい感じですし。
――で、作詞は安藤紗々さん。昨年末リリースのアルバム『AIM』の「現代社会、ヒロインは!」の歌詞も手がけられていて、当時のインタビューで樋口さんは「安藤さんってVTuberだったことがあるのかな?」とおっしゃっていた。
そのくらい私の気持ちを言い当てられました。
――今回も〈主観or客観?〉〈一人一人「普通」だって違うし〉と、樋口さんの見え方・見られ方に言及するリリックに仕上がっています。
安藤さんご自身が一度歌詞を渡してくれたあとにも「あっ、やっぱり直させてください」「でもこっちのほうがいいかな」って修正に修正を重ねてくださったこともあるんですけど、確かにこの歌詞はお戻しナシでした。……でもなんで安藤さんは私の気持ちがわかるんだろう? 同じ女性だからっていうのもあるだろうし、いろんな経験をなさっているからかなあ。ボーカリストでシンガーソングライターでもあるし、アイドル(Mia REGINAささかまリス子)としても活動なさっているし。いろんな側面から音楽や世界に触れている方だからなのかもしれないですね。だから安藤さんは高槻さんと並ぶ、私の憧れの人なんです。歌詞をいただくたびに「私自身の人生経験なんて安藤さんくらいになるとお見通し。本当にちっぽけなんだな」って気付かされることにもなるんですけど(笑)。
――素人目には今回のシングル収録曲の中で一番の挑戦は「Baddest」だと思っていたんです。
アニメソングですからね。
――でも実は樋口さんの実存を歌ったカップリング曲のほうがチャレンジだった?
「Sting or stung」と「ikiteku.」のほうがレコーディングには時間がかかりました。
――これまで取材させていただいた印象だと、樋口さんは主観と客観を分析的に眺められる人。「私自身はこういう人間だけど、VTuberとしての私はこう見られているんだろうな」っていう、一個人の私と社会的な存在としての私の違いを正しく認識している感じがしていたんです。
ありがとうございます。
――でも、そのことをいざ音楽で表現しようとすると……。
いやー、難しいですねえ。音楽って(笑)。
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――ここまで歌える人の言葉だけに説得力がハンパないな(笑)。その“難しい”音楽の世界で今後やってみたいことってあります?
今までもロックをテーマに活動してきたので、その軸はぶらしたくないし、自分が腹の底から思っていることを歌っていきたいんですけど、それでも伝わらないことはあるだろうし、自己満足で終わらせてもいけないと思っていて。だからいろんな人の共感や気付きにつながるように、ある意味ポップにロックを表現できたらいいな、と思っています。そういう意味でも「ikiteku.」はいいチャレンジだったし、こういう曲をまた歌えたらいいな、という感じですね。
取材・文:成松 哲

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