日常生活で感じたことがいちばんの刺
激。さとうもかのルーツと表現の原動
力に迫る

さとうもかがメジャー移籍後初のアルバム『WOOLLY』のリリースを発表、そして先行シングル「Cupid’s arrow」を公開するという情報に胸が高鳴る。状況を詳しく訊くと現段階ではアルバムはまだ未確定な部分もあるとのことだが、それならばこのタイミングで今一度さとうもかの音楽性の魅力に迫るべく、ルーツを掘り下げるインタヴューを行うことに。

ジャズやオールディーズ、R&Bやディスコ、ボサノヴァにフレンチポップ、ロックやモダンなポップミュージックなど、国内外、時代もジャンルもさまざまな音楽の要素を、ときに伝統とまっすぐ向き合うように歌い、ときに奔放な感覚でミックスすることで、まず聴いて楽しく掘れば掘るほど癖になる、まさにテーマパークのようなレイヤーをアップデートし続けてきたセンスの源はどこにあるのか。

アルバムの発売は10月13日、その直後の10月16日からは地元岡山を皮切りに、名古屋、大阪、東京とツアーも開催。その前にぜひ、彼女のアーティスト像を読むことで堪能いただきたい。
Photo:Keiichi Ito
Text:Taishi Iwami


――今回はメジャーからのファーストアルバム『WOOLLY』のリリースが決まったタイミングでのインタヴューということで、あらためてさとうさんの音楽を構成する要素を紐解きたくてお伺いしました。まず、いつ頃から演奏や作曲を始めて今に至ったのか、聞かせていただけますか?

まずは3歳くらいからピアノを習い始めました。中学校では吹奏楽部に入部してサックスを吹くように。高校生になってからは軽音楽部ではギターと歌をやっていて、大学に入った頃に一人で曲を作って歌うようになって今に至ります。大雑把に言うとそんな感じですね。

――ずっと何かしら音楽に携わってこられたんですね。

スポーツは得意じゃなかったし、進学するときもいっさい迷うことなく音楽一本でした。

――そこまで音楽を好きになったきっかけはなんですか?

小学生の頃にYUIさんやaikoさんの曲を聴いたことが、最初の大きなきかっけでした。

――YUIさんやaikoさんのどんなところに魅力を感じたのでしょうか。

メロディセンスが圧倒的にかっこよくて、どんどん好きになっていったんです。あとは声の個性、存在感。当時の私は自分の声がコンプレックスでした。クラスのみんなで歌うときとか自分だけ浮いている気がしていたし、親に「僕の先生は~♪」(ドラマ熱中時代の主題歌「僕の先生はフィーバー」)っていう歌の声に似ているって言われたこととか、当時は子供だったし特徴のある声がヴォーカリストとしての個性になるなんてわからなかったから、なに気ない言葉でもネガティヴにとらえてしまっていて。けれど、YUIさんやaikoさんの歌を聴いて人の声が持つ魅力に気づき始めた頃に、カラオケでちょっとYUIさんに寄せて歌ってみたら褒めてもらえたんです。そこで自分の声を大切に思えるようになったことは、今の活動の原点になっています。
――さとうさんの諸作品からは時代もジャンルもすごく広くて豊かな背景を感じますが、それらのルーツについても教えてもらえますか?

aikoさんやYUIさんの次はジャズですね。それも小学生の頃です。テレビのCMから流れてくる外国の曲が気になって親に訊いてみたら「これはジャズっていうんだよ」って教えてくれて、よく売っている“名曲100選”みたいなオムニバスCDがあるじゃないですか。それを買ってもらいました。同時にシャンソンとかも聴くようになって、でも特定のジャンルを掘り下げる感じではなく、YUIさんやaikoさんを好きな理由と同じように、メロディや音が綺麗だなとか、かっこいいなって思って聴いていたので、ポップスの世界が広がったような感覚でした。

――ドメスティックのポップスやジャズ、シャンソンについてはおうかがいしましたが、ほかにもボサノヴァやフレンチポップ、90年代のR&B、現在進行のジャズやネオソウル、ポップミュージックなどからの影響も強いと感じでいるのですが、そのあたりはどうでしょう。

高校生になって、ポップスと同じような感覚で聴いていたと言ったジャズのなかでも、自分の好みが具体的に自覚できるようになってきたんです。例えばDavid Roseみたいな、ストリングスの入ったサウンドとか。そこで音楽を聴くことがますます楽しくなったタイミングで、ボサノヴァにも出会ったように記憶しています。イヴェントで前から大好きだった松任谷由実さんのカヴァーを歌っていたら、そこにいたおじいちゃんが声をかけてくださって、荒井由実時代のコピーバンドに入ることになったんですけど、その方がボサノヴァにすごく詳しくて、そこからフレンチポップも聴くようになって、みたいな感じで広がっていきました。

――その流れ、90年代や00年代に、過去のボサノヴァやフレンチポップが発掘されて流行した時期のことを思い出しました。

00年代や90年代といえば、当時のロックも好きです。チャットモンチーは昔から好きで、高校生のときはLOVE PSYCHEDELICOやAvril Lavineをよく聴いていました。大学生になってからは、NirvanaやPixiesWeezerとか、90年代のロックに詳しい友達がいて、いろいろ教えてくれたんです。そのなかでもSublimeから受けた影響はけっこう大きいかもしれません。ジャズのフィーリングもあるし「Doin ’ Time」という曲ではジャズのスタンダード「Summertime」をサンプリングしていたり、「こんな感じでいろんな音楽の要素を入れてみたいな」って思いました。

――Sublimeですか。言われたうえでさとうさんの曲と照らし合わせるとわかる部分もあるのですが、意外でした。人を一方的なイメージで判断してはいけないということを踏まえても、アメリカの西海岸、カリフォルニアのビーチカルチャーやパンクのにおいとは遠い感じがしたので。まさかリファレンスにまでしているとは。

そうですよね。上半身裸に短パン姿のがたいのいい人たちがたくさんいるようなイメージで、私の見た目とはあまりにも違いますし、それは仕方がない(笑)
――先入観で本質を見失っているようじゃ私もまだまだです(笑)。近年の音楽についてはどうですか?

大学を卒業してから働いていた輸入食品のお店で最新の洋楽が流れていて、Bruno MarsMaroon 5のような、グルーヴ感のあるポップスにはまりました。そんな感じで、曲作りや歌うことにはとことん没頭するんですけど、そこと比べるとインプットに関してはそこまで積極的ではないように思います。曲を作るために新しい音楽から何かを学ぼうとか、そういうことはしないし、学校の友達や職場の人たちとの関りとか、日常生活のなかで感じたことがいちばんの刺激なんです。それをこうして振り返ると、すごく出会いや環境に恵まれていたんだなって思います。

――では、曲作りやアレンジのスタイルについても聞かせていただけますか?

高校の軽音楽部でアコギと鉄琴と歌のデュオを友達と組んだ頃からオリジナル曲を作り始めました。そうこうしているうちに作曲にどんどんはまっていって、自分一人でやりたいことも増えてきたから、家でスマホのアプリを使って曲を作るように。

――GarageBandですか?

いえ、studio.Mっていうほんとうに録音するためだけアプリです。キーボードを弾いたり歌を歌ったりして音を重ねて録っていくんですけど、とにかく楽しくてずっとやっていました。

――そういうハンドメイド感や無邪気な遊び心はさとうさんの音楽の重要な要素でもある。

そうですね。スマホで録るとどうしても音が悪くなっちゃうけどその感じも好きだし、ちょっと奇妙な音が入っている曲とか、違和感のあるものにも惹かれるんです。そこからいろいろと経験させてもらって、本格的なエンジニアさんやスタッフの方々と作っていくからこそできるいい音を実感できたことで世界が広がったから、両方の良さが入った曲を作りたいと思っています。

――なるほど。すごく腑に落ちます。というのも、ここまでで話されたことって、ファーストアルバムの『Lukewarm』(2018年3月14日)にすべて詰め込まれているような気がするんです。

確かに、そうかもしれないです。

――「old young」は古き良きジャズをベースに鉄琴やストリングスをイメージした音があって、タイトル曲は話を聞いて思ったんですけど、Sublimeの「Doin ’ Time」と近いグルーヴを感じることができます。アナログ・レコードのブツブツというノイズから始まるところが同じだから特にそう感じるのかもしれませんが。「Hello, Valentine」はボサノヴァとジャズ、「殺人鬼」のガチャガチャした感じはオルタナティヴロックにも通じる。そういった多彩なサウンドのなかに、それらをポップスたらしめる歌とメロディがあって、さとうもかならではの音楽になっていると思うのですが、オリジナルな作品を作ることとはどのように向き合っていますか?

アーティストにもいろんなタイプがいて、一つのことを突き詰める人もいれば、ほんとうにいろんなことをやる人もいる。どっちもいいなって思うんですけど私は後者に近くて、基本的に前にやったことはあまりやりたくないっていう、飽きっぽい性格なんです。でも、“オリジナル”ということについてはもうちょっと自然体で、特にそういうことを意識せずにピンポイントで好きな曲に寄せて作ろうとすることもよくあります。例えばセカンドアルバム『Merry go Round』(2019年3月20日)に入っている「Loop」は、Maroon 5の「Sunday Morning」みたいな曲を作ろうと思っていましたし。でも、なぜかそうはならないんですよね(笑)
――そしてサード・アルバム『GLINTS』(2020年8月5日)では音楽的な幅がさらに大きく広がりました。

そこはまさに、前と似たものは作りたくないし、いろいろチャレンジしていきたいっていう気持ちが出ました。当初はアルバムではなくEPとして出す予定だったんですけど、8月だし夏っぽい作品にしようと思ってストックを整理していたら、想像以上にぴったりな曲が多くてアルバムにしようって。そこで、とにかく明るくて夏っぽくて踊れるタイトル曲を先行で出してアルバムの頭に入れたんです。あとは80年代のアニメっぽい感じも入れたいなって、思っていました。

――「パーマネント・マジック」はそれかと。

はい。最初のイメージは「ラムのラブソング」で、そこにスカみたいなリズムを入れたらおもしろそうだと思ってやってみました。

――そして10月13日にメジャーからのファーストアルバム『WOOLLY』をリリースすることを発表され、先行シングルとして8月25日から「Cupid ’s arrow」が公開に。確かにこの曲も今までにない個性が際立っています。

この曲はK-POPってかわいいなって思ったことが始まりです。そこにESME MORIさんが見事な伴奏を付けてくれました。ESMEさんとはこれまでもよくご一緒させてもらっていて、しっかり話し合いを重ねて作っていくこともあるんですけど、今回はESMEさんの持ち味を存分に出してもらったほうが絶対にいい曲になると思ったので、イメージだけを伝えた程度であとはおまかせしたら1回目ですごいのが返ってきて、もう大満足です。

――「ハートの中をシャープペンで 塗りつぶせたからきっと叶うよね? 」という歌詞がありますが、そこに癒されました。子供の頃にシャーペンが折れないようにハートを塗りつぶせたら好きな人と両想いになれるって、みんなやっていたことを思い出すと同時に、私はさとうさんの一回り以上年上なので、今もそういう風習が残っているんだ思うとなんだかホッとしたんです。ちょうどコロナの情報に振り回されて疲れ切っていたんですけど、ノスタルジーを抱きしめることで心が少し軽くなりました。

それはうれしいです。これまでは近い過去や今起こっていることを歌詞にすることが多かったんですけど、今回は中学時代の思い出について書きました。バスケ部の人のことが好きだったんです。

――実体験と思われる恋愛の曲が多いですよね?ご自身の経験をダイレクトに、言葉は悪いかもしれませんが切り売りするのはしんどくないですか?

けっこうしんどいときもありますし、この先どうしようって思います(笑)。ずっと曲を作り続けている人ってほんとうにすごい。

――なのになぜそのスタンスを続けるのですか?

CMソングとか、あらかじめ誰かが決めたテーマがあってそこに向かって作っていくときは、相手の立場を考えて書くことができるし、そういう作業も好きです。でも、さとうもかがさとうもかとして単独で出すとなると、経験したことじゃないと書けないんです。映画とかも、実体験と重なる内容だったら曲のイメージが湧くこともあるんですけど、SFとかになってくると、それはそれで“観る”という経験であっても自分の周りではあり得ないことだから、物語は楽しめてもそこで感じたことをうまく曲にできなくて。あ、でも次のアルバムは宇宙っぽい曲あるかも(笑)。

――“基本的に”っていう話ですから(笑)。でも人から依頼されたら特にそこが引っ掛かることはない。不思議ですね。

私も不思議で。そうですね……、完全に自分が自分として書くときは、生活のなかで残したいと思ったことだけを残したいっていう気持ちがすごく強いからだと思います。

――それって、日記やフォトアルバムのようなものということですか?

感覚的に近い部分はあるかもそれません。

――日記ってあまり人に見られたくないじゃないですか。なのにリリースするのはなぜですか?問い詰めているのではなく、さとうさんの曲は単なる自分語りではなく表現として人に伝わる力があるので、すごく興味があります。

確かに。でもそこははっきりしていて、いちばん大きいのはポップスが好きでポップスを作りたいから。あと、私はおしゃべりなタイプではないし会話のなかで思ったことをうまく口に出すことも得意じゃないから、曲にして誰かに聴いてもらいたいっていう感情もあるんです。だから曲に対してレスポンスをいただけるとほんとうにうれしくて。次のアルバムも、誰かに何か感じてもらえるものになったらいいなって思います。

――そしてアルバムをリリースした直後からツアーが始まります。

コロナでいろんな予定が中止になったので、ようやくですね。ワンマンなんてほんとうに久しぶりだから私自身がどんな気持ちになるのか楽しみだし、今回は新しいバンドメンバーとできることにもワクワクしています。先行きは不安な状態が続きますけど、来ていただいた方が、足を運んでよかったと思えるような時間にしたいと思いますので、よろしくお願いします。
<さとうもか LIVE TOUR 2021>

2021年10月16日(土)岡山県CRAZYMAMA KINGDOM
2021年10月23日(土)愛知県 名古屋ボトムライン
2021年10月30日(土)大阪府 246ライブハウスGABU
2021年11月 7日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO

■ミーティア先行 
抽選受付日程:8月24日(火)20:00 〜 8月30日(月)23:59  
受付URL:https://l-tike.com/st1/sato-moka-meetia

さとうもか

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日常生活で感じたことがいちばんの刺激。さとうもかのルーツと表現の原動力に迫るはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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