城 南海 魂宿る歌声が届けた希望の
光、『ウタアシビ 2021夏 追加公演』
をレポート

城 南海 ウタアシビ 2021夏 追加公演

2021.8.15 duo Music Exchange
奄美大島出身の歌姫・城 南海が、『ウタアシビ』と題した毎年恒例の全国ツアーを6月から7月にかけて開催。アコースティックスタイルで、自身のルーツであるシマ唄を軸に世界の音楽を旅するように歌い、新たな試みも見られたのが今ツアー。ここでは、8月15日に東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて行われた追加公演の模様をお伝えする。
小鳥のさえずりが穏やかに響き、置かれたいくつもの観葉植物が木漏れ日を思わせるライトにうっすらと照らされるステージ。すでに、そこは癒しの場である。
暗転したのち、聴こえてきたのは城 南海の歌声。オープニングナンバーは、森山直太朗が提供した「産声」だ。城の親戚宅で眠っていたという、奄美が誇る至高の伝統工芸品・大島紬をリメイクした素敵なドレスを凜とまとい、一筋の光を浴びながら、果てしない宇宙の片隅で紡がれる命のドラマ、慈愛と祈りを歌うその姿は、美しく神々しい。
城 南海
一転、ステージに赤い光が幾筋も差し込み、ピアノ、アコースティックギター、パーカッションのラテン的な躍動が鮮烈に彩ったのは、“皆既日食”をテーマにした「太陽とかくれんぼ」。奄美民謡で使われる、コブシにファルセットを混ぜた“グィン”を自在に操り、リズムに合わせて舞うようにステージを移動しながら、時折笑顔を見せながら歌う城は、生き生きとしている。
指先までしなやかな手の動きが夏の夜に瞬く蛍を思わせたのは、郷愁と淡い恋心を温かな歌声で描く「蛍恋」。聴き惚れて、見惚れて、なんて幸せな時間なのだろう。
「奄美大島が『世界自然遺産』として登録されまして、今回のツアーは“世界”のさまざまな音楽を取り入れながら、奄美の三味線を弾いたりしながら、みなさんにお届けしております。ツアーファイナルですので、今日はとことん楽しんでいきたいと思います。みなさまも、どうかゆっくりと楽しんでいってください」
そう挨拶して、カバーコーナーへ。映画『ティファニーで朝食を』の劇中で主演のオードリー・ヘプバーンが歌った「Moon River」、映画『フェノミナン』の挿入歌であり、エリック・クラプトンの名曲として知られる「Change the World」に、奄美三味線の音色が。スピッツの名曲「渚」に、“グィン”が。まさかまさか、マッチするとは!
城 南海
中国出身・チベット民族であるalanの「明日への賛歌」で響かせた、哀愁のチベットフェイク。奄美三味線を弾きながら“グィン”を重ねた、アイルランドのバンド、ザ・コアーズの「Runaway」。チベット、アイルランドと、奄美と縁があると言われている地に受け継がれるソウルは彼女によく似合う。
「ここからは、私の故郷・シマの景色をお届けしていきたいと思います」
沖縄民謡の「てぃんさぐぬ花」。奄美民謡の「らんかん橋節」。“奄美大島”をテーマにした「島のブルース」。彼女の祖母が住む徳之島の民謡「ワイド節」。奄美大島とともに世界遺産登録された、徳之島、沖縄島北部及び西表島。奄美、沖縄で愛され続ける楽曲を、奄美三味線を弾きながら、「島のブルース」ではシマ太鼓・チヂンを叩きながら歌った城。彼女が幼いころから慣れ親しみ、愛してきた歌と踊りは、多くの人に幸せをもたらすものだ。
城 南海
バンドマスター&ピアノ・扇谷研人、パーカッション・notch、ギター・外園一馬との和やかなトークのあとは、歌でアジアへ。公私ともに親交のある松本俊明が生み、韓国ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』の台湾放送版のテーマ曲としても話題になった「月の庭」。城が歌唱を担当した、ディズニー実写映画『ムーラン』日本版主題歌である「リフレクション」。「月の庭」では奄美三味線を、「リフレクション」では今回のツアーに向けて練習を重ねたという二胡を手に歌った城。二胡は習得の難しい楽器にもかかわらず、バンドメンバーも驚くほどの上達を見せたという。実際、その幽玄な音色はとても美しかった。尽きないチャレンジ精神と表現欲が、彼女をますます輝かせていく。
「奄美の朝焼けを見に行きましょう」といざなったのは、「sunrise」。 軽やかな“グィン”が、耳に心地いい。
そして、「シマの先輩」である中孝介が登場。戦後の貧しい時代に五穀豊穣を願ったシマ唄「豊年節」では、中が三味線を弾き、城がシマ太鼓を叩いて合いの手も入れて、オーディエンスも大きくクラップ。中と城のほか、奄美大島出身のアーティストが参加する“島唄プロジェクト”による「懐かしい未来へ」では、向き合って微笑みながら歌う場面も。なにしろ、格別なコラボレーションを目撃することができた。
城 南海、中孝介
「最後にもう1曲、シマの言葉で歌いたいと思います」と前置きしたのは、初の自作詞曲である「祈りうた」。喜びも哀しみも歌にして残してきた奄美のシマ言葉をちりばめた歌と、奄美三味線の奏で。それは、シマの心を持ち続ける彼女のアイデンティティそのものだ。
鳴り止まない拍手に呼ばれ、再び城がステージへと登場。アンコール1曲目は、李香蘭主演の映画『支那の夜』の劇中歌「蘇州夜曲」で、ここでも城が歌いながら二胡を演奏。二胡の演奏も、二胡に寄り添うような歌声も、バンドメンバーをうならせた。「今はまだ座ってしか二胡を弾けないけど、いつか立って弾けたらいいな」と口にしたが、彼女ならきっとそう遠くない将来、実現してしまうのではないだろうか。
城 南海
この日のラストナンバーは、“愛を紡ぐ”ということと奄美大島名産の“紬”を掛け合わせた、デビュー曲「アイツムギ」。「大島紬の縦と横の糸のように、みなさんとのご縁をこれからも紡いでいきたいです」という彼女の想いは、オーディエンスにはもちろんのこと、配信を観ているそれぞれの胸にも、しっかりと届いた。
魂宿る歌声は、闇に光をもたらす。長引くコロナ禍にあり、停滞する秋雨前線による大雨にも見舞われる中での公演だったが、あらためて、そう強く感じた。

文=杉江優花 撮影=Takeyoshi Maruyama
※生配信とアーカイブ配信は内容が異なります。
※一部楽曲は都合によりアーカイブ配信されませんので予めご了承ください。

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