中島広稀×さとうほなみインタビュー
~上演中止を経て再び挑む、野田秀樹
作・野上絹代演出『カノン』への思い

舞台『カノン』が、2021年8月下旬より東京芸術劇場 シアターイーストにて上演される。
『カノン』は2000年に初演された野田秀樹の戯曲で、2015年に演劇系大学共同制作Vol.3にて野上絹代の演出で上演したところ、これを見た野田が「冴え渡った演出に吃驚し、再演をすれば、更に磨きがかかるのではないかと思った」と述べ、野田秀樹の戯曲に国内外の才能あふれる演出家が挑むシリーズ企画の第5弾として2020年3月に野上の演出で上演される予定だったが、新型コロナウィルス感染症拡大の影響により本番直前に上演中止となった。
主人公の太郎を演じるのは、映像を中心に活躍し、舞台出演は2018年の劇団た組『貴方なら生き残れるわ』に続き2回目となる中島広稀。盗賊団の御頭・沙金(しゃきん)を演じるのは、俳優として数々の作品に出演しながら、「ゲスの極み乙女。」のドラマ―、ほな・いこかとしても活躍しているさとうほなみ。約1年半を経て改めて上演されることになった今作について、2人に話を聞いた。
『カノン』写真左からさとうほなみ、中島広稀

■1年半経ったからできることも見えてきて断然パワーアップしている(中島)
――この作品は本来でしたら昨年3月に上演される予定でしたが、直前で中止になってしまいました。それを経て今回上演できることになったわけですが、この1年半の間、上演中止になった『カノン』という作品はご自身の中でどのような存在でしたか。
中島 上演中止になったときは、悔しさというような気持ちではなく、なんともいいようのないぽっかり穴があいたというか、無気力状態みたいな感じになっていました。だから今回の稽古に入る前も、どこか気持ちが乗って行かないような感じがあったんです。しかし稽古に入ったら思い出すし、周りの力も借りてまた以前のような気力がどんどん湧いてきました。『カノン』自体、いつどの時代にも寄り添うような作品だと思うので、1年半経ったからできることも見えてきました。個々がこの期間に考えてきたことを形にしようということで断然パワーアップしていると思います。
さとう 私も中止ってなったときは、オーディションも含めて公演直前まで長い期間みんなで作り上げてきたものが、ごっそり抜き取られちゃった感じっていうのがありました。中止が決まった後も時々夢に見るぐらい、いい意味でも悪い意味でも『カノン』というしこりがずっと残ってるみたいな感じになっていたんです。今回の稽古に入って、みんながそれぞれに考えてきたものとか思っていたものがバッとぶつかり合うと、戯曲のイメージというか「ああ、こういうことが言いたくて、そういう言い回しなんだ」という感じで前回の稽古より伝わってくるものがあって、面白みがすごい増してるな、っていうのをやっていても見ていてもすごく思います。
中島 1年半前はわかったつもりで喋ってたけど、改めて読むと「そうか、こういうことか」みたいな発見がありました。
さとう そう、本当にそうなの。ふわっとしてる言葉が多いから、何のことを言ってるのかという解釈が人それぞれに違ったりしてたところが、固まってきてるような気がするよね。
『カノン』舞台写真 撮影:阿部章仁

――野田さんの戯曲は言葉遊びだったりとか、言葉の面白さや美しさが非常に印象的で、言葉が生き物のような力強さを持っているという印象があります。役者としては、実際に口に出してしゃべってみたときの感触や印象など、どのようなものなのでしょうか。

中島 やっぱり最初は、なじみがないセリフが結構多かったので試行錯誤しました。前回の稽古に入る前、この台本の最初から最後まで棒読みで録音した音声をずっと聞いてたんです。
さとう 自分で録音したの?
中島 自分で。全員分のセリフと、ト書きとかも。
さとう えぇーなにそれ、すごい!
中島 それを聞きながら自分の中でイメージが作られていたんですが、実際に稽古に入ってみたらそのイメージをことごとく覆されました(笑)。みんな、色とりどりのセリフを言うので、それが面白かったです。
さとう どの役もみんなセリフの言い回しとか面白いんですけど、特に判官様(渡辺いっけい)と海老の助さん(大村わたる)の会話がもう本当に、意味ないように見えてとても意味のある、ただのダジャレじゃん!って思ったところが実は後々深い意味を持ってくる、というところが、この本のセリフは実際に言葉にしたときこんなに面白いんだと実感しました。
『カノン』舞台写真 撮影:阿部章仁

■この作品は心から楽しんでやっている人たちの集まり(さとう)
――出演者を見ると、実にバラエティに富んだ方々です。ご一緒されてみていかがですか。
さとう 本当にいろんな人たちがいますよね。メンバー見ると、濃いなぁ、って思います(笑)。私は判官様とはシーンが別なので、いっけいさんのお稽古を客観的によく見ているんですけど、(海老の助を演じる)大村わたるさんが稽古休みだったときに、大村さんの役のセリフだけ外から別の人が入れてお稽古をしていたんですけど、判官様のお芝居を見ていたら、いないはずの海老の助が見えるんですよ。なんだか豪華な一人芝居みたいで(笑)、それがすごいなと思いました。
中島 前回、稽古に入る前にやったワークショップで、同じシーンをいくつかのグループに分かれてやってみたんです。そのときにいっけいさんが出した案が本稽古でも採用されたんです。いっけいさんはもちろんなんですけど、他の人もみんな、アイディアの瞬発力がとてつもないなと思いました。僕はまだ舞台出演が2回目なので、こんなにも頭で思いついたことを体現できるのか、っていうところにびっくりしたんです。それはやっぱり舞台ならではというか。
――舞台役者さんって、ベテランの方になればなるほど「隙あらば何かやってやろう」みたいなアグレッシブなところがありますよね。
中島 そうなんですよ。いっけいさんも佐藤(正宏)さんも、誰よりもいろんなことにチャレンジして、毎回やることを変えてるし。
さとう 確かに(笑)。
中島 さらにすごいのが、自分たちがいろいろやるだけじゃなくて、他の人が突拍子もないことをしても全部受け止めてくれるんです。本当に尊敬する毎日です。
さとう 佐藤さんとか「爪痕残さなきゃ」みたいなこと言ってて、いやもう十分残してない?って思っちゃうけど(笑)、未だ爪痕を残そうとしていますね。しばらく稽古をお休みしていた役者さんが久しぶりに稽古場に戻ってきたときに、もう楽しさがにじみ出ちゃってしょうがないってくらい楽しんでいるのを見て、佐藤さんと「私たちって、本当に楽しいことをやってるんだね」って話したんです。この作品は心から楽しんでやっている人たちの集まりですね。
『カノン』舞台写真 撮影:阿部章仁
――野上さんの演出というのはやはり身体性を重視されていると思いますが、野上さんならではだと感じるところは何かありますか。
中島 野上さんはあまり役について細かく演出をつける方ではないので、役者に任せてくれてるんだなって思います。この部分はどうだったのか言って欲しいと思ってしまうこともあるんですが、あえて言わない厳しさというのも感じつつ、本当に大きい心で見てくれる、こっちがやることを尊重しようとしてくれる姿勢っていうのはすごく感じます。
さとう 野上さんはすごくいっぱい頭の中にアイディアがあって、演出家であり演者として出ることもできる多才さをお持ちだと思います。こちらが提示したものをすぐにのみ込んでくれるというか、野上さん自身がやりたいこともあるけど、役者が面白いことをやってたらそれを採用してくれるし、その許容範囲の広さに「頭の中、どうなってるのかな」って思います(笑)。野上さん自身が純粋に楽しんでやっているので、こっちとしてもまずは野上さんを楽しませたい、と思いますね。
中島 「ちょっとここ、こうしてみたらいいんじゃない」って見せてくれる、その動きが1つ1つ面白いんです。
さとう 的確に伝えてくるもんね。
『カノン』中島広稀

■太郎の「人間らしさ」の部分を見てほしい(中島)
――ご自身が演じる役について、どのような役か教えていただけますか。
中島 僕が演じる太郎はどこか傲慢でわがままな面があって、それが「愚直」と言われてしまうことにも繋がると思うんですけど、盗賊の中に入って自分の人生が変わっていっても、それでも変わらない部分があります。それは太郎の中のすごい綺麗な部分だと思うので、その「人間らしさ」の部分を見てほしいですし、自分は真面目に生きていても、ひょんなことから全然人間が変わってしまう危険性というのも感じてもらえたらうれしいです。
さとう 私が演じる沙金は、盗賊の御頭で人としても女性としても魅力があるので、すごく強く見えるし、実際ちゃんと強い人なんだと思うんですけど、自分のやりたいことをやるにはどうしたらいいのか、っていうのをずっと考えながら突き進んでいるんだと思うんです。そういう頭の良さと人間臭さみたいなのが融合してる人だと思うので、それが出せたらいいな、と思っています。
――この作品は2000年に初演されたものですが、どの時代にも通じるところがある作品だと思います。役に関しても、今のご自身との共通点を感じるところはありますか。
中島 僕は太郎に関して言うと「共通点が多いんじゃないか」と周りからは言われます。あまり自分ではわからないんですけど(笑)。でも、盗賊たちの言っていることも全員すごいわかるし、登場人物にそれぞれ自分と共通する部分があると感じます。
さとう 沙金はやりたいことに対してまっすぐで、私もずっと本当にやりたいことばかりやって生きてきて、自分が楽しいと思えることを生涯やれていたらいいな、って思って生きているので、すごく考え方というか、感じ方とかは沙金と似てるとこがあるかな、とは思いますね。でも、やっぱり人にはいろんな面があるので、太郎の言ってることもわかるし、みんなそれぞれに刺さる言葉は違ってくるのかな、と思いますね。
『カノン』さとうほなみ

■まだ始まってないけど、もっと公演をやりたい(さとう)
――1年半前にはかなわなかった本番が、いよいよ近づいて来ました。
中島 ここから本番に向けて、いろんなところを深めていくような稽古になると思うんですけど、この1年半は絶対に無駄じゃなかった、って今の時点で既に思っていますし、前回の公演中止があったからこそのいいものになると思いますので、機会があれば見に来ていただきたいです。
さとう 1年半前に1回作り上げたのに、今回の稽古でここはこうした方が面白いな、みたいに日々ブラッシュアップされていて、いくらでもアレンジって加えられるものだな、と感じています。ただただ、今回こそはたくさんの人に見ていただきたい、たくさんの人に届けばいいな、と思います。
『カノン』写真左からさとうほなみ、中島広稀
――公演期間も、1年半前に予定されていた日数よりも長くなりました。
さとう 増えましたよね、前回より。もっと増えても全然いいんですよ。足りないくらいです。もっと公演をやりたいです、まだ始まってないけど(笑)。もうこの公演数は揺るがないのかな?今から増えたりしないのかな?
中島 ほなちゃんが言い続けたら変わるかもね(笑)。
――公演をやりたくてしょうがないという、あふれる思いが伝わって来ます(笑)。きっと始まってしまったら、あっという間なんでしょうね。
さとう 痩せちゃうね。
中島 絶対痩せちゃうよね。
――やっぱり舞台の本番をやると痩せちゃうものなんですね! しかも今は終わった後に飲みに行ったりもできないですもんね。
さとう そうですよ、カロリーが摂取できない!
中島 前回はそこを楽しみに頑張ってたのにね。
さとう しっかり食べて、夏バテしないようにみんなで乗り切らないとね。
中島 体力つけて痩せすぎないように、程よく痩せられるように頑張ろうね(笑)。
『カノン』写真左から中島広稀、さとうほなみ
取材・文・撮影=久田絢子

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