竹原ピストル

竹原ピストル

【竹原ピストル インタビュー】
昔の話をしているように
歌ったような気がする

ヒップホップもミクスチャーロックも
意識的に取り入れたものかもしれない

アルバムのラストに収録されている「リョウメンシダ」も実にメロディアスですよね?

僕の曲にしては、いろいろとメロディーがついているほうですね。

とてもポップだと思いますよ。あと、「夏のアウトロ コオロギの鳴く頃」もそうで。とても親しみやすい歌メロを持ったナンバーですよね。ですから、“竹原ピストル=メロディー”の人であることを、このアルバムで改めて知ったところではあります。

そこを言ってくれる人はいなかったから嬉しいですね(笑)。まぁ、自分からは“そうでしょう?”とは言えないけれども、メロディーを作るのもすごく好きなんですよ。他の人の曲のカバーもするし、誰かの楽曲を聴いてライヴでやっていくうちに混じってくるものだとも思うんです。

その一方で「あっかんべ、だぜ故郷」あたりはモロに野狐禅っぽさがありますよね? 私はちょっと懐かしく感じました。1小節にバーッと言葉を詰め込んでいく感じで。

あぁ、そうですね。でも、はっきり言って、これは遠藤ミチロウさんの影響です。野狐禅を組んだばかりの頃、遠藤ミチロウさんのライヴを初めて観て…変な意味じゃなくて、“これでもいいんだ!?”と思ったんです。それまでってどっちかと言うと、ちゃんと譜割りを考えて、“ここは収まりが悪いからこうして…”としないと歌と言わないんじゃないかというくらいに気を遣っていたんですけど、ミチロウさんはバッキングでギターを刻みながら朗読して、それがめっちゃカッコ良くて、革命的な衝撃があったんですよ。“じゃあ、俺もそういうのにしよう”という感じで野狐禅に取り入れて。だから、「あっかんべ、だぜ故郷」は昔ながら…っつたら変ですけど(笑)。

竹原さんのルーツと言えばルーツなんでしょうね。

ルーツというか、そこは意識的に取り入れたところですね。フォークがかかっている店で育った…という話をしましたけど、そこで観聴きした三上 寛さんや友川かずきさん、友部正人さんとかの先輩たちはやりたい放題やってるし、言いたい放題に言ってるし、“なんて自由な表現の仕方なんだ!?”と思ったことが、僕の中で革命的だったんですよ。

なるほど。そうした過去からずっと培ってきた要素が垣間見える一方で、この『STILL GOING ON』では新しい要素も入っていますよね? 例えば、「ギラギラなやつをまだ持ってる」。これ、最初はそれこそ野狐禅っぽい印象から入るんですけど、途中からヒップホップに展開してくという。ミクスチャーロックと言っていい感じではありますよね?

ヒップホップもミクスチャーロックもどっちもすごい好きなんで、それも意識的に取り入れたものかもしれないです。こういうのは4作前(2015年11月発表のアルバム『youth』)くらいからやってて。ヒップホップのクルーのみなさんやラッパーさんたちを共演する機会ってすごく多かったんですよね。多分、こっちがジャパニーズヒップホップが好きなことが伝わるからだと思うんですが、共演を誘ってくださって、目の前であんなカッコ良いことをやられたら憧れるし、“俺もやってみたいな”って思いますよね。ひとつ韻を踏むのに10分くらい時間がかかりますけど(笑)。あと、これは野狐禅より前の話ですけど、高校~大学時代、部活でボクシングをやっていたんですけど、ボクシングで練習中に音楽をかけたりするじゃないですか。あれって学生も同じでして、大学生の時にチームメイトがいきなりかけたのがBUDDHA BRANDだったんです。“くそカッコけぇじゃん!”って言ったら、“他にもこういう人たちがいるよ”ってILLMARIACHI、KGDR、RHYMESTER、Zeebraさんとかを教えてくれて、ヒップホップはいっぱい聴いてきたんですよ。それが自然と混じってくるのかなと。ミクスチャーであれば、山嵐が超好きだし、ヌンチャクとか、cocobatとかの日本のミクスチャーもすげぇ聴いていたし…やっぱり取り入れてみたくなりますよね。

自分が好きなものだから自然と取り入れてみたくなるんでしょうね。

いや、意識的に取り入れてます。“これをギター一本でできないかな?”って。だけど、野狐禅の時や、プロになってからの何枚目かまでは、確かに韻を踏んだリリックはなかったですね。これは自由度の低い、窮屈な話かもしれないですけど、ビートに乗っけて韻を踏む歌うというのは、俺、ラッパーさんしかやっちゃいけないような気がしていたんです。ジャパニーズヒップホップが好きすぎるがゆえ、踏み入れちゃいけない領域のような。勝手にそういう線引きをしていたんですよ。

“自分がヒップホップをやっちゃいけない”と思う時期もあったと?

そうですね。それも結局、ラッパーのみなさんのおかげというか。“どうやったらうまく韻が踏めますか?”とか“どうやったらフリースタイルがうまくなりますか?”とか、そんな初歩的な、取りようによっては面倒くさい質問でも、どのラッパーさんもすごく丁寧に教えてくれたんです。あと、“あの曲はこことここで韻を踏んでいるけど、めっちゃいいと思いますよ”と褒めてくれるんですよ。そうしたら、もっと褒められたいって感じにもなったし、ある種、許可書をもらったような気持ちにもなったし、そういうやさしい人たちがいたから自分も踏み込めたかなと。だからと言って、自分のやっていることは決してラップじゃないと思っていて、弾き語りのシンガーがただビートに乗っけてしゃべっているだけ…と、わきまえているというか(苦笑)。

いやいや、「ギラギラなやつをまだ持ってる」はしっかり韻を踏んでますし、聴いてて盛り上がりましたよ。

やっぱりね、教えてもらった人たちに褒められたいんですよ。“うまくなったな”って。「Float Like a Buttrefly, Sting Like a Bee !!」の《Float Like a Butterfly/流浪の旅 歌はさすらい》で韻を踏んでいるんですけど、このアドバイスをしてくれたのはTHA BLUE HERBのBOSS THE MCさんですからね。そういう心の広さというか、“そんなの誰だってやってもいいじゃないか”みたいなところも。

音楽のジャンルは違っても、そこに垣根はないということですね。そういうミュージシャン同士のやりとりは素晴らしいことだと思いますし、何よりライヴでの対バンを通じて出てきたものだというのがいいですね。

そうですね。対バンしている中で直撃されると、やっぱりやりたくなりますよね。“カッコ良いな”って思いますから。

そういうところも、旅を通して生まれたものだと言えるんでしょうね。

そうですね。それを引っくるめて。

あと、そのヒップホップ以外でも、新しい音楽要素を取り込んだと感じたものがいくつかありまして。3曲目「御幸橋」。スパニッシュといいますか、どこかマカロニウエスタンなギターのストロークが印象的ではありますけど、このリズムは“エンヤトット”に似てませんか?

それは意識的なものですね(笑)。これとは別の過去曲をライヴでやっているうちに手癖的に出てきたビートで、“これは気持ち良いな”と。

このリズムは新鮮ですね。出だしはスパニッシュなんですけど、それが徐々に変化して和風の“エンヤトット”になる。“竹原ピストルはこういうこともやるのか?”という、いい意味での気づきがありました。

確かに、ちょっと変わり種かもしれないです。1コードで引っ張っていく曲ってそんなにないし。

あと、「御幸橋」は終わり方もカッコ良いですね。バシッと終わる。

あのブレイク終わりも遠藤ミチロウさんの真似ですね。ミチロウさんの曲であんまりアウトロを聴いたことがないというか(笑)、あの感じが好きなんですよね。“もう一回くらいリピートしてもいいんじゃないか?”というところをバツッと途中で止めちゃうところとかも好きですね。

「御幸橋」で和風を感じると言いましたが、それは「Float Like a Buttrefly, Sting Like a Bee !!」にもあって。和風と言いますか、誤解を恐れずに言えば、この曲には民謡的な感じがないですか?

民謡的なニュアンスは意識的に入れてます。これもさっきと繰り返しになっちゃうけど、“1コードでずっと進んでいくのってカッコ良いなぁ”と思って、ウチの母ちゃんのルーツが鹿児島県奄美の沖永良部島というところなんですけど、従兄弟がいたりするんで“沖永良部の民謡をちょっと送ってくれない?”とお願いして、せっかくだからルーツ的なものから勉強しようと思って音源を送ってもらって聴いたりしていて。根源的なものというか、そういうものにやっぱり憧れがあるんですよね。この先、新曲たちも書いていくと思うんですけれども、そっち側に寄せていきたいという漠然としたイメージがありますね。

かつては細野晴臣さんも沖縄音楽を取り入れりしていましたし、ミュージシャンというのは南の音楽を求めるというか、血の濃い音楽に惹かれるんですかね?

何だろう? 諸先輩方のことは分かりませんけど、自分的にはどんどん削っていきたい傾向にあるんです。今作に関してはうじゃうじゃと言ってる曲もたくさんあると思うんですけど、A、B、サビとかも取っ払って、“聴いていて気持ち良いなぁ”っていう進行や構成であり、誰が聴いても何らかの情景や感情を覚えるような余韻のある歌詞…というものへの憧れはすごく強くなっているとは思いますね。

なるほど。そのためには、学生の頃に影響を受けたフォークソングであったり、ヒップホップであったりも自身の音楽に取り込むけれども、もっと根源的な音楽も取り入れていきたいという感じでしょうか?

根源的な…ですね。

今、申し上げた通り、『STILL GOING ON』にはその要素がありますもんね。また、「きーぷ、うぉーきんぐ!!」ではバンジョーが入っていたり、鳴り物はちょっとチンドンスタイルで、ここまで話してきたものともまた違った新鮮さがあったのですが。

バンジョーを弾いていらっしゃるのは高田 漣さんなんですけど、僕、漣さんのアレンジがすごく好きで、これまで何曲もやってもらっていて、この曲も漣さんにお任せしたアレンジではあるんです。チンドンした感じというか、どうしようもない酔っ払いがグダグダしているような曲なんで、ワーッというのがいいなと思っていたので、まさにイメージ通りのものでしたね。「きーぷ、うぉーきんぐ!!」は映画『BLUE/ブルー』の主題歌として使ってもらったものだったんで、レコーディングしたのは他の曲よりも早いんですよ。そういうタイムラグもあって、聴こえ方も違って面白いなと。

そういうことでしたか。こうした弾き語りではないスタイルはこれまでもあったものだと思いますが、当然今後やっていくということになりますか?

基本的にライヴは弾き語りでやっているじゃないですか? レコーディングするにあたっては弾き語りでデモを作るんですが、“これはバンジョーが入ったらいいんじゃないかな?”と頭の中で鳴ったら入れていくけれども、企画先行的に“バンドサウンドを一曲入れる”とかとは考えないですね必要なかったら必要ないと思うし、自分の中で欲しいと思ったものはどんどん入れていく感じです。でも、僕には鳴らないけど、漣さんに鳴るものがあったり、ディレクターさんに鳴るものがあったり、人それぞれに違うじゃないですか。そういうものは柔軟に取り入れたいです。“あっ、なるほど!”みたいになるのも楽しいですから。

OKMusic編集部

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