ドレスコーズ

ドレスコーズ

志磨遼平(ドレスコーズ)
- Key Person 第17回 -

天性のものではなく、
自分で磨いてアンテナができた

ドレスコーズはアルバム『ジャズ』(2019年5月発表)に“人類最後の音楽”というテーマがあったり、アルバム『バイエル』ではCDのリリース前にサブスクリプションで各曲が完成していく過程を見せたりと、他の人がやっていないことであり、なおかつ音楽に時代の流れも取り込んで多角的に表現しているように感じます。

年齢を重ねるうちにそうなっていったんだと思います。今回の『バイエル』にしても、先にアルバムのイメージがあって、最初はなぜそれを作ろうとしているのかが分からないんですよね。“バイエル”という名前のアルバムを作ろうと決めて、“ということは、ピアノを始めないといけないのか…”と後づけでピアノを始めたり。僕には感度のいいアンテナがあって、でもそのアンテナは僕が磨いて磨いて受信するようになったものなので、天性のものではなく、磨いているうちに電波が届くようになったものなんですよ。高校を辞めるとか、自分で古い音楽を探すとか、そうやって日々を過ごすうちにアンテナが受信して使えるようになった。前作の『ジャズ』もそのアンテナで“もうすぐ世界は終わるかもしれない”と思ったのがきっかけで。世界が終わるはずはないけれど、“なんだか悪い予感がするから先回りして作っておこう”と。これは“僕の占いはよく当たるよ”と言いたいわけではなく、コロナ禍になろうがならまいが、みんな薄々と感じていることだったと思うんです。“僕らの未来は明るくないだろう”って。『バイエル』はその明るくない未来を明るくするための方法を考えようとして作ったところがあります。昔はそんなふうに未来を悲観することはなかったんですけど、変わったのはここ5年くらいですね。『平凡』(2017年3月発表のアルバム)を作った頃からです。

志磨さんが最初に始めた頃のバンド像と今のバンド像って、やっぱり変わっていますか?

うん。今ここに中学生の頃の僕が出てきて、“今どんなバンドやってるの?” って訊かれて、“今はね、一般公募でメンバーを募集しているよ” と言ったらブン殴られる気がしますね(笑)。でも、“まぁ、落ち着いて話を聞け” って2時間くらい話したら分かってもらえる気もします。

どんなふうに説明しますか?

誰よりも分かってくれると思うけど……“君は人と同じことができないでしょ? そのうえ、ひとりっ子でしょ? 残念ながら君には、人と何かを分かち合う能力が欠けているんだけど、その代わり、ひとりでずっと遊んでいられる才能があるよ” って、最近のアルバム2、3枚聴かせたらぐうの音も出ないと思うな。

この5年くらいの変化はどんなものになりますか?

例えば僕が作家さんだとしたら、それまでの作品は純文学の私小説みたいな、自分を主人公にしたお話ばかり書いてきたんですけど、『平凡』くらいからはルポルタージュというか、世の中の移り変わりを題材に書いているような、それくらい違いますね。本屋さんなら文学コーナーじゃなくて、社会とか人類学のコーナーに置かれるようなものを作っている気がします。

ご自身が生み出していくものが変わっていったのは、先ほどのアンテナのお話もそうですが、志磨さんが自分の好きなものや時代の流れを吸収し続けているからでしょうね。そんな志磨さんが影響を受け続けているキーパーソンを挙げるとしたら?

最初に浮かぶのは寺山修司さん。僕の親は浅川マキさんという歌手が好きで、それこそThe Beatlesと一緒によく家で聴かせてもらっていたんですね。その浅川マキさんの曲の作詞をしたり、ライヴやレコードのコンセプトを一緒に考えていた、今で言うプロデューサーが寺山さんだったんです。もちろん小さい頃は寺山さんが関わっているなんて知らずに聴いてましたが、10代になって寺山さんにかぶれて、どんなことをやってきた人なのかを調べているうちに浅川マキさんとの関係性を知ってびっくりしまして。“僕はとっくの昔から寺山さんの言葉と演出に出会ってたんだ!”と。僕はThe Beatlesから作曲を、寺山さんから作詞と演出を学んだんです。他の人が思いつかないやり方で、当たり前のことを別の角度で見せるというような。例えば、お芝居を劇場の中から市街に持ち出したのが寺山さんで、それはもうお芝居じゃなくて事件になる、フィクションじゃなくて現実になるという。だから、僕が今回『バイエル』でやっているようなこと、ライヴでやっているようなことも、寺山さんの影響が多大にあると思っています。

取材:千々和香苗

ドレスコーズ プロフィール

2003年「毛皮のマリーズ」結成。日本のロックンロール・ムーブメントを牽引し、2011年、日本武道館公演をもって解散。翌2012年「ドレスコーズ」結成。2014年以降は、ライヴやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わる流動的なバンドとして活動中。8thアルバム『戀愛大全』(2022年)、LIVE Blu-ray & DVD『ドレスコーズの味園ユニバース』(2023年)が発売中。9thアルバムが2023年9月13日に発売予定。秋にはアルバムをひっさげたツアーも開催予定。近年は菅田将暉やももいろクローバーZ、上坂すみれ、PUFFY、KOHHといった幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも行なっている。音楽監督として『三文オペラ』(2018年 ブレヒト原作・KAATほか)『海王星』(2021年 寺山修司原作・PARCO劇場ほか)などに参加。俳優として映画『溺れるナイフ』Netflixドラマ『今際の国のアリスSeason2』などに出演。映画『零落』(2023年 浅野いにお原作・竹中直人監督)では初のサウンドトラックを担当。現在は東京新聞にてコラムも連載中。ドレスコーズ オフィシャルHP

OKMusic編集部

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