【a flood of circle インタビュー】
独創的なアイディアが光る
アニバーサリーアルバム
結成15周年を記念するアルバム『GIFT ROCKS』が完成! 15年間の活動の中で出会い、篤い信頼を寄せる山中さわお(the pillows)、THE BACK HORN、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、SIX LOUNGE、Reiの5組が
a flood of circleのために書き下ろした楽曲をレコーディングするという手法が活かされた同作は注目の一作。ユニークかつ良質な作品を作り上げた4人の声を聞いてほしい。
今回は15周年ということで
特別なものを作ろうと
今作はa flood of circleが15年間活動してきた中で出会い、信頼を寄せている5組のアーティストに提供してもらった楽曲が収められたアルバムという。
佐々木
今回のアルバムは15周年ということで特別なものを作ろうというところから始まりました。俺らは毎年アルバムを出していて、今年もリリースすることになると思うけど、ずっとアルバムばかりだとつまらないし、何か別の経験をしたり、寄り道をしてから次にいったほうが面白い作品を作れるんじゃないかといつも思っているんです。今年バージョンのそれをずっと考えていて、最初は15周年ということでトリビュートアルバムもいいかと思ったんですよ。the pillowsが15周年に『SYNCHRONIZED ROCKRS』(2004年9月発表)というトリビュートアルバムを出して、そこからの流れで結構みんなやっているんですよね。UNISON SQUARE GARDENや9mm Parabellum Bullet、STRAIGHTENERとか。ただ、そうなると自分たちの近いところですごいトリビュートアルバムがいっぱいあるから、俺らが今やってもなと思ったんです。ゲストを呼んで参加してもらうフィーチャリングアルバムということも考えたけど、それもありきたりと言えばありきたりじゃないですか。それこそ誰もやっていないようなことをしたいなというところで、バンド外の人に曲と歌詞を書いてもらって、それをレコーディングするというのは誰もやったことがないんじゃないかという話になったんです。それで、こういう厚かましいアルバムを作ることになりました(笑)。
厚かましいとは思わないです(笑)。周りのアーティストと信頼関係が築けていたり、後輩からリスペクトされている存在でなければできないことですよね。
渡邊
確かに、信頼関係がないと曲を書いてくれたりはしないですよね。だから、今回の企画の話が出て、楽曲を提供してもらった時点で、もうめちゃくちゃ嬉しかったです。一般的な15周年のイメージにとらわれずに自分たちなりのものを作ることができて良かったと思うし、楽曲を提供してくれたみなさんにすごく感謝しています。
HISAYO
私はこの話が出た時はワクワクする反面、心配も結構ありましたね。楽曲提供してもらうって相手にものすごく負担をかけることだから、私たちのためにわざわざ時間を割いてもらえるんだろうかって。でも、今年は周年だからわがままを言っても許されんじゃないかという鈍感力で(笑)、実際にお願いをしてみたら、みなさん快く引き受けてくださって器の大きさに感動しました。曲が届く前からもう喜んでいました。
アオキ
最初に話が出た時からすごく楽しみだったし、曲を書いてくれたのは本当にありがたいことだと思いますね。出来上がってきた曲は面白いものが揃っていたし。楽曲を書いてくれた5組以外にも候補の人がいろいろいて、みんなから曲をいただいていたらどうなっていたんだろうなと思う。
佐々木
本当は40曲くらい入れたかった(笑)。頼める人がいっぱいいるから。
分かります。今作の内容を知って、楽曲提供者を5組に絞るのは大変だったのではないかと思いました。
佐々木
a flood of circleのオリジナルアルバムはだいたい10何曲入りというボリュームなので、今回はそれよりも小さい作品にしたかったから先に5曲と決めていました。そうじゃないと、言われたとおり絞りきれないから。5組と決めて、名前が出てきた人を上から順にオファーしたんです。ただ、提供者の年齢がバラバラになるようにということは考えました。15年の活動の中でもいろんなつき合いがあって、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんはもう15年前から知っているし、SIX LOUNGEは最近知り合ったんですよ。俺ら自身も15周年ではあるけど、テツは加入して5年だし、姐さん(HISAYOの愛称)は10年というふうにメンバーが変わっているんですよね。そういう歪な歴史が自分たちの良いところだと思っているので、それを表現できる面子にしたいというのはありましたね。
曲作りをお願いした顔ぶれも絶妙で、完成度の高さと幅広さを兼ね備えた5曲が揃いましたね。
佐々木
今回の5曲は全部気に入っています。レコーディングもいい思い出になった…「I'M ALIVE」の時にReiちゃんがスタジオに来て歌ってくれたんですよ。そこで、最初に一瞬考えたフィーチャリングアルバムということが思わぬかたちで叶ったという(笑)。それが面白かったし、田淵さんも「まだ世界は君のもの」の歌録りの時に来たんです。田淵さんは遊びに来ただけだったはずだけど、僕の歌のディレクションをしてくれて。“ここはもうちょっとこういうふうに〜”“ここはこうで〜”みたいなやりとりをしながら録ったんです。俺は普段はディレクターと一緒に歌を作っていくけど、「まだ世界は君のもの」は田淵さんの意向が反映された歌になっているし、Reiちゃんは自分でジャッジしたんですよ。それぞれのスタイルが全然違っていて、“あっ、この人はこういうフィーリングなんだ”というのを肌で感じることができたし、それぞれの歌の選び方とかレコーディングの進め方とかも見ることができて楽しかったですね。「まだ世界は君のもの」は俺らがインディーで活動していた頃に書いた「世界は君のもの」という曲があって、田淵さんがその続きを書いてくれたんですよ。Reiちゃんが書いてくれた「I'M ALIVE」は、こういうブルースロック的な感じも俺らのルーツとしてありつつよりReiちゃんのルーツが占めている部分があるというバランスになっていて。そういうところで、この2曲は楽曲的にも印象深いですね。
渡邊
ここ数年の我々は楽曲のBPMをどんどん速くしてきたんです。180から185になって、190になって…みたいな感じで。でも、さわおさんが作ってくれた「夕暮れのフランツ 凋まない風船」とSIX LOUNGEが作ってくれた「LADY LUCK」はミドルテンポで、あまり我々がやってこなかったところだったんですね。それをちゃんと自分達の中で消化してレコーディングするということで、そういうテンポでもっと気持ち良いノリの出し方があるんじゃないかという話になった。分かっていたことではあったけど、改めてそれを再確認させてもらえたという意味で、大きな収穫がありましたね。プレイヤーというのは、それぞれ得意なテンポ感があると思うんですよ。これくらいのテンポが一番気持ちよくギターが弾ける、ベースが弾けるとか、一番いい感じで歌のニュアンスが出せるというふうに。曲を作ってくれた人のテンポ感があるし、自分達のテンポ感もあって、それをちゃんと融合させられたのかなということは感じています。
アオキ
俺の中で特に印象の強い曲を挙げるとしたら、「まだ世界は君のもの」かな? デモをもらった段階では歌詞がついていなくて、♪ホニャララ~みたいな感じの歌が入っていたんですよ。その後タイトルがついたら「まだ世界は君のもの」で、これはパロディーしてきたなと。なので、この曲のギターソロでパロディー返しをしてやりました。あと、実は田淵さんはもう一曲書いてくれていて、それもカッコ良いから田淵さんに黙って録音して、リリースしてびっくりさせたいと思っています(笑)。
佐々木
お蔵入りにするのはもったいないくらい、とてもいい曲なんですよ。
アオキ
そう。もう一曲のほうは、すごく俺らっぽい曲なんですよ。テンポが速くて、尖っている感じで。その曲もいつか世に出したいですね。
HISAYO
こうやって田淵くんが作ってくれるデモに対して安心して取り組めたのは、もちろん曲も良かったからだけど、過去に4曲プロデュースしてもらって一緒に制作した経験があるからだと思いますね。田淵節満載のデモをどうやってa flood of circle流にするかというのがお互い分かってるから、難しいアレンジも臆することなくチャレンジできるんでしょうね。
佐々木
あと、これはメンバーみんなそうだったと思うけど、THE BACK HORNの「星屑のレコード」は一番意外だった。ストレートなa flood of circleのスタイルでもなければ、ストレートなTHE BACK HORNのスタイルでもない曲だから。出だしがツー・ファイブ・ワン…いわゆるジャズのコード進行を活かしたちょっとロマンチックな雰囲気で、そこから温かみと切なささのあるシャッフルにいくという。a flood of circleに「Christmas Time」(2016年11月発表のシングル「FLYER'S WALTZ」収録曲)という曲があって、その曲がツー・ファイブ・ワンのコード進行を使っているんですけど、「Christmas Time」はもうちょっとコードトーンを活かした感じというか、クリーンな感じで演奏する曲だったんです。今回の「星屑のレコード」は複雑なコードを力いっぱい演奏している感じがあって、それがTHE BACK HORN節なのかなと思いましたね。
渡邊
「星屑のレコード」で嬉しかったのは打ち込みとかじゃなくて、THE BACK HORNのメンバーがちゃんと演奏しているデモだったんです。だから、完全にTHE BACK HORNで、彼らの曲をカバーするみたいな気持ちになった(笑)。でも、これをちゃんと自分たちのものにしないといけないというのがあって、俺的にはこの曲のハネたビートが結構難しかったですね。どこか“今日はよそ行きの服を着ていこう”みたいな雰囲気の曲という気が俺はしていて、人間っぽさがありつつもカチッとしたシャッフルビートというところを目指しました。嬉しかったのが、この曲を聴いたTHE BACK HORNのドラムの松田晋二さんが“聴いたよ!”といってLINEをしてくれたんです。それで、“いや、ハネたビートが難しかったです”と返したら“分かる分かる。でも、めっちゃ良かったよ”と言ってくれて、すごく嬉しかったです。
HISAYO
「星屑のレコード」は私の中でも特に印象に残っている一曲ですね。ベースの岡峰光舟くんが弾いてくれているベースアレンジが、私じゃ思いつかないようなカッコ良いフレーズ満載で。今回はバンドとして曲を提供してくれているので、このベースアレンジも作曲の一部として解釈して、大事に扱わせていただきました。ドラムのシャッフルビートに対して、光舟くんらしくちゃんと攻めてるフレーズになっている。でも、それが邪魔に聴こえないように演奏するっていうスキルが試されましたね。光舟くんを自分の中に降ろして、イメージを壊さないように頑張りました。私はまだ光舟くんと直接やり取りしていないので、どんな感想持ってくれるのか。ドキドキしますね(笑)
アオキ
この曲は最初に曲と歌詞のデータと、それに歌詞を書いてくれた松田さんからのお手紙のテキストファイルが送られてきたんです。それがすごくグッときたんですよね。“15周年、本当におめでとう! この曲は亮介くんのこういう面をイメージして書いてみたよ”というようなことが書いてあった。それを読んで、まだ録音もしていないのに大事な曲になりました。
THE BACK HORNのみなさんのa flood of circleに対する深い愛情を感じます。「星屑のレコード」は心に響くヴォーカルや絶妙なハネ感などに加えて、ロカビリーっぽさと“泣き”を融合させたギターソロも大きな聴きどころになっていますね。
アオキ
ありがとうございます。俺は女は泣かせないけど、ギターを泣かせるのは得意なんです(笑)。
アオキ
この曲のソロも“泣かせまっせ!”ということを意識したわけじゃなくて、自分にとって心地良いソロを弾いたら、自然とこうなったという感じです。
a flood of circleは哀愁が似合うバンドであると同時に、そんなバンドにすごくフィットするギターを弾かれるなと改めて思いました。もうひとつ感じたことがあるのですが、a flood of circleのグルーブと言うとドラムやギターが大らかに暴れていて、それをベースがつないでいるイメージがありますが、今作は整理されている印象を受けました。
佐々木
自分たちの曲だと、いい意味で自由になれるところがあるんですよ。今回は“もらったものを大事に扱う”みたいな感覚があって、それが音に出ているんだと思う。
渡邊
ドラム的にも前作の『2020』(2020年10月発表のアルバム)とかはアンコントロールとコントロールはどこだろうというのを模索したけど、今回はコントロールをいかに増やすかということを意識しました。だから、いつものa flood of circleとはかなり違った印象のバンド感にはなっていると思います。
そういう面でも、また新たなa flood of circleを味わえる一作と言えますね。
佐々木
そういうものになりましたね。そのことと関連するけど、提供してもらった5曲を並べた時、“これはどっちなんだろう?”と思ったことがあって。今回は普段よりもテンポがゆっくりめで、歌モノっぽい曲が多いんですよね。みんなは“a flood of circleはこっちだろう”と思って書いてくれたのか、普段のa flood of circleはゴリゴリだから、あえてa flood of circleっぽくないものを書いてくれたのかどっちなのか分からないんですよ。そこは謎です(笑)。
ゴリゴリのa flood of circleも、歌モノのa flood of circleも良いということの証と言えますが、確かに作曲者の想いを訊いてみたいです。
佐々木
ですよね(笑)。the pillows の山中さわおさんだけははっきりしていて、今回の話をする前にa flood of circleにやってほしい曲があると言って、いきなり曲を送ってきたんです。それが「夕暮れのフランツ 凋まない風船」で、俺らのために曲を書いたわけじゃなくて、できちゃった曲がa flood of circleっぽいからあげると。結構、狂ってるよね(笑)。
佐々木
いや、いい意味でだよ(笑)。曲を作って“これは〇〇っぽいなぁ”と思っても、“歌ってくれないかな?”と連絡するというのはなかなかないと思う。すごいなぁ、さわおさん気前が良いなぁ…みたいな(笑)。