自分らしさを追求する姿をキュート&
ポップに描く 髙橋颯、山口乃々華、
矢部昌暉らが挑む『ジェイミー』ゲネ
プロレポート

2017年、イギリスのシェフィールドで開幕した『ジェイミー』。イギリスBBC放送のドキュメンタリーをもとにしたとびきりハッピーなミュージカルは瞬く間に話題を呼び、同年にロンドン・ウエストエンドでの上演が決定した。イギリス全土の映画館での上演も行い、現在もロングランを続けている。さらに、映画化も発表されるなど、異例の大ヒットを記録。
“自分らしく生きる”ことを目指す少年を主人公に、多様性を尊重する現代的な価値観と、親子の愛情、友情といった普遍的なテーマを描く本作。日本初演が2021年8月8日(日)東京建物Brillia HALLにて幕を開けた。
この記事では、8日(日)の開幕に先駆けて行われた、髙橋颯(WATWING)、山口乃々華、矢部昌暉(DISH//)、吉野圭吾永野亮比己、実咲凜音らによるゲネプロの様子をお届けする。

<STORY>
ジェイミー・ニュー(髙橋颯)には一つの夢があった。それはドラァグクイーンになること。そして高校のプロムに“自分らしい”服装で参加すること。
16歳の誕生日、母・マーガレット(安蘭けい)から真っ赤なヒールをプレゼントされたことをきっかけに、ジェイミーは夢に向かって進み始める。
親友のプリティ(山口乃々華)や、マーガレットの親友・レイ(保坂知寿)、ドラァグクイーン用のドレスショップを営むヒューゴ(石川禅)たちはジェイミーを応援するが、学校や周囲の保護者は猛反対。ジェイミーを理解しない父(今井清隆)との確執、クラスメイト・ディーン(矢部昌暉)から向けられる敵意など、困難にぶつかりながらも、ジェイミーは自分らしさを模索していく。
髙橋のジェイミーからは、一瞬か弱く繊細そうな印象を受けた。だが、意志の強さを感じさせるピュアな瞳と勝ち気な表情で、その印象はすぐ覆された。澄んだ歌声とコケティッシュな笑顔、軽やかなダンスで、森崎によるジェイミーとはまた違ったキュートさを持つ、応援したくなるような主人公を好演している。
台詞や展開は同じだが、リアクションや表情、間の取り方といった細かな部分の違いで母・マーガレットやレイとの距離感も微妙に変化しているため、新鮮な気持ちで楽しむことができた。
山口が演じるプリティは、真面目でハキハキした優等生という印象。楽曲の言葉一つひとつが心に染み込んでくるような、優しく甘い歌声が魅力的だ。ジェイミーに寄り添い、時に檄を飛ばす様子はまるで姉のよう。わちゃわちゃとした二人のやりとりに心が和む。
先にゲネプロを行った森崎・田村コンビは、高校生らしいやりとりの中にお互いへの尊敬や慈愛が見え、大人びた深みがあったが、髙橋と山口コンビは弾けるようなフレッシュさと勢いがあり、瑞々しい青春の一ページを覗いているような気持ちに。別の組み合わせではどんな親友コンビが見られるのだろうという期待が膨らんだ。
ミス・ヘッジ役の実咲は、生徒に見せる厳しい姿とプライベートな顔のギャップが凄まじく、思わず笑ってしまった。意外な一面から、作中では描かれていない彼女の心情やこれまでの人生にも想像を巡らせてしまう。
矢部によるディーンは、クールな雰囲気が際立っている。佐藤が演じたディーンと比べ、ジェイミーの存在を極力無視しようと努めているように見え、より尖った印象を受けた。気に食わない存在につっかかってしまう自分自身への苛立ちも滲ませるなど、思春期の少年らしい不安定さや複雑な胸の内をうまく表現しており魅力的だ。
ジェイミーやプリティを演じるキャストにより楽曲の印象も変わってくるが、周りの大人や生徒たちを演じる面々がしっかりと土台を作っており、安定感が心強い。美しいメロディやハーモニーと心地よいリズム、楽曲の魅力・楽しさを倍増させるダンスは、何度見ても楽しめること請け合いだ。

生徒たちによるダンスは、一糸乱れぬユニゾンを見せたかと思うと各々がのびのびと自由に動き、あちこちに視線を奪われる。クラスメイト一人ひとりの個性が感じられるのが楽しい。
ドラァグスは見た目通りのゴージャスでセクシーな魅力を振り撒いてくれる。上品でツンとした雰囲気のトレイ(吉野圭吾)、どことなくユーモラスなサンドラ(今井清隆)、キュートなライカ(永野亮比己)と、伝説のドラァグクイーン、ロコシャネル。たった四人で会場を圧倒する彼女たちのパフォーマンスはバイタリティに溢れている。
また、ジェイミー自身の明るさやポジティブさが本作の大きな魅力だが、同じく印象的なのは、彼を取り巻く理解ある人たちのエネルギー。ジェイミーが壁にぶち当たって傷付いてもまた立ち上がり、軽やかに進んでいけるのは、周囲の人々のあたたかい励ましや共感の力あってのことだ。
ジェイミーを理解してくれる親友のプリティ、深い愛情で彼を支えるマーガレット、どんな道も全力で応援してくれるレイ、同志としてジェイミーを導いてくれるロコシャネルたちドラァグスを見たら、きっと誰もが「こんな人たちが周りにいてくれたら」と思うはず。個性を尊重し、弱気を叱り飛ばしてくれる、パワフルな味方たちは魅力に溢れており、この作品が話題を呼び、圧倒的な支持を受けたのも納得できる。
「自分らしく生きる」という、簡単そうで難しいテーマに挑む一人の男の子からたくさんの勇気とハッピーをもらい、キャストの組み合わせによる化学反応も楽しめる本作。8月8日(日)〜29日(日)までの東京公演後、9月4日(土)〜12日(日)まで大阪公演、9月25日(土)・26日(日)は愛知公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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