とびきりキュートでハッピーな物語 
森崎ウィン、田村芽実、佐藤流司らに
よる『ジェイミー』ゲネプロレポート

『ジェイミー』は、イギリスBCCで放送されたドキュメンタリーをもとにしたミュージカル。2017年にイギリスのシェフィールド劇場で開幕するやいなや異例の大ヒットを記録し、同年ロンドン・ウエストエンドでの上演を行った本作。2018年にはイギリス全土の映画館で上演され、現在もロングランを続けているほか、映画化も発表されるなど、一大センセーションを巻き起こしている。
多様性を尊重するというテーマを軸に、親子の愛情や友情を描いた、とびきりハッピーなミュージカルが、この夏早くも日本に上陸。初日に先駆けて行われたゲネプロの様子をお届けしよう。
本作はタイトルロールを含めたいくつかの役がWキャスト。このゲネプロには、森崎ウィン、田村芽実佐藤流司吉野圭吾泉見洋平、樋口麻美らが登場した。

<STORY>
ジェイミー・ニュー(森崎ウィン)には一つの夢があった。それはドラァグクイーンになること。そして高校のプロムに“自分らしい”服装で参加すること。
16歳の誕生日、母・マーガレット(安蘭けい)から真っ赤なヒールをプレゼントされたことをきっかけに、ジェイミーは夢に向かって進み始める。
親友のプリティ(田村芽実)や、マーガレットの親友・レイ(保坂知寿)、ドラァグクイーンようのドレスショップを営むヒューゴ(石川禅)たちはジェイミーを応援するが、学校や周囲の保護者は猛反対。ジェイミーを理解しない父(今井清隆)との確執、クラスメイト・ディーン(佐藤流司)から向けられる敵意など、困難にぶつかりながらも、ジェイミーは自分らしさを模索していく。
冒頭からジェイミーとクラスメイトたちがポップに歌い踊る。森崎の自信に満ちた表情とはにかむような笑顔のギャップ、伸びやかな歌声に心を掴まれ、開幕早々、キュートなジェイミーの虜になってしまった。
生徒役のキャストの中でもひときわ長身の森崎だが、いたずらっぽい流し目や軽やかなステップ、指先まで神経の行き届いたしなやかな動きは色っぽく、実にチャーミング。夢に向かって突き進む純粋な情熱と、傷付きやすい少年の揺れ動く心を繊細に魅せてくれる。
そして、そんな彼を後押しする母・マーガレットと、彼女の親友・レイの深い愛情に圧倒される。シングルマザーとして様々な苦労を抱えているマーガレットだが、ジェイミーのやりたいこと、なりたい自分を決して否定しない。息子を思って歌うナンバーは優しさに満ちており、そのあたたかさな思いに胸が震える。親子に寄り添うレイの大らかさや奔放さも魅力的で、ジェイミーが前向きでキュートな子に育ったのも納得だ。
ジェイミーの親友・プリティは、思慮深くて優しい優等生。自らが属する宗教的マイノリティと、それに向けられる目をしっかり理解しながらもブレない姿勢に好感が持てた。田村のまっすぐで深みのある歌声と凛とした佇まいが、自分の価値観をしっかりと持つ、芯の強い彼女にマッチしている。
また、観ていて感じたのが、ジェイミーやプリティといったマイノリティに対するクラスメイトたちの態度がフラットだということ。
二人はクラスで浮いているものの、積極的に嫌味をいうのはいじめっ子のディーンくらい。和気あいあいとプロムのドレスについて話し合う女子生徒たちの中には、プリティと同じくヒジャブを身につけた女の子もいる。保守的な考え方も依然残ってはいるが、価値観は刻一刻とアップデートされていると感じさせてくれる。
実際、ジェイミーがドラァグショーに出ることは噂になるが、からかい半分で見に来た生徒たちの反応は「かわいい!」「クール!」というものばかり。
自分と違っていても、カッコイイものは素直に称賛する。特別視しすぎることなく自分と他人の違いや価値観を受け入れる彼らの柔軟な姿勢が気持ち良い。
対照的に、常識や慣例を重んじる大人としてジェイミーの前に立ちはだかるのが、教師のミス・ヘッジ(樋口麻美)。ハリのある歌声と厳しい口調で現実社会のリアルを突き付ける姿は迫力たっぷり。彼女に対峙するジェイミーを、固唾を飲んで見守ってしまった。
ことあるごとにジェイミーに突っかかるいじめっ子・ディーン役の佐藤も、たんなるヒールとは言い切れない魅力がある。特に、辛辣な言葉を並べて「普通」と違うジェイミーを傷付けながらも、「お前なんか特別じゃない」と吐き捨てる、どこか孤独な姿が印象的だ。時折見せる迷子のような表情から、なりたい自分を持ち、夢に向かって邁進するジェイミーへのコンプレックスが感じられ、ディーンというキャラクターに深みが生まれていた。
そして忘れてはいけないのが、ジェイミーを鼓舞し、導くドラァグクイーンたちだ。伝説のドラァグクイーン、ロコ・シャネルことヒューゴ(石川禅)を筆頭に、パワフルでコケティッシュな彼女たちの姿はまさに圧巻。ジェイミーがヒューゴの店を訪れた瞬間から、急加速するように夢が形になっていく様子は爽快だ。
シリアスなシーンでも、向けられる偏見や重苦しい空気を吹き飛ばすように歌い踊る彼女たちの姿は、作中でヒューゴがいう通り「戦士」だが、彼女たちの戦い方はとてもしなやかで美しい。エネルギッシュな歌声とパフォーマンスも心地良く、ジェイミーが進む道を明るく照らしてくれる、頼れる先輩であり同志だ。
この作品の魅力は、個性豊かな登場人物たちだけではない。楽曲はどれもキャッチーで、口ずさみたくなるものばかり。生のバンドによる魅力的なサウンドと背中を押してくれるような歌詞がすっと胸に入ってくる。それに乗って披露されるポップなダンスも、ジェイミーが身に付けるドレスも、どこをとってもかわいくて楽しさ満点だ。
全てがハッピーな大団円とはいかないリアルな苦さもありつつ、たっぷりの元気とハッピーをもらい、ジェイミーをはじめとする登場人物たちの勇気や友情、家族愛にじんわり泣ける本作。
日本でも多くの人に愛される作品になるだろう『ジェイミー』を、ぜひその目で見届けてほしい。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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