新キャストが生み出す新たなミュージ
カル『王家の紋章』ゲネプロレポート
(海宝直人×木下晴香×大貫勇輔×朝
夏まなとver.)

少女漫画の金字塔をミュージカル化して話題を呼んだ『王家の紋章』が、2021年8月5日(木)に東京・帝国劇場で初日を迎えた。
本作は同名漫画を原作として、独自の美しい世界観に定評のある荻田浩一が演出、さらに『エリザベート』『モーツァルト!』などの人気作を手掛けてきたミュージカル界の巨匠シルヴェスター・リーヴァイが音楽を担う。2016年世界初演、2017年再演、そして今回が再々演となる。
初日が明けた2021年8月6日(金)、第2回目となるゲネプロが行われた。海宝直人、木下晴香、大貫勇輔、朝夏まなと、前山剛久、大隅勇太ら、本作に初参加のキャストが多く出演した新生ミュージカル『王家の紋章』の様子をお届けしたい。
【あらすじ】
16歳のアメリカ人キャロル・リード(神田沙也加/木下晴香)は、エジプトで大好きな考古学を学んでいる。頼もしい兄ライアン(植原卓也)や、友達や教授に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。
ある日、とあるピラミッドの発掘に参加するが、そこは古代エジプトの少年王・メンフィス(浦井健治/海宝直人)の墓だった。ピラミッドに眠っていた美しい少年王のマスク、古代エジプトへのロマンに沸き立つキャロル。そんな中、アイシス(朝夏まなと/新妻聖子)という謎の美女が突然現れる。実はアイシスは古代エジプトの神殿の祭司でメンフィスの異母姉。メンフィスの墓を暴いたことによる祟りを起こすため、現代に現れたのだ。彼女の呪術によって、キャロルは古代エジプトへとタイムスリップしてしまう。キャロルは、エジプト人にはありえない金髪碧眼に白い肌。そして、考古学の知識と現代の知恵を持つ。やがて古代エジプト人達から、“ナイルの娘”“黄金の姫”と呼ばれ崇められる様になり、宰相イムホテップ(山口祐一郎)からも認められるようになるが、キャロルは現代を懐かしみ、帰りたいと願っていた。
しかし、メンフィスから求愛を受けるようになり、強引で美しい若き王メンフィスに反発しながらも心惹かれてゆく。だが、キャロルの英知と美しさにほれ込み、彼女を奪おうとするヒッタイト王子・イズミル(平方元基/大貫勇輔)など、2人の間には数々の困難が立ちふさがる。果たしてメンフィスとキャロルの運命は――。

劇場に入ってまず目に入るのは、エジプトのナイル川を彷彿とさせる美しい色合いの緞帳だ。照明に照らされ、青、緑、紫と美しくも怪しげに揺らめく。舞台の上手と下手にはそれぞれ巨大な石の柱が2本ずつ建ち、そこにはヒエログリフが刻まれている。耳を澄ますと聞こえてくるのは、ナイル川のせせらぎ。幕が上がる前から古代エジプトの神秘的な雰囲気に没入することができる。いよいよ幕が開くと、いまだかつて観たことがない新たな『王家の紋章』の世界が広がっていた。
海宝直人
若き少年王メンフィスを演じるのは、本公演で初の帝国劇場主演の座を射止めた海宝直人。着実に実力と人気をつけ、今や名実ともに誰もが認めるミュージカル界のスターだ。そんな海宝が演じるメンフィスはとにかく瑞々しく新鮮。歌声には猛々しさがあり好戦的な印象。同時に少年らしい無邪気さも併せ持ち、それ故に残酷さが際立つ。無邪気な少年が愛を知り成長していく物語……そんな側面が強く感じられる新しいメンフィス像ができあがっていた。
木下晴香
古代エジプトにタイムスリップし、メンフィスから求愛されるキャロルを演じたのは木下晴香だ。突然の孤独、現代との価値観の違い、そして歴史の大きなうねりに翻弄されるキャロルを等身大の演技で表現。男だったら思わず守りたくなるような、儚さを感じさせる少女だった。一転、歌唱シーンでは芯のある伸びやかな歌声を惜しみなく披露。劇場中にその力強い歌声を響かせた。
大貫勇輔

物語後半からの活躍が目覚ましいイズミル王子役は大貫勇輔。凄みのある眼力で、愛する妹ミタムンのためにエジプトへの復讐を誓う。一見穏やかそうでもあるのだが、ふとした瞬間に見せる表情や所作に色気が漂うイズミルだった。最大の見せ場はなんと言ってもメンフィスとの対決シーン。彼の持ち味である身体能力の高さが、ダイナミックな剣捌きで存分に発揮されていた。
朝夏まなと
弟メンフィスへの一途過ぎる愛故に、恐ろしい行動を取ってしまう女王アイシスを演じるのは朝夏まなとだ。冒頭でキャロルに呪いを掛けるシーンでは、漆黒の衣裳を身にまといながらも圧倒的な存在感を放っていた。数々の美しい衣裳の着こなしも流石だ。メンフィスとのやり取りを見ていると、とにかく純粋に彼を愛していることが伝わってくる。もどかしい想いを胸に秘めながら生きるアイシスからは、女の強さと弱さが同時に感じられた。
(左から)海宝直人、前山剛久
海宝直人(中央)、大隅勇太(右)
イズミル王子の指示によりエジプトで暗躍するルカを演じたのは、前回のゲネプロではウナスを演じていた前山剛久。本公演を通して前山はルカとウナスの二役を演じる。キャラクターとしては正反対な二人を、しっかりと演じ分けていた。大隅勇太が演じたエジプトの兵士ウナスは、純朴な青年という印象。テーベの街で「ウナスがいるから大丈夫」とキャロルに言われたときの、満更でもない表情が微笑ましい。
メインキャラクターを中心に紹介をしてきたが、アンサンブルキャストたちの活躍も見逃せない。例えばメンフィスに仕える王宮の人々、テーベの街で暮らす活気ある民衆、エジプトとヒッタイトの戦いで剣を手に舞う兵士たち……。彼らがいるからこそ、ファラオがファラオとして存在することができ、作品全体としても独自の世界観を作り出すことができている。
公演は東京・帝国劇場にて8月28日(土)まで、福岡・博多座にて9月4日(土)〜26日(日)まで続く。3度目の上演となる本公演には、初演とも再演とも全く違う新しい風が吹いていた。新キャスト陣の参入によって、ますます古代エジプトから目が離せない。

取材・文・写真=松村蘭(らんねえ)

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