J-WALKの
『DOWN TOWN STORIES』から
“大人のロック”とは何かを検証
ニヒリズムとダンディズム
M9「ラストシーン」もまさにAORだろう。ベースラインがおもしろく、バンドらしいアンサンブルが聴ける上に、ギターは案外、重めでノイジーなところで、アダルトオリエンテッドロックの“ロック”の部分が前に出ている印象ではある。歌詞も含めて、まさに“ラストシーン”に相応しい雰囲気ではあるが、『DOWN TOWN STORIES』はまだ終わらない。ことさらにアンコール的…というわけでもないけれど、M10「Good luck! My friends」、M11「旅立つ時」が用意されている。
まずM10。M9から一転、キャッチーなギターから始まるポップチューン。ハードロックなテイストも感じられ、のちのJ-POP、J-ROCKへの地続き感があるというか、穿った見方だろうが、1990年頃のバンドブームとの関係もうかがわせる。興味深いのは歌詞だ。
《ようこそこんな時代へ/アンモナイトを越えて/血と汗と涙/乗り越えたけれど》《いつのまにかこんなに/仲間が増えてたね/あふれてこぼれた/誰かが泣いてる》《どんな朝に目を覚まし/どんな夜に震える/うわさの通りに/滅びるつもりか》《いついつまでも どこまでも自由で/なんて思うなら ちょっとつらいけど/“ツケ”を払うことだろう》(M10「Good luck! My friends」)。
気候変動やパンデミックなど具体的な示唆はないものの、地球の危機を訴え、人類を戒める内容と受け取れる。案外バンドが取り上げない題材だと思うし、そもそも日本のポップミュージックでこういう視点は新鮮である。こういったことを歌うのがすなわち大人のたしなみだとも思わないけれど、多用多彩な観点はJ-WALK のアドバンテージではあったように思う。
アルバムのフィナーレ、M11「旅立つ時」もまたハーモニーが強調されたナンバー。ピアノも入っているのでアカペラではなく、ゴスペル風味と言ったところか。声の圧しも強く、迫力がある。
《さよなら 心の水たまり 乾いたら》《遠い国へ行こう 夢の船に乗って/涙の海を越え/うれしかったことや 楽しかったことを/宝の箱に詰め》(M11「旅立つ時」)。
本作収録曲の歌詞はバッドエンドばかりじゃなく、M2、M3、M9辺りはハッピーなだけに、どうして《遠い国へ行こう》となってしまうのか、人生経験の浅い筆者は上手く説明できないけれど(M7もそうだ…)、ある種のニヒリズム、ダンディズムは感じる。乱暴に言えば、はっきり理解できない世界であることもまた、大人の世界と言えるかもしれない。
アルバム『DOWN TOWN STORIES』からは、やはりJ-WALK は“大人”であることが理解できた。改めてジャケットを見てみると、この時のメンバーが表と裏とに分かれて写っている。中村耕一(Vo&Gu)、知久光康(Gu)、杉田裕(Key)、田切純一(Ba)、中内助六(Ba)の5人。画が若干逆光気味で、サイズも大きくないので、完全に目視できたわけではないが、どうやらメンバーは全員、髭を蓄えている。これもまた彼らが“大人”である何よりも証拠ではあるように思う。
TEXT:帆苅智之