冨嶽三十六景や風神雷神図屏風の世界
にダイブする新感覚アート体験 『巨
大映像で迫る五大絵師』レポート

東京・大手町の大手町三井ホールで7月16日(金)に始まった『巨大映像で迫る五大絵師-北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界-』。9月9日(木)まで開催される本展は、江戸時代を代表する5人のスター絵師が残した名作の数々を超高精細デジタル画像化し、縦7m、全長45mの3面ワイドスクリーンによる巨大映像で公開するというこれまでにない挑戦的なアートイベントだ。ここでは開幕前日に行われたプレス発表会と内覧会の様子をもとに本展の見どころと魅力を紹介していこう。
五大絵師の名作が高精細画像&巨大映像で鮮やかに蘇る!
日本美術に革新を起こして琳派の創始者となった俵屋宗達(生没年不詳)。卓越したセンスで琳派の中心人物となった尾形光琳(1658~1716年)。世界に影響を与えた天才浮世絵師・葛飾北斎(1760~1849年)。その北斎の良きライバルであり、風景画の傑作を残した歌川広重(1797~1858年)、そして類稀な描写力で動植物をはじめ身近なものを描き出した伊藤若冲(1716~1800年)。それぞれ生きた時代は違うが、いずれも江戸400年の間に活躍し、日本の美術史に燦然と輝くスター絵師たちだ。
会場エントランス
本展では、北斎と広重の浮世絵を20億画素の超高精細画像にデジタルリマスターし、DTIP(超高品位3次元質感記録処理技術)という特殊技術で3Dデータ化。一方で、最新デジタル技術と多分割データ画像処理技術によって宗達、光琳、若冲の緻密な技法にフォーカスをあて、それらを全長45m、3面ワイドの巨大スクリーンで鑑賞する。絵師それぞれの詳しい説明は様々なところで語り尽くされているのでさておくとして、今回は実際に本展を体験したリアルな感想を伝えたい。
名作の細部にグッと寄ってみよう!
会場は「解説シアター」「3面シアター」「Digital北斎✕広重コーナー」という3つのエリアで構成。まず初めに解説シアターで約20分の解説を聴き、そこからメイン会場の3面シアターに移動して3面ワイド45mスクリーンによる映像と音楽のショーを堪能。その後、Digital北斎✕広重コーナーで超高精細デジタル画像化された浮世絵を自由鑑賞するという順路になっている。なお、3面シアターでは巨大映像と一緒に写真撮影可能なフォトタイムが設けられている。
解説シアター(写真=オフィシャル提供)
解説シアターでは五大絵師の概略や得意とした技法について聴けるのだが、美術展に“よくある”作家の生涯を淡々と語るような解説と思うなかれ。「風神雷神と若冲が好き」と言うタレント・光浦靖子の明るいナレーションとともに展開される解説映像はエンタメ感が満載だ。これから見られる超高精細画像の一部をちょっぴり先出ししながら、光浦の「グッと寄ってみましょう」という声を合言葉に、絵師たちのこだわりに焦点をあてる。
解説シアター(写真=オフィシャル提供)
広重の《東海道五拾三次》や北斎の《冨嶽三十六景》、宗達の国宝《源氏物語関谷澪標図屏風》といった有名作品を題材に、明解な言葉とゆったりとした語り口による解説は、江戸美術の入門篇といってもいい内容だ。それでいてグ~ッと寄って拡大した屏風絵の細部からは、決して主役とはいえない町人たちの会話、髪の毛の一本一本、小紋ひとつひとつまで丁寧に描かれた着物のディテールなど絵師の描写力が伝わってくるだけでなく、画材に使われた和紙の繊維までもがしっかり見える。現代に例えるなら、まるでテーマパークのようにそこにいる人々の一人一人に物語と感動がある世界。これは普段から実物の浮世絵をルーペで顕微鏡を覗くようにじぃ〜っと鑑賞している日本画フリークにとっても新鮮な体験といえるだろう。軽快な音楽も手伝ってこれから訪れる未知の体験へとワクワクした気分を誘ってくれる。
巨大スクリーン✕超精密画像✕音楽が織り成すアートの海へ!
そして、いよいよ3面ワイド45mスクリーンが設けられている「3面シアター」へ。実際に目の当たりにした会場には、天井まで目いっぱいの高さに設けられた正面スクリーンに加えて、左右両側にも室内を覆うような2つのスクリーンが設置。そこに複数の高精度4Kプロジェクターが超微細な映像を映し出す仕組みになっている。なお、本展では五大絵師の作品をはじめ、同時代の金屏風なども含む全42作品がラインナップされており、毎日いくつかの作品が入れ替わるダブルプログラムを採用している。よって、ここからの体験もそのうちひとつの紹介となる。
メイン会場(写真=オフィシャル提供)
いよいよ幕が上がると、まずは北斎と広重による浮世絵の競演からスタート。しめやかなピアノ音楽に合わせて作品の場面場面が微細映像で映し出される。3Dデータ化された映像には立体的な奥行きが生まれ、背景に対して人や物がアニメーションのように動き始める。視界いっぱいに広がる映像に圧倒され、自然と浮世絵に描かれた江戸時代の宿場町に没入したかのような感覚を覚えていく。
葛飾北斎 《冨嶽三十六景 凱風快晴》 ※フォトタイムの様子

歌川広重 《東海道五拾三次 御油 旅人留女》 ※フォトタイムの様子

続いて宗達や光琳の屏風図の鑑賞へ。超細密データで巨大画面に投影された金屏風の世界は、暗闇の室内の中で煌びやかさがパワーアップ。光琳による《菊図屏風》の場面では無数の可憐な菊が画面いっぱいに咲き誇り、黄金の庭園にいるような気分に。そして、それぞれの作品の持ち味に合わせて、激しさと情感あふれるシーンが次々と転換していく。
尾形光琳《菊図屏風》 ※フォトタイムの様子
全体の中でも特に強いインパクトを感じたのは、宗達と光琳による2つの《風神雷神図屏風》の場面だ。ダークな世界の中で炎のような光の粒の中に浮かび上がる風神と雷神。宗達が生み出した「たらし込み」の表現も映像の演出により一層リアルな雲の表現になっている。金色の地の上に風神と雷神だけが描かれた屏風絵の世界観が拡張され、まさに自然を司る神の降臨を拝むような畏怖に近い感覚に陥る。
俵屋宗達 国宝《源氏物語関谷澪標図屏風》 ※フォトタイムの様子
終盤には《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》も登場。ここは見る側に押し寄せるような波、波、波。躍動感あふれる波の表現に、思わず「お、溺れる~(笑)」という気分に襲われた。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》 ※フォトタイムの様子
なお、映像の中には本展でアンバサダーを務める歌舞伎俳優の尾上松也も登場。太鼓や三味線などをミックスした音楽も手伝って怒涛の疾走感で展開されるプログラムは、まさに“まばたきできない”と形容するにふさわしい20分間だ。そして普段の美術鑑賞のように全体から細部へ「大から小」で見るのではなく、細部から全体へと「小から大」のアプローチで見る名作の数々は、浮世絵や日本画の味わい方そのものを変えてくれるような体験だった。
伊藤若冲《仙人掌郡鶏図》 ※フォトタイムの様子
フォトタイムでは巨大映像と一緒に記念写真を撮って大切な思い出をスマホの中に。その後は「Digital北斎✕広重コーナー」へ。こちらでは北斎の冨嶽三十六景と広重の東海道五拾三次からセレクトされた58作品の超高精細デジタル画像をじっくり鑑賞できる。巨大映像の余韻とともに名作の数々を心ゆくまで楽しんでほしい。
Digital北斎×広重コーナー
なお、本展は緊急事態宣言の発令に伴い、東京都の「イベント開催時の必要な感染防止策」を遵守した上で、会場定員50%未満の収容率に制限して開催。その他、新型コロナウイルス感染症防止への取り組みを行った上で開催されている。
『巨大映像で迫る五大絵師-北斎・広重・宗達・光琳・若冲の世界-』は東京・大手町の大手町三井ホールで9月9日(木)まで開催中。12月3日(金)から2021年1月30日(日)まで大阪市福島区の堂島リバーフォーラムにて巡回開催も決定している。江戸絵画の入門としても五大絵師の再発見としても楽しめる新感覚の展覧会。真夏の暑さを打ち抜くような圧倒的新感覚アートをぜひ日本橋で体験してみて!

文・写真=Sho Suzuki 写真(一部)=オフィシャル提供

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