「豊岡演劇祭2021」記者会見レポート
~「豊岡の“光”を再発見するための
演劇祭。演劇だけでなく、エリアその
ものを観てほしい」

兵庫県豊岡市とその周辺地域を舞台に、アジアのハブとなるような国際演劇祭を目指して、2020年から開催された「豊岡演劇祭」。新型コロナウイルスの影響で、当初のような国際色豊かな内容にはできなかったが、それでも市外の観客も含めて約5,000人が足を運び、地元でも高い評価を得たという。そこからさらなるステップアップを目指した「豊岡演劇祭2021」が、2021年9月9日(木)~20日(月・祝)に開催される。
フェスティバル・ディレクターは、前回に引き続き平田オリザ氏(青年団)が担当。今年からはアートプロデューサーの相馬千秋氏が、全体のスケジュールや構成を決める総合プロデューサーとなり、さらに万全の体制となった。今年の参加団体の顔ぶれは、すでにSPICEでも発表しているが、今回は7月15日に行われた会見の模様をレポートする。
マレビトの会『グッドモーニング』 イラストレーション:カナイフユキ

始めに、今年から演劇祭実行委員会会長に就任した高宮浩之氏(豊岡ツーリズム協議会会長)から、あいさつと意気込みを兼ねた言葉が述べられた。

高宮:公式・フリンジとも本当に多種多様で、面白いプログラムが出そろったと喜んでおります。演劇はもとより、ダンスやリーディングなどいろんな種類があり、演劇祭と言っても多様な楽しみ方があるんだと、改めて感じています。新型コロナウイルスが落ち着いたわけではないんですけど、国や県が示している対策を元にしながら、私どもでも感染症対策のガイドラインを策定して、安心安全に開催したいと思っています。
今年から香美(かみ)町や養父(やぶ)市にもエリアを拡大し、各地域との連携プログラムも充実させています。JRの観光列車と演劇を一緒にした演劇列車など、いろいろ面白いプログラムができるのも、協力いただいている多くの皆様のおかげと心から喜んでおりますし、感謝の言葉を述べさせていただきます。
範宙遊泳『バナナの花は食べられる』豊岡演劇祭ver. (c)️たかくらかずき
そして平田氏は昨年との大きな違いとして、今年開学した、観光とパフォーミング・アーツに特化した日本初の公立大学「芸術文化観光専門職大学」の存在を上げる。数多くの演目の会場となるだけでなく、約80名の学生たちがインターンとして参加。情報発信や当日運営などで、演劇祭を多方面からサポートする。さらに、昨年は新型コロナの影響もあって不十分となっていた、観光業や街づくりとの結びつきを強めた内容になったそうだ。
平田:観光という言葉は「国の光を観る」という、中国の古典が語源。しかし自家発光するものは地球上にはあまりなく、光を当てないと見えてこない。その光を当てる役割が、アートだと思っております。豊岡・但馬は日本有数の観光資源の宝庫ですが、まだまだポテンシャルがあるということで、それを再発見するための演劇祭となります。
通常のフェスティバルは、来年も来てもらえるフェスを目指すのですが、私たちはフェスティバル期間以外に来たくなるものを目指しています。アートをトリガーにして、初めて豊岡に来るお客様が、昨年もすごく多かったんですが、その方が“もっと温泉に入りたかったし、お蕎麦も食べたかった。今度は演劇(祭)がない時に、のんびり来よう”と思ってくれるような演劇祭を、今年も目指したい。
もともと国際演劇祭を目指してスタートしたわけですけど、やはりコロナのこともあって(国際的なことは)ほぼできませんでした。そうは言っても、まったく何もやらないのも、もう我慢はできないので。現時点でやれることをやって、来年以降につなげるということで、国際的なラインアップを少しずつ入れているのも、今年の特徴だと思っています。
青年団『東京ノート』 (c)️ Norio Kudo & Takahito Sato
総合プロデューサーの相馬氏は、今回の演劇祭のスローガン「ともに呼吸する」を掲げたことについて、こう解説した。

相馬:コロナの時代において、呼吸をすることがいろんなレベルで困難になっています。私たちは社会生活を営む時に、個人の身体だけでなく、家族や共同体や社会とともに呼吸をして、いろんな営みを共有するわけですが、それがコロナで非常に難しくなっている。舞台芸術も社会的な営みの一つで、演者とそれを観る人がともに呼吸をすることによって成立している。万全の感染症対策を取った上で、みんなでもう一度ともに呼吸をする、人類の持つ喜びを再確認しあうような場になっていけばと思います。
ツァイ・ミンリャン『蘭若寺の住人』 (c)HTC VIVE ORIGINALS, photo by Chang Jhong Yuan

さらにプログラムを組むにあたっては、平田氏が述べた通り、観劇と同じかそれ以上に、観光を楽しんでもらうことをコンセプトにしたそうだ。
相馬:効率的に芝居を観ることができる日もありますが、むしろ訪れるエリアそのものを見ていただきたい、というのを非常に意識しました。たとえば、出石で二演目を観たら、あとはお蕎麦を食べて帰るというのを推奨します。
てんらんかい『但馬づくしの講談会 於出石永楽館』
平田:昨年「当日券を買えなかったので、温泉に入りました」という話を聞いた時、その楽しみ方を目指していたので、内心ガッツポーズでした(笑)。昨年より公演数が増えて、全演目を観るのは無理になってますが、これは海外の演劇祭では普通のこと。どれを観て、どれを捨てるかを選ぶのも、お客様の楽しみです。最善は尽くしますけど、交通の不便さも楽しみにしていただくぐらいのつもりで、この地域を味わっていただけたらと思います。
青年団『KOTATSU』
公式プログラムは13団体、フリンジは会見の時点で32団体の参加が確定しており、最終的に35団体程度となる見込み。「山海塾」(9/19・20)のように国際的に活躍する舞踏集団から、「南河内万歳一座」の内藤裕敬が作・演出を務めた「Platz 市民演劇プロジェクト」(9/11・12)のような市民演劇まで、昨年以上に振り幅の広い内容になっている。またフリンジの方も、市民参加型や子ども向けの作品、さらに海や高原などの雄大な自然を借景にした野外パフォーマンスの作品が、グッと増えたそうだ。
平田:いろんな形でバランスを考えて、プログラムを組みました。山海塾は今回の一つの目玉で、よく来てくださったなあと。(9/9・11・14に岩下徹と即興セッションをする)梅津和時さんは、ジャズに詳しくない方にとっても神様みたいな人で、至福の時間を体験していただけると思います。
山海塾『降りくるもののなかで―とばり』 (c)︎Sankai Juku
岩下徹×梅津和時 即興セッション『みみをすます (谷川俊太郎同名詩集より)』 photo by bozzo

相馬:ある一つのテーマに集約するフェスティバルもあるけど、豊岡はいろんな価値観のものが集まった多様性が魅力。市民の方にも参加していただくサエボーグ(9/17~20)は、遊戯的な空間の中に社会批評もあり、大人も子どももそれぞれの感性で楽しめる作品。百瀬文(9/10~14)の鍼のパフォーマンスは(観客と演者の)一対一のパフォーマンスで、一回に6人しか体験できないので、チケット争奪戦間違いなしです。
サエボーグ『House of L』※写真は『Cycle of L』高知県立美術館(2020年) [撮影]釣井泰輔
百瀬文『鍼を打つ』 (c) Theater Commons Tokyo ’21 / Photo by Shun Sato

またその他の関連プログラムとしては、地元が主催するマーケットと連携した企画や、城崎温泉の飲食店および宿泊施設でのリーディング公演などを実施。中でも、アーティスト集団「スイッチ総研」とJRの観光列車がコラボした演劇列車「うみやまむすび」✕スイッチ総研(9/11~13)は、車窓の美しさで知られる路線を運行することもあり、鉄道マニアにも注目を浴びそう。平田氏も「将来的に商品化していければ」と期待を寄せている。
ヌトミック 『ぼんやりブルース』
その他、記者から寄せられた主な質問と、その回答は以下の通り。
──今回のコロナの対策と、また兵庫県に緊急事態宣言が出た場合は。
平田:緊急事態宣言下でもオリンピックはやるわけなので、一体何が基準なのか、科学的な根拠が難しい状況にはなってますが。もし緊急事態宣言が出た場合は中止を検討するけど、逆に言うと出ない限りは行っていいと判断しています。コロナに関してはこの1年半で、お芝居を観ることを通じてクラスターが発生することはないと、実質的にも科学的にも証明されています。
ただやはり演劇祭という、外から人が来るものをどうとらえるかは、切りわけて考えないといけない。普段の上演に関しては、今までのノウハウの蓄積の元で、感染症対策を行うわけですけど、当然城崎や出石も、普段から(観光で)外から人が来てるわけですから、その辺りの状況も踏まえて、市と協議しながら決定をしていくことになると思います。
青年団『銀河鉄道の夜』
──スローガン設定や市民参加の推進など、前回と変わった点がいろいろありますが、豊岡市全体の政治状況の変更(注:今年の選挙で、現職の市長だった中貝宗治氏を破って、新人の関貫久仁郎氏が当選。中貝氏は前演劇祭実行委員会会長を務めるほどの演劇推進派だった)などで、委員会にも意識の変化はあったのでしょうか?
平田:(関貫)現市長からは「市民の参加を増やしてほしい」というご意向は承りました。市長選挙は4月だったので、そこからこんなこと(注:プログラムを組む)はできない。昨年はコロナで市民参加の催しにも制約があったので、今年は最初からこれだけの準備をしていたところ、現市長のご意向と非常にマッチして、上手く進んだと思っています。
Platz市民演劇プロジェクト『豊岡かよっ!』(2020年公演)
高宮:第一回目の時は宿泊業者から、もうちょっと演劇祭のプログラムと宿泊を上手にセットできないだろうか? という意見がありました。飲食の方もメーカーの方も、せっかく今まで豊岡に来たことがないお客様が、多くいらっしゃるのに……と感じてました。民間サイドが一緒になって演劇祭を作り上げるのが、非常に重要だということで、今回から私が実行委員会の会長となった次第です。
もともと演劇祭としてもそういうご意向をお持ちだったので、その側面がより強まったと思います。民間業者が一緒に演劇祭を作り上げることによって、いろんな効果が高まり、市民も楽しめて、外からのお客様もよりスムーズに楽しんでいただけるような仕組みができればと考えています。
烏丸ストロークロック『但東さいさい』※写真は烏丸ストロークロックと祭『祝・祝日』( 2020年12月) [撮影]井上嘉和
──コロナ禍がまだ続く中、二回目の開催に向けた意気込みを。
高宮:豊岡市、香美町、養父市とそれぞれ地域ごとの特性があり、演劇によって各地域の魅力を再発見できると思います。その価値を持って、どういう風に地域の観光PRをしていくかを考えるきっかけにしたい。9月はもともと、豊岡の(観光の)目玉がなかった時期でもあるので、こういう全国や世界に注目される方々にお集まりいただき、この地域ならではのプログラムを作っていただいて、それを私たちと一緒にできることには、経済的にも大きな効果があると期待しています。
to R mansion『へんてこうじょう』
平田:11月以降の、スキーやカニの観光シーズンに向けて、豊岡や但馬は安全に楽しめるということを、全国にアピールできれば。まだまだ東京の演劇やライブパフォーマンスの世界が、本当に経済面でも精神面でも深い傷を負っている中、豊岡は演劇の明かりをともし続けるというメッセージを送るのは、とても大事なことだと思っています。
一回目二回目の蓄積によって、来年以降若手の演劇人にとって「豊岡でやりたい」という気持ちを、さらに育ててくれるんじゃないかと思うし、そういう演劇祭にしていきたい。感染症対策で、まだ客席の設定のツメができてないけど、大きな目標として一万人動員できればと思います。
(左から)高宮浩之演劇祭実行委員会会長、平田オリザフェスティバルディレクター、相馬千秋総合プロデューサー。
筆者は昨年の「豊岡演劇祭2020」に計4日間通ったが、頑張れば全部ハシゴできそうなプログラム編成だったこともあり、ほぼ観劇にしか時間が取れなかったことに悔いが残った。しかし今年は参加団体数もエリアの範囲も拡大した分、全日程豊岡に滞在しない限り、公式プログラムすら完全制覇はまず不可能、という状態になっている。
だからこそ、最初から「じゃあ、これとこれだけは絶対観て、残りのスケジュールが合わなかったら街ブラでもしよう」と、おのずと演劇以外の楽しみに目を向けることになる。せっかく豊かな自然や温泉に恵まれ、地産地消のフードやドリンクも大充実で(特にスイーツの隠れ名物多し)、カバンなどの地場産業も盛んなエリアに行くんだから、ここは主催者の思惑通り、演劇+αを楽しむという方向で計画を立ててみよう。7月29日には、早速地域の観光事業者と連携した、3演目セット券付宿泊プランが発売される予定なので、遠方から脚を運ぶ人はぜひチェックを。

取材・文=吉永美和子

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