40周年記念公演『ピーターパン』ゲネ
プロレポート 演出をリニューアルし
、吉柳咲良や小西遼生が全く新しいネ
バーランドへ!

ジェームズ・マシュー・バリの戯曲『ピーター・パン』は、1904年の初演以来、世界中で映画やアニメ、ミュージカルとして上演されてきた。
日本においては1981年に新宿コマ劇場で榊原郁恵が演じ、今年40周年を迎える。
本公演では、潤色・訳詞をフジノサツコ、演出を森新太郎が担当。東京公演では21年ぶりに生オーケストラ演奏が行われるなど、大幅なリニューアルを行い、歴史ある作品に新たな息吹をもたらす。
初日に先駆けて行われた会見とゲネプロの様子をお届けしよう。
(左から)演出・森新太郎、ピーターパン役・吉柳咲良、フック船長役・小西遼生
会見には演出の森新太郎、ピーターパン役の吉柳咲良、フック船長役の小西遼生が登壇した。
ーー今年で40周年を迎えますが、初日を目前にした今の気持ちを聞かせてください。
吉柳:待ちに待った初日なので、すごくワクワクしています。早くお客さんが入った状態で今年のピーターパンをやりたいです。緊張はしていますが、すごく楽しみです!
小西:無事、全員揃って初日の幕を開けられることが何より嬉しいです。2ヶ月近く稽古をしてきましたが、今こそ観てもらいたい作品に仕上がっていますので、早くお客様の顔が見たいですね。
森:俳優陣は2ヶ月稽古したんですが、私やスタッフは去年からずーっとこれをやってるんですよ。だから正直「いい加減始めてくれよ」と(笑)。走り出したくてしょうがないです。
ーー吉柳さんは4度目のピーターパンです。今年の抱負を教えてください。
吉柳:4度目だからというよりも、新しくなったからという意識の方が強くて、初心にかえってやろうと思っていました。イチからというよりゼロから。1年目よりも緊張した状態で稽古を始めました。(『ピーターパン』が)中止になってしまった1年も、ドラマやレッスンでいろんな経験をしてきて、やっと今年できるという状態です。歌や足をあげるといったパフォーマンスのレベルを一年で上げてこられたと思っています。観にきてくださるお客さんが「面白かった」「ピーターパンがいた」と思ってくれたらいいなと、それだけですね。吉柳じゃなく、ピーターパンとしてここに立っています。
吉柳咲良
ーー小西さんは初の船長役です。抜擢された時の気持ちと、抱負を教えてください。
小西:お話をいただいた時はまだ実感がわかなくて。森さんと初めてお会いして、作りたいフック船長像を聞いて、僕が知っている『ピーターパン』とイメージが違うかもしれないと思って稽古に入りました。
稽古中に森さんが発言するこの作品のイメージを聞くたびにワクワクが増えていくんですよね。「ネバーランドに大人は一人もいないんだよ」と聞いた時に、「じゃあフックは? 一番子どもかもしれない」と思って、そこからすごく自由にやらせてもらうようになりました。
今、稽古を終えて初日を迎える状況で、最初にこのお話をいただいた時のことを思い出し、フックという役を引き受けて本当に良かったなと思っています。
この状況下、家族で観られるミュージカルにどれだけのお客さんが集まってくれるか、すごく不安もあるんですが、皆さんの顔が見られるのが楽しみです。
小西遼生
ーー今回の演出の見所を教えてください。
森:小西も言いましたが、ネバーランドには子どもしかいないという設定でやっています。今までの『ピーターパン』と違って、一見シリアスでもかなり微笑ましい光景が繰り広げられるんじゃないかなと。(ピーターとフックは)宿命のライバルなんですけど、どう考えても茶番劇だなというような(笑)。そういうのを楽しんでいただけたら。
「ネバーランドには子どもしかいない」というのは、僕じゃなく原作者のバリが書いていること。役柄上大人でも、髭を取ったらその下に少年の顔が見えなければいけない。それは皆さんに徹底させました。
吉柳は今回4度目の挑戦ですが、今までの吉柳とは全然違うピーターパンを作れたと思いますし、歴代の中でもここまで能天気なピーターパンはいないと自負しています。こんな浮かれた奴なら空も飛ぶよなって僕なりに腑に落ちていますね。
森新太郎
ーー今年最初にフライングした時はどんな気持ちでしたか?
吉柳:あー、こんな感じだったわ! って口に出したと思います。懐かしい感じもしましたし。でも、私が歳をとるにつれて……。
小西:ちょっと(笑)。
吉柳:いや、年齢を重ねていくうちに(笑)、フライングっていうものが怖くなってるかもしれないと思ったんですけど、まだまだ子どもでした。純粋に楽しかったです! 飛んでる時が一番楽しいですね。
ーー今年、フライングの仕方が少し変わっているように感じましたが?
吉柳:今まで2点吊りだったのを、今年は1点に変えています。なので体幹がものすごく必要なんですよね。
森:2点吊りだとくるくる回ったりできるんですけど、僕のピーターパンはくるくる回るより暢気にふわふわ浮いているイメージだったので。ただ、後で知ったんですけど、1点吊りの方が大変なんです。僕は何も分かっていなかったので「1点吊りでいく!」って。吉柳が当たり前のように飛んでるから誰でもできると思ってたら、スタッフさんがこっそり「吉柳あいつすごいぞ」って教えてくれて。(吉柳のことを)ちょっとだけ尊敬しています(笑)。
吉柳:やったー!
小西:咲良が森さんの難しい要求に応えてフライングをやって、戻ってきた時に聞いちゃったんですよ、「森さんも一回飛んでほしいんだけど」って(笑)。
森:お誘いは受けたんですけど、フライングはスタッフさんが手でやってるので大変だなぁと思って(笑)。
吉柳:千秋楽までには飛ばそうと思ってます!(笑)
吉柳咲良
ーー課題はたくさんあったと思いますが、クリアできましたか?
吉柳:クリアできてると思いたいですけど、次から次へとたくさんいただくので。頑張って食らいついていくだけです。目の前にある課題を一個ずつぶち壊す気持ちで。
自分が思っている以上に体を動かさないと伝わらなかったりするので、「これくらい」っていう自分の中での限界を決めなくなりました。できるだけ大きく、明るく、みたいな。あるパワー全部使ってという感じですね。
ーー昨年から多くの作品が中止になってしまいました。こんな時だからこそエンタメが必要じゃないかと思うんですが。
森:そうですね。でも、去年のこの時期も子どもたちは公園で元気に遊んでたので。それにちょっとホッとしたんですよ。大人は自粛してましたけど、子どもたちは本当に元気で。この作品でやっているように、木の下で基地を作ってみたり、ルールがないような遊びで騒いでたり。僕がお子さんたちに言いたいのは、「ここは君たちの大好きな、ひたすら遊び尽くす世界。君たちのエネルギーをくれるとこの舞台がもっと輝くので、ぜひ観に来てもらいたいな」ってことですね。
吉柳:いろんな舞台が中止になって、演者側も考えることがたくさんあったと考えています。私も出演していた舞台が途中で中止になってしまい、胸に穴が空いたような気持ちでした。でも、自粛期間中にいろんな映像を見返したりして、自分がやっている仕事のこと、自分が(この仕事を)夢見た小学6年生の頃の瞬間などを考え、「これからどうしたらいいんだろう」から「自分にできることをやっていこう」という前向きな気持ちになれました。こういう中でも、私はエンタメというものにすごく助けられました。今、やっとこうしてお客さんを前に、自分が稽古の中で得たものを見せられると思うと、舞台に立てるって幸せだと思います。
ーー先ほど「(フック船長も)大人ではない」と仰っていましたが、自分の中に残る少年らしさはどんな部分ですか?
小西:僕、小学6年生くらいまでガキ大将だったんですよ。ジャングルジムのてっぺんを陣取って、おー! ってよく分からない雄叫びをあげてたような。中学生くらいからころっと変わったところもあるんですが、これをやってると思い出すんですよね。あれ初めてじゃないな? って(笑)。だから、ずっと子ども心はずっと残ってます。今も、やることは変わっても考えることは変わってない部分もあって。大人びた芝居をすると子ども心を忘れがちになるけど、この作品はやってる間ずっと子どもにかえれるので幸せです。……今ジャングルジムのことをマイルドに伝えましたけど、実際はもうちょっとバカでした(笑)。
(左から)吉柳咲良、小西遼生
ーーお客様へのメッセージをお願いします。
森:お子さん向けのお芝居といえばそうですが、大人が見たら、初めは瑞々しいお話だなと思っても、後半に行くにつれて強烈なノスタルジーに襲われる作品だと思っています。どうか大人の方にもきていただきたいなと。それと、今回久しぶりの生のオーケストラ。名曲揃いの素晴らしいミュージカルなので、ぜひ生で体感していただきたいなと思っています。
小西:僕は今、森さんのことを原作を書かれたバリだと思ってお話を聞いています。この作品の初演は1900年頭。まさかこんな作品が生まれるなんて誰もが思っていなかった時に、驚きを与えた作品だと思うんです。子どもは息を飲んで、昂揚して、思い切り笑える。斜めに見ていた大人も「なんだこれ!?」って驚いたような作品だと思っています。
その初演が蘇るような気分で森さんの演出を受け、演じています。ここにくるお客様にも、同じような表情で見てもらえるんじゃないかなと思うので、ぜひ足を運んでください。
吉柳:今年は何もかも新しくなり、私も初心にかえってゼロから作り上げました。こんな大変な状況の中でも、スタッフさんやカンパニー全員が協力しあってできた作品だと思っているので、やっとお客さんの前に立てるのが幸せです。
観にきたことがある方も、まだ一度も観たことがない方も、子どもの頃に観たけど大人になってからは観ていないという方も、本当にいろんな方に純粋に楽しんでいただけると思いますし、その分ピーターパンとして舞台に立つ責任も感じています。でも、ピーターパンとしての暢気さも私にはあって。
あとは生のオーケストラでできたり、私も初めてのことだらけでドキドキしていますが、必ず「面白かった」と言わせてみせます。劇場でお待ちしています!
<あらすじ>
あるところに、いつまでも子どものままの男の子がたった1人いました。
いたずら好きで、やんちゃでちょっぴり意地悪で、そして空を飛べるその子の名前はピーターパン(吉柳咲良)。ある日の夜、ピーターパンはダーリング夫妻(小西遼生・瀬戸カトリーヌ)の家に “ あるもの ” を取りに忍び込みます。そこでダーリング夫妻の子供たち、ウェンディ(美山加恋)、ジョン(津山晄士朗)、マイケル(遠藤希子・君塚瑠華(Wキャスト))と友達になったピーターパンは3人を連れて夢の国ネバーランドへと飛び立ちます。ウェンディはネバーランドで出会った迷子たちの“お母さん”になり、タイガー・リリー(宮澤佐江)率いる森の住人たちとも仲良くなりました。ウェンディたちは、みんなと楽しく愉快な時を過ごしながらも、いつしか家が恋しくなり、迷子たちも連れてロンドンの家に戻ることにします。ところが、フック船長(小西遼生)率いる海賊たちが待ち構え、ウェンディたちを捕らえてしまいます。全員で海賊との激しい戦いの末、ピーターパンとの最後の別れを惜しむウェンディたち。ウェンディは彼にお願いをします。「春の大掃除の季節にはきっと迎えに来てね。」と。時が経ち、約束を果たしにピーターパンがやってくるのですが……。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
まず目を引くのは、ステージ上にある大きな布。シーンによって、緞帳になったり海や草原、家の壁になったりと表情を変える。シンプルな布でありながら、カラフルな照明と動きで想像力を掻き立ててくれるのが面白い。また、生のオーケストラによる演奏は迫力抜群。バンドの息遣いやキャスト陣との一体感を楽しめるのも贅沢だ。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより

ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより

吉柳が演じるピーターパンは、ふわふわと飛び回り、ステージを所狭しと駆け回る元気いっぱいな少年。自由気ままな子どもらしさに溢れたキャラクターに仕上がっている。
笑ったり悲しんだりくるくる変わる表情や、迷子たちのリーダーとして振るまう姿、ティンカーベルのために必死になるまっすぐな瞳のどこをとっても、何事にも真剣な子どもそのもの。大人からするとそのイキイキとしたパワーが眩しく、懐かしさも覚える。
会見で本人が言っていた通り、吉柳ではなくピーターパンという少年がそこにいると感じられるリアリティと魅力があった。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
フック船長を演じる小西は、舞台においてはシリアスな作品への出演が多いイメージだが、憎めない悪役をユーモラスに好演。ガキ大将っぷりを存分に発揮し、誰よりも無邪気で横暴な船長として存在感を放っている。高い歌唱力や時折見せる二枚目な雰囲気とのギャップが面白さを生み出しており、海賊たちとの掛け合いも楽しい。
ウェンディたちの父親・ダーリング氏のシーンでは、フック船長とはガラリと雰囲気を変え、ちょっと気難しい父親の表情に。出番としては多くないが、作中の登場人物がほとんど子どもということもあり、ダーリング氏と優しく愛情深いダーリング夫人の佇まいが印象に残る。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
また、美山が演じるウェンディのお姉さんらしさと子どもらしさのバランスも絶妙。家族ごっこでは、ちょっとおませな女の子・ウェンディとまだまだ子どもなピーターの間に見られる差、二人の甘酸っぱいやり取りが微笑ましい。作中で唯一成長した姿が描かれるウェンディの変化を繊細に演じており、グッと心を掴まれた。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
タイガー・リリー役の宮澤は、インディアンのリーダーを凛々しくもかわいらしく演じる。力強いダンスと歌唱は頼もしく、仲間を率いるカリスマ性も十分だ。ドラムや低音楽器の力強いビートに乗って披露されるエキゾチックなナンバーも楽しさ満点だ。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
他にも、木の葉で作った家と賑やかな迷子たち、カラフルな森の住人たち、個性あふれる海賊たちや森の動物たちなど、子どもたちはもちろん大人もワクワクするようなポイントがたくさん。
ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』ゲネプロより
大幅にリニューアルされた40周年公演を、ぜひ劇場で体験してほしい。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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