田中哲司「一目惚れは2日に1回ぐらい
」~KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『近松心中物語』製作発表レポート

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『近松心中物語』が、2021年9月に上演される。
戦後を代表する劇作家・秋元松代の代表作である本作は、近松門左衛門の『冥土の飛脚』をベースに他作品の要素を加え、近松作品の魅力をふんだんに盛り込んだシンプルで力強い言葉と、故・蜷川幸雄氏の劇的な演出により、観客から圧倒的支持を得て千回を超えて上演され、演劇界の金字塔と称された作品だ。
元禄時代、境遇の違う2つの恋の情景を、華やかな演出で描いたことで人気を博した本作を、今回演出を務める長塚圭史は、格差を問われる現在に驚くほど重なる、普遍的な戯曲と捉え、俳優とともに新たな『近松心中物語』を創り上げる。
7月20日、同劇場で製作発表会見が行われ、演出の長塚、出演者の田中哲司、松田龍平、笹本玲奈、石橋静河が出席した。その様子を写真とともにお伝えする。
【あらすじ】
物語は元禄時代、大阪・新町(遊郭街)で始まる。
真面目な飛脚宿亀屋の養子・忠兵衛は、新町の遊女・梅川に出会い、互いに一目で恋に落ちる。
梅川に、さるお大尽からの身請け話が持ち上がる。
金に困った忠兵衛は、幼なじみの古道具商傘屋の婿養子・与兵衛に金を借りにいく。与兵衛が快く貸してくれた50両で、梅川の身請けの手付金を払い安堵する忠兵衛と梅川のもとに、大尽からの身請け後金300両が届いてしまう。一方、お人よしで、心優しい与兵衛は、与兵衛に恋い焦がれる女房のお亀、舅姑とともに、大店の婿養子として身の置きどころのない想いを抱いて暮らしていたのだった。
忠兵衛と梅川/与兵衛とお亀。華やかな元禄の世に生きる境遇の違う男女二組。
恋い焦がれる人と共にいるために心中を選ぶ、それぞれの恋の炎を描く。
長塚圭史
ーーまずは一言お願いします。
 
長塚:『近松心中物語』という商業演劇の、蜷川幸雄さんの金字塔。なぜこの作品を選んだかをお話しさせていただきますと、秋元松代さんが横浜出身で、神奈川県が誇る劇作家であること。それから僕は神奈川芸術劇場をきっかけにして『常陸坊海尊』という秋元さんのもうひとつの傑作を演出させていただく機会がありました。
 
秋元さんの、簡潔でありながら、非常に意味深いというか、味わい深いセリフに僕は惹かれていまして。『近松心中物語』というと、絢爛豪華な蜷川さんのイメージがどこかにあったわけなんですが、『常陸坊海尊』を経て、『近松心中物語』を再読してみたところ、非常に魅力的な戯曲であるなという風に感じました。若者たちが、金がものいう社会で、身分制度も厳しい時代、どうしようもなくなって、行き場がなくなって、死を選ぶ梅川・忠兵衛の様と、同じ町人の中でもある程度環境の違う、裕福ながらも、心中という物語に恋をしてしまうお亀と、生の執着から逃れられない与兵衛。
 
この社会の中で2つのカップルの様は、今の時代の格差など、そういう部分においても非常に雄弁なのではないかなと思って。今は難しい社会状況ではあるけれども、僕は非常に肉体的な戯曲だなと思いまして。ひとつには、一目惚れって、なかなか大変なことですからね。電気みたいなものが走って、そこで惹かれ合うわけですから。非常に人間的なことだと思うんです。秋元さんの戯曲は肉体性の高いものが多いんですけど、そこに色気というか、動物性を感じたんですね。
田中哲司、松田龍平(左から)
長塚:若者たちの間に流れる時間というのは早いです。この刹那を一生だと思う、永遠だと思うエネルギーもひとつ大きく惹かれたところ。石橋さんが演じるお亀も心中物語が流行っているというところで、心惹かれて、永遠を手にしようと、大好きな夫とともに死のうというエネルギーだと思うんですね。死ぬというということは、生を照らす。このことが大きく響けば、今の世の中にも、格差の話もありますし、僕らが求める肉体性みたいなものが多いに堪能できるんじゃないかなと思っています。
 
金字塔みたいな劇に19人に挑むというのがチャレンジ。このシリーズは、今年から8月の後半から、KAAT神奈川芸術劇場の「冒」というメインシーズンの最初の作品になります。思い切り「冒」険心に溢れたものにしたい。蜷川さんは80人で上演していましたけど、こちらは19人でやります。その辺も大いに冒険かなと思っています。楽しみにしていてください。
田中哲司
田中:この『近松心中物語』の忠兵衛という役は、僕にとっては本当にハードルが高く、心して挑まねばいけないなという役。さっき圭史くんに聞いたら、役の年齢は20代ということで。僕、今、55歳なんですけど、これはやばいぞって感じました(笑)。
 
けど、本当に龍平くんや静河さんやら笹本さん、圭史くんに会って、すごく心強いなぁと思いました。明後日から稽古で、まず最初の本読みがあるんですけど、僕、一番最初の本読みが大好きで。特に『近松心中物語』は、みんなどんな世界観や価値観を持ち込んで、読むのかなと思って、今から本当に楽しみです。あと、圭史くん、芸術監督第一弾目?
 
長塚:新作では初めてです。
 
田中:だからちょっといい作品にして、圭史くんをお祝いしたいと思います。よろしくお願いします。
松田龍平
松田:僕は長塚さんと仕事をするのは3回目なんですけど、一度、哲司さんとご一緒させていただいたこともあり、めちゃくちゃ心強いなと思いながら、楽しみにしております。……まだちょっとセリフも入っていないですし、これから稽古を重ねて、ちょっとずつ与兵衛の人柄が出てきたらいいなと思って。とにかく楽しみです。ありがとうございました。
笹本玲奈
笹本:私にとっても試練になるだろうなと思っていますが、さきほど始まる前に、長塚さんからこういうセットで、こういうシーンになるという説明を簡単に受けたんですけども、すごく私が想像していたものとは違って、斬新だなという風に思いました。
 
和物に挑戦することも、今回共演する方も皆さんはじめましてですし、長塚さんとも初めてご一緒するし、私にとっては、初めてのことづくし。ですが、しっかりと皆様についていけば大丈夫だなと本当に心強い気持ちになりました。頑張りたいと思います。よろしくお願いします、
石橋静河
石橋:お亀を演じさせていただきます。すごくボリュームのある脚本なんですが、読み終わった後に、なんてはかないんだという気持ちが残って。最初に持った印象を大事にしながら、お亀という女性が愛おしい人だなと自分は感じたので、ただただ真っ直ぐに奇をてらったりせずに、本当に余計なことを考えずに、真っ直ぐ演じられたらなと思います。頑張ります。よろしくお願いします。
『近松心中物語』のチラシ
ーーチラシをみてびっくりしました。まるでファミリードラマのようなチラシですよね。
 
長塚:和物を現代に立たせるようなことを考えたんですけど、『近松心中物語』は1979年の芝居だけど、現代に通ずるべきで。時代ものなんですけど、そういう枠に囚われずに作りたいなと思った。心中という言葉がかなり強いんでね。これは二つのカップルですけど、こういうある穏やかな時間から、ある段階までたどり着いてしまうわけで。そういう瞬間を描いてみたという。
 
近松を知っている人はどう思われるか分からないし、近松を知らない人にどう届くか分からないですけども、新しい間口を広げてみたいなということで、こういうチラシにしてみました。
 
ーーしかも音楽を担当されるのはスチャダラパーという!
 
長塚:そうなんですよ。びっくりしませんか。スチャダラさんが『近松心中物語』。この戯曲は元禄で始まって、元禄で終わっていくんだけれど、戯曲を読んでいくと、現代に通じるようにグッとトンネルが開いていくんです。この劇は今にちゃんと届けようという意識が、読み終わるとあるんです。
 
そのトンネルをどうつなげていこうという時に、僕がスチャダラさんをと思ったんですね。この劇の先に、スチャダラさんの音楽性が何か降下したら面白いなぁと。日々スチャダラさんと打ち合わせをさせていただきつつ、曲も概ね仕上がって、役者さんたちあれを聞いて。
 
ーー歌うんですか?
 
長塚:歌うんです。この劇自体は歌から始まるお芝居なんです。戯曲上は。誰がどこまで歌うか、それがラップかどうかは別として。スチャダラさんが秋元松代さんの歌詞から想起を得た曲を。ある種の騒ぎ歌みたいなのを想像していただけるといいのかなと。
笹本玲奈、田中哲司、松田龍平、石橋静河(左から)
ーー出演者の中では、田中さんが一番長塚さんとお仕事されていらっしゃいますが、石橋さんと笹本さんは初めて。稽古場での振る舞いなど、何かアドバイスはございますか?
 
田中:なんでも聞き入れてくれる、優しいです。やりやすいと思います。なんでもやりたいこと自由にやって。とにかく優しいです。
 
ーー松田さんも長塚さんとは3回目ということですが、アドバイスは?
 
松田:めちゃくちゃ厳しいです。長塚さんが僕に対してピリッと言ってくれるので、舞台をやる意味もそうですし……いつもありがとうございます。
 
ーーいつも課題を与えてくれる存在と。
 
松田:いつも声が小さいとずっと言われるんですよ(笑)。
 
長塚:違うんですよ、龍平くんはめちゃくちゃいい声していて。そうなんですよ。それを聞きたくてね(笑)。
笹本玲奈、田中哲司(左から)
ーー笹本さんは和物挑戦ですよね。実際脚本を読まれて、今、どんなイメージを持っていらっしゃいますか。
 
笹本:梅川は、彼女の生い立ちなど、語られてない部分が多くて。突然出てきて、一目惚れして、次のシーンでは身請けをするかどうかということになって、その次のシーンでは最期なので。あまり多くがわからない女性なんですよね。なので、セリフの端端から、彼女の人柄だったり愛情深さだったりとか可愛らしい部分が見て取れるので、そう言ったところから彼女のバックグラウンドをしっかり作っていきたいなと思っているところです。
 
ーー田中さんとはいかがですか。恋仲を演じられるわけですが。
 
田中:僕はいける感じです(笑)。大丈夫です。
 
笹本:すごく大きい方だなと思いました。私は背が高いので、なかなか見上げることがないんですけども。包容力がおありだなと思います。
 
ーー石橋さんはお役をどう受け止めていらっしゃいますか。
 
石橋:可愛い人だなと思いまし。その可愛らしさが同時に危うさも生んでいて、そこが難しいだろうなと思いつつ、余計なことを考えずに、ただまっすぐ、書いてあるセリフを読み込んで飲み込んでやれたらいいなと思っています。
 
ーー松田さんとご一緒されているのは……。
石橋:5回目なんです。
 
松田:結構長いんですよ。親のつながりで、小さい頃から知っているので。
 
石橋:はい。頼もしいです。
松田龍平、石橋静河(左から)
ーー19人というキャスティングはなかなか人数を絞ったかと思います。どこかのシーンを削るのか、兼役を増やすのか、どういう演出を考えていらっしゃるのでしょうか?
長塚:19人というのは結果的にそうなっていったんですけど、もの物凄い登場人物が多いんですね。さまざまにいい戯曲があって、実際にその人数をすべてキャスティングすると、ものすごい大所帯になることが往々にして起きる。いい戯曲はいろんな形で再現されていいと僕は思っていて。人数を絞ることで劇の焦点がクリアになると思う。
 
20人以下の俳優たちで上演されることで、いろんな戯曲がいろんな形でできるんだと視界が広がっていくのではないかなと思います。時に40、50人でやることもいい。それが悪いことじゃなくて、それもいいんですけど、でもひとつやっぱりチャレンジとして、こういうアプローチがあるんだという発見ができること。KAATという劇場で上演するにあたってはそれができたらいいなと。
 
もっと絞ることももしかしたらできるかもしれないんですけど、今回は良きところで。スケールも含めて19名とさせていただいています。
 
ーー「一目惚れ」が一つのキーワード。みなさんの一目惚れエピソードを教えてください。
 
田中:そうですね……身を焦がすような一目惚れはないですね。けど、軽い一目惚れなら、本当にしょっちゅう。女性とか男性とかモノとか景色でもいいですし、あと料理でもいい。そういう一目惚れは2日に1回ぐらいはしています。
 
松田:一目惚れ……僕も田中さんと同じで、一目惚れの頻度が増えているような、年々。そんな気がします。若い時は女性にしか一目惚れしなかったけど、美味しそうなご飯とか、道端に咲いているかわいい花とか、いろいろ見ちゃうというか。いろいろな一目惚れをするようになったなという感じはします。
 
笹本:人とモノに対して、あまり一目惚れをしない人生だったんですけど、去年、一目惚れでバイクを買いました。人生で初めて一目惚れしました。250ccの中型バイクを買いました。楽しいです。
 
ーーどこが一目惚れポイントですか。
 
笹本:見た目ですね。アメリカンな、足つきで。音もよくて。買っちゃいました。
 
石橋:最近した一目惚れは、坂口恭平さんという方のパステル画の画集があって、本当に美しくて買ってしまいました。最近の一目惚れですね。山とか空とか、写真を撮ったものを模写しているみたいなんですけど、心が窮屈になった時に見ています。
長塚圭史、笹本玲奈、田中哲司、松田龍平、石橋静河(左から)
ーーそれぞれの演じるお役とご自身で似ているところや共感できるところをお答えください。
 
田中:忠兵衛は勤勉な真面目なサラリーマンというイメージなんですけど、共通点はないですね(笑)。けど、僕が演じるので、多分滲み出ちゃうと思うので、頑張って演じなきゃなと思います。一番でかいのは年齢なんですけど。圭史くんにもいったんですけど、もし稽古場で、ジジくさかったら注意してねと言っています(笑)。
 
松田:うーん。言葉にするのが難しい。でも、筋を通す人だなと。ただ、でも、自分が本当にどうやって生きていきたいのか、分からないんだなという印象かな。周りにいる大切な人に対する筋はすごく通していて、心中するというのも向こうが死ぬと言っていても、自分はどうだろうな、死にたくないなと思っている。でも、あなたがいうなら仕方ないなというような。そういう人なんだなと思って。これからセリフを入れて芝居しながら、噛み締めていきたいなという感じです。
 
笹本:私も田中さんと同じで、全く共通点とか見つからないなと、脚本を読みながら困っていたところです。セリフの所々に愛する人を気遣う優しさとか、自分のことよりも相手のことを考えているのを感じます。私はどちらかというと、一人で生きていけちゃうタイプだと思うので、忠兵衛から見て、笹本玲奈は全く可愛げがないなと思われちゃうかもしれないんですけど(笑)、そういう梅川の持つはかなさとか、健気なところが今回の私の課題になってくるなと思います。
 
石橋:共通点は意識して読んでいないので、わからないんですけど、人がどう思われてもいい。自分はこうしたい、私はこの人が好きだから、人が何を思おうと関係ない。そう言い切れるのが、素敵だなと思って。そういう好きな、いいなという思うところはこれから見つけていきたいなと思います。与兵衛さんとお亀が幼なじみということは、私は松田さんと幼なじみというか、子どもの頃から知っているという点で、共通点はあります。
取材・文・撮影=五月女菜穂

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