深みやエグみにこそ滲むリアル。松川
ジェットが昭和の女性アーティストの
カバーに込めたコンセプトとは?

来年、結成20周年を迎えるLACCO TOWERの活動と並行して、松川ケイスケ(Vo)と真一ジェット(Key)はバンドのセルフカバーや他アーティストのカバー主体のライブ活動を続けてきた。その二人がこの度、日本の音楽史、より明確に言うと歌謡史に脈々と生き続ける女性アーティストの作品と真剣に向き合ったのが、今回のアルバム『彼女の出来事』だ。美空ひばり「真っ赤な太陽」、中島みゆき「悪女」、山口百恵「イミテイション・ゴールド」などなど、強烈な存在感を誇るオリジナルをいかに昇華するのか。実際、蓋を開けてみれば、著名な楽曲に腰が引けるどころか、オリジナルへのリスペクトと、昭和という時代の女性の生き方が浮かび上がる。そして、ボーカリスト松川ケイスケとアレンジャーでありプレーヤーである真一ジェットの個性もバンド以上に詳らかになるというチャレンジングな内容でもあった。
――LACCO TOWERは来年、結成20周年なんですよね。そういうタイミングでのバンドと松川ジェットの関係性は今、どんな感じですか?
松川ケイスケ:そうですね。もともと“松川ケイスケと真一ジェット”っていう名前で、こういうリリースきっかけがある前の2008年からライブはしてたりしてたんで、改めてこういう風に取材いただいたりすると、「ああ、こういうタイミングでこの二人がまた出ていける」っていうのはなんかちょっと変な感じがありますね(笑)。
――というのは?
松川:今まで、バンドの一部みたいな感じだったんですけど、今回、作品にさせていただいたことで、もう別のアーティストっていう感じになった感覚がすごくあって、それがちょっと変な感じなのとワクワクしてる感じが同居してるような感覚ですね。
――真一さんはどうですか?
真一ジェット:もともとの松川ケイスケ真一ジェットっていうのはなんとなくベテランだからこそできるユニットみたいな感覚があったんですけど、今、こうして松川ジェットとしてデビューってなると、それとはまた別の、新人のような、初心に戻れるような感覚がちょっとありますね。
松川:今回、ジャケットもそうなんですけど、アルバムのコンセプトもあって、時代とか「こうだ」っていう固定観念をつけさせたくないっていうのが、全編通してあって。見る人が見たらこう見えるみたいなもの、っていうのは全体のトーンとしてあるんです。アートディレクション、僕がやったんですけど、そこはすごく意識して。
――70年代を中心に様々な時代のカバーですけど、イラストでいったん、このアルバムの主人公は架空になるという感じがしますね。
松川:今回のアルバムのコンセプト自体が、それぞれの時代に生きた女性がどういう生き方をしてたか、みたいな曲を集めて、それがアルバムを通して作品として作りあげたかった世界観でもあったので、見方によってはこのジャケットの女の子が曲中の女性を演じてても違和感がないようにというか。
――そもそも初CD作品を、カバー、しかも女性アーティストの楽曲にフォーカスした理由はありますか?
真一:もともと、選曲がテーマありきじゃないんですよ。選曲をしていくうちにテーマができていったというか。曲を挙げていくうちに、やっぱり女性ボーカルの曲の方が多くて、それだったら、もう女性にフォーカスしたアルバムにしてしまおう、それをコンセプトにしようということになったんです。だから選曲とコンセプト作りが同時っていう形でできた作品になってますね。
――改めて70年代、80年代の女性が歌ってる曲を聴くと、作詞作曲家が分業してた曲も多いので、表現として強いなと思いましたね。
松川:今回アレンジも、各曲大変だったんですけど、元の曲のアレンジが結構凄まじかったりもするんで。分業というかプロ同士の為せる技というか。皆さん、ほんとにお上手なので、歌が(笑)。僕なんかがいうことじゃないんですけど。
――今の時代にはいない錚々たる歌手ばかりですね。
松川:それめっちゃ思いました。いないなって。時代が変わったって言っちゃうとそれまでなんですけど。
――10代でデビューして、(山口)百恵さんなんて21歳で引退してますからね。
松川:百恵さんの曲は、僕はぜひやりたかったんです。何曲か候補はあって、今回は「イミテイション・ゴールド」になったんですけど。
――逆にピアノ一本のアレンジになって、原曲のサスペンスフルな感じが出てる気がします。
真一:そうですね。音自体はピアノの音しかないんですけど、それでも曲の厚みみたいなものは10曲の中でも、ピアノ一本なのにすごく厚いみたいな、そんなサウンドになったんじゃないかと思います。
――この曲の選曲理由としてはどういうところですか?
松川:やっぱり宇崎竜童さん、すげえなじゃないですけど、「こんなふうに曲ってできるんだ?」ってほんとに感じた曲だったんで。僕らが聴いてる印象としてはやっぱサビの部分が残ってはいるんですけど、他の部分もいろいろ聴くと、「なんだこりゃ?」って思うようなところもあるんです。百恵さんの曲は他にもカバーしやすい曲はあったと思うんですけど、ちょっとチャレンジをしたいなという意味も込めて、この曲にさせていただきましたね。
――先ほど、ピアノ一本でも厚いって話が出ましたが、アレンジは難しかったんじゃないですか?
真一:この曲がこのアルバムの中で一番難しかったですね。もともと、ピアノと歌だけの予定じゃなかったんです。もっとリズムとか入れて、いろんな音を重ねた上でやってみようかなっていう思いがあって、EDMぐらいやっちゃったアレンジもしたんですけど、どうもしっくりこなくて。全く、驚くぐらいしっくりきてなかったんですよ、全員が(笑)。聴かせた全員、プラス作った自分もそれほどしっくりきてなくて、「これヤバイな」ってなって、そのあと、原点に戻ろうっていうところで、ピアノ一本でアレンジをやってみたら、これがどハマりして、今の形になりましたね。この曲はほんとに難しいんですよね。原曲のバンドアレンジも、結構一発で録ってんのかな?ぐらいのリズムの取りにくさだったりとか。
松川:なんなんだろうね?昔のビートルズとかもそうだけど、あの辺の録り方の今と全然違う、ちょっと生っぽい揺れてる感が。でも難しいって感じるということは俺らも侵食されてんだよ、今のやり方に。
――この曲は歌詞の最後に映画みたいなオチがあるじゃないですか。
松川:ありますねぇ。今回入ってる曲、そういう歌が多いんです。僕がメインで選んでるっていうのもあるかもしれないですけど、ドラマチックですよね、すごく。
――例えばこの曲のヒロインの生き方に関してはどういう印象を持ちました?
松川:この時代って、ちょうど多分、男性主体から女性の存在価値みたいなものが、社会的に少しずつ表面化してきてるようなとこで、女性がどう強くあるべきかみたいなことを、色々な方面から表現してた時代だと思うんですよね。その中で、女性が男性を選ぶとか、自分がやりたいことをする、例えば恋をする、誰かを愛する、みたいなところっていうのが歌詞に現れているような気がしてて。すごく女性の強さみたいなのを感じる歌だなぁというふうには思いますね。
ーー阿木子さんはそれを恋愛の歌詞にするのがうまくて。
松川:隠し方がお上手ですね。おしゃれというか。本質的なところは女性の生き方みたいなところなんでしょうけど、何かストーリーに乗ってけそれを表現するのがすごく素敵だなと思います。
――NOKKOさんの「人魚」はオリジナルのイメージが強い曲で。
真一:かなり新しい曲なので、このアルバムの中では。かなり完成されている曲なんですよね。なので、これをどう落とし込むかっていうのはかなり苦労しましたけど、でも案外、原曲の感じを自分たちのアレンジに落とし込んだだけで、なんとなくすんなりできたんですね、アレンジ自体は。いろんな音は重なってるんですけど、一番の特徴とすればはベースを入れなかかったんですね。一切。ちょっとふわふわした感じっていうのを人魚が海に浮かんでるようなニュアンスで出せればなっていう感じで、ベース入れないことで、それがちょっとできたかなっていう感じがします。
――単体で今の時代に出るとしたら、みんなシンベとか入れたいかもしれないですね。そしてNOKKOさんは特徴的なボーカリストなので難しかったんじゃないかと。
松川:カバーされてる方も多分少ないんですよ。で、男性でカバーしてる人はあまりいないかなという。僕がもともと声自体にクセがない方ではないんで、こういうクセが強い方の歌の方が歌いやすかったりするところがあって。やる前はサビの部分はどうなるんだろう?と思ったんですけど、この曲ってやっぱり残るのは頭のフレーズだと思うので、あそこをどう滑らかに入っていくかというか、かすれ具合だったり、喉の奥の部分だったりをどううまく出せるかな?っていうのはすごく考えながらやったところがあります。
――あと、同じような意味で独自すぎて難しそうなのがピチカートファイヴの「東京は夜の七時」で。野宮(真貴)さんの歌って、あまり感情が乗ってない感じがするので。
松川:リズムボーカルというか、野宮さんがあの声質であの高さでやるからいいっていうのが多分あるので。ぶっちゃけ、この曲はやる前は「どうなるんだろう」っていう、二人で話してて(笑)。オケができて、オンラインで合わせて行った時に、出口がすぐ見えたというか、「あ、これでいいや」みたいなのにはなったんですね。もともと、バンド育ちっていうこともあって、四つ打ちの少しリズム効いたものに対しても、自分の入り方っていうのはあったと思うんですけど、そこも含めて「難しいと思ってたけど意外と」っていうのは実は一番、この曲だったりするかもしれない。
真一:渋谷系の走りでもありますし、当時ももちろん最新ですけど、今聴いてもめちゃくちゃ新しいんで。それをどういうふうに落とし込むか?っていうのを考えるのが大変だったんですけど、やりたいことっていうのは決まってて。やっぱり、メロディは一本あるので、それに合わしてコードをーー原曲ってほんとに3コードぐらいで、移動してて。メロディに沿ってなかったんですね。それは魅力でもあるんですけど、この曲の。それを敢えて、メロディとコードを沿わせたらどうなるんだろう?っていうのがあって。そこを今回の四つ打ちのリズムに合わせてアレンジしてみたら、これがまたドンピシャでハマったんじゃないかなと思います。これが一番、曲のイメージ的には原曲と一番離れてる曲にはなってるのかなと思います。
――東京は夜の七時というリフレインと、早く会いたいとしかほとんど歌ってにのに、どういう洋服着てどういうレストランが好きでみたいなイメージが湧くんですよね。
松川:僕も歌詞書く時、ポケベルとか携帯電話とか出したくない派なんですけど。なんかやっぱその辺がお上手というか。
――なんか東京がキラキラしてた時代でもあるし。
松川:そうですね。なんかちょっと、上品なんですよね。遊びに行く感じも少し上品な感じがするし、高級な感じっていうよりは上品な遊び方してんだろうな、って感じが伝わってくる、かっこいい大人みたいな感じがある。当時、これ聴いてた時、僕ら小学生なんですけど。「あ、大人ってそんなんなんや」みたいな。
――(笑)。テーマとして重かった曲でいうと?
松川:僕、一番重かったのは「人形の家」っていう、今回カバーしたんですけど、歌詞の内容が重すぎて、ちょっとダウナーになるぐらい。多分これをRecしに行った日はボーカル録りしたのは、これともう1曲なんか録って帰ったんですけど、ほぼみんなと会話せずに帰ったんです。結構、読み込んで行くんですけど、これこそ当時の時代背景、覗いちゃうとちょっとパンドラの筐開けるじゃないですけど、それぐらい恐ろしい感じもあって。これは重かったですね。
――でも、重いが故に表現したかった?
松川:うん。この曲はほんとに、内容で選んだというか、僕はリアルタイムではないので、うちのスタッフから出てきた曲だったんですけど、曲はもちろん、他の方がカバーされたやつも知ってて。ま、今回の中では一番、ある意味入り込めたというか、こういう世界観がもともと僕も、行くならキワキワまでという人間なので、そういう意味では一番自分に近かったのかもしれないですね。
――こういう時代をなかったことにしない方が、今、コンセプトのあるカバーを出す上で意味がありますね。
松川:だから選曲は言い方難しいんですけど、いわゆるカバー集という感じというよりは一本芯の通ったものにしたかった感じはあって。他のアーティストさんも、中島みゆきさんもそうですけど、もちろん他にも有名な曲をたくさんお持ちなんで、パッと思いつくものも色々あるじゃないですか。でも、そこではなくて、この曲で行きたいっていうのは僕らの意思の現れというか。
――男性が歌うからむしろ説得力があるというか。
松川:ありがとうございます。
――女性は同性をエンパワメントしようというムードの方が今は強いので。いろんな時代といろんな気持ちがあるよねっていうのは女性がやるより説得力があると思うんです。
松川:ああ。ある意味、客観性があるんでしょうね、男性がそれを扱うと。女性だとどうしても当事者感が出てしまう。「って言っても.....」ってなっちゃうけど、そこがそういう意味ではないのかもしれないですね。
――中島みゆきさんは「悪女」を選曲されて。この曲は深いですね。
真一:「悪女」は一番、このアルバムやってる中で口ずさんでた曲ではあるんです。やっぱ歌詞の中で、めちゃめちゃ物語があって、これが明るいメロディに乗せてこの歌詞を歌ってるっていうのがすごい響いちゃって、もうずっと頭から離れなかったですね。
――女性が見栄を張りたい歌じゃないですか。
松川:中島みゆきさん、もともと好きで。エグい部分とエグくない部分を混ぜて、曲の中にポンと言葉を置くのがすごく上手で。この歌も多分、僕は最初に「まりこ」って出てこなかったら違う歌になると思うんですけど、あれが出てくるからこそ、なんか世界がエグくなるというか。入ってる音は祭りの後感とか、なんかちょっと疲れて茶店にいるような感じが、曲の方からは伝わってくるけど、中身のもっと中心の濃い部分っていうのはワンフレーズとか、すごくグッとくる部分があって。その辺が中島みゆきさんは、よりリアルというか。「ファイト」とかもそうじゃないですか。CMでもいっぱい使われてますけど、Aメロの部分とか多分、電波乗せられないでしょって内容だったりするし(笑)。
――後、個人的に「ラブ・イズ・オーヴァー」って、コテコテになる危険性のある曲だと思って。でも全然、コテコテじゃなかったです(笑)。
真一:でも一番苦労しました、アレンジは。どれだけ弾くかどうかですね。一つのコードに対してどの音を弾くか、どのリズムで弾くかみたいな、そういうの全部考えながら弾いて、一番歌が届くようなところを神経使って突き詰めて行った感じですね。全体通して足し算より引き算の方が多いんですけど、このアルバムって。その中でもこの曲が一番、神経使って、計算してできましたね。
――意外と女臭さがない曲かもしれないですね。
松川:そうですね。原曲のイメージもあるし、すごくたくさんの人がカバーしてる曲でもあるんで、僕もそういう意味ではだいぶ引き算をしたというか。これこそいわゆるカバーにしたくなかったというのはあって。自然に聴こえるようにっていうのは考えました。結局、不自然なので、違う人が歌ってるだけで。どれだけ自然になるかっていうのをこの曲は一番、意識したかもしれないです。
――コンセプトを持って実際に一作作ってみていかがですか?
真一:二人でやるライブが楽しいんで、自分たちが楽しめるところを突き詰めていたんですけど、今回はそれを一つの作品にするってこともそうですし、別の方が作った曲、別の方が歌っていた曲を自分たちのフィルター通してやるっていうのも初めてだし、作品に残すっていうのも。また、ピアノと歌っていうのは今までもやってきてましたけど、それ以外の楽器、主に打ち込みとかを入れて一つの作品にするっていうのも初めてだったので、かなりの手探り感は一番初めの頃はあったんですね。いろんなものを探って探って、正解を見つけて行くみたいな。それをやった結果、一つの芯みたいなものを探せたたので。それができたのがほんとによかったなと思いますね。出来上がって聴いてみても、当初想像していたものよりも、唯一無二の作品が出来上がったんじゃないかなって思ってます。
――バンドで、ハードで音圧のあるアレンジを普段やっていると、どうしても足す方に行くと思うので、新鮮でした。ちなみに今後の松川ジェットの予定はどうなってるんですか?
松川:一応、松川ジェットとしては初ライブが決まっておりまして。LACCO TOWRのバーターで、リキッドルームのオープニングアクトなんですけど。あとは今回、盤も出させていただいたんで、今ちょっとディナーショーみたいなものを考えてまして。松川ジェットでしかできないようなライブみたいなことを思う存分やっていきたいなっていうのがあって。そういうのを計画してます。
取材・文=石角友香

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