勅使川原三郎版『羅生門』アレクサン
ドル・リアブコを迎え新作初演~会見
レポート&リハーサル写真到着

勅使川原三郎版『羅生門』が2021年8月6日(金)~8日(日)東京芸術劇場プレイハウス、8月11日(水・祝)愛知県芸術劇場大ホールで上演される。国際的振付家の勅使川原三郎が主宰するKARASと愛知県芸術劇場の共同企画(東京公演共催:東京芸術劇場)で、愛知県芸術劇場芸術監督の勅使川原、佐東利穂子(KARAS)、ハンブルク・バレエ団プリンシパルのアレクサンドル・リアブコが共演。なお宮田まゆみ(笙 演奏)が東京のみ出演(愛知公演は録音上演)。7月15日(木)愛知でオンライン併用の記者会見が行われ、勅使川原、佐東、リアブコが登壇した。会見レポートならびに愛知で進むリハーサルの模様を捉えた新着写真をお届けする。
■「危機の中にある現実、そこから見える展望がテーマ」(勅使川原)
勅使川原三郎版『羅生門』記者会見の模様 (c)Naoshi Hatori
勅使川原三郎版『羅生門』の原作は、芥川龍之介が「今昔物語集」を基に1915年に発表した同名の短編小説だ。舞台は平安時代、荒れ果てた都に立つ羅生門。職を失った下人と死人の髪から鬘を作る老婆の姿を通して人間のエゴイズムを描き出したとされる。なお『羅生門』といえば、黒澤明監督の映画(1950年公開)を思い起こすかもしれないが、そちらは芥川の他の短編小説『藪の中』に想を得ている。勅使川原は映画とは「別」であると表明し、「私は小説の『羅生門』を基にして、そこから発想したものをダンスにしたい。芥川の原作に戻づいたものとして意義があると感じています」と意気込む。“勅使川原三郎版”と銘打つゆえんである。
勅使川原三郎版『羅生門』リハーサル (c)Naoshi Hatori
勅使川原は、新しいダンス作品を創る際に「いま生きている現代、いま自分が感じている実感が舞台上に生き生きと表せる」原作や題材を選ぶという。芥川の『羅生門』からは「神話性」を読み取った。「いま私たちがある種共有する時代の混乱、動揺、恐怖。きっとそこには綺麗なことではない、醜いことが起こっていたのではないかと思われる状況があって、まさに私たちが暮らし生きている時代そのもの」と指摘する。「どの時代でも人間が抱えなければならない困難、混乱、そして生、死」に「人間が持っている本質」を見出す。「困難、危機の中にしか見られないこと、その狭間にこそ映し出される現実があって、そこから見える展望はなんだろうか。それをテーマにしたい。私が感じる危機というのは、実感している危機です」と語った。
勅使川原三郎 (c)Naoshi Hatori
■勅使川原作品出演は「今までにない経験」(リアブコ)
勅使川原作品に初めて出演するリアブコは、巨匠ジョン・ノイマイヤー作品を中心に活躍し、2016年にはバレエ界のアカデミー賞と称されるブノワ賞を受賞した名舞踊手。『ニジンスキー』のタイトルロール、『椿姫』のアルマン役などで日本の観客にも大きな感動をもたらしてきた。今回のプロジェクトに際し、勅使川原はリサーチを重ね、リアブコにオファーしたという。
東京での14日間の隔離を経て愛知入りしたリアブコを勅使川原は「我々は通称の“サーシャ”と呼んでいます」と親しみを込めて紹介。隔離生活中にリモートで稽古してはいたが、会見前日に初めて実際に会ったばかりだというのに親密な雰囲気が伝わる。
(左より)アレクサンドル・リアブコ、勅使川原三郎 (c)Naoshi Hatori
リアブコは勅使川原のことを世界最高峰の名門パリ・オペラ座バレエ団に新作を委嘱されている存在として知っていたという。「特別な経験をできることをうれしく思います。大きなサプライズとなりました。私自身も、この難しい状況にあって、新しく、変わった、いつもとは違うことをしなければならないなと思いました。勅使川原さんがおっしゃった通り、新しいステップを歩んで難しい課題を乗り越えていくことが人生だと思います。この状況下で、この公演を成功させなければならないと強く思いました」と力強く話す。
勅使川原三郎版『羅生門』リハーサル (c)Naoshi Hatori
勅使川原とのオンラインでのリハーサルは「新しい経験」で「君はどういう風に感じるかということを常に問われてきた」という。「肩を傾けたり、今までにない体の動きを意識したりということは経験としてありませんでした。たとえば、指だけを動かして、その時、頭の自然な位置はどうであったかというように、体の意識を内側から外側に向ける経験をしました。勅使川原さんはヴィヴィッドなイメージを次々にあたえてくれたので、とても興味深くリハーサルのプロセスを進めることができます。皮膚を感じて、皮膚の内側から外側へ。人と話すこととはまた別の形でコミュニケーションを取っていくという、今までにない経験をしています」と説明した。
アレクサンドル・リアブコ (c)Naoshi Hatori
■「さらなる喜び」を感じつつ「もう1回新鮮に向かっていきたい」(佐東)
佐東は勅使川原作品の申し子として世に出た。欧州の権威ある舞踊雑誌「Ballet 2000」の年間最優秀ダンサーに選ばれ、日本人として初めてレオニード・マシーン賞を受賞。最近は海外からの依頼も含めて自身の振付作品を発表するなど活動の幅を広げ、無二の存在として輝く。勅使川原は佐東を「世界最高のダンサーの一人だと思っております」と胸を張って紹介した。
佐東は勅使川原、リアブコの話を聞いて「さらなる喜びを感じています」と話し始めた。「“サーシャ”に関していえば、メールでのやりとりやオンラインで話をしたり、実際に勅使川原さんの指示で動いたりしている中で、彼のことを知って納得できる。今日の話でもそうですが、とても真摯な方で、話していることも、物の聞き方もとても落ち着いているのを感じました」と話す。
勅使川原三郎版『羅生門』リハーサル (c)Naoshi Hatori
また、佐東は近年勅使川原が文学作品を基に創作する機会が多いことについて「自分がその題材を知ってたとしても、そこから何が生まれるかは思っていたこととは異なると感じています。今回もおそらくそうであろうという予感がします。自分自身もいろいろなことを手放して、もう1回新鮮に向かっていきたい。今日の話を聞いて、なおさらそんな風に思っています」と語る。
佐東利穂子 (c)Naoshi Hatori
■「強力な仲間」であるリアブコ、佐東と紡ぐ「ダンスの終わりの始まり」
勅使川原は佐東とリアブコを「強力な仲間」と称し、彼らに「とても共通するものを感じます」と述べた。「謙虚だということ、内面的に強いものを持っていること。それこそが何かを表現する人間に必要とされると思います。2人によって、私は大いに力づけられます」と意気軒高。そして「私は『羅生門』をダンスとして翻訳したいわけではない。最初に読んだ時、物語が始まる前があるだろうということを強烈に感じました。そして、この小説の終わりの後に、書かれていないことがあると感じます。それによって、小説家はその小説を成り立たせるのではないかと強く感じました。その終わりの物語の先に何があるのかを感じさせることによって、ダンスが終わることができるというか、ダンスの終わりが始まる。そんな気がしています」と展望を話した。
勅使川原三郎版『羅生門』リハーサル (c)Naoshi Hatori
海外の劇場での再演の可能性を探っていくというビッグ・プロジェクト。先行きが見えず苦しいコロナ禍の最中だが、希望となるような傑作の誕生が期待できそうだ。
取材・文=高橋森彦

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