北尾亘(Baobab主宰)が語る、Re:bo
rn project vol.2『アンバランス』の
創作と”SHINKA YEAR” への展望

Baobab 第13回本公演 Re:born project vol.2『アンバランス』が、2021年7月22日(木)~25日(日)東京・シアタートラムにて上演される。Baobabは主宰で振付家、ダンサー、俳優の北尾亘の下、主催公演のみならず国内外のフェスティバルなどでも活躍するダンスカンパニー。北尾に『アンバランス』の構想や【Baobab”SHINKA YEAR”21→22】について聞いた。
■「背景」が感じられるダンスを創りたい
――Baobabは2009年旗揚げで、北尾さんが全作品の振付・構成・演出を行います。「土着的でリズミカルな独特の躍動感を持つ振付で、圧倒的な群舞を踊り抜くのが特徴」とプロフィールに書かれていますが、そのスタイルはどこから生まれたのですか?
僕の出自が大きいですね。もともとはミュージカルを志していたので、その華やかさ、エンターテイメント性みたいなものを自分の形に変換しながら、群像を描くところから創作がスタートしました。さまざまなジャンルの要素を取り込みながら、群舞で空間構成も含めて身体を描き、今も新たな表現を追い求めています。
「土着的な身体」のルーツは、中学生の時に出会ったヒップホップがカッコよくて自分の体になじみがよく、ジャンプすることよりも地を踏みしめることの方が好きだと気づいたことからきています。自分の前世はアフリカや海外にあったんじゃないかなと思った事もありました(笑)。
そして、大学(桜美林大学芸術文化学群演劇・ダンス専修)で木佐貫邦子さん(ダンサー、振付家、桜美林大学教授)とコンテンポラリーダンスに出会います。お芝居を学び直そうと思って入ったのですが、未知のダンスに出会い衝撃を受けました。
第11回本公演『FIELD-フィールド』photo by Manaho Kaneko
――どこに衝撃を受けたのですか?
踊る上で大事なのは人に見せることではなく、踊っている自分は何を感じているかということ。その意識を持ちなさいと指導を受けました。「自分の感覚なんかを大事にしていいんだ」ということが衝撃でした。お客様を楽しませるミュージカルやショーダンスとは対極なので。しかも、コンテンポラリーダンスには型や垣根が存在しない。ならば興味の赴くままに作品を立ち上げられるのかもしれないと、すぐに創作意欲が湧きました。
――土着的スタイルが確立してきたのは、いつからですか?
旗揚げの頃からの逃れようのない感覚ですね。実際に定着してきたのは第7回本公演『TERAMACHI』(2014年)くらいからでしょうか。木ノ下歌舞伎(主宰:木ノ下裕一)に参加させてもらって、ほんの一部分ですが摺り足や歌舞伎の文化に触れて、こういうものを求めていたのかもしれないと身体的にも欲する部分がありました。
第7回単独公演 Corich舞台芸術まつり!2014春 最終選考作品 『TERAMACHI』Photo by Masakazu Yohikawa
――「リズミカル」ということでいえば、北尾さんの振付は音楽との一体感が抜群ですね。
音楽と凄く近い距離にあると思うんです。CD、それにMDができて、自分でセットリストを作れるカルチャーが小学生くらいからあったので、自分の好きな音楽で埋めつくせるような感覚はありました。音楽が流れれば踊るという流れも、舞台芸術に触れていたいから体に沁みついていましたね。
――Baobabはダンサーだけでなく俳優を起用することが多いですが、なぜですか?
ダンスは文脈・背景があって踊られるべきだと考えています。踊ることは、日常生活の中で二次的だと捉えられているんですね。意識的に動かないと踊れない、あるいは技術がないと踊れないというのがポピュラーな捉え方だと思うのですが、その距離を縮めたい。語弊があるかもしれませんが、技術があって、振付をきれいにコピーできたらいいという価値観の対極にあります。
ダンサーは踊るという行為で何かを捧げる。その分、意志が必要じゃなくなったりする。ストイックですが、作品上の動機はどこ?みたいなことが訪れたりもする。そこに俳優さんが加わってくれると懐疑的な思考を持てるんですね。なぜそういういきさつになっているかとか、もう少しドラマ的な視点で見てみようとか、そういう思考や感情の部分でアイデアや感覚を持ち込んでくれます。そこから、その座組でしか生まれ得ない作品が、背景を伴って生まれてくるんです。
第10回本公演ツアー『靴屑の塔』photo by bozzo
■原初の作品『アンバランス』にあらためて挑む
――このたび上演される『アンバランス』は、北尾さんが2010年に桜美林大学在学中に発表した同題作品が原点です。それを基に2012年、トヨタコレオグラフィーアワード2012で発表した『vacuum』(オーディエンス賞受賞)が発表されましたが、そこからさらに10年近くを経て、Re:born project vol.2 第13回本公演として世に問います。あらためて取り組む理由は?
新作至上主義の風潮から抜け出したいという思いが何年も前からこみあげていました。それが実際の取り組みへとつながるきっかけになったのは、​旗揚げから10周年の2019年に上演した『ジャングル・コンクリート・ジャングル』です。個人的な節目・到達点になりました。そこからはRe:born projectを推し進めることをメンバーと共有しました。『アンバランス』は大学4年時の上演で、杉原邦生さん(演出家、KUNIO主宰)にご覧いただき、KYOTO EXPERIMENTのフリンジに呼ばれる契機になりました。世田谷パブリックシアターで行われたトヨタコレオグラフィーアワードに応募した映像もこれです。トヨタコレオグラフィーアワードはいつかもう一度リベンジしたかったのですが、休止になり叶わなかったので、お隣のシアタートラムで絶対に『アンバランス』をやりたいと思いました。
僕の原初の作品で、若造の衝動とか好奇心、それに当時から怒りにも似たような感覚があったんです。「コンテンポラリーダンスは自由だ」と聞きはするんだけど、それでも「コンテってこういう感じ」みたいな風潮があるような気がして。それを何とか打破したいという思いが凄くありました。活動が10年を超えてきた今、原初を捉え、何を感じていたかにもう一度触れたいと思いました。加えて、世界中でいろいろなバランスが崩れ、人が人を思いやれない出来事とかがあまりにも多いと感じます。今この作品を通して社会がどう見えるんだろうと。僕自身がそれを一番見たいと思って選びました。
第12回本公演『ジャングル・コンクリート・ジャングル』photo by Riki Ishikura
――「[AI✕ダンス] Baobabが新時代を切り拓くSF異色作、誕生」というのが惹句です。人間がAIの指示を受けて動いたりします。どのようにして発想したのでしょうか?
大きく出たなと自分でも感じます(笑)。ここ3、4年くらい、取り扱う作品が次の作品にどんどんつながっていく感覚があったんです。それが『ジャングル・コンクリート・ジャングル』で完了しそうだなと。でも、わずかに『ジャンル・コンクリート・ジャングル』には、テクノロジーにタッチするシーンがありました。土着性とか、生命についてとか、群像とかを、まっとうに真っすぐに描く作品でしたが、それに対して冷静な距離を取るためにテクノロジーの存在を意識するようにしたのです。自分の創作感覚もそうですが、それが社会とどう接点を持っていけるかという幅を増やしていきたい。それがこのチョイスに大きくつながっています。
第13回本公演 Re:born project vol.2『アンバランス』フライヤー
■「ちょっとでも世界が良くなれば」舞台に込める想い
――『アンバランス』は、2021年1月末、上田市交流文化芸術センター サントミューゼでのレジデンス制作と2月の神奈川県立青少年センター スタジオHIKARIでのショーイングを行いました。今回のシアタートラムでの上演に際し、出演者を増員し、さらに作品を深め広げるリクリエイションを行います。そのプロセスで新たに見えてきたことはありますか?
上演の目標がステップとしてあると、かなり冷静に作品との距離を計れます。僕は空間への意識が強い方だと思うので、劇場が変わればどんなに変えないようにしたとしても変化が起こる。自然に変わるし、人が加わればまた変わるし、膨らむものもある。そこまで見通して決断を繰り返しています。それこそアンバランスな社会情勢の中で、半年以上同じ作品のことを考え続けている歩みがある。これはもの凄く重要だと感じますね。インスタントな選択にならずに済む。常に先も見越すし、過去も照らし合わせる。それができていると思います。
『アンバランス』上田公演 photo by 齋梧伸一郎
――少し稽古を拝見しましたが、終了時に「新しい景色が見えてきた」というようなことを出演者を前にしておっしゃっていました。「新しい景色」とは、どのようなものですか?
物の見え方が変化する時って、もの凄く感動があると思うんですよ。それこそ人がライブで集って空間と時間を共有することの価値ではないでしょうか。ダンスって鍛錬する方向に向かいがちです。追い込んで精度を上げる視点は僕にもありますが、振付や群舞の集団性に対しては間違い探しになってしまう可能性がある。それを避けるように歩んできたのがBaobabの軌跡です。新作だとフレッシュなまま、好奇心のままで終わってしまいます。その良さもありますが、今回はそれを凄くふるいにかける。そうなると見え方が少しずつ変化した時に喜びがあります。
『アンバランス』上田公演 photo by 齋梧伸一郎
――『アンバランス』への抱負をお聞かせください。
稽古場では風通しのいいクリエーションが続いているので、目の前で起きることに僕も常に豊かなアンテナを張っていたい。Baobabらしさはあるんだけど、見たことのない作品をという思いがあります。そこにプラスアルファするならば、目の前で起きること、作品が内包していることの多面性を、いろんな人にいろいろな受け取り方をしてもらえば。
ちょっとでも世界が良くなったらいいなと願って作品を創っています。座組がひとつの小社会だとすると、この場で育んだものが、それぞれの先の生活の潤いにつながればいいし、足を運んでくださる方に対しても同じ思いです。これまでは口にするのを避けていたんですけれど、今はコロナの影響も相まって、芯からそう思います。
『アンバランス』リハーサル
■【Baobab”SHINKA YEAR” 21→22】に向けて
――初単独公演から10年、Baobabは”SHINKA”-「真価」「深化」「進化」-をテーマに駆け抜ける【Baobab”SHINKA YEAR” 21→22】を発足します。『アンバランス』の後、2021年秋にRe:born project vol.3『ジャングル・コンクリート・ジャングル』、2022年1月にRe:born project vol.4 第14回本公演『笑う額縁』『UMU -うむ-』ダブルビル公演 、2022年7月には若手が集うダンスフェスティバル『DANCE✕Scrum!!!2022』を行います。意気込みをお願いします。
自粛期間中、Baobabは今後どうしていくか、メンバーで改めて話し合いました。コロナ禍で目まぐるしい公演活動、大変なことになるぞと思いながらも、ポジティブに前向きに進もうと決めました。
【Baobab”SHINKA YEAR” 21→22】ビジュアル
「真価」は、これまでも作品創作と上演を主たる活動にしてきたので、その真価を問い続ける。処女作に近い『アンバランス』を上演し、秋には、東京芸術祭にお声がけをいただいて、完全新作としては最新の『ジャングル・コンクリート・ジャングル』をリ・クリエーションします。これまでの遍歴・歩みをたどる旅になると思います。
「深化」に関して、土着的身体性をBaobabの樹が地に根を張るように深化させる。作品が面白いだけでなく、この場にいるとワクワクがどんどん進んで、それを栄養にしていると強く思います。それを止めないためには活動資金も必要なので、クラウドファンディングを行います。
「進化」は、”SHINKA YEAR”以降も活動を続けていくという決意・覚悟です。これまでのこともシェアし、新しい発想、出会いを求めていって、Baobabに集ってもらう。その規模を網状に広げたい。Baobabで育んだものがどんどん押し広がっていくことは、現在舞台芸術は苦境ではありますが、明るいビジョンにつながるんじゃないかと。そんな思いで名づけました。我々だけの利害で進むつもりはないので、トライアルメンバーとして出会った人の新たな発想で全然違うものをダンスに持ちこんだりしながら進んでいくと思います。
【動画】第13回本公演 Re:born project vol.2『アンバランス』TEASER
取材・文=高橋森彦

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