優里、オレンジスパイニクラブ、TET
ORA、それぞれのスピリットで激しく
ロックした『REDLINE TOUR』東京公演
をレポート

REDLINE TOUR 2021 SUMMER 2021.07.09 TSUTAYA O-EAST
限界を超え、すべての境界線をなくすことをテーマに2010年にスタートした「REDLINE」ツアーが、2021年の夏、コロナ禍に沈む日本を激しくロックする――。
東名阪3か所を巡るツアーの初日、東京・TSUTAYA O-EASTに登場するのは、優里、オレンジスパイニクラブ、TETORAの三組。まず先陣を切るのはオレンジスパイニクラブだ。飾らない無骨で率直な空気を身にまとい、「37.5℃」でゆったりと幕を開けたステージは、「またあとで」で一気にスピードアップ。一見ぶっきらぼうだが内側に甘さや切なさを潜ませた特徴的な声でシャウトする、ボーカル・スズキユウスケの存在感を中心に、土台をしっかり固めるバンドサウンド。O-EASTのフロアを埋めた満員のオーディエンスが、爆音に合わせて自然に体を動かし始める。
オレンジスパイニクラブ
「はじめまして、オレンジスパイニクラブです。REDLINEツアー初日、一発目、頑張っていきます。最後まで楽しんでほしいです」
ここからの3曲、ノンストップでやりきった「みょーじ」「駅、南口にて」「タルパ」がすごかった。力強いビートを黙々と支える、ゆっきー(B)、ゆりと(Dr)のリズム隊。時にカントリーやブルースっぽい渋いフレーズを織り交ぜながら、腰の据わった激しいプレーを聴かせるギターのスズキナオト。サウンドは常に熱く、メロディは常に切ない。1970年代にも、80年代にも、2000年代にも、どの時代にも必ずいたような気がする、日本の歌ものロックの一つの王道と言えるバンドかもしれない。
オレンジスパイニクラブ
オレンジスパイニクラブ
「TETORAのボーカルの羽有音ちゃんが何度か夢に出てきたんです。」高校生の夢想みたいなユウスケのエピソードに、メンバーが突っ込み、オーディエンスが笑ってる。演奏している時の迫力とは正反対、しゃべりだすとどこまでもゆるい。そして「優里さんもカバーしてくれた曲を」と言って披露したのは、ヒットチューン「キンモクセイ」だ。耳なじみの曲だが、ライブで聴くとさらにみずみずしさが際立ち、楽曲の持つナイーヴな物語性が立ち上がる。いい感じ、と思った次の瞬間に猛烈ハードな「急ショック死寸前」でガラリと場面を変えてしまう、緩急自在のステージング。さっきまでじっと聴いていたオーディエンスが一斉に拳を上げる。
オレンジスパイニクラブ
オレンジスパイニクラブ
ラストは「たられば」から「敏感少女」へ。月光仮面が来ないのと、という歌詞が耳に入り、RCサクセションを知ってるんだなと、ふと日本のロックの歴史の繋がりに思いをはせる。エモ、青春パンク、ギターロック、フォークソングっぽいスタイルまで、素直に咀嚼したロックバンド。後味は妙に爽やかだった。
オレンジスパイニクラブ
「はじめまして、大阪から、Orange Owl Records所属、TETORAです」
20分の転換をはさみ、生きのいい宣言から始まった二番手は、女性3ピースバンドのTETORAだ。「友達、以上」「素直」「嘘ばっかり」と、有無を言わさぬ爆音と豪快な演奏、3人が一体となって伸び縮みする生き物のようなサウンドで、あっという間にオーディエンスの心をつかむ。ボーカル・上野羽有音は左利きで激しいリフをガンガン弾き、ハスキーなパワフルボイスを振り絞ってシャウトする。リズム隊のいのり(B)とみゆき(Dr)は、小さな体に似合わぬ大きなビートでバンドの屋台骨をしっかり構築する。フロアで突き上がる無数の拳。その気持ち、伝わっている。
TETORA
ロックバンド、します。四の五の言わず、簡潔にバンドの姿勢を語る羽有音のMCがかっこいい。「ピースシーズ」から「覚悟のありか」へ、コクのあるスローテンポも難なくこなす。「ずるい人」のように、穏やか中にエモさを満々にたたえたフォークロック調の曲もしっかり聴かせる。「知らん顔」「今日くらいは」と、激しさの内に女性らしい一途さと大きな包容力を込めた曲もばっちり届く。ケレン味がない。迷いがない。
TETORA
TETORA
「ロックバンドはライブハウスにいます。ライブハウスよりおもろいものを私は知らないんで、ライブハウスにいる本物のTETORAに触れてください」
ラストは「レイリー」の、スローなシューゲイズめいた轟音に溶けるようなフィナーレ。現在活躍する女性3ピースバンドの中でも、泥臭いほどの素直さを隠さず、感情を露わにし、ロックにこだわり、骨太なバンドサウンドを奏で、恋と生き方を歌う、凛とした立ち姿の決まったバンド。6月のZepp Tokyo公演もソールドアウトして、まさに今が飛躍の時。そんなバンドを至近距離で目撃できる、それが「REDLINE」ツアーだ。
TETORA
TETORA

会場内が暗転し、バンドが位置につき、「彼」がステージに姿を現した瞬間に、「ほう…」というどよめきが起きた。彼の名は優里。時の人と言ってもいい注目度No.1シンガーだが、開演前から「実はまだライブを見たことないんです」という周囲の声がいくつか耳に入ってきたように、動画サイト中心の超ビッグヒットとは対照的に、ライブを体験した人はまだそれほど多くないはずだ。一体どんなパフォーマンスを見せてくれるんだろう?
TETORA
「今日は最高の歌を届けにきました」
1曲目「ピーターパン」から、のけぞるほどにラウドで攻撃的なバンドサウンドが炸裂し、激しく吼えるロックボイスが襲い掛かる。予想をはるかに超える音圧に立ち向かうように、オーディエンスが拳を振り上げて応える。アコースティックギターを抱えて満員のフロアを笑顔で見渡しながら、「みんな一緒に手拍子で盛り上がっていきましょう!」と煽る優里。「花鳥風月」の、ファンキーな踊れるリズムが心地よい。実にパワフルなステージングだ。
優里
「自分なりのロックを届けに来たので、みなさん最後まで盛り上がってください」
久々の対バン形式に緊張していると言いつつ、歌声には緊張も迷いもない。アコースティックギターで繊細なフレーズを奏でる「かくれんぼ」は、ブラックなフィーリングを込めてメランコリックに。「インフィニティ」は、ノリのいいレゲエ調で明るく軽やかに。フロアのすべての人の顔を見るように、歌いながら目線を動かしているのがよく見える。ライブが楽しくて仕方がない、ポジティヴなエナジーが体全体から解き放たれる。
優里
優里
「今日、僕がここで歌を歌っているのは、夢はかなうということが、少しは証明できてるんじゃないかと思います。今日ここにいるみなさんの、夢への一歩を後押しできるように、残り2曲、心を込めて歌います」
2年前の『REDLINE TOUR』、ステージではなく物販スペースでギター1本で歌った思い出を振り返り、歌い続けてきたことに感謝するMCがじんわりと胸に沁みる。そこからアップテンポで「飛行船」でもう一盛り上がり、そしてラストチューンはもちろんこの曲「ドライフラワー」だ。切なくもいとおしい恋物語が、力強い演奏と圧倒的な歌唱力のおかげで、音源の何倍ものエモーションを持って迫り来る。数字が独り歩きしそうな大ヒット曲が、オーディエンスとの一対一の歌としてここにある。
優里
優里
「みなさん、今日はありがとうございました!」
それぞれのロックスピリットを見せつつも、バラエティ豊かな組み合わせで楽しませてくれた2時間半。ツアーは残り2本、7月16日の名古屋国際会議場センチュリーホールは、優里とオレンジスパイニクラブにPEDROを加えて。17日のZepp Nambaは、優里とオレンジスパイニクラブにVaundyを迎えて。自由に形を変えながら音楽の楽しさと深みを伝えてゆく『REDLINE TOUR』、今後の展開にも注目していたい。
優里

取材・文=宮本 英夫 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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