“テニミュ”との新たな旅を始めよう
~ミュージカル『テニスの王子様』4
thシーズン 青学(せいがく)vs不動
峰 ゲネプロレポート

2021年7月9日(金)、TOKYO DIME CITY HALLにて幕が開いたミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 青学(せいがく)vs不動峰。シリーズとして19年目を迎えた“テニミュ”が今作よりキャストとクリエイター陣を一新。まっさらなところから新たなスタートを切った新鮮な感動を心に焼き付けるべく、そのゲネプロの模様をレポートしたい。
座席に着いて最初に目に入ったのは、スタジアムのゲートを思い起こさせる大きなパネル状のセット。プロローグを経てそこから最初に飛び出してきたのはやはり……越前リョーマだ! 物語はアメリカ帰りの超スーパールーキーである彼が青春学園中等部に入学し、テニス部へ入るところから動き出していく。
入部希望の同級生・1年トリオと出会い、うっかり厄介な先輩たちに絡まれ……と序盤はまさに学園ドラマの導入。トリオだけでなく他校生徒やテニス部員たちがシーンに合わせてカラフルに行き来することでステージ上に部活モノらしい活気が生まれ、物語を追う中で自然と“強くて生意気だけど仲間思い”なリョーマの魅力が伝わってくる流れは新鮮。その雑多な賑わいを切り裂くように学校名の入ったジャージに身を包んだ青学(せいがく)レギュラー陣がひときわ輝きながら登場するのも非常に効果的で、一瞬で吹き込む“彼らが只者ではないという”空気が舞台上にピリっと緊張感を与えてくれる。
 (c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会
第一幕はリョーマvs海堂、リョーマvs乾の校内ランキング戦が中心。リョーマ役の今牧輝琉はとにかくタフ。相手に合わせバリエーション豊富なゲームスタイルを繰り出し、ほぼ出ずっぱりの動きっ放しで序盤から汗だくになりながら“テニスに愛されている”リョーマをのびのびと演じる。何かを強制されそうになった時に発する「やだ」というセリフに込められた少年らしい一言も耳障りよく響き、端的にキャラクターの性格を伝える魂が宿っていた。
手塚国光役の山田健登は部長としての厳しさを備え、重厚感ある歌声も頼もしい限り。大石秀一郎役の原 貴和は瑞々しい歌声と笑顔を忘れぬ優しい副部長。不二周助役の持田悠生は天才プレイヤーとしての落ち着きと洞察力で場を支え、乾 貞治役の塩田一期はデータマンとしてのしつこさとダイナミックなプレーとのバランスが絶妙だ。明るさと人懐っこさで目を引くのはアクロバットもこなす菊丸英二役の富本惣昭。縁の下の力持ちポジションを丁寧に担っていた河村 隆役の大友 海、まさにスポーツ少年なまっすぐさと元気な声も気持ちいい桃城 武役の寶珠山 駿、自分のテニスを貫く海堂 薫役の岩崎悠雅の粘り強くストイックな風情──5月のお披露目会を経ての本公演ということもあり、青学(せいがく)レギュラー陣はそれぞれが時間をかけ、しっかりと自分のキャラクターに向き合い理解を深めてきたことが伝わってくる完成度。ちょっとした場面でのやりとりにも“らしさ”が溢れている。堀尾役のりょうた、勝郎役の白石 寿、カツオ役の市川愛大の1年生トリオのチームワークも同様。青学(せいがく)全員での揺るぎない一体感を持ってのパフォーマンスは、作品全体に瑞々しい勢いを与えてくれた。
 (c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会
第二幕は地区大会決勝。いよいよ青学(せいがく)vs不動峰の対戦だ。理不尽な先輩や顧問との衝突の末に生まれた雑草魂溢れる不動峰の結束は固く、実力も相当。登場した瞬間からチームカラーにふさわしいパワフルな歌とダンスの圧が存分に発揮され、青学(せいがく)とともに時間をかけ丁寧にキャラクターを構築してきたであろう安定感と存在感で相手校としての怖さを見せつける。
試合はダブルス2(不二・河村vs石田・桜井)、ダブルス1(大石・菊丸vs内村・森)、シングルス3(海堂vs神尾)、シングル2(リョーマvs伊武)の4戦。原作に描かれている試合展開をギュッと濃縮しつつ「ここは」という象徴的なポイントを強調して伝えることでテンポよくゲームが進む。試合によってミュージカルナンバーもハードロック調からシティポップ風にチル系ラップまでと多彩な切り口で緩急をつけ、それぞれの試合の特徴を際立たせた。また、左右および後方のスクリーンにボールの軌道やラケットのインパクトの瞬間を映像として映し出すことで、ラリーの様子を視覚化、芝居歌よりもレビュー的な歌の見せ方も多く、テニスの多様性を五感から伝えていくのが今シーズンの試合の特色となっている。
 (c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会
リョーマの父親であり伝説のテニスプレイヤー・越前南次郎と、「月刊プロテニス」の井上記者も欠かせないキャラクター。演じる中河内雅貴と北代高士はともにテニミュ1stシーズンに出演していた経験を持つ。ミュージカル俳優として活躍する中河内と若き座長・今牧の関係はそのまま「技術を身につけここまでこい」と願う父親と「親父をテニスで超えたい」息子の関係とも重なるようで、テニプリの大きな柱のひとつである父と子の物語を体現しているよう。飄々とそして軽々と歌とダンスと芝居とラリーを操ってみせる中河内が、作品と観客に与えてくれる“目に見えないが確実に噴出しているパワー”は重要だ。そして未来の名選手を求めて足で取材を重ね続ける井上記者。彼の持つ“知っているからこそ見つけられるモノ”の大切さとそれを追いかけ続ける情熱は、テニミュファンのあたたかな思いやブレない目線とも重なり、北代の愛ある誠実な芝居がその効果を増幅させていく。こうしたキャラクターの配置、配役の妙、虚実交錯する作品世界の芳醇さは、長年続いているシリーズだからこその心憎いホスピタリティーだと言えるだろう。
過酷な試合も終えれば笑顔。南次郎と井上がボールを打ち合う様子と青学(せいがく)&不動峰メンバーとの姿が夕焼けに照らされるとき、ふと「夢中になれるモノがある幸せ」を思う。そこにいるのは誰もがただの(永遠)のテニス少年。「勝ちたい」「強くなりたい」と願い、努力し、夢に向かって走り続ける“テニスの王子様”たちなのだ。そして、彼らを見守り応援し続けることはまた、観客にとっての「夢中になれるモノがある幸せ」なのかもしれない。
これまでのシリーズを踏襲しつつ、新たなフェーズで勝負する姿勢を崩さずに今まで描ききれなかったキャラクターの背景や人間ドラマにも重きを置いた4thシーズン。汗臭くなりすぎず、爽やかでポップな後味もその魅力である。3rdシーズンまでのリスペクトを巧妙に滑り込ませた創り手のテニミュ愛と、テニミュを楽しむ全ての人たちのエンジョイ精神が育てる新たなテニミュが歩む期待と──。スタートからゴールまで、いよいよ未知のワクワクが尽きない“テニミュ”との旅が始まった。
 (c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会
取材・文=横澤由香

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