神木隆之介「自分にとって大事なもの
なら、ちゃんと立ち止まって大事にし
てあげなきゃ」 映画『100日間生き
たワニ』対談インタビュー

映画『100日間生きたワニ』が、2021年7月9日に公開された。きくちゆうき原作の4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』のタイトルを改め、ワニと仲間たちが過ごした日々の思い出や、ワニがいなくなって100日後からの残された仲間たちの日々が描かれた本作。
SPICEでは、主人公・ワニ役の神木隆之介と、監督・脚本を務めた上田慎一郎にインタビュー。ネズミ役の中村倫也や、モグラ役の木村昴とのアフレコエピソードや、映画を観終わったあとに会いたくなった人への思いなどを語ってもらった。
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【インタビュー】
──原作を読まれた際の感想をお聞かせください。
神木 僕は、話題になっているのをきっかけに、半分くらいの頃から原作を読み始めました。でも毎日は見ていなくて、まとめて何日分かを読んでいたんです。でも、89日目から90日目になった頃、「待って……あと少ししかないじゃん」ってふと気づいたんです。そこから一気に引き込まれて、最後まで見守りました。
(c)2021「100日間生きたワニ」製作委員会
上田 僕は原作を2日目から読み始めました。「死まであと○日」というカウントダウンという形式や、毎日アップされるリアルタイム性も面白いと思いましたが、なによりも「映画的な漫画だな」という印象が一番強くて。多くを語らない余白があることや、読者がリプライ欄で自分の解釈や感想を語っていることなんかはまさにそう。そこからじわじわと、映像化したいなと思うようになりました。
──この作品ならではだなと思う描写や、特に引き込まれたシーンはどこでしょうか?
上田 印象に残っているエピソードは41日目。40日目でバイトを辞めたあとのワンシーンです。道に空き缶が落ちていて、とおりすがりのワニは一度それを素通りするんです。でもやっぱり戻ってきて空き缶をゴミ箱に捨てるっていうだけのエピソードですね。これを見たときに、読者が何を感じるか投げかけるにしても、すごいことをするなと驚きました。とても繊細な感情を描いたエピソードだと思います。
神木 僕が印象的なのは4日目。ワニが寝っ転がって何もせずに一日を過ごして、最後にラーメンを食べるだけの回なのですが、「僕と同じじゃん」と思いました(笑)。四コマ漫画といえば“起承転結”があるイメージでしたが、この作品は“起”すらないのがすごいですよね。だから先がまったく読めないですし、残りの日にちが少なくなってきたときに、より焦るんです。
神木 最初はほのぼの読めていたはずの作品が、急激に自分たちとリンクし始めて、「もしあと何日しか残されていなかったらどうする?」と、自分に置き換えて読むようになるんです。「ワニくん、気付けよ! 寝そべってる場合じゃないぞ!」って言いたくなるんですが、でもその言葉は、本来、自分自身に言わなければいけない言葉なんですよね。66日目にセンパイ(CV:新木優子)に告白しにいくときなんかは、「勇気出せよ! いま言わなきゃ時間がないんだぞ!」って、じれったくなりました。
上田 そうだね。僕らだって、あと100日あるかどうかわからないですから。そうやって、読んだ人それぞれが、いろんな受け取り方をできるところがこの作品の魅力だと思います。
──神木さんが演じたことで引き出されたワニの魅力はどんなところだと思いますか?
神木 監督! 何かありましたかっ!?
上田 (笑)。実写作品もそうなんですが、僕らのなかで「役者さんにはこう演じてほしい」っていうイメージがあるんです。でも同時に、イメージどおりじゃ物足りなくて、僕らの想像を超えるお芝居をしてほしいという思いもあって。今回は、神木くんもほかのキャストさんたちも、イメージどおりの芝居だけじゃない、それ以上の芝居をしてくれました。とくにワニとネズミ(CV:中村倫也)の掛け合いの芝居なんかは、二度と録れない雰囲気だったんじゃないかな。
神木 よかった~。

(c)2021「100日間生きたワニ」製作委員会

上田 それから、ワニがセンパイに勇気を出して会いに行くシーンは、10秒間完全にアドリブで演じてもらっています。僕らの演出ではなく、神木さんと新木さんが作り上げてくれたシーンになっているので、よりキャラクターの魅力が伝わると思います。
神木 収録の際、「絵のワニの口が動いていないですけど、大丈夫ですか?」と聞いたら、「大丈夫です! 芝居に合わせて後から絵を動かします」と言ってくださったんです。よし、じゃあ自由にやるぞ! と気合が入りました。
──表情が伝わらない声だけのお芝居でアドリブとなると、難しそうです。どんなふうに演じたのでしょうか。
神木 新木さんとは今回初めてご一緒したこともあって、どう演じられるのか全くわからなかったんです。でも倫くんが以前新木さんと共演していたこともあって、スタジオで「おー!」「久しぶりー!」なんてフランクに声を掛け合っていたので、僕もそれにあやかって「よろしくお願いしまーす!」と距離を縮めてみました(笑)。収録していくなかでお互いの雰囲気を感じ取っていくことができたので、アドリブのシーンも演じていて面白かったです。ただ、10秒って思ったより長くて、後半は不安になりました。でも、実際に好きな相手に道でバッタリ会ったら、きっとなんて切り出したらいいのかわからなくて「あ……いや、あのー」って言ってる時間が長いと思うんです。本人にとってはすごく短く感じる時間も、客観的に見ると長く感じるのと同じなんだろうなと思いました。
上田 僕はあのシーンの神木さんのお芝居がすごく好きなんです。
(c)2021「100日間生きたワニ」製作委員会
──本作は、ワニ・ネズミ・モグラの3人の関係性をとおして、キャラクターを好きになっていく人も多いと思います。演じるうえで大切にしたことはありますか?
神木 監督からは、幼馴染みとしゃべっているような、ちょっとしたけだるさがこの3人にはあってもいいと言われていて。ただ、どのくらいけだるくするかは実際に演じながら決めていきました。(木村)昴くんとは15年前に『ドラえもん』で共演していましたし、倫くんとは普段から仲がいいこともあって、幼馴染みの雰囲気を出すのは難しくなかったです。ふたりとも優しいし、相手を思いやることができる人なので、僕も演じていて楽しかったです。
──では、共演者さんのお芝居で印象的だったことは?
神木 倫くんがふざけすぎなところです(笑)。というか、いつもどおりの倫くんでした。
(c)2021「100日間生きたワニ」製作委員会
神木 ネズミというキャラクターがそもそも倫くんっぽいこともあって、ぴったりなんです。たまに、テンションの上がり方がみんなとちょっと違う人っているじゃないですか。そこかネズミと倫くんの共通点なんです。なので、「自由にしゃべってみてください」っていうアドリブのシーンが何か所かあったんですが、“ワニとネズミ”の会話から、どんどん“僕と倫くん”の会話になっていってしまったことがあって(笑)。
上田 それでNGになったこともありましたね(笑)。
神木 で、NGが出ると倫くんが「ダメって言われちゃた~」っていたずらっ子っぽく笑うんです。倫くん、声優は今回が初めてだったのに、めちゃくちゃ楽しんでましたね。昴くんとも、「昴~わかんねえよ~」「いや、そのままで大丈夫ですよ、倫也さん」「ホントか!?」なんてやり取りをよくしてました。
──神木さん、中村さん、木村さんの和やかな雰囲気が伝わります。ちなみにワニは作中でよく写真を撮っていましたが、神木さんが写真に残したいと思った瞬間はどんなときですか?
神木 収録や撮影の休憩中の、本当に何気ない瞬間ですかね。そういう写真ほど、無防備な顔を自分に向けていてくれるんだなと思ってうれしくなります。でも写真って難しくて……。自撮りかタイマーにしない限り撮ってる自分自身は写らないから、「この瞬間を写真に残したい!」と思って撮っても、あとで見返すと自分が1枚もいないことが多いんです。
上田 家族写真を見返したら、お父さんがあんまり写ってないみたいな話だ(笑)。
神木 そうそう、お父さんが撮ってるから写ってないっていうのと同じです。
上田 でも、いつもそこにお父さんがいたんだなってことは伝わると思います。ワニも、花見でみんなとその姿や瞬間を共有したかったんでしょうね。
神木 思い出と一緒に、「これが、僕から見たあなたの素敵な姿なんだよ」って共有できるのは素敵ですよね。
──見終わると、心に浮かんだ人に連絡したくなる・会いたくなるような作品ですが、いまだったら神木さんはどなたが思い浮かびますか?
神木 高校時代の同級生に連絡したくなりました。この映画を見て思い浮かんだ誰かがいるのであれば、きっとその人のことを大事に思っている証拠なんだろうなと、僕は思います。会えば盛り上がるし、すごく仲は良いけれど、普段そこまでマメに連絡を取り合っているわけではない関係の人って、きっと誰にでもいるはず。でもそういう存在がいるってこと自体が実は奇跡なんだと、気づくきっかけになる作品ですよね。
──上田監督が、余白の大事なこの作品を映像化する際に大切にされたことは?
上田 こちらが多くを語り過ぎないこと、です。それが多ければ多いほど、観てくださる方が考えたり受け取ったりできるものが減っていってしまうんです。むしろ、お客さん自身に委ねるくらいのつもりで作りました。その塩梅が難しくて、スタッフ間でも「これは言い過ぎでは?」「これは説明不足では?」とかなり議論しました。
──確かに、前向きなメッセージではなく、考える時間をくれるような作品でした。
神木 何かを失ってしまった彼らの姿を見て、会いたい誰かが思い浮かんだように、いろんなことに向き合わされる映画なんです。失ってしまってからの時間の溶け方や、前を向けるようになるまでの時間のかかり方は人それぞれですし、永遠に溶けない人もいると思います。進まなければいけない人もいれば、進みたくない人もいる。ただ、忙しかったり避けていたりで、失うことに対して目をそらしがちだった人ほど、そこに向き合うことになる気がします。一度立ち止まって、ちゃんと向き合うことが必要だった人ほど、観終わった後にいい意味で時間が止まるはず。
上田 確かにそうですね。そうやって、立ち止まるきっかけになってくれるとうれしいです。
神木 むしろ、立ち止まってもいいんだよ。立ち止まらなきゃいけないんだよって教えてくれる作品ですよね。
(c)2021「100日間生きたワニ」製作委員会
──前を向くこと、進むことが良しとされがちななか、「そうじゃなくてもいい」ということを描いてくれているところが素敵でした。
神木 世の中のスピードがどんどん早くなっていて、常に新しい風に乗っていかないといけない状況ですからね。でもそれは世間のスピードであって、自分自身のスピードではないんです。自分にとって大事なものなら、ちゃんと立ち止まって大事にしてあげなきゃいけないなって思います。
上田 そこはすごく意識しました。忘れることも忘れないことも、前を向くことも立ち止まることも、すべてを肯定できたらいいなと。コロナ禍だからこそポジティブにいこうぜって人もいれば、ポジティブという言葉に焦りを感じて、しんどく感じる人だっているはずですから。
──すべてを肯定するものをエンタメ作品として作るのは、相当難しそうですね。
上田 難しかったです(笑)。
神木 すべてを肯定したうえでちゃんと伝えるって難しいですよね。何かを肯定するってことは、否定的なものがどうしても見えてきやすくなるわけで。
上田 そうなんです。だからこそ、背中を押すのではなく、背中をさするような作品にしたいなと思いました。その人自身のペースで立ち止まっていてもいいし、ゆっくり歩きだすのでもいい。どちらの人の背中も、さすってあげたいと思います。
──最後に、映画を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
神木 作品の見どころについてはたくさんお話ししたので、僕からはキャラクターのかわいさについて一言。映画は、なんといってもキャラクターが動きます! その丸みや動きがとてもかわいいんです! 原作では平面だったワニたちが、映像になるとどの角度から見てもかわいくて。原作を知っている方ほど、きっと想像以上だと思います。
上田 シンプルなキャラクターですが、じつは細かい動きをしているので、ぜひじっくり見てほしいです。ああいったキャラクターの場合、正面から平面的に撮ることが多いのすが、コンテ・アニメーションディレクトを担当してくださった湖川(友謙)さんが、俯瞰やあおりを多用してくれていて。そういった演出面でも、楽しんでいただけると思います。今回の映画の半分は、原作にはないオリジナルストーリーになっています。原作を知っている方はもちろん、未読の方でもすんなり入り込める内容になっていますので、映画ならではのワニの物語にぜひ触れてみてください。よろしくお願いします!
映画『100日間生きたワニ』予告【7月9日(金)公開】
映画『100日間生きたワニ』は、2021年7月9日公開。
取材・文=実川瑞穂、撮影=大塚正明

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