SUPER BEAVER渋谷龍太&酒井伸太郎監
督が対談、MVの企画提案から発表まで
の仕事術は「企画書の段階で曲を掘り
下げる」

新曲「名前を呼ぶよ」を含め、2021年に入ってSUPER BEAVERのミュージックビデオを4曲制作・発表している映像監督、酒井伸太郎。配信されたばかりの「名前を呼ぶよ」、3月にリリースされた映像作品『SUPER BEAVER 15th Anniversary 音楽映像作品集 ~ビバコレ!!~』に収録されている「東京流星群」のミュージックビデオは、すさまじい熱量で演奏するSUPER BEAVERの姿はもちろんのこと、現代に生きる人々の心情、葛藤を映し出しており、物語としても鑑賞者の感情を揺さぶるものになっている。この2曲のミュージックビデオはどのような経緯で生まれたのか。企画提案から納品・発表までの「MV制作の仕事術」について、SUPER BEAVERの渋谷龍太と酒井監督に話を訊いた。
渋谷龍太
●演奏がカッコ良すぎてイメージをさせてくれない部分がある(酒井監督)
――酒井監督は、SUPER BEAVERにどのような印象を持っていますか。
酒井:僕的には特別な出会いを感じています。初めて演奏シーンを撮らせていただいたとき、本当に最高のものになって、「SUPER BEAVERのミュージックビデオには絶対に演奏シーンを入れよう」と思いました。歌詞などから世界観がどんどん浮かぶのですが、軸にしたいのは彼らの熱い演奏。これは大事にしたい。逆に、SUPER BEAVERはカッコ良すぎて、イメージをさせてくれない部分もあります。
――作り手がイメージをできなくなるほどカッコ良いだなんて、すごいですね。
酒井:ミュージックビデオを作るとき、「ここにこの画を入れよう」、「このあたりでこんなサブストーリーを挿みこもう」と最初に決めうちをしておくんですけど、あまりにもメンバーの演奏が良いから、撮ったあとで入れどころが変わっていくんです。つまり演奏シーンに説得力があるんです。
渋谷:それはすごく嬉しい言葉ですね。酒井監督は、企画書の段階で早くもワクワクさせてくれるんです。ミュージックビデオはこれまでもたくさん作ってきましたが、そういう気持ちになるのはわりと初めての経験でした。ミュージックビデオには、どういう画を撮って、どんな作品になるのかはフタを開けてみないと分からないことが多くて。企画書をもらっても、漠然と「ここがこういうふうに繋がるんだろうな」という感じだったんですね。そして、映像が完成してから「なるほど、こうなるのか」と。
――酒井監督は違ったわけですね。
渋谷:どちらが良いか、良くないかの話ではないのですが、ただ酒井監督に関しては「こうしようと思います」と企画書を渡された段階で、こちらも「お願いします」となるんです。どんなふうになるのか想像ができるし、どうなろうがきっと面白いものができるという確信も与えてくれる。最近、連続してミュージックビデオを撮っていただいているのは、そういう酒井監督への信頼があるんです。
●ここを直して欲しいと依頼するのは仕事として必要なディスカッション(渋谷龍太)
渋谷龍太、酒井伸太郎
――私も「名前を呼ぶよ」の企画書を拝見しましたが、物語をしっかり作り込んでいますよね。
渋谷: 4分から5分という短い尺のなかでドラマを構築するので、企画書の段階で全貌が見えるわけではないのですが、それでもドラマ展開にワクワクできる。不思議な感覚でした。ミュージックビデオを作り始めた頃から、監督のみなさんには「演奏シーンを入れて欲しい」とバンドとして必ずリクエストするんですけど、酒井監督に関しては「演奏シーンの割合は気にしなくて良いので、好きに撮ってください」という感じなんです。
酒井:僕は事前の段階でかなり掘り下げて企画を立てます。アーティストから何か質問をされて「これは考え中です」というのは失礼だと思っています。相手に丁寧に伝わるものをまず提案し、そこからメンバーのリアクションを受け、「良いですね」と言っていただいても、もう一段階掘り下げるようにします。ただ、SUPER BEAVERの場合は、出来上がったものが想定の遥か上をいくんです。到達点がどこにあるのか分からないくらい超えてくる。いつまでも編集をやり続けられる。そういう意味では制作に時間がかかるアーティストでもあるんです。
渋谷:酒井監督はそうやって僕らの曲をちゃんと掘り下げて企画を作ってくれるから、できあがったものについても「ここを直して欲しい」ということはほとんどないんです。
――直して欲しい箇所がないと、逆に仕事として不安になりますよね。
渋谷:そうなんですよ。最初に「パラドックス」(2021年)のMVを作っていただいたとき、「マジで言うことがない」という感じでした。逆に「あれ? どうしよう。良いということは……このままで良いんだよな?」と、みんな戸惑っちゃいましたね(笑)。本来であればいろいろ意見を吸い出して、まとめて、監督にあらためてお願いして直してもらう。仕事として当たり前のことですよね。でもそれがほとんどなかったから、不安になったくらい。
酒井伸太郎
――ハハハ(笑)。「大丈夫なのか? 本当に何もないのか?」と疑心暗鬼になったんですね。
渋谷:物づくりをする者として、「ここをこうして欲しい」と細かく言うのは、お互いにとって必要なディスカッション。これまではそうしてきましたから。作ってもらった映像の第一稿を見て、「でも僕たちのイメージはこういうことなので、このシーンではなく、こういうものに変えて欲しい」とか、何度もラリーがあった上で完成する。このやりとりは大事なことであり、重要なこと。でもそれがないということは、いかに酒井監督が事前にSUPER BEAVERの音楽を聴いて、深く掘り下げて、監督なりに楽曲を噛み砕き、飲み込み、消化して作品にしてくださったかということ。ミュージックビデオからSUPER BEAVERに対する敬意が感じられます。
――楽曲の核をつかんだ上で、映像の作り手としての意思もきっちり込められているというワケですね。
渋谷:これは今までのミュージックビデオにも言えるのですが、「俺たちとしてはこうあって欲しい」というイメージが間違いなくあった上で、監督に委ねたい部分もあります。バンドの独りよがりになったらダメなので。できるだけまず自由に作っていただくために、監督に一度すべてをお渡しします。そしてどんなふうに咀嚼してくれるのか見てみたい、という感じ。自分たちと監督の感覚がちゃんと混ざり合った方が、ミュージックビデオは良いものができると思います。
酒井:僕としては、まず「ファンの人がこれを観たらどう感じるか」を第一に考えるようにしています。曲によってそれぞれの解釈は違うでしょうから、どれだけそこの部分をイメージできるかが大切なのではないでしょうか。
●「名前を呼ぶよ」のモチーフは冷戦時代のボーンレコード(酒井監督)
渋谷龍太
――「名前を呼ぶよ」のミュージックビデオは新型コロナの社会状況を想起させますが、これはどのように企画を練り上げていったのですか。
SUPER BEAVER 「名前を呼ぶよ」MV
酒井:曲を聴いたとき、自分のなかで浮かんだのが「心のなかで叫んでいる」という解釈。「叫びをテーマにしよう」と考えました。主人公の青年が自分の心のなかで叫んでいるうちに、いろんな声、さまざまな心の叫びが聞こえてくるようになる。確かに現在を想像させるかもしれませんが、「この曲をどう映像化しよう」となったとき、具体的に「こういうことです」と伝えるのは違うかなと。あと企画を掘り下げていくにはまず設定が必要。曲を聴いたときに「SUPER BEAVERはアジトで演奏しているな」と感じたので、そういう世界線を物語の舞台にしていきました。
渋谷:この時代とこの楽曲のミュージックビデオがどうしてもリンクする瞬間がありますよね。僕は2020年からはじまったコロナの状況を愛することはできないし、何から何まで嫌いなんです。でもこの時代でしか表現できないことは間違いなくある。今の時代だからこそのものが、このミュージックビデオに投影されて素晴らしいドラマができあがったのだとすれば、愛する部分が見つけられた気もします。何から何まで嫌いなこの時代じゃないと、こんなに素晴らしいものはできなかったかもしれない。こんな時代でも何かを愛することはできるかもしれない、そんな片鱗が見えました。
酒井:観た人にはさまざまなニュアンスを感じ、ふくらませてもらいたいんです。だからこそ今の出来事をそのまま、話の時代背景に設定して描くことはしたくなかった。たとえば、ボーンレコードがありましたよね。冷戦時代のソビエトで、国家から鑑賞を禁止された音楽があって、それを聴きたい人たちがレントゲン写真に録音してレコードを作った話。そのエピソードも「名前を呼ぶよ」のモチーフのひとつにしました。
酒井伸太郎
――「東京流星群」は今の時代の街のなかで暮らす人々のストーリーを作り、それを断片的に切り取って構成していますね。
酒井:「東京流星群」は、「今」を表現したかったんです。だけどここでいう「今」とは、現在の時代的な意味ではなく、曲を聴いた瞬間のこと。もし2年前にこの曲を聴いた人だったら、その当時の「今」。この先、曲を聴く人にとってはそのときの「今」。
渋谷:これは僕と柳沢(亮太/Gt)が作詞をしているのですが、曲と映像のイメージが近かったので本当に何も言うことがなかったんです。インサートで入ってくるドラマは特に絶妙で、観たときはマジでグッときました。登場人物に何があったのか、何ていう名前なのか、どんな過去を持っているのか。それが分からないのに感動できる。柳沢と「マジですごいね」と話していました。もちろん僕らの曲を聴いて欲しいんだけど、それ以上に「この断片的なドラマを観て欲しい」となりました。こんな感覚に陥ったのもまた初めてのことです。
酒井:嬉しいですね。
渋谷:酒井監督にお願いしたいことがありまして、このミュージックビデオに出てくる断片的なドラマをもっと広げて、長い物語を作って欲しいんです。
酒井:ハハハ、それは大変ですね(笑)。
渋谷:「俺たちの楽曲の世界を物語にしたら、どんな感じになるんだろう」と思いますね。だってミュージックビデオに登場する女性を観て、「この子はいったい何をしているんだろう」と気になりましたから。いつかぜひ、「東京流星群」の物語を撮ってください!
渋谷龍太、酒井伸太郎
取材・文=田辺ユウキ 撮影=森好弘

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