さらに表現を拡張 リーガルリリーが
“東京”をテーマに空間を作り上げた
企画ライブをレポート

“東京” - リーガルリリー「the World Tour」追加公演 &「海の日」3rd Anniversary-

2021.7.5(mon) 恵比寿 LIQUIDROOM
新作EP『the World』の追加公演かつ、海(Ba)の加入日を記念した恒例企画も今回で2回目。ライブを軸に、その空間と時間のテーマを“東京”に設定した意味合いと、そこから浮かび上がるバンドストーリーやソングライターたかはしほのかのライフストーリーが会場である恵比寿LIQUIDROOMに溢れていた。
入場口である2階に上がると、写真家・池野詩織によるファンに馴染みのイベントビジュアル写真とソロカット、そして東京をテーマにした風景写真が掲出されていた。メンバーの表情には各々の個性、街を撮影した写真の色味などに池野が捉えた東京の要素を感じる。さらにフロアへ入ると街中の雑踏のBGMが流れていて、そういえば今はここまで人の声が聞こえてこないな、などと思う。映画の中にいるような気分だ。
リーガルリリー
リーガルリリー

リーガルリリー

暗転したステージに現れた3人。最初に鳴らされたのは海の強烈に蠢く低音のフレーズで始まる「1997」。たかはしほのか(Vo/Gt)が東京へ降り立った=誕生を歌うナンバーからスタートするのか!と、筋の通し方に感嘆。後半の語り部分はパッと聴きダークなのだが、感情としてはニュートラルで意気揚々とこの街で生きるニュアンスが強い。3人の楽器の音が生々しくそのことを伝えてくる。続く「ジョニー」は<ばかばっかのせんじょうにギターを1つ持って>という歌い出しが、いつも以上にストーリーとして届く。アウトロでのメロディアスな海のフレージングはさらに冴えてきた。フィードバックノイズも曲の世界を作り上げる怒涛のシューゲイズサウンドの「魔女」まで、3人は今、最もしっくりくるアレンジと尺でプレイを完結し、次の曲に向かうのだが、そこでオーディエンスも妙に構えることなく、心のままに拍手を送っているのが新鮮だった。そして「教室のしかく」を終えるとたかはしが「教室を出たら〜」と学校が舞台になるような弾き語りを突如披露。その後、学校のチャイム音と共に教室内のバックグラウンド音、そして街の音に繋がり、効果的に場面転換が行われている。
リーガルリリー
ユニークだったのが「地獄」と「天国」をシームレスに演奏したところ。象徴的なタイトルが付いているが、地獄と天国が並列されることで、これもまたリーガルリリーの日常なのだと感じることができた。それにしても、いい緊張感を保ったアッパーな演奏と意思が込められた音選びの痛快なこと。グランジ/オルタナティヴロックの質感を持ちつつ、潰れず粒立った音の説得力はライブを重ねるごとに増しているのではないだろうか。「僕のリリー」も「GOLD TRAIN」も、ローギアで前進するようなボトムの太さと、重力から開放されていくようなスピード感が並走して走るようだ。かっこいいロックンロールバンドに共通するこの体感。それを誰より感じているのはきっとステージ上の3人で、曲を重ねるごとにグルーヴに磨きがかかる。ステージ後方の下からのライトで夕焼けから夜に向かう情景が演出され、淡々と、でも心に迫る「蛍狩り」へ。たかはしの語りは我々を多摩川べりに連れて行くようだ。バックグラウンド音とともにテーマを持ったMCをしたたかはし。曰く、音楽は二つの鏡で、一つは自分自身を映し出し、もう一つは目の前で反応しているお客さんたちも鏡のようであると。自分で自分が分からなくなる時、第二の鏡は特に必要なものだろう。対面でのライブが開催できたことへの感謝でもあったと思う。
リーガルリリー
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リーガルリリー
スローテンポの「好きでよかった。」は「蛍狩り」からつながる内容で、曲の骨組みを支えるゆきやま(Dr)の確かなタイム感の上で、力をまして行く。「ハンシー」まででどこか10代から20代までの様々なシチュエーションと心情を追体験かつ疑似体験させてくれたところで、久しぶりにファンの顔がはっきり見えるキャパシティでのライブにテンションが上がっていることを話す3人。たかはしが「ライブハウスって人がいないと不自然な場所だけど、人が入ると自然になる」と、彼女の考える“自然”感が窺えた。
体を揺らしたくなる曲が続く後半は「林檎の花束」に始まり、ステージ背景いっぱいに星が映し出された「the tokyo tower」。星空はテレビのサンドストームのような映像やノイズに変容し、歌詞とリンクして行く。さらに今回の企画の発端でもある「東京」は3人の出す轟音から一転、クリーントーンに乗る様々な事象が別のところと繋がっているAメロの歌詞の秀逸さを伝え、サビで開かれて行く。ミュージックビデオで見られた映像もだが、<闇に撃ち放つ 僕の照明弾。>のタイミングでフロアに向けて強烈なライトの照射が演奏とリンクして、ここにいる私たち一人ひとりの存在が浮かび上がった感じだ。エクストリームな映像の演出に演奏が負けていないのもいい。
リーガルリリー
淡々と消えそうな声から振り絞るロングトーンまでを使って、宇宙に放り出されるような心地を生み出す「高速道路」。たかはしのボーカルも透明なリバーブが心に残響を残すギターも素晴らしい。ビートやテンポが変わって行く「スターノイズ」でのゆきやまのプレイのしなやかさなど、集中力の高い演奏は終盤に向けてさらに一つの生命体のように育っていき、ラストの「リッケンバッカー」には改めてこの曲でリーガルリリーに出会った人の多さと、オーディエンス自身の思いが前向きに発散される。<ニセモノのロックンロールさ>と嘯きながら、<ぼくだけのロックンロールさ>と不敵な笑みを浮かべるような歌詞の締めは色あせることがない。ステージの上も下もなくエネルギーで満たされた会場。残響を放ったまま置かれたギターのノイズは歓喜の声のようだった。
リーガルリリー
アンコールではメロディにキャッチーさと同時に芯の通ったエバーグリーンな輝きを感じる新曲「風にとどけ」を披露。初披露も堂々と終えて、正真正銘のラストは「はしるこども」。内なる躍動が止まらない3人はいつでも走り出すこどもになれる。笑顔で全てを出し切った姿は何物にも替えがたい。この3人で走り出した事実そのものに感謝したくなるぐらい、やはりリーガルリリーは唯一無二だった。
3人の文章が記された小さなパンフレットをお土産に、再度、池野の写真を見る人、今回限りのグッズを選ぶ人。バンドの演奏を軸に幾つかの切り口で東京を表現した今回。言葉や写真、絵が共振するリーガルリリーの世界をまた来年見ていたい。
なお、「風にとどけ」は8月4日に配信リリースされる。

文=石角友香 撮影=池野詩織

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