『Night Food』の
とらわれない音楽性に
EGO-WRAPPIN'本来の魅力を発見
ふたりバンドならではの制作スタンス
ジャンルをそのままなぞるのではなく、そのスピリッツを受け継いだということだろうか。昭和歌謡うんぬんは正直言ってよく分からないけれども、昭和の職業作家が作った流行歌にはジャズやブルースの影響を受けたものが少なくないので、ルーツの近さに何かを感じる人が多いのかもしれない。そんな気がする。筆者個人の感想なので、これを信じるも信じないも貴方次第だが、いずれにしても、EGO-WRAPPIN'が特定のジャンルにこだわらない雑多な音楽性を持っているのははっきりしている。
注目すべきは、このバンドのメンバーは中納、森であって、このふたりでそのカテゴライズされない音楽を司っているということだろう。本作『Night Food』では、長年EGO-WRAPPIN'のサポートを務めてきたバンド、THE GOSSIP OF JAXXを始め、オーサカ=モノレール、mama!milk、LITTLE CREATURESのメンバーが参加しており、それらのミュージシャンがそれぞれの楽曲で印象的なプレイを聴かせている。最も分かりやすい例は、前述したM4「5月のクローバー」。TR-808のリズムと鍵盤は、JAGATARA、MUTE BEATのメンバーだったキーボーディスト、エマーソン北村氏によるものだ。
氏のライヴを観た彼らが共演を熱望して実現したコラボレーションだという。サポートメンバーは単に楽譜をなぞるだけの人ではなく、楽曲それぞれの共同制作者であり、個々の楽曲はそのサポートメンバーなくしては生まれ得ないものなのだ。ふたりバンドならではのスタンスの良さを最大限に発揮しているのがEGO-WRAPPIN'であることも本作からはうかがい知ることができる。それは、優れたDJが多彩なレコードを操ってその空間を独自の色に仕上げる行為にも似ているように思う。冒頭で“ヒップホップに近いもの”と言ったのはそこである。
TEXT:帆苅智之