『Night Food』の
とらわれない音楽性に
EGO-WRAPPIN'本来の魅力を発見

TR-808使用のダンスビートも

続くM2「くちばしにチェリー」。これはアルバムからのリカットシングル曲で、TVドラマ『私立探偵 濱マイク』の主題歌としても起用されたナンバーだ。というか、このドラマの主演俳優であった永瀬正敏がEGO-WRAPPIN'のファンだということで、彼らがドラマのために書き下ろしたものだったそうだ。タイアップが付いたこともあってか、彼らの出世作でもある1stシングル「〜Midnight Dejavu〜 色彩のブルース」に次ぐ、EGO-WRAPPIN'のシングルでは歴代2位の売上を記録してる。その中身は…と言うと、イントロからしてビッグバンド風だし、Aメロからベースはウォーキングで、確かにジャジーではある。

だが、サビへ進むと、事はそう単純ではないことが分かってくる。《チェリー いつまでもUP BEAT》の箇所からドラムが2ビート。ロックはロックでも、聴く人によってはパンクとかコアとか、激しめの方向を感じさせるビートが刻まれる。まさに“UP BEAT”である。そして、ここのバンドアンサンブルがまた複雑なのである。イントロに限らず、間奏のトランペット、アウトロでのフルートと、管楽器はメロディアスに迫るのだが、歌はやはりその複雑なバンドサウンドに埋もれぬような迫力あるヴォーカリゼーションを魅せ、ひと筋縄ではいかないポップミュージック感を示している。やはり、簡単にシャレオツと片付けられるような音楽ではない。極めて肉体的なサウンドと断言していい。

ボサノヴァタッチなM3「あしながのサルヴァドール」はテンポもミドルで、M1、M2ほどにはサウンドは密集しないし、歌もメロウで圧しも強くないので、イージーリスニング…とまでは言わないけれど、こちらはわりと万人向けと言えるかもしれない。ただ、次のM4「5月のクローバー」は、同じくテンポは緩やかではあるものの、M3とは印象が違っていて──それどころか、M1、M2とは楽曲のベクトルそのものが異なっている…と言うと大袈裟だろうが、随分と趣が異なっている。リズムは打ち込みで、あの「ペンパイナッポーアッポーペン」で再注目されたはローランドのリズムマシン、TR-808を使用。肉体的な躍動感から一転、幻想的にも気怠くも思える淡々とした楽曲に仕上げている。M4だけを見れば、彼らの音楽がジャズでも昭和歌謡でもないことは明白だろう。ジャンルも楽器も自由に取り込むバンドであることが想像できる。

ちなみに、『Night Food』の次回作、4thアルバム『merry merry』(2004年)がエレクトロニックなサウンドに寄ったことでリスナーから反発され、[公式ホームページのBBSに『なんやこれ?』『遊びか!』とか『金返せ!』とまで書かれ]たそうで、M4を聴いていたら、彼らにそういう嗜好があることも分かりそうなものだが…と今になって思う([]はWikipediaからの引用)。ご丁寧に『merry merry』にも「5月のクローバー」を入れているというのに──。

続くM5「チェルシーはうわの空」は…と、以降、アルバムを全曲解説するのも悪くはないけれど、この辺まで聴けば、少なくともEGO-WRAPPIN' が“ジャズや昭和歌謡の影響を受けた”バンドではないことは明白だろう。ジャズの影響はあるかもしれないが、そうだからと言って、それを追求するようなことはしていないことは間違いない。個人的にはM5のヴォーカルに若干の昭和のブギーっぽさを感じなくもなかったが、それは気のせいというか、先入観によるものだろう。冷静に聴けばそんなことはまったくない。

M6以下をザっと述べれば、全体的に相変わらずベースのウォーキングが目立つものの、M6「PAPPAYA」でのエッジーでソリッドなギターはラウンジミュージックとは真逆の存在感。何よりも後半に向けて白熱していくバンドアンサンブルが圧巻である。M7「老いぼれ犬のセレナーデ」は音数が少なく、序盤こそ《そっと沁みていくささやき 雨のセレナーデ/まどろむ夢の中 さめたなら/老いぼれ犬の口笛》という歌詞よろしく、渋さや落ち着きを感じさせるものの、これもギターがエモーショナル。間奏やアウトロもさることながら、サビのヴォーカルに絡むプレイは本作の白眉とも言ってもいいだろう。森 雅樹(Gu)のブルーススピリッツのようなものを堪能できる。

溌溂としたピアノが楽曲全体を引っ張るM8「WHOLE WORLD HAPPY」は、南米の民族音楽のようなダンサブルさがあり、歌もシンガロングなタイプで随分とポップ。このバンドの懐の深さをうかがわせるに十分なナンバーである。フィナーレM9「SORA NO LION」は終始ハイトーンで浮遊感のあるヴォーカルを披露しながらも、サイケデリックロックのようでもあり、ギターのフレーズは軽快で爽やかすら感じさせ、何かにカテゴライズされた印象がない。

OKMusic編集部

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