松竹ブロードウェイシネマ『ジャニス
・ジョプリン』遂に日本公開~ロック
の女王の魂を称える音楽の旅

松竹ブロードウェイシネマ『ジャニス・ジョプリン』(原題:「A Night with Janis Joplin」)が、いよいよ2021年7月2日より全国24劇場にて順次限定公開となる。
ⓒJason Niedle
【ストーリー】元祖・音楽フェスティバルの女王にして伝説のロック・スター、ジャニス・ジョプリン。数々の名曲をジャニスが熱唱し、彼女が音楽的にも影響を受けたアレサ・フランクリン、エタ・ジェイムス、オデッタ、ニーナ・シモン、ベッシー・スミスと共に感動のステージを披露する。「孤独」と生涯戦ったジャニス・ジョプリン。そんな中、ジャニスが自らの物語を語り始める。

松竹ブロードウェイシネマは、ブロードウェイ等、海外の傑作舞台の感動を、日本にいながら字幕付きで映画館でゆっくり楽しめるーそんなコンセプトから誕生した、演劇ファンには嬉しすぎる上映シリーズだ。今回そのスクリーンに登場する舞台作品は、唯一無二の歌声を持ち、アメリカ音楽史上の歴史を塗り替えたとされるレジェンド・シンガー、ジャニス・ジョプリンの物語だ。舞台公演は2013年から2014年までニューヨークのライセウムシアターで行われ、その後、米国内ツアーが2019年まで行われた。ジャニスの半生が、数々の名曲と共にミュージカルショー仕立てで描かれていき、彼女の魂を称える音楽の旅という趣向となっている。
その上演は、いわゆるカタログ・ミュージカルという手法でありながらも、特に批評家たちから高く評価され、ジャニス・ジョプリンをまるで本人が憑依したかのように演じたメアリー・ブリジット・デイヴィスは、トニー賞主演女優賞やヘレンヘイズ賞ミュージカル部門最優秀主演女優賞にノミネートされた。率直に言って、たとえば映画『ボヘミアン・ラプソディ』でフレディ・マーキュリーを演じられるのがラミ・マレックしか考えられないのと同様に、この『ジャニス・ジョプリン』でもジャニスを演じられるのは、見た目や歌唱力・演技力の点から言って、この世の中にメアリーただ一人しかいないのではないかと思わずにいられない。その意味で、この舞台作品をよくぞ映像に残してくれたと感謝せずにはいられない。
作品の題材となった人物、ジャニス・ジョプリンは、1943年アメリカはテキサス州ポートアーサー生まれの白人ロック・シンガー。1960年代後半のヒッピー文化華やかなりし時代、モントレー・ポップ・フェスティバルやウッドストック・フェスティバルなどを通じて、“ロックの女王”として君臨するも、1970年に27歳で死去(ヘロインの過剰摂取が死因と見られている)。音楽シーンで活躍した期間はわずか数年だったが、「Move Over(ジャニスの祈り)」「Summertime」「Me and Bobby Me Gee」「Kozmic Blues」「Mercedes Benz(ベンツが欲しい)」といった名曲の数々と共に、ロック史の伝説として、いまなお多数の人々に影響を与え続けている。
ⓒJason Niedle
2021年現在、ジャニスをリアルタイムで聴いていたのは65歳以上の世代であろう。そんな世代には、この作品を懐かしい気持ちで鑑賞したくなるはずだ。しかし、その一方でいま若い音楽ファンにも温故知新ブームが到来している。特にyoutubeなどの普及によって、1960年代から70年代にかけてのシーンやムーヴメントを新鮮なものとして、その魅力を再発見しようという動きが活発化してきた。文学でもビートニク、美術でもポップアートが、いま改めてもてはやされているように。そんな中で、ジャニス・ジョプリンを避けては、ヒッピー文化やサイケデリック文化、ドラッグ文化といった現代アメリカ文化の根本を何も語れないだろう。しかし、いかにして、そこに触れられるのだろうか。そんな時、今回の『ジャニス・ジョプリン』ほど親切に「入門」的なナビゲートをしてくれる作品はないといえるだろう。
同時に、この作品においては、たとえば、オデッタ(フォークシンガー)、ベッシー・スミス(ブルース・シンガー)、アレサ・フランクリン(ソウル・シンガー)、ニーナ・シモン(ジャズ・シンガー)、エタ・ジェイムス(R&Bシンガー)といった実在した偉大な歌手達も随所に現れ、ジャニスに与えた影響をわかりやすく提示してみせる。これにより、私たちは単にジャニスの半生を知るだけでなく、ジャニスが影響を受けた音楽を通じて、アメリカポピュラー音楽史の一端を学ぶこともできるし、ジャニスの音楽的位置付けもわかるようになるのだ。ジャニスの有名な「Summertime」もまた、彼女の幼少期に、ブロードウェイミュージカル好きの母親がバーンスタインの『ポーギーとベス』のレコードをよく聴かせてくれたことが根源にあったのか、ということを今回知ることとなろう。そして、それらの多くにおいて、黒人文化や黒人問題が少なからず係わりを持つことも改めて知ることとなる。ジャニスは白人の自分が黒人文化をルーツとするブルースを歌う意味を問うが、やがて、満足に至らないものが欲求する者の音楽こそがブルースであり、「普通の女」こそがブルースを理解しうるのだということにも辿り着く。
すなわちこの映像作品は、ジャニスの魅力に触れながら、私たちのあまり知らなかったアメリカ音楽やアメリカ現代史の流れを理解できるようにもなる、お得な……もとい、豊かな作品だ。もちろん、音響の良い映画館で鑑賞することで、ブロードウェイでミュージカルを観ているかのような感覚も味わえるし、さらに、タイムスリップして、60年代のジャニス・ジョプリンのライブをそのまま味わっているような錯覚さえ起こしかねないだろう(思わずスタンディング状態になってしまいそう)。そんな意義深い「ジャニス・ジョプリンとの一夜」を、ジャニス没後51年の今、できるだけ沢山の人々に味わっていただきたいと願う。
【動画】『ジャニス・ジョプリン』予告編

文=SPICE編集部

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