「本当に老後の資金がないんですね」
渡辺えり&高畑淳子がW主演で舞台初
共演! 『喜劇 老後の資金がありま
せん』製作発表レポート
マギー:今日は緊張しながら、会場にきたのですが、僕が入ってきた時に、えりさんと高畑さんがちょうどご挨拶をされているタイミングで。お二人が「は〜〜! いや~!」と挨拶されている姿が、明るく大きなお花が二輪咲いているという雰囲気があって。それを見て緊張がなくなったし、この舞台はこういうことだよなと。とにかくワクワクしております。
原作はとても面白くて、その面白さのひとつは、老後の資金がないという、誰もが抱える問題を具体的な数字や身につまされるようなセリフがたくさんあるところで。これを舞台化、脚色することで、どうしていこうかということで、「老後の資金がありません……」という内向きな独り言が書かれている台詞を、「老後の資金がありません〜〜!」と明るく歌いげることで、歌や踊りや笑いで、この生活感あふれる作品をエンターテインメントとしていきたいと思います。僕自身が非常に楽しみにしています。
渡辺:あの、本当に、老後の資金がないんですね(会場笑)。私自身、どうしようかなと悩んでいて。特にコロナ禍で、大赤字ですから。今66歳で、老後の資金がないなと思いながら、この芝居をやることが興味深いし、楽しみです。
老後の資金がないんだけど、もっと必要なものがあるなとこの一年で考えて。友情だったり、愛情だったり、家族とか、目に見えないものが本当に大きいんだなとつくづく考えた一年でした。資金がないということだけではなくて、何か足りないものがある。それをマギーさんが原作を面白く脚色させてくださったと思うんです。
いまの時代に枯渇しているのは、心の滋養だと思います。私自身もそうですが、心が不安なんですよね。この間、映画館の客席に座って、スクリーンを見た時点で、だだ泣きしてしまって。こういうことに来ること自体、魂が震えるというか。劇場には不思議な力があって、魔法のような場所だと思っています。演舞場はお芝居小屋らしくて、そういう意味でもお客様の何かを乱して帰っていただける作品になればと思っております。どうぞよろしくお願いします。
ーー今回初共演ということですが、お互いの役者として、どう見ていらっしゃるかを教えてください。
渡辺:様々な舞台、井上ひさしさんですとか、明治座の芝居ですとか、青年座の舞台とか観ているんですけど、全部違うところが好きです。高畑さんは高畑さんなんだけど、全部役を演じる時の心根を変えていらっしゃる。それで、台詞を言わない時の表情が面白い。具体的に役として感じることのできる、稀有な役者さんだなと思っています。
高畑:えりさんの印象は、25年ぐらい前ですか、PARCO劇場である芝居をやっておりました。その中の出演者で、一人いけていないなという男性の俳優さんがいたんですけど、えりさんがお客さんでいらしたときに、楽屋にドドドドときて、「あんた、あの役、分かっている?」と言いまして。すごいなぁと思って。それが焼きついています。その人とお芝居をするのかと思って(笑)。
渡辺:若い頃の話ですよね! 誰に言ったかも覚えていません(笑)。演出だったから、友達に関しては持ちつ持たれつで、本当のことを言わないといけないと思い込んでいたので。今はそんなことやっていません。若い頃はそれが正しいことだと思っていたんです。
高畑:ものを作るということは、刺激あってのことで、自分で気付いていないことを教えてもらえることこその芝居なのかなと。そういうところから遠ざかっていく、年齢も含めて誰も言ってこない、裸の王様になりつつあるので、できる限り、体力と見合わせながら、最後まで立つということが一番です。お芝居を一緒に作れる楽しみに溢れています。がんばります。
渡辺:歌があることで時空を飛べるというか。歌と踊りを入れることで、時間を飛べるし、気持ちもすかっと切り替えることができるんですよね。気持ちの説明の部分を端的にできるという意味で、歌と踊りはいいなと私は思っています。好きです、私、歌と踊り。
高畑:渡辺えりは演出なんだなと感動しました。歌と踊りは苦手です。ドレミファソのソぐらいからファルセットになってしまうので。ひとりで歌うぐらいならいいんですけど、えりさんと歌うとなると。えりさん、すごくお上手ですから。声がすぐもげるんです。森山良子さんみたいな歌なら歌えるんですけど(笑)、頑張ります。
渡辺:普通っていうのはないと思うんですけど、「普通の主婦」だといっても、普通の主婦が何をしでかすか分からない世の中ですし、普通と言うのは普通なのか捉えきれない部分があると思うんですけど、その中でも普通の主婦という設定ですよね。
派遣の社員で働いていて、夫はきちんとした会社に勤めているんだけど、娘が結婚して、お葬式代とか急に出ていくお金が増えるという、誰もが経験するような事柄がいろいろ繰り返されていくんですけど、結婚式代が600万円、私……そんなにかけるんだぁと思ったんですけど。その主婦はこんなにかけたくないと思って、節約しようと思うけど、夫が見栄っ張りで。
私だったらおかしいと言うんだけど、夫の気持ちを尊重しながら、自分が我慢していく。きっとこれが普通の、一般的な日本人の主婦の人。みんな、自分を殺して、娘や夫のために尽くしている人が大勢おられると思うんですよね。男社会をなんとかしたいと私は頑張っていきたんだけど、そうなっていかないわけですよ。
女性が自分の考えを発言したり、自分が思うように家計をやっていくのが難しいんだなと再確認させられるような作品の中の、普通の主婦。分かっていただけますか? 派遣でやっている、そこもクビになって、仕事も収入もなくなる。娘は娘で心配なんだけど、どんどん孤立していくんです。コロナ禍であり、孤立していき、頼りになっていく人がいない。子どもも育てて、夫を支えたのに孤独になっていくという主婦の方がかなり多くて。一般の主婦のみなさんと考えながら演じていきたいと思います。
今の世の中を風刺していきながら、日本が抱えている問題みたいなものを笑いつつ、表面化していくような脚色になっているので、そこは面白くみんなでやっていけるんじゃないかなと思います。自分は目立たない人になります。地味な普通の主婦の役ですね。
その中で、コロナ禍で上演する上で、何を見せたいかというと、やっぱり閉塞感のある世の中じゃないですか。やっぱりマスクをしていても、マスクの中で、ゲラゲラと開放感を持って笑っていただいて、そんな気持ちで劇場の外に出てもらうと言うのが、今回の作品でお客さんに届けるべきことかなと思っています。
そこで生の演劇を見ると、救われますね。私も友達が一生懸命やっている芝居を観にいって、コロナ以前よりもよく舞台を観ているんですよ。そうすると、劇場の中にいる時だけはほっとするし、落ち着くというか。ここが自分の居場所だなと、本当に穏やかな気持ちになりますね。
自問自答を続けている1年間でした。ともかく、思い切り演じさせていただいて、お客様に笑顔になってほしいなと思います。
高畑:今回特にご高齢の申し込みがとても多いんです。ずっと家にいるのが苦しくってね、今回はお芝居行こうと思うの、と。なにか心が干からびている感じがするんでしょうね。
舞台はいろんなことがあります。ですが、いろんなことがあるのが人生ですし、壁にぶつかるのが生きているということです。えりさんはお芝居大好きだから、劇場にいるとほっこりするというも分かりますし、私もスクリーンの前の座った時に号泣しました。
この世界が好きで、小説とか映画とか舞台が、心を強くしてくれる存在なんです。だから、こういう演劇ババアになってきたというところがあります。お客様にもそうなっていただけると信じて、心をこめて演じたいです。この職種は不要不急ではないと信じております。
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