「スーパーカブ」夜道雪が“お芝居な
んだけどお芝居じゃない”演技をとお
して小熊になれたと思えたとき

 両親がおらず、友達も趣味もない女子高生の小熊は、中古のバイクを購入したことで単調な日常に明るい変化がおきていく。スーパーカブと山梨県の実在の風景が丁寧に描かれた本作で主人公の小熊を演じる夜道雪は、バイク愛好家としても知られている。役が決まった経緯や、序盤の話数でおさえた芝居を求められたエピソードなどを聞いた。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
――オーディションでは、どんなセリフを演じられたのでしょうか。
夜道:印象的だったのは、オーディション用の台本の最後にあった「これから春をつかまえにいこう」というセリフでした。アニメでも最後のほうにでてくるセリフなんですけれど、これは大事なセリフだなと思ったので、どういうテンションで言おうかけっこう考えました。「スーパーカブ」は他の作品のオーディションに比べて、セリフ量が多かったイメージがあります。
――小熊は序盤あまりセリフがなく息遣いなどで表現する場面が多かったですが、オーディションでは具体的なセリフが多かったのですね。
夜道:1話から3話にかけて小熊が感情を表にだすようになって、だんだんと人間らしくなっていく変化はディレクションをうけながらつくっていきました。オーディションのときは正直そこまで細かい設定を自分のなかでは考えられていなくて、自分の思う小熊でやってみたのですが、監督やプロデューサーさんから「もっと普段の夜道さんの声で演技してほしい」と言われ、そこからどんどん変えていって今の小熊の声ができあがりました。
――オーディションのときにバイクの話はしたのでしょうか。
夜道:バイクの話はけっこうして、喜んでいただけたように思ったのを覚えています。小熊役に選んでいただいたあと、スタッフの方に実際にバイクに乗っている人のほうが「バイクに乗って楽しい」とか「ここが大変だ」というお芝居を素でできるのではないかと思ったと言っていただけてうれしかったです。
――1話はほぼ小熊1人で物語が進んでいって、収録は大変だったのではないかと思います。
夜道:1話のときは本当に緊張していて、バクバクいう私の心音をマイクがノイズとして拾ってしまうぐらいでした(笑)。しかも、私が収録現場にもってきた小熊の声が1話の小熊としてはまだ人間らしすぎたんですよね。もっとナチュラルにして芝居感をなくしてほしいと、声を落とし気味にして普段のしゃべり声にかぎりなく近づけるように言われました。アニメのなかにいる子ではなく、現実にいる子のような感じで、「今、夜道さんが話しているその声がいいんだよ」みたいに言っていただくのですが、初めてそういうオーダーをされたので、自分のなかで「私の声そのまんまだし、これでいいんだろうか」という不安がありながらの収録でした。
 声をつくらないということは、お芝居なんだけどお芝居じゃないように演じるということで、新しい挑戦はすごく好きなのですけれど、そのバランスは本当に難しくて最初はけっこうてこずりました。
第12話の先行本編カットより(c) Tone Koken,hiro/ベアモータース――夜道さんは、ご自身のTwitterで小熊がアルバイトをする4話あたりから小熊をつかめていったと書かれていました。
夜道:3話まではとにかくナチュラルな演技をしてほしいと言われ、これで小熊になれているんだろうかと不安な気持ちでした。ただ、そんなふうに不安に思いながらアフレコに臨んでいた私と、物語のなかの小熊はけっこうシンクロしていたんだなと、あとから振り返って気がつきました。
 1話からの3話の小熊は、カブを楽しみながらも不安に思うシーンがあって、怖いとか大変だという感情が多くあったと思います。それが4話あたりからは友達もでき、カブのこともだいぶ分かり、楽しみ方がだいぶ広がっていきます。私自身もその頃までは不安を抱えながら収録していましたが、小熊が感情を表にだすようになってからは演じていてちょっと自信がもてるようになってきたんです。声をつくる必要はない、そういう作品なんだから私の声がもう小熊なんだと自分のなかで理解しはじめてからは落ち着いて収録に臨めるようになって、ディレクションも少なくなってきました。「もっとおさえて」と言われていたのがだんだん言わなくなってきて、その頃には小熊もだいぶ人間らしくなってきて私も演じていて楽しいという感覚をつかんできました。「あ、これは私、小熊になれているんじゃないか」という瞬間も多くなってきて、自信がでてきました。作品のなかの小熊と一緒に自分も成長している実感がもてて、小熊と一緒に頑張ろうと思えるようになれたのは大きかったです。
――「スーパーカブ」のバイクに関する描写で夜道さんが特に共感した部分を聞かせてください。
夜道:もうとにかく全部が経験したことあるようなことなのですけど、特に印象に残っているのは1話でカブに乗った小熊がトラックに追い越されてビックリして、ぐぬぬってなるシーンです。私は実際にあの交差点を小熊ちゃんの格好をしてスーパーカブに乗って走ったことがあるんですけど、ほんとにあの狭めの道をトラックが追い越してくるんですよね。実際にこれあるんだ! と驚きました。アニメのなかで描かれる「バイクってちょっと怖いよね」というシーンではなくて、あそこの道は実際にトラックがたくさん通っていてカブだと追い越されてしまうんです。小熊が怖い思いをしたことを自分も味わうことができて、貴重な経験をすることができました。あのあたりを走ったことのある人にとっては、すごく共感できるシーンになっているんじゃないかと思います。
第12話の先行本編カットより(c) Tone Koken,hiro/ベアモータース――作中で小熊はカブをメンテナンスしたりカスタマイズしたりしていますが、ああいうところもバイクの醍醐味のひとつなのでしょうね。
夜道:小熊の住んでいる場所は山梨県の盆地で、夏は暑くて冬は寒くて大変でしょうから、ああしたカスタムをしているのだと思います。私の場合はとにかくカッコよくしたいという理由で(笑)、カスタムをけっこうしてきましたが、どちらの場合でもカスタムしたあとの「自分で変えてやったぞ」という達成感は気持ちいいですし、カスタムするための知識を身につけるのもすごく楽しいんです。バイクのためにこれだけ頑張っているって実感できるというか、カスタムする楽しさや愛車を愛でる喜びみたいなものも「スーパーカブ」では丁寧に描かれていて、私自身とても共感できます。
――夜道さんは17歳のときにバイクの免許をとったそうですが、そもそも最初にバイクをいいなと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
夜道:小さな頃からかわいいものよりカッコいいものを好きになる傾向があったんです。その延長で中学生のときはどちらかというと車のほうが好きだったんですけど、免許の取得が現実的にみえてきた高校生にとって車は高すぎたんですよね。車への憧れもあったんですけど、私がいいなと思うような車はさすがに手が届かなくて、バイクだったら頑張れば中古になんとか手をだせたという現実的な理由もちょっとありました。それとは別に自転車に乗るのが昔から好きで、速いものへの憧れもずっとありました。カッコよくて速いものに乗りたいという気持ちをバイクがかなえてくれたんです。
第12話の先行本編カットより(c) Tone Koken,hiro/ベアモータース――最終回である第12話の見どころを聞かせてください。
夜道:第12話の見どころは美しい景色を描いた美術です。実在する景色がたくさんでてきて、初めて見たときアニメというより実写の風景の映像を見ているような感覚になりました。「スーパーカブ」の集大成のようで、この作品の主人公は実は小熊ではなくてスーパーカブなんじゃないかと思わせてくれるような話数になっています。
 実在の場所をモデルに描いた美術と、そこを走るスーパーカブという絵をずっと見ることができて、心が落ち着きますし、とにかくきれいだし、でもどこか「これで終わってしまうんだ」という切なさもあります。テレビアニメ「スーパーカブ」のこだわった美術の素晴らしさを見ていただけたらうれしいです。
※夜道雪さんがゲスト出演した「徳井青空のアニメハックTV #03」もあわせてご視聴ください。
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