ジャズとクラシック、異なるジャンル
の名手が生み出す「Pianos’ Conver
sation」とは~山下洋輔×横山幸雄イ
ンタビュー

2021年10月にオーチャードホールで開催される『Pianos’ Conversation 2021』で、ジャズ界の重鎮、山下洋輔と日本を代表するピアノの名手、横山幸雄が共演する。山下と横山が2台ピアノで演奏するのは、2017年の八ヶ岳音楽堂でのガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」以来である。
――お二人は、2017年に八ヶ岳音楽堂で初めて共演されたとききました。
横山:4年前の八ヶ岳音楽堂の企画で一緒に演奏しました。
山下:主催者のアイデアでしょう。この二人を引き合わせようと考えたマッチメイクだったんですよね。
――初共演の企画をきかれたとき、どのように思いましたか?
山下:ジャンルが違う人とできるのは面白いです。僕がしょっちゅう弾いている、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」ができたのでありがたいと思いました。
横山:「ラプソディ・イン・ブルー」は、クラシックとジャズどちらともいえる曲なので、山下さんと2人でどのような感じになるのかワクワクしました。
――そのコンサートはいかがでした?
横山:「ラプソディ・イン・ブルー」は、いつものスタイルとは全然違う、随所に遊び心の入った自由な演奏でしたね。
山下:カデンツァは即興でしたが、最後は横山さんと一緒に暴れました。楽譜は、横山さんにオーケストラの方を見ていただきました。横山さんは、アンコールで、僕のフリージャズの曲「キアズマ」の即興演奏も面白くやってくださった。
横山:ジャズの人と演奏するのは、そのとき、ほぼ初めてだったかもしれません。興味深かったし、新鮮な経験でした。僕はジャズの演奏経験はありませんが、子供の頃、よくクラシックのスタイルで即興演奏をしていました。クラシックも昔の作曲家は即興の名手がいましたが、今は、作曲家と演奏家は分業していますね。ピアノにはいろいろな表現力があり、クラシックのなかでもそれぞれの人の表現する世界がありますが、それがすべてではない。山下さんと演奏して、ピアノに僕の知らない表現の世界、自由さがあるのを感じました。
山下:とても後味の良いコンサートで楽しかったです。ですから、今回も喜んでお引き受けしました。
――10月のコンサートはどのような感じになりそうですか?
山下:今回は、二人で一緒に弾く部分が増えると思います。最初の曲から二人で演奏し、あるときは片方が弾き、という連続的なコンサートになるかもしれません。
横山:八ヶ岳では「ラプソディ・イン・ブルー」がメインで、あとはそれぞれ一人で小曲を弾きましたが、今回はせっかくの共演なので、二人で演奏することに重きを置こうと思っています。
――オープニングはベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の第1楽章ですね。二人で「運命」を弾こうと思ったきっかけは?
山下:以前、あるコンサートで、ベートーヴェンに絡んで何かといわれたときに、弦楽四重奏が「運命」をジャジャジャジャーンと弾いて、最後のジャーンの伸びているところで、僕が勝手にアドリブで演奏し、あとは弦楽四重奏が譜面通り弾いて、僕がそれに絡むというのをやったのです。そういう話をしたら、面白そうだからそれを2台ピアノでやってみようと。
横山:今回、原曲の流れは僕がピアノで弾いて、そこに山下さんに独自のカデンツァで入っていただくことにしています。
山下:僕が絡むのです。何かを弾いていただけたら、僕はそれに絡みます。
横山:連弾では「運命」を弾いたことがありますが、2台のピアノでは初めての経験です。
――ショパンのノクターン第2番も演奏されるのですね。
横山:僕がノクターン第2番の原曲を弾いて、山下さんにバトンタッチして、また僕が引き取ろうかと考えています。
山下:僕は同じ曲を引き継いで、勝手に弾く(笑)。クラシックとしてのショパンをちゃんと弾いたことはありません。この曲が映画『愛情物語』の主題歌になったからポピュラー音楽としてできるのです(笑)。
――山下さんの「キアズマ」もプログラムに入っていますね。
山下:短いテーマのあとはフリーです。そこで横山さんが今回はどんなアドリブをするのかがとても興味深いですね。今までのメソッドにのっとらない、その場での即興というのは、クラシックの現代音楽にもありますが、横山さんがどんな音を出してくれるかとても楽しみです。クラシックの素養を持ち、ありとあらゆる曲を弾いてきた音感と指で何をやってくださるか、音楽家として興味津々です。
横山:曲がどうなるかは出たとこ勝負です(笑)。今回もやってみないとわからないですね。普段は、過去の作品をより一層磨き上げられるかに取り組んでいます。即興性自体は音楽表現のなかに必ずありますが、メロディライン、ハーモニー、尺(長さ)を変えることは基本的にありません。僕の普段の活動では即興をメインにはしていませんので。
――それでも、このコンサートでは敢えて即興演奏をされるのですね。
横山:即興は表現としては面白いと思いますが、それを活動のフィールドとしていないから、どちらかというと恥ずかしい(笑)。服を着ないで外に出た感じです。水着でプールに行くのはいいのですが、街を歩いてしまったような。
山下:その恥ずかしいところが、面白く、一番良いところが出てきたりするのです(笑)。前回も即興で完璧に自己表現されていました。
――最後に、10月のコンサートへの抱負をお願いいたします。
山下:横山さんを信頼しています。ありとあらゆるクラシックをやってこられた素質と教養と経験のある横山さんが、即興のとき、どういう音を出してくるのか、考えただけでゾクゾクします。
横山:オーチャードホールは、東京でも屈指の空間容量をもったホールです。大空間では、演奏もいろんな点で前回とは変わってきます。大きな空間を活かした何かができればと思っています。その日、僕たちもやってみないとわからないし、そういうワクワクを楽しんでいただけたらいいですね。
山下:オーチャードホールという素晴らしい空間で、二人のピアノの音がどのように、客席に響いて、届くのか、楽しみです。
取材・文=山田治生 撮影=ジョニー寺坂

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