藤山直美に聞く、破天荒な落語家を支
えた姉の情愛~『おあきと春団治~お
姉ちゃんにまかしとき~』新橋演舞場
で7月開幕へ向けて

藤山直美が、新橋演舞場七月公演『おあきと春団治~お姉ちゃんにまかしとき~』に出演する。脚本は、寺田夢酔。演出は、筒井庸助。共演は田村亮、西川忠志、金子昇、そして特別出演の西川きよし。
タイトルの「春団治」は、初代桂春団治のこと。戦前に名声を築いた、大阪生まれの落語家だ。お酒、女性、お金絡みの逸話も多く、小説やドラマ、舞台の題材となっている。藤山が演じるのは、春団治を支えた姉・おあきだ。過去には、別の舞台で春団治の妻・おときも演じている。姉おあきも、妻おときも、春団治の“一番の贔屓”といえる女性だが、演じる上では「女性ホルモンの動かし方が違う」と藤山。2021年7月3日(土)~26日(月)の公演に先駆けて、大阪で稽古中の藤山が、リモート取材会に出席した。
■近寄りたくないけどチャーミング、規格外のカリスマ
ーー藤山さんは春団治に対し、どの様なイメージをお持ちですか?
本で読ませていただいた限りですが、春団治さんは、あまり近寄りたくないタイプです(笑)。毛が三筋足りないといいますか、常識面が欠如したところがある、規格外の方だったのではないでしょうか。これまでにも、父の藤山寛美や、十八世中村勘三郎さん、沢田研二さん、松竹新喜劇では三代目渋谷天外さんが、春団治役をつとめてこられました。カリスマ性のある方だったのでしょうね。今こんな方がいたら、週刊誌もネタに困らなかったでしょうに。
ーーそんな破天荒な春団治ですが、お姉さんや奥さんに献身的に支えられます。
根本は、チャーミングな方だったのだと思います。そして「こんな人、他におらへん」、「この人には、かなわへん」と思わせる、芸のある方だったのではないでしょうか。
ーーお芝居の稽古中、お父様の寛美さんとイメージが重なることはありますか?
それはありませんね。ただ、うちの母から聞いた話で、父とお金のことで大げんかになり、母はもう子どもを連れて家を出ようと決めたことがあったと。別れますと伝えるために、(大阪・道頓堀にあった)中座へ行き、父の出番が終わるまで、一番後ろから観て待ってたそうです。すると父の芝居があまりにも面白くて。「藤山寛美、うまいなあ! かなわへんな!」と、母は、別れるのを忘れ、そのまま家に帰ったそうです。父のおかずを買って(笑)。人を唸らせる芸のある人だったのでしょうね。
■コツコツ親子、最高!
ーー西川きよし師匠と忠志さんの、西川親子の共演も話題です。忠志さんが春団治を演じます。
忠志さんは、お行儀が良い方です。きよし師匠のご家庭がそのまま表れているような、とても真面目な方。それだけに、春団治の破天荒さを作るのに苦労されていると思います。でも、よう考えたら、お父さんのお友だちを手本にされたらよろしいのかもしれませんね。破天荒の良いお手本、やすし師匠のような(笑)。
西川きよしと西川忠志が親子共演にも注目!
ーーきよし師匠が、父親役です。きよし師匠との共演を楽しみにされていたそうですね。
きよし師匠は、面白いです!(真顔) 漫才コンビ「やすしきよし」は、歴史上の人物ですよ。ご一緒できて本当に嬉しいです。登場するだけで、面白くなる存在感がおありです。そして真面目。師匠が真面目で、息子さんも真面目。コツコツ親子、最高ですよ? 議員時代に公約された「小さなことからコツコツと」を、今でも果たし続けていらっしゃる! 見習わないといけません。
■桂春団治誕生の裏に、姉弟の情愛
ーー藤山さんが今回演じるのは、姉おあきです。
私には弟がいないのですが、忠志さんと楽しくやらせていただいています。舞台では奥さんのおときを、これまでずっとやらせていただきました。その頃から、おあきを「ええな、この役」と思っていたんです。おあきは母親でもないし、奥さんでもありません。姉弟は、はやくに母親を亡くし、職人気質で頑固な父親とは、小さい時分より別れて暮らしていました。この舞台には、そんな姉弟の情愛が描かれています。
ーー落語家として名声を獲得していく春団治を、おあきはどのような感情で支えていたと思われますか?
機嫌よく働かせれば、お金になる。そんな春団治のことを、周りの人間は、皆で持ち上げます。それだけに「姉ちゃんぐらいはホンマのことを言うてあげなあかん!」という思いはあるでしょうね。姉弟で悪口を言い合うこともありますが、春団治を悪く言う人間に対しては、春団治の味方につきますし、姉弟でガツっと団結します。
藤山直美
ーーおあきさんを、どのような人物として演じますか?
おあきさんは、結婚をしません。劇中でも、ご縁のあるような方が出てきますが、結局、「私は弟を支えます」とか「私と親戚になると、あなたにご迷惑をおかけしますから」と、御縁談を断ります。春団治の一番の贔屓だったのでしょうね。むずかしいのは、一番の贔屓といっても、妻おときさんとは違うこと。男の人に対しての好きと、姉弟の男の子が好きとは、女性ホルモンの動き方が違います。姉弟としての好きが、欠落してみえてはいけません。不自然にみえないように、愛情を注いでいけたらと思います。
ーー一番の贔屓といえる、おあきやおときは、幸せだったと思われますか?
三途の川を渡るときは、「幸せやな」と渡られたのではないでしょうか。でも、そこまで行かないと幸せとは思えなかったとも思います。私もまだあの世にいったことはありませんけれど、きっと皆さん、「おもしろうて、楽しうて。けったいな人生やったけれど、春団治師匠に巡りおうて良かったんちゃう?」と。そう思わせるくらいの、春団治であってほしいです。
■喜劇で、心に溜まる何かに風穴を
ーーコロナ禍の影響で、公演中止などもありました。本作も緊急事態宣言により、大阪公演の開催がかなわず、東京公演からのスタートとなります。
昔から父が、「緊急事態」の話をしていました。父の「緊急事態」は第二次世界大戦のことですが(笑)、「一番最初に解散させられて、一番最後に召集されるのが芸人や」と。母からも「歌舞音曲廃止」の話を聞いていましたから、今回もそうなるだろうと思い、不満やビックリはあまりありませんでした。もちろんお稽古をしていた舞台が中止になり、その残念はありましたが、公演の中止が、世界が向く方向への協力のひとつの形。個人的感情はとっぱらい、まず皆が元気で元に戻れるようにと思います。
ーーご自身に変化は感じられますか?
怒られるかもしれませんが、テレビを見る時間が増えました。これは面白い、これはあんまり、毎週たのしみになってきた! ……と評価をして楽しんでいます(笑)。安心して外に出られるようになったら、皆様には生の芝居やライブを観にきていただきたいですね。今はお芝居の内容がどうという前に、どうやったら「劇場にいこう」というお気持ちになっていただけるか、からはじまります。その意味では、コロナ前よりもお芝居を観にきていただくことに、距離ができたように思います。
藤山直美
ーー(笑)。ストレスを抱えがちな時期だからこそ、喜劇や笑いに意味があるように思えます。
気持ちが尖り、ふだんは気にならない一言が引っかかったり、腹を立つことも増えているようですね。お友だちから聞いたのは、「朝ごはんを食べ終えたところで、旦那に“晩ごはん何?”って聞かれて、首絞めたろかなと思った」って。笑ってしまいますが、笑いごとじゃないんですよね。何か溜まっているものがあると思うんです。喜劇で笑って、小さな風穴でも開けていただけたらと思います。
ーー『おあきと春団治~お姉ちゃんにまかしとき~』の開幕を楽しみにしています。
いまテレビでご活躍される笑いの芸人さんのご先祖、お笑い芸人のはじまりが春団治です。大阪の古き良き時代……というと「今の大阪があかんのんか」と言われそうですが……そんな時代を描く、儚くてさみしくて、楽しいお芝居にしたいです。男の人も女の人も、年を重ねた方も若い人も、みんなに通用するところで、人間として心が温かくなっていただけたら嬉しいです。
『おあきと春団治~お姉ちゃんにまかしとき~』は、7月3日(土)から26日(月)まで新橋演舞場で上演される。
取材・文=塚田史香

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